ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2010年10月

独裁者が自分の死期を知った時

 AP通信が8日報じたところによると、北朝鮮の楊亨燮・最高人民会議常任副委員長は同日、金正日労働党総書記の三男、正恩氏が次期指導者と公言したという。北朝鮮当局者が正恩氏の後継者決定を認めたのは初めて。
 このニュースを読んだ時、金総書記の死期はかなり近いこと、そして同総書記がそのことを薄々知っている、と感じさせられた。
 独裁者が自分の死期を認知することはまれだ。「永遠に支配したい」と考え、その晩年を一層惨めなものとする例が多い。また、独裁者は本来、自身の権限が制限される危険性がある後継者選出など急がない。多くの独裁者は死ぬ寸前まで権限を手放さない。金総書記も本来そうだったはずだ。
 その独裁者の金総書記が三男を後継者とする公式化を急いでいるとすれば、金総書記の死期がかなり近いという結論になる。
 韓国の玄仁沢統一相は5日、国会での答弁で、「北朝鮮が金正日総書記の三男正恩を党中央軍事委副委員長に選び、事実上、後継を公式化した」との見方を示した。同じ統一省は正恩氏に軍大将の称号が与えられ、党代表者会では党中央軍事委員会副委員長に任命された直後、「後継者の公式化」との認識を保留していた。それが1週間も経過していないのに、「後継者の公式化」との認識を表明したのだ。正恩氏の後継者プロセスは韓国側も驚くほど加速しているわけだ。
 故金日成主席の生誕100年目となる2012年までに「強盛大国」建設を目指す北朝鮮だが、金総書記はそのテンポを早め、正恩氏の後継者の公式化を急いでいるわけだ。その答えは、繰り返すが、独裁者・金総書記の死期がかなり差し迫っているからだ。そして金総書記自身が死期を認知している可能性が考えられるのだ。
 最後に付け加えておくが、9日の土曜日、駐オーストリアの北朝鮮大使館でいつものように学習会が開かれたが、そこで3カ月余りの夏季休暇から帰任したばかりの金光燮大使(金正日総書記の義弟)から先月28日に開催された党代表者会の決定事項などが報告され、後継者となった金正恩氏の公式写真が参加者の外交官たち家族に手渡された。

“美しい”銀行泥棒さん

 オーストリア第3の都市、リンツ市(同国西部)で7日午前、銀行「フォルクスバンク」支店に一人の銀行泥棒が襲撃し、銀行窓口の会計係にピストルを突きつけ、「襲撃だ。金を出せ」といった。銀行員が金を渡すと、犯人はそれを手提げのバックの中にいれ、外に飛び出し、ベンツに乗って颯爽と逃げ去った。その間、数分にもならなかったという。
 同国では銀行襲撃事件が絶えない。自動支払機ごと持ち運んでいく犯人も出て来た。リンツの事件も多発する銀行泥棒の一件だ。
 「当方氏は地方都市で発生した銀行襲撃事件をわれわれに伝えたいのか」と聞かれれば、もちろん、「そうではない」と答える。
 フォルクスバングの支店を襲撃した銀行泥棒は「非常に美人であり、魅力溢れた女性だった」のだ。目撃者によると、「紅い口紅をつけ、スマートな女性で、そのドイツ語にはアクセントはなかった」という。別の目撃者によると、「犯人は165センチ以下だが、ハイヒールを履き、掛けていたサングラスはファッショナブルなものだった」という。
 同事件を報道する日刊紙エストライヒは8日、「オーストリアで最も美しい銀行泥棒」という見出しをつけ、「アンジェリーナ・ジョリー(女優)のような銀行泥棒だった」と報じているほどだ。
 そうなのだ。リンツ市の事件は「美しい銀行泥棒だった」のだ。少なくとも、メディアにとってその点が他の銀行襲撃事件とは大きく異なるわけだ。専門用語で表現するならば、「ニュース・バリュー」(ニュース価値)が違うのだ。
 「美しい」ということは、ファッション界や映画俳優の世界だけではなく、銀行泥棒の世界でも「特別な付加価値」として特筆されるわけだ。
 最近の例を挙げてみる。米国でスパイ容疑で逮捕されたロシア人のアンナ・チャップマンさんを思い出して欲しい。「驚くほど美しい女スパイ」として米メディアの注目を集めたばかりだ。ハリウッドで彼女の話が映画化されるという噂が飛び出すほどだ。
 スパイ罪は本来、重刑だ。チャップマンさんの事件を報道したメディアの中で「極刑に値するスパイ行為を働いた」といった解説記事はどこにも見当たらなかった。もっぱら「美しい女スパイ」という言葉だけがメディア界を独り歩きしていた。
 オーストリアの地方都市で発生した銀行襲撃事件に戻る。警察当局によると、犯人の手がかりはまだ掴めていないという。「ひょっとしたら、犯人の美しさに心を奪われた警察側の捜査が弛んでいるのではないか」と疑いたくなるほどだ。
 それほど、「美しい」という付加価値はどの分野でも大きな力を発揮するわけだ。そして、その「美しさ」を巧みに演出してわれわれに見せてくれるのがメディア世界なのだ。

韓国SBS放送「拉致監禁」を観て

 韓国のSBS放送が6日深夜(現地時間)、世界基督教統一神霊協会(通称・統一教会)の信者の拉致監禁問題を追跡した報道番組を放映した。当方は8日、ウィーンの自宅で同番組のビデオを観た。以下は、欧州に住む当方の感想を述べたい。
 放映時間は1時間。拉致監禁された日本人女性がSBS放送記者と共に帰郷し、教会に反対する家族を訪問するシーンは心を揺さぶられた。
 韓国人と結婚した統一教会の日本人女性信者は数千人にもなるという。その中には、帰郷すれば、教会に反対する家族や拉致監禁グループによって拉致監禁される恐れがあるため、帰郷できない日本人女性信者が多数いるという。
 番組では韓国人男性と結婚して以来、帰国できなかった一人の日本人信者女性が決意して2人の子供さんを連れて帰郷する場面があった。彼女の息子が「おじいちゃんに会いたい。おじいちゃんは会いたくないの?」と語るシーンがあった。親や両親を尊敬する風習が強い韓国社会で、親が子供やその孫たちと絶交するといった事態は想像を絶した世界だろう。
 統一教会の平信者たちがプロの拉致監禁グループによって監禁され、強制的に棄教を強いられている実態は日本ではあまり知られていない、というより、意図的に黙認されてきた。
 一方、国際社会では次第に報じられてきた。米国務省の「宗教の自由」に関する年次報告書だけではない。ジュネーブの国連人権理事会の場で、そしてイタリア・トリノの国際宗教シンポジウムの場で、日本で白昼堂々と人権蹂躙が行われていることが紹介されている。
 統一教会の平信者の「人権」について、一つの例を紹介して説明したい。キリスト教社会の欧州では、ローマ・カトリック教会の聖職者による未成年者への性的虐待事件が発覚し、大きな衝撃を投げかけている。当コラムの読者ならば詳細にご存知だろう。
 先ず、以下の会話を読んでほしい。
 「お前、知らないのか。カトリック教会では多くの聖職者が未成年者に性的虐待を犯しているのだ。カトリック教会は犯罪集団だ。非社会的な行動を繰り返す教会から早く足を洗うべきだ」
 「あいつはカトリック教会信者だから、相手にしない方がいいよ」
 こんな会話があったならば、通常のカトリック教会信者は激怒して、「人権蹂躙だ」「中傷誹謗であり、偏見だ」といって抗議するだろう。当然だ。
 上記の「カトリック教会の信者」の個所を「統一教会の信者」に入れ替えていただきたい。上述したような偏見に満ちた言動が日々、統一教会の平信者たちに向けられているのだ。そして統一教会の信者たちをプロの拉致監禁グループが白昼堂々、拉致監禁している。肝心の警察当局は「家庭問題」とか理屈をつけ、拉致監禁問題を久しく黙認してきた経緯がある。
 聖職者の性犯罪問題に直面したバチカン法王庁は今日、その対策に乗り出し、教会の刷新に腐心している。同じ様に、霊感商法などで批判を受ける統一教会指導者たちも刷新し、改革しなければならないことはいうまでもない(もちろん、性犯罪と特定商取引法違反では量刑は異なる)。
 一方、「聖職者の性犯罪」を理由にカトリック教会の平信者の「信仰の自由」を蹂躙してはならないのと同じ様に、「特定商取引法違反」などを理由に統一教会の平信者の「信仰の自由」を剥奪してはならないない。
 日本社会の現状は、「特定商取引法違反」などの容疑を受ける統一教会に所属する平信者に対し、拉致監禁という「重犯罪行為」で対応しているのだ。

国家も聖職者の性犯罪に責任?

 オーストリアのローマ・カトリック教会聖職者の未成年者への性虐待問題を取り扱う「犠牲者保護弁護士会」(ヴァルトラウド・クラスニック元州知事)は6日、新たに10人の犠牲者を保護対象に加えると明らかにした。これで同弁護士会が取り扱う犠牲者数は556人となった。
 同弁護士会では教会側の賠償金として、犠牲者を「5000ユーロ」「1万5000ユーロ」「2万5000ユーロ」「それ以上」の4カテゴリーに分け、早急に解決する方向で努力している。これまで、10件が賠償金問題で解決済みという。
 ところで、同国のメディア報道によると、1人の犠牲者がカトリック教会ではなく、同教会と政教条約(コンコルダート)を締結するオーストリア政府を相手に告訴しているという。
 同犠牲者(60)は1960年代初め、グラーツ市(同国南部の都市)の教会関連寄宿舎で責任者に性的虐待を受けたという。男性は当時12歳だった。同犠牲者の弁護士によると、オーストリア政府に対し70万ユーロの賠償金を要求している。
 同犠牲者が賠償金要求の請求先をカトリック教会ではなく、政府とする理由について、「バチカン法王庁(ローマ・カトリック教会総本山)とオーストリア政府が締結したコンコルダート(Konkordatsvertrag)」を挙げている。すなわち、政府は教会関連施設(寄宿舎)での生徒に対しても責任を負うという主張だ。「教会の特権」と「国家の責任」を明記したのが政教条約だからという訳だ。
 それに対し、憲法学者たちの間では、「コンコルダートは一般的な負債に対する政府の責任を記述していない」という主張が多い。換言すれば、政府は聖職者の性犯罪に対し、賠償金支払いの義務を負っていないというわけだ。
 ドイツやベルギーのカトリック教会でも今日、聖職者の性的虐待問題は犠牲者への救済、治療問題から賠償金の支払い問題へと具体的な対応にその焦点が移ってきたが、バチカンと国家が締結した政教条約を理由に国家にも賠償金支払いの責任があると指摘したグラーツのケースは初めてだ。それだけに、同問題の動向が注目されるわけだ。

バクダッド帰りの実業家の“嘆き”

 バグダッドから帰国した実業家のオーストリアの知人は「イラクの油田開発も民族間の利害対立や政治家・官僚の腐敗で思うようには展開していない」と嘆いた。
 それに先立ち、イラクのシャハリスタニ石油相は今月4日、同国の確認原油埋蔵量が1430億バレルに増加したと公表した。これは確認埋蔵量ではサウジアラビア、ベネズエラについて世界第3位の規模となる(同国の確認埋蔵量はこれまで1150億バレルと推定されてきた)。
 ビジネスマンの知人は「現状はそれほど楽観できないよ」と述べ、その理由を説明した。
 「イラク中部のベイジ(Beji)製油所の現生産量は本来可能なレベルの約50%に過ぎない。フセイン政権時代では88%以上だった。理由は簡単だ。製油所施設が古くなり、保全も悪く、生産能力は落ちているからだ。しかし、それ以上に大きな問題がある。それは民族・宗派間の対立だ。スン二派地域の油田に対し、バグダッド現政権はシーア派の圧力もあって開発や投資に熱意がないのだ」
 「キルクーク(クルド人地域)では現在、180万バレルを生産しているがフセイン時代には230万バレルを生産していた」
 先の石油相によると、「国際企業による油田開発が国内12油田で進んでいる」というが、知人は「新しい油田開発は官僚のハードルが高く、必要な書類を入手するために多くの時間を費やす。その上、政治家や官僚の間に腐敗が渦巻いている」と指摘した。
 イラク駐留米軍戦闘部隊は8月末、撤退したが、その後も同国で過激派のテロ事件は絶えない。バグダッド市内の2カ所で先月19日、車爆弾が爆発し、少なくとも29人が死亡、約110人が負傷したばかりだ。
 一方、今年3月実施された連邦議会選挙後、半年が既に経過したが、新政権は発足していない。主要政党間の思惑と利害の対立が原因だ。
 油田開発だけではない。経済の発展には政情の安定が不可欠だ。イラクの石油産業が本来の生産能力まで回復するためにはまだまだ多くのハードルを越えなければならないわけだ。

NHKとORF、そして受信料

 当方が18年間住んでいた14区のアパート時代からオーストリア国営放送(ORF)の受信料を支払ってきた。テレビを購入した直後、誰も受信料の請求にこないことから、「ひょとしたら無料かもしれない」と勝手に考えていたが、知人から「テレビ・ラジオの受信者は受信料の支払い義務がある。払わないと、過去の分も含め罰金を請求されるよ」と警告されたので、早速ORFに登録した次第だ。
 それからは2カ月に1回(46・12ユーロ)、ORFの受信料請求書を受け取り、支払ってきた。当方が14区から現在の16区に引越しした直後、ORFから受信料の請求書が届いた時はビックリした。当方の新しい引越し先をどうして嗅ぎつけたのか、と考えたが、当方が住居変更届を役所に届けたことから、ORFは当方の新しい住所を入手し、請求書を送ってきたわけだ。いずれにしても、一度、視聴者として登録すれば、オーストリアに住んでいる限り、受信料の請求書は届く仕組みとなっている。支払いが遅れたりすると、ちゃんと追加料金を計算した請求書が届くのだ。
当方の14区時代、テレビ番組はORFが独占し、政府も民間放送に対して放送権の許可を出さなかった。だから、ニュース番組はORFにお世話になってきたが、今では多数の民間放送局がスタートした。オーストリアだけでもATV、PULS4、SAT1など民間放送が奮闘している。それだけではない。衛星放送と契約すれば、ドイツのTV放送もCNN、BBCも受信できる。
 当方は夜のニュース番組はATVとORFを中心に見ているが、娯楽番組となると民間放送のチャンネルにお世話になる機会が多い。ORFにチャンネルを合わせる機会はめっきり減った。
 そのような事情があるため、「どうしてORFだけに受信料を支払わなければならないのか」といった不満が請求書が届く度に湧いてくる。日本のNHKとは違い、ORFはコマーシャルも流し、莫大な広告収入を得ているのだ。
 日本ではNHKの受信料について、受信料未払い運動があると聞く。オーストリアでも規模はまだ小さいが、同じ様な運動がある。どの国でも国営放送の受信料問題は大きなテーマとなっているわけだ。
 最後に、国営放送の「政治の中立性」について言及したい。人気ブログ「ヌレイヌ」によると、東京で今月2日、尖閣諸島問題で中国の対日姿勢を抗議するデモが行われ、2600人を超える市民が参加し、渋谷から表参道まで、日の丸の旗やプラカードを掲げて行進したが、「海外のメディアでは取り上げられたが、日本の多くのメディアは報道していない」とし、「NHKは中国や韓国に乗っ取られている」と指摘、公営放送のNHKを槍玉に挙げている。
 ORFの場合、監視員会のような機関があり、そこに各政党の代表が参加し、番組の運営、偏向などを監視している。例えば、今月10日はウィー市議会選挙が実施されるが、番組で特定の政党関係者が多く出演しないように、今晩は社会民主党関係者、明日は国民党代表といった具合に、出演時間を政党に公平に割り当てて放送している。もちろん、野党関係者からは「社民党と国民党の2大政党がORFを掌握している」といった批判の声はある。
 受信料を支払っている視聴者の1人としていえば、「ORFはまだ公平だ」といえる。繰り返すが、問題は受信料だ。

ローマ法王と「マフィア」

 ローマ法王ベネディクト16世は3日、イタリアのシチリア島(同国の特別自治州)の州都パレルモ市を訪問し、イタリアのスキファー二上院議長、アルファノ法相、ロメオ・パレルモ大司教、カンマラータ・パレルモ市長らの歓迎を受けた。
 べネディクト16世にとって、国内の都市訪問は法王就任以来、21回目だが、パレルモ市を司牧するのは初めて。ちなみに、前任の法王ヨハネ・パウロ2世は1993年、シチリアを訪問している。
 シチリア島は“イタリアの厄介者”といわれ、国内の開発途上地域と受け取られてきた。経済危機、犯罪の席巻、未来への展望のなさなどから、多くの島民は深い絶望の中で生きている。その一方、マフィアがその支配を拡大し、シチリア島はマフィアの拠点となって久しい。
 バチカン放送によると、べネディクト16世は同日午前、パレルモ市に到着すると市内で約20万人の信者たちを集めて記念礼拝を行っている。そこでドイツ出身の法王は「失業、未来への不安に囚われ、組織犯罪グループに脅迫されないように」「心配することはない。勇気をもって立ち上がれ。神への信仰は力を与えるだろう」と呼びかけている。
 多くの島民が失業や将来への不安からマフィア関係者の甘い声に負け、犯罪に走るケースが絶えないことを踏まえての指摘だろう。
 ローマ法王は同日夜、青年たちを前に「マフィアの影響に屈してはならない。マフィアは死に繋がる道だ。イエスの福音の教えとも一致しない」と警告を発し、若者たちにシチリアの刷新の夢を託している。
 法王はローマに戻るためパレルモ国際空港へ向かう途上、チャパチでマフィアによって殺害されたギオヴァ二ー・ファルコネ氏(Giovanni Falcone)とパオロ・ボルセリノ氏(Paolo Borsellino)の追悼碑を訪ね、献花している。2人の治安判事は1992年、マフィアに対抗し、立ち上がったが暗殺された。イタリア社会を当時、大きく震撼させた事件だ。
 べネディクト16世のパレルモ訪問は短時間の日程だったが、マフィアへの警告一色の司牧となった。
 ローマ法王の先月の訪英とは異なり、余りメディアに報じられなかった「法王のシチリア島訪問」の様子を読者に報告した。

“不思議な星の下”の警察庁長官

 オーストリア本年度上半期の犯罪総件数は前年同期比で約10%減を記録した。特に、音楽の都ウィーン市では、総犯罪件数が10万5238件と前年同期比で9.7%減と大幅に減少した。同国のフェクター内相は「わが国はさらに安全な国となった」と喜んだが、犯罪件数を記録的に急減させたウィーン市のカール・マーラー警察庁長官も誇らしげだった。
 ところで、マーラー長官はウィーン市の犯罪取締り総責任者となって以来、「犯罪の加害者」となることはもちろんないが、「犯罪の被害者」となるケースが目立つのだ。
 ウィーン市で昨年、家宅侵入窃盗事件が多発した。オーストリア全土で昨年第1四半期のアパート侵入窃盗事件が3600件発生し、一軒家侵入窃盗件数は2599件だった。いずれも、前年同期比でアパート16%、一軒家37%、急増した。同件数の約半分がウィーン市で発生している。
 その被害者の中にマーラー長官宅(昨年5月5日)も入っていたのだ。同長官は日頃、「わが家は安全だ」と誇示していたが、窃盗犯には十分ではなかった。被害総額は公表されていないが、宝石、現金などが盗まれたという。
 そして先日、とうとう、マーラー長官は警察犬に噛まれたのだ。オーストリアでは今年に入って犬、特に戦闘犬に噛まれる被害件数が増加し、その対策のため戦闘犬を飼っている所有者は当局に登録する義務制度が施行されたばかりだ。そのような中で、警察庁長官はよりによって身内の警察犬に噛まれてしまったのだ。
 オーストリアの1日付のメディア報道によると、若い女性警察官が、盗まれた18万ユーロを相棒の警察犬と一緒に捜査し、見つけたことから表彰を受けることになったが、その表彰式に参加した警察犬ヴァディ(Verdi)が表彰状を授与したマーラー長官の大腿部を噛んでしまったのだ。原因は、ヴァディが参加した関係者の大きな拍手にビックリし、傍にいた長官を反射的に噛んだというわけだ。
 家宅侵入窃盗事件が増えれば、その被害者となり、犬の不祥事が増加すると、ちゃんとその被害者の仲間入りする。「トレンドの犯罪」の被害者となるマーラー警察庁長官は“不思議な星の下”に生まれている。

極右政党、「赤の牙城」に一撃か

 ウィーン市議会選挙が今月10日に実施される。これまでの複数の世論調査結果をみると、野党第1党の極右政党「自由党」が大きく飛躍するものと予想される。
 オーストリアは9州から構成され、首都ウィーン市は特別州に入る。ウィーン市は久しく「赤の牙城」と呼ばれてきた。戦後から今日まで社会民主党(前・社会党)が常に与党の地位を維持してきたからだ。欧州でも珍しい都市だ。
 世論調査によると、ホイプル市長が率いる社民党は支持率約46%(2005年度選挙得票率約49・1%)とダントツだが、議席(定数100議席)の過半数を獲得する為には得票率47%以上が必要だ。幸い、先月26日に実施されたシュタイアーマルク州選挙で与党第1党の社民党が国民党を破り、第1党の地位を堅持したばかりだ。その追い風を受け、社民党内では楽観論が強まっている。
 一方、極右政党自由党のシュトラーヒェ党首は「社民党の独裁を破り、赤の牙城を崩壊させる」と鼻息が荒い。同党は選挙の度に「外国人問題」や「移住者問題」を選挙争点に掲げ、有権者に「オーストリア国民ファースト」を訴えてきた。今回はイスラム教の進出を警戒する市民に向けて、「イスラム寺院は過激派の拠点だ」と主張し、ミナレット建設とスカーフ、ブルカの着用の是非、法治国家の容認などイスラム教問題を問う住民投票の実施を要求している、といった具合だ。
 なお、世論調査によると、同党の支持率は約21%。大台の得票率20%に突入するのは確実とみられている(前回得票率約14・8%)。
 社民党と自由党の一騎討ちの様相を深めてきた今回の選挙では、その狭間で他の政党は苦戦を強いられている。国民党は支持率17%前後(前回18・8%)と、自由党にかなり差をつけられている。伸び悩んできた「緑の党」は選挙の終盤戦に入り、支持率を12%とようやく上昇してきたが、前回の得票率14・6%までには程遠い。
 まとめると、音楽の都・ウィーン市議会選の焦点は、第1党のホイプル社民党が過半数支配を堅持するか、それとも自由党が躍進し、「赤の牙城」に一撃を加えるか、といったところだろう。

ネット上で正男氏の株、急上昇!

 何がきっかけとなるか、分からないものだ。
 北朝鮮で先月28日、朝鮮労働党代表者会で金正日労働党総書記の3男、金正恩氏が党の要職に任命された。後継者の公式化のスタートと受け取られている。
 そして正恩氏が党指導者たちと一緒に取った写真が30日付の同国労働新聞1面に公表された。これまでベールに包まれてきた金王朝の王子、正恩氏の写真が初めて世界に流れると、ネット上でも「待っていました」といわんばかりに、コメントが殺到している。その内容が面白いのだ。
 「なんだ、金総書記に似て太っている」「デブだ」「国民がガリガリなのに栄養取りすぎ」「性格が悪そう」といった種類の辛らつなコメントが多くを占めている一方、「正男が後継者になったほうが良かったのに」「正男ならば世界の動向を知っているから、指導者として適任」「正男は本当にいつも楽しそうだ」「正男の方が愛嬌がある」といったコメントが結構あったのだ。
 後継者・正恩氏の写真が初めて公表された日、皮肉にも後継者レースから久しく脱落した正男氏(金総書記の長男)の株が急上昇してきたのだ。正男氏自身がこれを知ったら、驚くだろうか、それとも笑い出すだろうか。
 ネット世界の反応は独断と偏見に満ちている事が多いが、案外、正鵠を射ていることもある。普通のジャーナリストならば、写真をみて「豚だ」とか「親父に似て、太っている」といった“主観的な”印象は書けない。せいぜい、「正恩氏は体格がいい」とか「安定している」、または「太っ腹な印象を与える」といった表現に留まるところだ。その点、ネット世界はズバリ、「正恩はデブだ」と言い切るから怖い。同時に、ネット世界の情報が無味感想となりがちな新聞記者の記事よりも数段、迫力があり、面白い、ということにもなる。
 正男氏はITに精通しているといわれる。2005年11月ウィーン入りした時も早速、新しいラップトップを購入してメールを送信していた人物だ。ネット世界で人気が上昇中というニュースは案外、正男氏を喜ばしているかもしれない。
 一人のコメンターは「デビューの日にこれほど叩かれ、中傷・冷笑された人物はいない」と指摘し、「デブ」呼ばわりされた正恩氏に同情しているほどだ。
 世界のメディア関係者はこれまで正恩氏の写真入手に奔走してきた。偽写真を掴まされた新聞社も出てきた。
 メディア関係者だけではない。多くの読者の中にも写真見たさに、正恩氏への期待感が高まっていた。しかし、写真が公表された途端、その期待感が急速に冷え、ネット上では失望感となって跳ね返ってきたわけだ。
 期待が大きいほど、失望感も深まる。「何もしていない」正男氏の株が急上昇してきたのも、その辺に事情があるのかもしれない。

※当方はこれまで「正銀」と表記してきましたが、朝鮮中央通信が漢字表示を「正恩」と公表しましたので、今後、これに倣うことにします。
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