ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2010年11月

「ウィキリークス」とバチカン

 民間の内部告発サイト「ウィキリークス」は28日、入手した米外交文書を公表したが、約25万点の公文書の中には世界に11億人以上の信者を抱えるローマ・カトリック教会総本山バチカン法王庁やローマ法王に関連した文書も含まれていたという。バチカン放送(独語電子版)が29日、報じた。
 米国務省公文書によると、ヨハネ・パウロ2世の死後開催された法王選挙会(コンクラーベ)で米国が南米出身の法王が選出されると予測していたことが明らかになった。その理由として「教会の勢力、信者の数など」が挙げられている。
 ドイツ出身のラッツィンガー枢機卿が選ばれると、「多くの人にとって驚きであり、ショックだった」と論評している。
 その上、「枢機卿はメディアでは教義根本主義的なイメージが強いが、直接話すと驚くほど謙虚であり、精神的にも気持ちのいい人物だ」と付け加え、「前法王の路線を継承し、欧州的な傾向が強まるだろう」と予測している。
 別のベルリン駐在米大使館外交文書によると、「独聖職者の間に流れる『ローマ・ケルン』の新枢軸の構築」との情報には懐疑的に受け取っている。
 また、独イエズス会の影響力のある聖職者は米外交官に「ラッツィンガー枢機卿の保守的な性格が法王の職務決定に影響するわけではない。べネディクト16世は本来の自身の改革的な立場に回帰するかもしれない」と語ったという。
 その他、米政府の7ページに及ぶ情報分析(2005年5月12日付)も公表された。そこでは、「新しい法王は世界教会の諸問題を非常に熟知している」「彼はトルコの欧州連合(EU)加盟に反対であり、欧米社会の世俗主義に対しても戦闘的だ」などが記述されている。
 米国務省は5年前のラッツィンガー枢機卿の法王選出を予想できなかったが、ベネディクト16世の言動をかなり正確に分析していることが分る。

北ウラン濃縮施設(4号ビル)を行く

 米国の核専門家ジグフリード・ヘッカー博士(スタンフォード大国際安保協力センター所長)は先日訪朝し、北朝鮮でウラン濃縮施設を視察した。同博士によると、「遠心分離機は近代的な制御室を通じて統制されていた」という。そこで国際原子力機関(IAEA)査察官のA氏に北のウラン濃縮施設へ道案内を願った(衛星写真を利用して)。
 北の核関連施設が集中している同国平安北道寧辺(平壌北部約80キロ)の市内から約6キロ郊外に走ったところで左に曲がると、直ぐにゲストハウスに着く。IAEA査察官が宿泊する場所で、2階建てのハウスの収容能力は10人だ。最近、新たに3階が増築されたという。ヘッカー博士らの宿泊場所でもあった。
 ゲストハウスから主要道路に戻り、核関連施設が集中する核エリアに入ると、左側にロシア型研究炉、右手には5MW黒鉛型減速炉が見える。それに隣接していた冷却塔は2008年6月に破壊された。その近辺に北側が建設中と主張しているは軽水炉建設敷地がある。
 そのエリアから九龍江を超えると核燃料製造工場にぶつかる。同工場を通過すると、いよいよ北のウラン濃縮関連施設に到着する。同施設は長さ約130m、幅約25m、高さ約12mの細長い施設だ。
 同博士が寧辺施設を視察したのは今回4回目だが、IAEA査察官は昨年4月まで週1回は査察してきた施設だ。具体的にいえば、北のウラン濃縮施設は40余りある核関連施設の一つで、「4号ビル」と呼ばれている建物だ。査察官にとっては馴染み深い施設だが、「当時、建物の中には何もなかった」という。「衛星写真を見る限り、同施設で変わった点は青色の屋根だけだろう」という。
 ヘッカー博士の説明では建物は2階で、各階に1000基の遠心分離機が設置されるというから合計2000基の遠心分離が設置予定となるわけだ。
 ちなみに、北側は昨年4月、国外退去する査察官に対し「今後、軽水炉を建設し、ウラン濃縮を開始する」と通告したという。
 国際社会は当時、北のこの通達をシリアスには受けとらなかったため、今回の北のウラン濃縮と軽水炉建設表明に驚いた、というわけだ。
 査察官A氏は「09年4月の北側の査察官退去要請には2つの目的があったことが分かる。一つは核実験(昨年5月実施)を行うために査察官を追放する必要があった。2つ目は4号ビルで遠心分離機を設置作業を開始するためだったわけだ」と説明した。

「やる気」を奮い立たせる方法

 当地でも最近、バーンアウト(Burnout、燃え尽き症候群)に陥る人々が増えてきた。これまでやる気をもって仕事に取り組んでいた人がある日、突然、気力を失い、次第に言動に精細を欠いていく。最悪の場合、欝状況に陥る。
 バーンアウトに陥るには人それぞれ原因があるという。その人の性格やキャリア、そして気質まで関ってくるらしいから、ある状況下に陥ると全ての人が同じ症状になる、というわけではない。その為、万能薬を開発するのが難しいわけだ。
 ところで、やる気を奮い立たせることは生きていく上で重要なことだ。現代的にいえば、モチベーションを如何に鼓舞するかだ。
 このようにすればモチベーションは確実に高まる、といったノウハウがあればいいが、実際は人それぞれが独自の方法で取り組んでいるのが現状だろう。
 ここで読者に独特の方法でモチベーションを高めていった人物を紹介する。戦後ドイツ語圏の代表的作家、オーストリア人のトーマス・ベルンハルト氏(Thomas Bernhard、1931〜89年)だ。
 同氏は生前、新しい家を買う癖があった。その理由を聞かれると、同氏は「新しい家を購入すれば借金が増える。それを早く返さなければ大変だという思いが強まる。そこで新しい作品を書かなければならない、といった動機が湧いてくるのだ」と答えたという。
 増え続ける借金は通常、その人にとって大きな負担だが、ベルンハルト氏にとってはやる気を奮い立たせる貴重な手段であったわけだ。
 初期長編小説「霜」から「理由」「地下室」、そして「消去」までを残した同氏は1989年、オーストリア北部オールスドルフで死去したが、自分の戯曲を新たに上演することを禁止する遺言を残している(最近になって同氏の劇作品が上演できるようになった)。
 いずれにしても、ベルンハルト氏のようにやる気を奮い起こさせるためにハウスを買い、借金を増やすことを読者の皆様に勧める考えは毛頭ない。ここでは増える借金もやる気を燃やさせる要因となることがある、という実例を紹介しただけだ。
 ストレスの多い社会に生きている読者の皆さん、バーンアウトに落ち込まないために独自のモチベーション高揚方法を開発して下さい。

中国から覚醒剤、日本に大量密輸

 ウィーンに本部を置く国連薬物犯罪事務所(UNODC)は25日、アンフェタミン型覚醒剤(ATS)の状況と傾向に関する最新報告書を公表し、そこで「メタンフェタミン型覚醒剤の使用が日本を含む西・南東アジア地域で急速に拡大している」と警告を発した。UNODCのカントリー・レポートから「日本報告書」の内容を紹介する。

 日本では2004年以来、結晶状メタンフェタミンが最も広く使用されている。そして大麻、エクスタシー(MDMA)錠剤と続く。一方、コカイン、ヘロイン、アヘンの需要はほとんどないという。
 薬物関連逮捕者は昨年度、1万4985人で、その約78%がメタンフェタミン関連犯罪で検挙された逮捕者だ(1万1688人)。同年度、6201人の暴力団員とその関係者がメタンフェタミン関連容疑で逮捕されている。
 昨年度逮捕者の国別をみると、イラン人が85人で外国人逮捕者426人の内で最も多い。
 エクスタシーやその他の合成薬物関連の逮捕者数は過去5年間、減少傾向にある(08年度281人、09年度107人)。一方、大麻関連で逮捕された数は2920人で過去最高。逮捕者数全体の19・5%を占めている。
 日本で押収されたメタンフェタミンのほとんどが海外から密輸されたもの。近年、中国本土がメタンフェタミンの最大供給源となっている(08年度、中国産のメタンフェタミンの押収量は330.8キロ)。
 日本国内でメタンフェタミンが製造されるケースは少ないが、今年6月には神奈川県警が相模原市で、自宅でメタンフェタミンを密造していたイラン人2人を逮捕し、大量の薬物、前駆化学物質などを押収している。
 日本政府の報告によれば、03年以来、メタンフェタミンに利用可能な前駆化学物質を含む医薬品紛失事件が増加し、08年には66件だったという。
 UNODCは「前駆化学物質を含む医薬品の紛失事件が増加していること、アンフェタミン価格が上昇していることなどから、日本国内でのメタンフェタミン密造が増加する危険性がある」と警告する一方、「日本では大麻使用が引き続き問題」と報告している。

北の延坪島砲撃と欧州の「反応」

 北朝鮮軍の韓国・延坪島砲撃は国際社会に大きな衝撃を投げかけている。
 ところで、今回の北側の軍事行動が欧州諸国の対韓国貿易にどのような影響を及ぼすかは現時点では不明だ。そこで、当地の大韓貿易投資振興公社(KOTRA)の知人に電話で聞いてみた。
 知人によると、「朝鮮半島の政情に熟知していない企業はいつものことだが、今回の北の軍事攻撃に『ショック』を受けている。その直接の原因は北側の砲撃事件に過剰反応して報じた欧州メディアの影響だ」という。すなわち、「戦争が始まった」といった類の報道だ。だから、企業の中には韓国市場の投資リスクを考え直す処が出てきても不思議ではない」という。
 一方、韓国に既に進出しているオーストリア企業は「冷静に状況をみている。それらの企業の対韓投資は長期計画に基づいているのがほとんどだ。今回の北の砲撃でその計画が停止されるといった反応は考えられない」と分析する。
 ちなみに、オーストリア対韓国貿易は過去10カ月間で輸出が昨年同期比で増加する一方、輸入は微減しているという。
 知人は「欧州連合(EU)と韓国間の自由貿易協定(FTA)が先月6日、正式に署名されたばかりだ。それを受けて、今後は両国間の貿易が急速に拡大することが期待できる」と表明した(EU加盟国の批准後、来年7月1日にFTA協定が発効予定)。
 最後に、「朝鮮半島でこれ以上、軍事活動が拡大しなければ、北の延坪島砲撃が韓国の貿易全般に大きな影響を与えることはないだろう」と予想した。
 なお、EUのアシュトン外相は23日、北の延坪島砲撃を強く非難する声明を発表し、「朝鮮半島の平和は世界の安全上も重要だ」と主張。また、オーストリアのシュビンデルエッガー外相は24日、韓国側に民間人の犠牲が出た北の砲撃事件について「深い懸念」を表明し、「朝鮮半島の安定は暴力ではなく、交渉を通じて実現されるべきだ」と訴えた。

「ローマ法王は失望した」

 ローマ・カトリック教会総本山バチカン法王庁は24日、中国共産党政権の官製聖職者組織「中国カトリック教会愛国会」が11月20日、バチカンの承認を受けずに河北省承徳教区司教に郭金才氏(Giuseppe Guo Jincai)を任命したことに対し、7点から成る覚書を公表して抗議の意思を表明した。
 バチカン放送(独語電子版)は同日、「ローマ法王は失望した」というタイトルで同覚書を掲載した。以下、7点の覚書の内容だ。

(1)ローマ法王は中国からのニュースに痛く失望した。具体的には、ローマが承認していない司教叙階が行われたことだ。それによって、傷口が広がった。
(2)中国で過去、カトリック教会司教たちが不法な司教叙階式に参加を強要されてきた。バチカンは目下、不法な叙階式への参加が教会法上、問題がないかどうかを検討中だ。
(3)中国当局の司教候補者、郭金才氏は教会法上、厳しい結果を受けることを考えなければならない。
(4)不法な司教叙階は中国信者たちに対する屈辱だ。
(5)バチカンはこれまで何度も郭金才神父の司教任命に反対の旨を中国当局に通達してきた。
(6)ローマ法王は2007年の書簡の中で中国当局との対話継続の意志を表明した。今回の不法な司教叙階はその対話を危機に陥らせるものだ。
(7)世界のカトリック信者たちは中国のカトリック教会の動向を注視している。


 バチカンの覚書は中国当局に対する外交上の意思表明を意味する。バチカンが郭金才氏の司教任命に強く反対する理由としては、同氏が全国人民代表大会(国会)の代表を兼任していることが挙げられている。
 なお、ローマ・カトリック教会では司教任命権はローマ法王が保有しているが、中国では1958年以来、聖職者の叙階はローマ法王ではなく、中国共産政権と一体化した愛国会が行い、国家がそれを承認してきた。
 バチカンによれば、愛国会は現在、中国を138教区に分け、司教たちが教区を主導している。一方、ローマ法王に信仰の拠点を置く地下教会の聖職者、信者たちは弾圧され、尋問を受けるなど迫害されてきた。

情報機関の舞台裏の様々な「工作」

 ドイツは目下、イスラム過激派テロリストの脅威にさらされている。テロ情報に対して慎重な言動が目立ったデメジエール内相も今月17日、テロが差し迫っている危険性を表明したことは当コラム欄でも既に紹介した。
 今回はテロ情報を提供する欧米情報機関の工作活動(オペレーション)について紹介したい。
 デメジエール内相は19日、ハンブルクで、ナミビアの空港で17日に独ミュンヘン行きの貨物から発見された爆発物らしい不審物について、「テスト用模造品だった」と表明する一方、記者の質問に答え、「独捜査当局が自ら設置した可能性」も否定しなかった(後日、ナミビア空港警備責任者が模造品を設置したと述べている)
 欧米情報機関は自国の政治・軍事的立場を支持、強化するために様々な工作を行うことがある。例えば、イスラエルの対外情報機関(モサド)は過去、自国のユダヤ会堂(シナゴーグ)を放火しパレスチナ側の仕業と偽情報を流したことがある。また、アラブ諸国に住むユダヤ人を祖国に帰還させるために「アラブはユダヤ人にとって危険だ」といった情報工作を展開させたことがある、といった具合だ。
 身近な実例としては、ブッシュ米大統領(当時)が2006年6月、欧州連合(EU)議長国のオーストリア・ウィーンを訪問する直前だ。EU・米国首脳会談の会談場所となるホフブルク宮殿前の英雄広場で偽造爆弾物が発見されたことがある。オーストリア治安部隊が撤去して事なきを得たが、事の真相は、「米情報機関が中立国オーストリアの治安部隊の警戒体制を覚醒させるために模造爆弾を仕掛けた」というのだ。
 ところで、米中央情報局(CIA)はウィーンの北朝鮮の活動を監視するために様々な盗聴工作を行ってきたことは良く知られている。欧州唯一の北朝鮮直営銀行「金星銀行」を監視するため銀行の隣接の建物を借り、そこから盗聴していたし、欧州で核関連器材を調達していた北外交官の自宅を盗聴していたことが明らかになっている。
 中東テロ問題の専門家の知人は「米情報機関はその目的を達成する為に積極的に工作する」と証言している。
 ドイツに対するテロ警戒情報の場合、米情報機関だけではなく、独情報機関が情報操作や模造爆弾物の仕掛けなどの工作活動に関与していた可能性が十分考えられるというのだ。

ローマ法王会見著書、出版へ

 世界に11億人を超える信者を抱えるローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王との単独インタビューはこれが初めてだ。ドイツ人ジャーナリスト、ペーター・ゼーバルト氏は今夏、ローマ郊外の夏の離宮、カステルガンドルフォ別荘で6日間、一日1時間、ドイツ出身のべネディクト16世と単独会見した。その内容は「世の光=教皇、教会、時の徴」(Licht der Welt)という本にまとめられ、23日に8カ国語に訳され、出版される。
 それに先立ち、本の内容の一部がメディアに報じられた。最も反響を呼んだ個所は「ローマ法王がコンドームの使用を認めた」という点だ。バチカン日刊紙オッセルバトレ・ロマノが21日付で先駆けて報じている。
 べネディクト16世が避妊具使用を産児制限として強く拒否してきたことは周知の事実だ。同16世は昨年3月、アフリカ訪問で「コンドーム無用論」と受け取られる発言をし、「コンドーム利用効果論」を支持する国際機関や欧米諸国から「非科学的な発言だ」「人命軽視だ」といった批判が飛び出してきたことはまだ記憶に新しい。
 その法王が「エイズウイルズ(HIV)の拡大阻止」という目的でコンドームの使用に理解を示したのだ。
 ただし、バチカンのロンバルディ報道官は「教会の教えにはまったく変化ない」と説明しているように、性モラルの重視や同性愛の拒否などには変更がない。
 法王はエイズ拡大防止という観点から買売春のケースで「道徳的に改善していく一歩の場合に限り例外として認める」と述べただけだ。その意味で、法王のコンドーム使用容認発言は一部の欧米メディアが報じるような「革命的な転換」を意味していない。
 ちなみに、ヨハネ・パウロ2世時代のバチカン医療使徒職評議会議長ハビエル・ロサーノ・バラガン枢機卿は過去、べネディクト16世と同じ発言内容を表明している。

 法王の他の発言内容の一部を紹介する。

(1)女性聖職者の叙階について
「イエスの12弟子は全て男性であった。教会は女性を聖職者にする権限を有さない。差別となるのは、聖職者が支配体制である場合だ。しかし、実際は聖職者は奉仕組織だ」

(2)ホモ問題
「同性愛は聖職と一致しない。神の意志とも反する」

(3)ブルカ着用禁止について
「ブルカ着用の一般的な禁止には反対だ。ただし、女性がその意思に反して着用を強いられる場合、容認できない」

(4)聖職者の未成年者への性的虐待事件
「キリスト教は世の光だったが、その輝きは失せてきた。聖職者の未成年者への性犯罪は自分にも大きな痛みを与えた。火山噴火のように、火山灰が全てを包み、暗闇となったようだった」

(5)欧米社会の自由について
「西側社会で席巻する自由への理解に懸念を感じる。それは異常だ。在るものに満足せず、自由は富や喜びへの貪欲に乱用されている」

ローマ法王と枢機卿会議

 ローマ・カトリック教会総本山、バチカン法王庁で20日、枢機卿会議が開催された。同会議ではローマ法王べネディクト16世が選出した24人の新しい枢機卿が正式に任命された。
 新枢機卿の出身別をみると、欧州が15人で過半数を占め、4人がアフリカ出身、北米と南米教会が各2人、アジア出身の新枢機卿は1人だった。
 これで枢機卿の総数は203人となった。その内、次期法王の選挙権を有する80歳以下の枢機卿数は121人だ。
 法王選挙会(コンクラーベ)に属する枢機卿121人の内、71人の枢機卿は前法王ヨハネ・パウロ2世が任命した枢機卿であり、残りの50人はべネディクト16世が任命した枢機卿だ。すなわち、法王就任5年間でべネディクト16世は50人の枢機卿を大量任命したことになる。同16世が高齢法王(83歳)であり、次期法王の選出問題が重要な課題となるためだ。
 ちなみに、枢機卿の出身地を見ていくと、203人の枢機卿の111人は欧州教会に所属する。コンクラーベ所属の枢機卿では121人の内、62人が欧州出身だ。次期法王選出では欧州出身の枢機卿たちの意向が大きな影響を及ぼすことになるわけだ。
 べネディクト16世は世界から結集した新枢機卿を前に、「教会では支配者はいない。全てが召命された者たちであり、神の許しと恩恵を受けてきた人たちだ。これが私達の保証だ」と指摘、「教会では偉大さと上位の判断基準は支配ではなく、(人々に)奉仕することだ」と述べている。

イラン指導者の「対話」と「本音」

 「信仰と宗教団体は社会にとって重要な役割を有する。だから、他の国民・団体と同等の権利が与えられるべきだ」
 これはテヘランで開催された「カトリック・イスラム教の対話」集会での最終宣言の中に記述されている内容だ。
 対話集会はテヘラン宗教対話センターとバチカン諸宗教対話評議会(議長・ジャン・ルイ・トーラン枢機卿)が11月9日から3日間、テヘランで開いたもので、今回が第7回目だ。同宣言文は今月16日に公表された。同集会のテーマは「イスラム教とキリスト教の観点からみた宗教と社会」だ。
 宣言文では「国家は宗教のもつ社会的要素を尊重しなければならない」と指摘し、「宗教は決して個人的な世界に制限されるものではない」と明記している。換言すれば、「宗教と政治」の分離を原則とした欧米社会を批判しているわけだ。その上で、「それゆえに、宗教の自由は人間の威厳にも関る権利だ」と主張している。
 対話集会の最終宣言は素晴らしいが、実際はどうだろうか。特に、イランの状況はどうか。
 イランでは7月18日、キリスト教に改宗した家族が会合に参加する途上、当局によって拘束された。同家族は当局から「キリスト教の教えを破棄せよ」と迫られた。それに応じない場合、死刑に処される可能性があるというのだ。
 また、ロサンゼルスに本拠を置く宗教の自由擁護団体「オープンドアーズ」によると、ハメネイ師は10月19日、コム市(首都テヘランより250キロ南下の都市)で演説し、西側の影響の危険性を強調、その実例として同国で地下活動し、その勢力を拡大している独立キリスト教の家庭教会を挙げている。同師は「家庭教会はイスラム教の脅威となっている。特に、若いイスラム教徒が引っ張られている」と警告を発したのだ。
 オープンドアーズによると、家庭教会は今日、警察当局や治安当局から迫害されている(イランのキリスト信者数は約45万人と推定)。彼らの大多数はイスラム教から改宗した信者たちだ。
 なお、バチカン放送によると、ローマ法王べネディクト16世はイランのアフマディネジャド大統領に書簡を送ったが、それに対し、同大統領は「世界の公平を回復するためにもキリスト教徒とイスラム教徒の連携が重要だ」と返答したという。
 「言葉」とその「内容」の乖離がイラン指導者たちの間では著しく目立つ。彼らはそのことに気がついているのだろうか。
訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

Recent Comments
Archives
記事検索
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ