ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2010年12月

本年度の教会脱会者数は「最悪」

 「今年は教会脱会者がナチス時代以来、最高となるかもしれない」
 オーストリアのローマ・カトリック教会最高指導者、シェーンボルン枢機卿はインスブルックのチロル新聞とのインタビュー(18日付)でこのように懸念を表明した。同枢機卿によれば、今年末までに8万人の教会脱会者が出るかもしれないという。
 教会脱会者数の過去3年間の動向を振り返ると、2007年度は3万6858人、08年4万0596人、そして昨年度は5万3216人だった。それが今年は8万人を超える可能性が現実化してきたというのだ。ちなみに、ナチス時代、20万人の信者が脱会した記録がある。
 教会脱会者の急増の主因は聖職者の未成年者への性的虐待事件の発覚、それに伴う教会の権威失墜が考えられる。
 オーストリアのローマ・カトリック教会は1995年、教会最高指導者グロア枢機卿が教え子に性的虐待を犯したことが発覚して以来、その信者数は毎年、減少してきた。その上、今年に入り、聖職者の未成年者への性的犯罪が明らかになり、信者数の減少は記録的となると予想されてきた。シェーンボルン枢機卿の発言はそれを裏付けることになったわけだ。
 教会が設置した「聖職者の性的犯罪の犠牲者保護弁護士会」(ヴァルトラウド・クラスニック元州知事)によると、これまでに1142人が聖職者によって性的虐待を受けたと報告してきた。一方、性的犯罪で法的処罰を受けた聖職者は全体の4%に過ぎななかったという。教会側が過去、聖職者の性犯罪を意図的に隠蔽してきたことも明らかになったわけだ。
 シェーンボルン枢機卿はインタビューの中で「教会は聖職者の性犯罪問題で多くのことを学んだ」と述べ、教会の刷新に意欲を示しているが、教会を取り巻く環境は厳しい。
 教会員を失えば、教会の収入が減り、経営が厳しくなることはいうまでもない。例えば、今年約4400人の信者を失ったザルツブルク教区の来年度予算は前年度比で5%減だ。一方、聖職者不足とその高齢化は教会の牧会活動にも支障が出てきた。教区に牧会できる聖職者がいない地域もある。
 世俗化が加速し、価値の相対化が広まってきている現代社会に対し、教会が神の世界を堂々と主張できれば良いが、教会自体が聖職者の性犯罪問題を抱えている状況下では、信者が教会から背を向けるのは当然の結果だ。

イスラム系移住者の「2世」問題

 スウェーデンの首都ストックホルム中心街で11日午後5時頃、自爆テロが発生し、犯人1人が死亡、通行人2人が負傷した。クリスマス・シーズンで賑わう繁華街でのテロ事件は欧州社会に大きな衝撃を投げかけている。
 現地の警察当局発表によると、自爆テロリストは28歳のタイムル・アブダリ(Taimur Abdelwahab al-Abdaly)で、スウェーデン国籍のイラク人出身者だ。
 1992年、戦争を回避するためにバグダッドから家族と一緒にスウェーデンに移住、2001年にアビドゥーア(大学入学資格)に合格し、英国のロンドン郊外の地方都市ルートン(Luton)のベッドフォードシャー大学(Bedfordshire)でスポーツ理学療法を学んだ。犯人を知る友人たちは等しく「陽気でプレイボーイだった」という。結婚し、妻と3人の娘がいる。
 人生をエンジョイしたいと願う若き青年がその数年後、世界のメディアを賑わす自爆テロリストとして現れたのだ。
 「彼に何が生じたのか」「何が彼をイスラム過激派にし、自爆テロも辞さないテロリストにしたか」。
 スウェーデンのリベラルな移民政策の結果だ、という声もあるが、英国のメディアではイラク青年が留学していた英国ロンドン郊外のルートン市にその原因がある、という主張が強い(テレグラフ紙など)。
 英南東部のルートン市は人口約21万人で、市民の5分の1はイスラム教徒だ。犯人は数年間、そこに住んでいた。英国テロ問題専門家はルートン市を「テロの温床」と呼んでいる。ロンドンで05年7月7日発生した同時多発テロ事件でも4人のテロリストがルートン駅から列車に乗ったことが確認されている。
 ストックホルムの自爆テロリストは典型的なホームグロウン・テロリストといえるかもしれない。欧州生まれか、そこで成長したイスラム教徒が自身のイスラム教の教えを絶対視し、欧米民主主義の価値観を拒否、国際テログループの手足となっていく。未来に楽天的な青年が欧米社会のイスラム・フォビアに敵意を感じ、イスラムの過激な教えを信奉するテロリストに生まれ変わっていくのだ。
 欧州社会には今日、約1400万人のユーロ・イスラムが住んでいる。彼らは通常、世俗イスラム教徒と呼ばれ、過激なイスラム主義とは一定の距離を置くが、国際テログループはインターネットなどを通じて激しい思想攻撃をかけてきた。主要ターゲットはイスラム系移住者の2世たちだ。
 ちなみに、メルケル独首相は10月16日、「多文化主義は完全に失敗した。わが国は今後、統合された社会建設を目指さなければならない」と述べて、注目された。これは国内のイスラム系住民がゲットーを構築し、テロの温床となる危険性を回避するため、移住者の社会統合政策の強化が急務だというのだ。戦後ドイツ移住政策の大きな転換を意味する重要発言だ。ストックホルムの自爆テロ事件はそのことを明確に指摘している。

愛される銀行の「条件」

 クロアチアのイボ・サナデル前首相(57)は10日、逃亡先のオーストリアで逮捕された。クロアチア政府は汚職容疑で前首相を国際警察を通じて手配していた。サナデル前首相は2003年、クロアチア民主同盟(HDZ)の中道右派政権を発足し、突然辞任した昨年まで首相職を務めてきた。クロアチアの欧州連合(EU)加盟を促進させてきた政治家だ。
 ところで、国際刑事警察機構(インターポール)は16日、前首相の秘密の銀行口座を見つけたと発表した。一つの口座には120万ユーロが預金されていたという。第一報ではどの国の銀行かは明らかにされなかったが、「オーストリアの銀行」といわれる。ちなみに、前首相は学生時代、オーストリアのインスブルック大学で比較文化を学んでいる。前首相にとって、オーストリアは馴染み深い国だ。
 オーストリアの銀行に秘密口座を開き、不法資金を隠す政治家はサナデル前首相が初めてではない。ルーマニアの独裁者チャウシェスク大統領(当時)は巨額の資金をオーストリアのクレジットアンシュタルト銀行(現バンク・オーストリア)に隠していたことが判明している。
 北朝鮮の独裁者、金正日労働党総書記もスイスの銀行と共に、オーストリアの銀行をこよなく愛し、そこに海外資金を保管してきたことは知られた事実だ。
 内部告発サイト「ウィキリークス」が暴露した米外交公電によると、マカオの銀行「バンコ・デルタ・アジア」(BDA)が凍結された後(2005年)、北朝鮮はオーストリアの銀行(バンク・オーストリア・クレジットアンシュタルト)と取引きしていたという事実が判明したばかりだ。
 その他、中東の独裁者やロシアの政治家や実業家たちはウィーンの銀行を好んで利用する。
 それでは、どうして独裁者や汚職政治家がオーストリアの銀行を好んで利用するか。その答えはかなり簡単だ。オーストリア銀行が顧客の機密を守っているからだ。その上、同国が中立国家であり、首都ウィーンは国際機関が集中している国際都市だ。いろいろな意味で便利だ。
 一方、EU側はマネーロンダリング(資金洗浄)対策として機会がある度にオーストリア側に「銀行機密の開示」を要求してきた経緯がある。それに対し、オーストリア側は一定の額以上の資金移動に関しては、通知義務を課したが、銀行の機密保持は依然、死守している。

アサンジ氏とオスカー・ワイルド

 内部告発サイト「ウィキリークス」の創設者、オーストラリア人のジュリアン・アサンジ氏(39)は16日、保釈された。
 ところで、当方の関心事は、アサンジ氏が「自分は無実であり、今後とも公文書の暴露を継続する」と表明したことではない。同氏が拘留されていたロンドン郊外の刑務所がウォンズワース(Wandsworth)だったという事実だ。あのオスカー・ワイルドが収監されていた刑務所なのだ。
 ワイルドは日本にも多数の読者ファンを持つアイルランド・ダブリン生まれの小説家・劇作家だ。小説「ドリアン・グレイの肖像」、戯曲「サロメ」、童話「幸福な王子」などは日本でも有名だ。
 ワイルドは男色の容疑で収監され、服役後は偽名で欧州を転々し、最後はパリで1900年11月30日、46歳の若さで病死した。
 アサンジ氏は今月7日、スウェーデンで女性2人に性的暴行をした容疑で英国警視庁に逮捕され、同月16日午後、28万3000ユーロを払い保釈されたばかりだ。
 一方、ワイルドは1895年7月、ペントンヴィル(Pentonville)刑務所からウォンズワース刑務所に移動したが、そこで体調を崩したため、待遇が少しはいいレディング(Reading)刑務所に移された。ウォンズワース刑務所では激しい労働を課せられたが、レディング刑務所では読書の時間もあったという。いずれにしても、4カ月余りのウォンズワース刑務所での過酷な日々がワイルドの死を早めたといわれる。
 21世紀のウォンズワース刑務所については知らないが、アサンジ氏は10日間でそこから解放された。ワイルドの刑務所生活を追体験する時間もなかったわけだ。
 ワイルドが21世紀の今日に生きていたら、同性愛者という理由だけで刑務所送りとなることはなかったはずだ。一方、アサンジ氏がワイルドの時代に生きていたら、為政者から国家機密の暴露などの重罪で即刻処刑されていたかもしれない。
 ワイルドは芸術を愛し、多くのウィットに富んだ箴言を残した。一方、アサンジ氏は米外交公文書を暴露して世界の為政者たちを震撼させている。そして、ワイルドは生きている時代から追放され、アサンジ氏は時代の寵児となっている。

平壌市内で権栄録氏を目撃!

 当方は今月6日、ウィーン地裁で金正日労働党総書記用に高級ヨットを調達しようとしたオーストリアの実業家に対する不法貿易に関する裁判を傍聴して以来、一つの懸念があった。それは高級ヨットや独ベンツ車を過去、調達してきた張本人、北朝鮮の金総書記専属調達人、権栄録氏(Kwon Yong Rok、77歳)の「その後」だ。
 権氏は過去、数百台のメルセデス・ベンツ車を購入、独ダイムラー社からVIP扱いを受ける一方、欧州各地から様々な高級品を調達してきた人物だ。同氏が関与して失敗した商談は非常に少ない。金総書記も権氏には全幅の信頼を置いてきたと聞く。
 その権氏が2隻の高級ヨット購入では不覚を取り、少なくとも330万ユーロを失ったことが明らかになった。ウィーン地裁はオーストリア実業家に有罪判決を言い渡す一方、北側からウィーンに送金された330万ユーロが押収を決めたばかりだ。イタリアのヨット・メーカーに前払い金を払っていたとすれば、その損失額は1000万ユーロを超えるかもしれない。
 いずれにしても、今回の商談では相当額の損失が生じたのだ。そのような場合、北では担当者が処罰を受けるのが通常だ。ある者は政治収容所送りになり、ある者は地方に左遷させられる。最悪の場合、処刑される。
 これで読者の皆さんも当方の「懸念」を理解されたと思う。権氏の「身の安全」に対する「懸念」だ。
 肝心の権氏は高級ヨット購入が発覚した直後、潜伏先のウィーン市のアパートから急遽、北に帰国した。それ以来、行方は不明だった。
 しかし、当方の「懸念」は杞憂に過ぎなかったのかもしれない。国連工業開発機関(UNIDO)に出向中の北朝鮮職員が11月、対北プロジェクトの為に北に戻った時、平壌市内で権氏と再会し、挨拶を交わしたというのだ。
 同職員によると、「権氏は元気だった。挨拶だけだから、詳細なことは分らないが、権氏は多分、平壌で働いているのではないか」という。「どの省で」と聞くと、「分らない」という。
 やれやれ、権氏は無事だったのだ。処罰も受けず、政治収容所送りもされず、平壌市内を歩いていたのだ。
 「ひょっとしたら、権氏は偽造旅券で欧州にくるかもしれないね」と聞くと、UNIDOの北職員は「高齢だし、欧州にもはや来ないだろう」と述べた。

OPEC本部襲撃事件から35年

 スウェーデンの首都ストックホルム中心街で11日午後5時頃、自爆テロが発生し、犯人1人が死亡、通行人2人が負傷した。クリスマス・シーズンで賑わう繁華街での自爆テロ事件は欧州社会に大きな衝撃を与えている。
 ところで、ウィーンに本部を置く石油輸出国機構(OPEC)をテロリスト・カルロス一味が襲撃し、閣僚を含む多数の死傷者を出した「OPEC襲撃事件」は今月21日で35年目を迎える。ストックホルムの自爆テロ事件と同様、クリスマス・シーズンの最中に発生したテロ事件だ。
 ベネズエラ出身のテロリスト、イリイッチ・ラミレス・サンチェスはコードネームで「カルロス・ザ・ジャッカル」と呼ばれていた。カルロスら6人のテロリストは1975年12月21日、閣僚会議開催中のOPEC本部を襲撃し、警備の警官と銃撃後、多数を人質にした。
 共産主義者の父親(弁護士)のもと裕福な家庭に育ったカルロスはモスクワの大学に留学し、その後ロンドンにも留学した後、ヨルダンで中東テロリストたちと接触。72年の日本赤軍のテルアビブ空港乱射事件にも関与するなど、世界到る処でテロ活動を繰り返してきた。
 カルロスは75年12月21日、OPEC本部を襲撃した後、アルジェリアに逃亡し、逃亡生活を送った後、潜伏先のスーダンの首都ハルツームで94年、警察当局によって逮捕され、フランスに移送された。カルロスはそこで終身刑の判決を受けた(フランスとスーダン両国間で当時、カルロスの移送問題で何らかの政治的取引きがあったといわれている)。
 OPEC襲撃テロ事件は、パレスチナ人ゲリラ指導者アブ・ニダル容疑者が85年にウィーン空港を襲撃して無差別銃乱射したテロ事件と共に、オーストリアの2大テロ事件と呼ばれている。
 あれから35年が経過した。ドナウ水路沿いにあったOPEC本部も今年、一等地の一区に移転したばかりだ(駐オーストリアの日本大使館に近い)。もちろん、新本部は最新のテロ対策が講じられている。
 「禍は忘れた頃にやってくる」といわれる。OPECを含むウィーンに本部を置く国際機関は警戒を怠ってはいけない。

基督巡礼者がイスラエルを支える

 欧州全土は目下、クリスマス・シーズンの最中で、どこの繁華街でもプレゼント買いに走る人々の姿で溢れている。
 ところで、イエスの生誕地、イスラエルでもこの期間、キリスト教巡礼者たちがエルサレムに殺到する時期だ。
 イスラエル観光省によると、その数は9万人にもなるという。大部分の訪問者は聖地エルサレムを訪問し、ベツレヘムやナザレでイエス生誕の記念礼拝に参加するという
 イスラエル観光局は「キリスト教会や警察当局と連携とって、訪問者の安全を図る」という。具体的には、空港やベツレヘムのチャック・ポイントで情報パンフレットを配り、入国手続きを迅速化する予定という(パレスチナ自治区居住のキリスト者の入国規制緩和等は不明)。
 同国の観光相(Stas Misezhnikov)によると、本年度のイスラエル旅行者数は約340万人と推定されているが、その内、約240万人はキリスト信者たちという。
 いずれにしても、観光業は資源の乏しいイスラエルにとって重要な外貨獲得源だ。ユダヤ教から異端として迫害されたイエスの教えを信じる世界のキリスト者たちが同国の国民経済を支えている、というわけだ。
 ちなみに、メディアでは報じられなかったが、イスラエルがパレスチナ人問題で国際批判に晒され、外国人旅行者が激減、同国の観光業が絶命の危機に瀕した時、世界基督教統一神霊協会(通称・統一教会)の日本人信者たちが大量にイスラエルを訪問したことがあった。ウィーンで開催された「観光見本市」で会ったイスラエル観光業関係者が当時、「わが国の観光業者はお陰で生きのびることができた」と感謝していたことを思い出す。 

 当方は20代後半の時、アメリカ大陸全土を旅したことがある。ワシントン、ニューヨークを皮切りに、ボストン、マイアミ、ニューオリンズ、ヒューストン、ロサンゼルス、そしてハワイまで旅した。そして旅行中に一人の老婦人と会った。気品のあるその婦人は「観光は神の光を観ることです」と話し掛けてきた。それ以来、当方は「観光とは、神の創造の業(光)を発見する旅」と自分なりに定義した。
 イスラエルの聖地観光、それを支えるキリスト信者たちーー神の業を観る思いがする。

ハンガリー、新年EU議長国へ

 ハンガリーは来年1月1日、欧州連合(EU)の議長国に就任する。国民経済の再生に取り組むオルバン政権にとっては「国威を高揚する絶好の機会」と受け取られている。
 ハンガリー議会は今月7日、財政赤字を国内総生産(GDP)比で2.94%まで下げる来年度予算枠組みを承認したばかりだ。同国は8年間続いた社会党政権から引き継いた巨額な財政赤字を抱え、国家の台所は火の車だ。
 ロイター通信によると、米格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは今月6日、ハンガリーの債務格付けを「Baa1」からジャンク(投機的等級)を1段階上回る「Baa3」に引き下げたばかりだ。その上、オルバン政府の政策を「持続的な財政再建策よりむしろ、一時的な措置に依存している」と批判的に評価している。
 いずれにしても、ハンガリーを取り囲む国民経済の現状は厳しい。今年4月に発足したフィデス主導のオルバン政権の年金改革に対しても国民の間で既に不満が高まってきている。
 そのような中で、EU議長国としてハンガリー発の政治イベントを挙行することで、国民の愛国心を高揚できるというわけだ。オルバン政権がEU議長国という立場をフル活用することは容易に想像できる。
 一方、EU諸国の中には、オルバン政権の民族主義的、権威主義的な言動に懸念を感じる国も出てきている。
 同政権はキリスト教民主国民党と組んで憲法改正可能な議席3分の2を掌握している。政権発足後、メディア法や選挙法の改正を次々と実施し、最近では、憲法裁判所の権限制限を行ったばかりだ。狙いは政権基盤の強化だ。
 その一方、今年5月、外国居住のハンガリー人に国籍修得の権利を保証する法改正を実施し、隣国ルーマニアやスロバキアと対立が生じている。議会には極右政党ヨッビクが47議席を占めている。
 オルバン首相がEUの桧舞台で活躍する中、国民経済は更に沈下し、国民の不満が暴発することも考えられる。
 EU議長国の来年上半期、ハンガリーは内外共に波乱含みの年を迎えることが予想される。

「輝き」を失ったオーストリア外交 

 オーストリアのミヒャエル・シュビンデルエッガー外相の評判がここにきて余り芳しくない。その発端は民間の内部告発サイト「ウィキリークス」だ。同サイトは先日、オーストリアの閣僚たちに対する駐オーストリアの米外交官公電を暴露したが、その中で「外相は国内経済界の利益だけを考えている」と指摘し、“外交の不在”を指摘しているのだ。
 もちろん、ウィーンの外務省は「根拠のない批判」と一蹴し、冷静を装ってきたが、外相への批判は遂に身内からも出てきたのだ。ダラボス国防相は先日、シュビンデルエッガー外相に対し、「もっと勇気をもって外交を推進してほしいものだ」と注文し、自国の外交政策の不十分さを間接的に批判したのだ。国防相が自国の外相を批判すること自体、非常に珍しい(その背後には、「国防省と外務省の権限争いがある」ともいわれている)。
 米外交官の目からみると、外相は「国際政治に余り関心がない政治家」と受け取られている。同時に、外相は自国の経済利益を優先し、国際社会の連帯といった問題には余りエネルギーを投入していないというのだ。メディアの中には「田舎出身の政治家」(プレッセ紙)という中傷的な表現も見られるほどだ。
 外相は「国民党」内の労働者同盟(OAAB)出身で、議長を兼任している。すなわち、対外政策の要である外相が国内経済界の労組代表を兼ねているわけだ。だから、オーストリアの政治学者ヘルムート・クラマー氏は「外交の内政化」と指摘しているわけ、だ。
 当方はこのコラム欄で「『ヒラリー』と『セイジ』の関係は」(2010年10月30日)を書き、そこで外相のきめ細かな贈物攻勢を間接的だが評価したが、外相の外交政策については、正直いってこれといった外交演説や政策を聞いたことがない。ひょっとしたら、外相が信じているほど、ヒラリー(米国務長官)はミヒャエルを評価していないかもしれない。
 先のクラマー氏は「外相はさまざまな国際行事に積極的に顔を出すが、外交コンセプトがないため、そのプレゼンスに輝きがない」と表現している。換言すれば、「外相は自ら主導せず、対応しているだけだ」(Er agiert nicht, sondern reagiert)というわけだ。その好対照として、クライスキー時代の外交政策(中東和平調停政策)が挙げられている。
 最後に、私見を述べるならば、欧州連合(EU)加盟の原動力となったモック外相、弁説に長けたシュッセル外相時代にはオーストリアの外交にも一種の華やかさがあったが、プラスニック外相が登場した頃から、その輝きが急速に失われていったように感じる。

5匹のシェパードが到着した

 ロシアのプーチン首相が訪問先ブルガリアのボリソフ首相から贈られた犬の名前を公募し、9日夜、「バッフィー」という名前を付けた5歳の男の子を公邸に招いた、という記事を読んだが、ウィーンの国連にも先日、5匹のシェパードが“到着”したばかりだ。
 当方が午前10時頃、国連に到着すると、シェパードが警備職員に連れられて歩いているではないか。生来、犬好きの当方は早速、犬に挨拶をしようと思ったが、雰囲気はシリアスだったので、警備職員に聞いた。
 「何かあったのですか」
 若い警備職員は誇らしげに「何もないよ。訓練中だ。シェパードは今後、ウィーンの国連に勤務し、国際会議では爆発物や器材がないかを捜査するために働く」という。すなわち、テロ対策用の警備犬だ。
 そこで「ウィーンの国連がテログループに狙われている、といった情報でも入ったのですか」と聞くと、その警備職員は急に真剣な顔をして「新しいテロ情報などない。国連本部のニューヨークでは久しくシェパードが活躍している。警備犬の配置は加盟国が決定した事項の一つだ」と強調。要は「ウィーンにもやっと警備犬が派遣された」ということだ。
 その警備職員によると、5匹は今後、国連の環境に慣れるなど、ハードな訓練が待っているという。
 ところで、プーチン首相は贈られた犬の名前を国民から公募したが、国連が5匹のシェパードの名前(愛称)を職員から公募したとは聞かない。
 私見だが、テロ対策という重責を担ったシェパードの場合、不特定多数の人間がその名前を知っていると良くないことが多い。爆発物を捜査中、国連職員がシェパードを愛称で呼びかけたとする。呼ばれた犬は集中力が散漫となり、爆発物を探す任務が果たせられなくなる。
 国連は米国同時多発テロ事件後、テロ対策のため警備職員の増強(ウィーン国連では警備職員数が約3倍と急増)、フェンスターの強化対策などを実施してきた。そして今回、いよいよ警備犬シェパードの登場となったわけだ。
 テロ対策を強化することに異議はないが、当方は、ウィーンの国連がイスラム過激派テログループの襲撃対象とはならない、という強い確信を持っている。なぜなら、国連薬物犯罪事務所(UNODC)の本部があるからではない。国連内にイスラム過激派の連絡要員やシンパが潜伏しているからだ。
 特に、ウィーンの国連はイスラム過激派にとって絶好の隠れ場所だ。その隠れ場所を襲撃するテロリストなどはいないだろう、と考えるからだ。
 当方の考えが正しいとすれば、あの5匹のシェパードは遅かれ早かれ失業する。テロの危険がない、といってニューヨークに送り返すことも出来ないだろう。
 5匹のシェパードは国連職員から名前を呼ばれず、その上、仕事らしい仕事もない状況下に甘んじなければならない。
 いざとなれば、犬好きのプーチン首相に引き取っていただくのがいいかもしれない。
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