ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2010年10月

ロシア国勢調査で「宗教」はタブー

 ロシアで現在、全ロシア国勢調査が実施中だが、その質問欄に「所属宗教」を問う欄がない。通常の国勢調査では、政府が国民の宗教状況を把握するために「あなたの宗教は何か」という欄がある。
 ロシア正教会最高指導者キリル総主教の担当官は「ロシア政府は、宗教が国内で拡大している事実が明らかになることを恐れている」と、その理由を説明している。
 前回の国勢調査は2002年に実施された。質問事項は、性別、生年月日、婚姻状態、家族構成、出生地、国籍、民族、教育水準などで、ロシア人とロシア居住外国人も対象となった。この年の質問欄にも「所属宗教」を回答する欄はなかった。
 旧ソ連邦時代、「宗教はアヘン」として揶揄され、信者は2等国民扱いをされてきた。しかし、冷戦時代が終焉し、共産党政権下で癒着してきたロシア正教会が次第にその勢力を回復。最近では“宗教のルネッサンス”と呼ばれるように、国民の間で宗教への関心が高まってきている。
 そこで国勢調査で「所属宗教」欄を設けた場合、宗教人口が急増していることが一目瞭然となる。また、チェチェン人過激派テロに頭を悩ますロシアにとってイスラム教徒の増加が明らかになることは治安問題上、あまり芳しくない。そこで厄介な「所属宗教」欄を削除した国勢調査となった、というのが実情かもしれない。
 また、02年の国勢調査では、チェチェン共和国の人口が推定より多かったことから虚偽申告が疑われたほどだ。多民族を抱えるロシア連邦では国勢調査も非常に政治的色合いが帯びてくるわけだ。
 なお、アジア・ニュースによると、ロシアの人口は今後40年間で1億人以下に収縮し、人口の半分はイスラム教徒(スン二派が中心)によって占められると予想されている。
 人口減の理由として、(1)出生率の低下、(2)アルコール中毒の拡大、(3)中絶の拡大、等が挙げられている(同国では04年以来、中絶件数が出産件数より上回ってきた。約160万件の中絶件数に対し、約150万人の出産件数だ)。

犯罪は「条約」で防止できるか

 国際組織犯罪防止条約(越境組織犯罪条約)が採択されて今年11月で10周年目を迎えた。イタリアのシチリア島(同国の特別自治州)の州都パレルモ市で署名会議が開催されたことから「パレルモ条約」とも呼ばれている。国連薬物犯罪事務所(UNODC)の本部があるウィーンで18日から22日の5日間、締結国会議の第5会期が開催中だ。
 国際組織犯罪防止条約は、越境組織犯罪を防止するために国際的な法的枠組みを創設することが目的で、「一層効果的に国際的な組織犯罪を防止し及びこれと戦うための協力を促進することにある」(第1条)という。同条約には「人、特に女性及び児童の取引を防止し、抑止し及び処罰する」など、3つの議定書が補足されている。
 UNODCのユリー・フェドトフ事務局長は同条約を「国際法の歴史的成果だ。警察当局は国境で犯罪捜査をストップする必要はなくなった」と、条約の意義を強調するが、組織犯罪の現状は決して楽観視できるものではない。
 具体的には現在、157カ国が条約締結国だが、条約の「犯罪防止メカニズム」を具体的に履行している国は19カ国に過ぎない(日本は2000年12月、本体条約に署名したが、国内法との整備で共謀だけで実行の着手がなくても可罰的とする「共謀罪」という新たな法律が必要となり、その是非でコンセンサスが出来上がっていないため、条約には批准していない)。
 UNODCによると、組織犯罪の中でも麻薬取引きは最大の犯罪。コカイン取引きだけで720億ドルの収益があるという。また、人身売買は「現代の奴隷」と呼ばれ、特に、若い女性が欧米に売られ性産業に従事させられるケースが増えている。その経済的収益は30億ドルにも達し、約14万人がその犠牲となっているという。
 パレルモ条約は増加する越境犯罪に対する国際間の協力を高めたことは間違いないが、組織犯罪は益々巧妙となり、警察側の捜査は一段と困難となってきている。最近では、サイバー犯罪から偽造医薬密売まで、新しい組織犯罪が次々と生まれてきている。
 「国際条約で組織犯罪が防止できるか」と考える時、当方は「最終的には、人間一人一人が改善されない限り、犯罪防止は難しい」という印象を深めている。

北でも「天罰」が下るか?

 ローマ法王べネディクト16世から昨年2月、補佐司教に任命されたオーストリア教会リンツ教区のワーグナー神父(54)は、ハリケーン・カトリーナ(2005年8月)が米国東部のルイジアナ州ニューオリンズ市を襲い、多くの犠牲者を出したことについて、「同市の5カ所の中絶病院とナイトクラブが破壊されたのは偶然ではない」と述べ、「神の天罰が下された」と語り、大きな波紋を投じたことがあった(「天罰発言」のため、同神父は同年2月15日、任命辞退に追い込まれた)。
 この「天罰」発言はカトリック教会内の根本主義派聖職者の専売特許と思っていたら、どうやらそうでもないのだ。よりによって、無神論国家の北朝鮮で「天罰が下された」という論評が飛び出してきたのだ。
 北側の「天罰」発言の直接の契機は、韓国に亡命した黄長燁元朝鮮労働党書記が今月10日、自宅で亡くなっているのを発見されたことだ。北の祖国平和統一委員会のウェブサイト「わが民族同士」は14日、「黄氏の急死は天罰だ」とし、「祖国と人民、民族に反逆した変節者の末路がどれほど悲惨なものかを示している」「天罰を受けた人間醜物の悲惨な終末」(韓国の連合ニュース)と厳しく批判したのだ。
 ちなみに、北の内情を韓国で暴露する黄書記に対し、金正日労働党総書記は久しく同氏の暗殺を計画し、工作員を韓国に派遣するなど腐心してきた経緯がある。
 黄書記は生前、北朝鮮の国是・主体思想について、「金日成主席はスターリン主義を民族的なニーズに合うように適用した」と韓国KBS放送とのインタビューの中で答えているが、北の今回の「天罰」発言は、同国がローマ・カトリック教会の根本主義派聖職者(神父)と同じ様な精神構造を有していることを垣間見せている。北朝鮮を“宗教国家”と評する声がある所以だろうか。
 黄書記が亡くなった日は10月10日、北朝鮮では労働党創建65周年だった。金総書記から後継者に任命された金正恩氏は後継者としての実績が欠ける、と指摘されてきたことから、ひょっとしたら、「金正恩氏が黄書記に天罰が下るように“天に指令”を発した」といった類の論評が掲載され、黄書記の急死を正恩氏の実績に付け加えるのではないか、と考えていたが、流石にそこまでの論評はこれまでのところ見出せない。

チリ万歳、オーストリア万歳!

 その場に参加することに意義があるのはオリンピック大会だけではない。何と3人のオーストリア人がチリ北部サンホセ鉱山の落盤事故で地下に閉じ込められた作業員33人の救出作業に、単に物見ではなく、中心的な役割を果たしていたのだ。
 3人はいずれもトンネル建築の技術者だ。Johannes Pemberger(特殊カプセル「フェニックス」の責任者)、Heinrich Tilz(電気担当)、そしてPeter Laschober(起重機担当)だ。33人の作業員が全て救出された翌日のオーストリアの日刊紙(15日付)は「このようにしてチリ作業員を救った」といったぺムベルガー氏の体験談が2面に渡り大きく掲載されるなど、オーストリア国民はチリ国民に負けないほど大喜びだった。人間は“為に生きる”ことがどれだけ嬉しく、誇りであるかを、オーストリア国民の反応をみて痛感する。
 エストライヒ紙によると、ぺムベルガー氏は地上でカプセルを地下700メートルに下ろしていく作業を担当、「細心の注意でカプセルをコンピューターで操作しなければならない」(同氏)という。カプセルが救出用トンネルの岸壁に途中、止まれば終わりだ」というから、その操作技術は熟練と経験が求められるわけだ。
 救出作業は13日午後9時55分(現地時間)、33人全員を無事引き上げて完了、空前の救出作戦は終わった。
 「最後の作業員が上がってきた瞬間を自分は決して忘れないだろう」とぺムベルガー氏は同国メディアのインタビューで答えている。そうだ。ミッションはパーフェクトだった。
 チリのピニェラ大統領は33人が全て無事、地上に上がってきた時、「オーストリアに心から感謝する。その支援がなければ、救出作業は不可能だった」と語ったという。
 オーストリアは決してモーツアルトの遺産だけで生きのびている国ではないのだ。アルプスの山々に囲まれた国だけに、鋼索鉄道の建設技術は世界的であり、レオーベンの鉱山大学(Montanuniversitat Leoben) は有名だ。北朝鮮が白頭山で鋼索鉄道を建設するため密かにオーストリアの鉱山鉄道専門会社に依頼したほど、その技術は世界で高く評価されている。
 「チリ万歳」「オーストリア万歳」

ロシア正教会キリル総主教の警告

 バチカン放送(独語電子版)によると、ロシア正教会最高指導者キリル総主教は「欧州諸国は無神論国家だった旧ソ連邦と酷似してきた」と述べている。
 同総主教は13日、モスクワを訪問したドイツのウルフ大統領と会見したが、その中で「近代的な欧州諸国でみられる非宗教化、宗教心の解体現象は、その理由は全く異なるが、ソ連邦が犯した過ちを繰り返している」と強調した。
 欧州社会で加速する世俗化現象は新しいことではないが、「共産政権の盟主だった旧ソ連邦の状況と酷似してきた」という指摘は考えさせられる。
 欧州各地で公立学校内や裁判所内の十字架排除や宗教授業の廃止などの動きが見られる。カトリック国家だったポーランドでも今日、教会の役割の制限などが政治議題に上がってきた。
 独カトリック教会司教会議議長のロベルト・ツォリチィ大司教は今年1月31日、アーヘンの日曜日礼拝で「欧州のキリスト教の基盤は危険に晒され、解体や破壊の危機に瀕している」と述べ、大きな反響を呼んだばかりだ。
 大司教は「欧州社会では実用的な不可知論(Agnosticism)と宗教への無関心が次第に広がってきた」と警告を発し、「十字架は学校や公共場所から追放され、人間は一個の細胞とみなされ、金銭的な評価で価値が決定されている。また、欧州の多くの政治家は神を無視して決定している」と批判している。
 具体的には、「日曜日の祝日廃止」から「神はいない運動」(英国から始まった)まで、これまでのキリスト教社会の伝統や慣習が批判に晒されているのだ。
 旧ソ連邦時代はマルクス・レーニン主義の唯物・無神論世界観を国是とし、「宗教はアヘン」と見なし、宗教者は2等国民と扱われてきた。一方、西欧諸国では今日、特定のイデオロギーによるというより、「政治と宗教」分離原則が宗教を否定する方向に歪んで発展してきた、とでもいえるかもしれない(同じ様に「政治と宗教」分離原則を実施する米国社会では宗教は依然、大きな影響力を持っている)。
 価値の相対主義が席巻する世俗社会では、絶対主義的な世界観を標榜する宗教に対し、病的な恐怖感、嫌悪感がみられることは事実だ。これを「宗教フォビア」と社会学者が呼んでいる現象だ。
 欧州は冷戦終焉後、何を失ってきたのだろうか。足を止めてじっくりと考えなければならない時点に遭遇している。その意味で、キリル総主教の警告は看過できない内容を含んでいるわけだ。
 なお、ローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王べネディクト16世は今月、「キリスト教遺産の救済のために新福音化省を設立する」と表明した。バチカンが新しい省を設置するのは22年ぶりのことだ。

バチカン、「天使の業」の規約承認

 ローマ・カトリック教会総本山バチカン法王庁はカトリック教会内の根本主義グループ「天使の業」(ワーク・オブ・エンジェル)の新規約を承認した(バチカンは2008年、「天使の業」を教会の公式団体として再公認している)。
 バチカンは2000年、再承認の前提条件として、「天使の業」の教えとその実践から距離を置くことを挙げる一方、「天使の業」の指導部刷新を要求してきた。それを受けて、「天使の業」は昨年、20年ぶりに新しい指導部の選出を行ったばかりだ。ちなみに、バチカン教理省は1992年、「天使の業」の教えを禁止している。
 「天使の業」はチロルの一人の女性ガブリエル・ビターリッヒ(1896〜1978年)の個人的啓示から始まる。ビターリッヒは4歳の時から天使を目撃。彼女は「人間はそれぞれ独自の加護天使を持ち、終末の時、天使と悪魔の戦いが展開される」と主張してきた。
 「天使の業」は1949年、神父や神学者によってインスブルックで設立された。グループには約100人の神父、約400人の修道女が所属している。平信者の数は不明だ。
 「天使の業」はドイツとオーストリアを中心に勢力を伸ばしているが、独ミュンヘン大司教区は今月11日、「天使の業に対する説教、悪魔払いの禁止は今後とも継続する」と主張するなど、教区によっては依然、「天使の業」に対する反発はある。
 バチカンは過去、個人的な霊体験に基づく教えには警戒心が強く、「天使の業」や「求道への道」(マドリードの画家フランチェスコ・アルグェロが神に出会って回心、ギターと聖書をもって宣教を開始した)に対しては批判的だった。
 しかし、ドイツ出身のローマ法王べネディクト16世が就任して以来、カトリック教会内のセクトと呼ばれてきた根本主義グループ「兄弟ピウス10世会」の4人の司教に対する「破門宣言」が撤回され、ラテン語礼拝が再導入されるなど、教会内で“保守回帰の動き”が顕著となってきた。ダン・ブラウンのベストセラー小説「ダ・ヴィンチ・コード」の中でも登場して有名となった代表的根本主義勢力「オプス・デイ」(ラテン語、神の業)は久しく教会総本山バチカン内で基盤を強固にしている。
 バチカン消息筋によれば、「天使の業」の新規約承認もその流れの一環と受け取られている。

後藤氏は「靴を履いていたか」?

 12年5カ月間余り、拉致監禁された世界基督教統一神霊協会(通称・統一教会)の信者、後藤徹氏の申し立てを受けて東京第四検察審査会が開かれ、このほどその議決が明らかになった。東京地方検察庁が昨年12月9日の「本件各不起訴処分」は「いずれも相当である」というものだ。後藤氏は被疑者に対する各逮捕拉致致傷、強要未遂被疑事件の審査を要求していた。
 検察審査会は11ページに渡り、議決理由について記述している。
 審議会では先ず、被疑者が平成7年9月11日、申立人(後藤氏)を自宅から10メートル先のワゴン車に乗せる時、後藤氏が「靴を履いていたかどうか」を争点とし、「後藤氏が記憶していない」ことを理由に、「靴を履いていた」と判断、強制的に拉致されたという同氏の主張に「疑問」を呈している。
 また、後藤氏の身長が182センチで、付き添っていた家族よりも圧倒的に大きいことから、「後藤氏は脱出する意思があれば困難なことではない」と独断し、後藤氏の主張にこれまた疑いを投げかけている。
 ちなみに、「靴を履いていたか」という争点では、「記憶がない」という後藤氏の返答の方が事実に近いだろう。12年以上も前のこと、それも「靴を履いていたかどうか」を100%、確実に答えられる人物がいたら、その方がむしろ異常だ。
 一方、拉致監禁側の家族側の主張に対しては、検察審査会は最初から疑わない、後藤氏が逃げないために玄関ドアに南京錠などを取り付けたことに対し、被疑者側は「統一教会の信者たちが後藤氏を奪還することを恐れたため、その防止のために設置した」と弁明したが、「被疑者の主張が不当なものとして否定することはできない」とあっさりその主張を認めている。
 また、拉致監禁で重要な役割を果たした疑いが濃厚な被疑者「松永堡智(日本同盟基督教団新津福音キリスト教会牧師))及び宮村峻(脱会請負人)」については「関与したとする証拠はない」と簡単に処理している。両者が関与した疑いのある過去の拉致監禁問題を慎重に検証したのか。
 次に、後藤氏が監禁から解放された直後の体重問題が記述され、同氏の体重が統一教会側によって操作された疑いを示唆している。民主党議員の有田芳生氏などは自身のブログの中で「一心病院(統一教会系)の謀略的な作為が見事に明らかにされている」と書き、鬼の首でも取ったようにはしゃいでいる。
 逆に言うと、ルポライターの米本和広氏が撮影した監禁解放直後の後藤氏の写真は、被疑者に議論の余地がない事実を突きつけているからだ。
 イタリアのトリノ大学内で開催された「新宗教に関する研究センター」(CESNUR)主催の国際会議の分科会「日本における強制改宗」で後藤氏の拉致監禁問題が話し合われたが、同氏の写真が紹介された時、参加者の多くはショックを受けたという。偏見なく写真を見れば、衝撃を受けるのが自然だろう。一方、被疑者側には写真を否定しなければならない事情がある。だから、元共産党系ジャーナリストだった有田氏のように「写真の撮影は操作された」といった妄想が飛び出してくるわけだ。
 後藤氏の主張は最初から疑惑の目でみられ、12年5カ月間も監禁されていたという事実は「証拠がない」として否定されている。その一方、申立人の「人権」や「信仰の自由」はどうしたのか。審議会が「信仰の自由」と「人権の普遍性」について慎重に協議した形跡を「議決の理由」文からは見出せない。
 検察審査会のメンバーの中に仏教徒かキリスト信者がいなかったのか。議決内容からは、棄教を迫られた信仰者に対する理解がまったく感じられない。極端にいえば、有田氏のような元共産党系の無神論者集団が一人の信仰者の言動を糾弾し、裁いているような違和感を感じる。
 考えても見てもらいたい。アパートから他のアパートへ移動を繰り返す状況はそれだけで“異常”だ。そして“1人対多数”の心理的影響などは、何も考慮されていない。もっぱら、「靴を履いていたか」「182センチの大男が」といった唯物的、即物的な観点でしか審議していないのだ。
 検察審査会が議決できる権限と情報を有していたとは思えない。議決内容を読む限り、検察庁のシナリオに沿って議決された、という印象を受ける。当方は今回の検察審査会の議決に納得できない。

金王朝の「称賛と美化」の世界

 北朝鮮で金正日労働党総書記の後継者に決定した三男、金正恩氏の「称賛と美化」が同国メディアを中心に溢れているという。予想されたことだが、現実はそれ以上だ。
 先ず、北朝鮮メデイアでみられる金正恩氏への「称賛と美化」を韓国の連合ニュースから少し紹介する。
 北当局は党創建65周年の10日、「不世出の領導者を迎えたわが民族の幸運」と題した「放送正論」を住民に聴取させたという。それによると、正恩氏は経済・文化だけではなく、歴史と軍事にも精通し、2年間のスイス留学で英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語をマスターし、現在、中国語、日本語、ロシア語を学習中という。まさに、語学の天才だ。
 当方は30年前、ロンドンから初めてドイツ語圏入りした時、ドイツ語のウムラウトやその文法に頭を悩まされたものだ。語学の天才・正恩君からみたら「ダメおやじ」と揶揄されるかもしれない。
 また、その天才ぶりは農業分野にも及び、正恩氏が作成した標準肥料表に従った結果、翌年の収穫が「1町歩当たり最高で15トンの稲が収穫された」という。
 これが事実ならば、国際食糧農業機関(FAO)にとって朗報だろう。北朝鮮の恒常的な食糧不足は解決したものと同じだ。韓国も米国も北に人道支援として食糧支援する必要はもはやなくなる。
 ところで、父親・金正日総書記には1200余りの呼称がある。一般の人でも知っている呼称は、「偉大な指導者」「偉大な首領さま」だろうか。ここで1200余りの呼称を全部羅列すれば、コラム欄の紙面がなくなるから、代表的な呼称を挙げる。「絶世の偉人」「偉大なる領導者」「先軍思想の具現者」から「完全無欠な軍事家」「不敗の司令官」まで。また「革命の太陽」「わが民族の太陽」「人類の太陽」「21世紀の太陽」と「太陽」が伴う呼称まで幅がある。それだけではない。映画や文学に造詣の深い金総書記には、「世界的大文豪」「天から降臨した英雄」「音楽の天才」等の呼称も忘れてはならない。金総書記の前では、ドストエフスキーもモーツアルトもタジタジだ。
 しかし、実際はそれらの「称賛と美化」が空虚な言葉に過ぎないことを月光仮面だけではなく、誰もが知っている。
 「称賛と美化」の発信元・北関係者は心からそのように思って称賛・美化しているわけではないはずだ。一方、金総書記も自身を「称賛と美化」する幹部たちを本心では信じていないといわれる。当然だろう。「人類の太陽」「21世紀の太陽」などと呼ばれたら、普通人は「止めてくれよ」と叫び出すだろう。
 しかし、北では連日、国営メディアを中心に指導者への「称賛と美化」が絶えない。発信側も受け手側も信じていない「称賛と美化」が独り歩きしている。何と“寒々とした”世界ではないか。「言葉」(ロゴス)がその意味とその対象を失った世界なのだ。
 金正恩氏は30代に入る前から「称賛と美化」の洗礼を受け出した。祖父・故金日成主席、父親の金総書記、そして息子の金正恩氏と3代続く世襲国家・北朝鮮では、指導者への「称賛と美化」が彼らを“褒め殺し”し哄笑している。

バチカン主催「国際メディア会議」

 ローマ・カトリック教会総本山バチカン法王庁で今月4日から7日まで、広報評議会(議長クラウディオ・マリア・チェッリ大司教)主催の「国際カトリック・メディア会議」が開催された。同会議には、世界85カ国以上から200人を超えるジャーナリストやメディア専門家たちが参加した。
 会議の主要テーマは、(1)「言論の自由」と教会の「真理の主張」、(2)カトリック・メディア間の協調、(3)インターネット時代の「カトリック・プレス」の役割などだった。
 バチカン法王庁がメディアの重要性を再認識する直接の契機となったのは、聖職者の未成年者への性的虐待問題が今年に入り、欧州各地で発覚し、世界のメディアが大きく報道したが、その中には事実誤認や未確認な情報が多数あったことからだ。特に、米メディアが「現ローマ法王は教理省長官時代(ラッツィンガー枢機卿時代)、聖職者の性犯罪を隠蔽した疑いがある」と報じ、ローマ法王の責任を追及し出した。バチカンはその時、パニックに陥り、その対応に大慌てとなった。「法王の退陣要求」や「法王の逮捕」などの声が米英メディアで大きく報道されたからだ。
 バチカン内でも過去、情報の流通は決してスムーズではなかった。例えば、べネディクト16世は今年、「兄弟ピウス10世会」の4人の司教の「破門宣言撤回」の教令を出したが、4人の司教の中にホロコーストを否定した聖職者(英国のリチャード・ウイリアムソン司教)が含まれていたことから、世界のユダヤ人から激しい非難を受けた。法王はその直後、その事実を知って、ウイリアムゾン司教の破門撤回を再度撤回したほどだ。教会最高指導者のローマ法王に重要情報が届いていなかったのだ。考えられないことだ。
 バチカンのロンバルディ報道官は「聖職者の性的虐待事件が発覚して以来、カトリック教会のコミュニケーションは改善され、透明度を増した」と強調している。バチカンの今後の広報政策を注視していきたい。
 なお、ローマ法王べネディクト16世は会議最終日の7日、参加者を迎え、「情熱とプロ魂はジャーナリストとして必要だが、情報手段や方法が急変する今日、事実と虚実を取り違えて報道するジャーナリストが少なくない。真理の伝達者であることは非常に難しい課題だ」と述べている。
 参加者の声を拾うと、ロンバルディ報道官は「神の福音は簡潔で読みやすい内容でなければならない」と強調。また、カトリック・メディアの課題として、「セックス(性)とマネー(金)」に関するテーマに対し、「バチカンはこれまで消極的だったが、今後は迅速的、明確に対応していかなければならない」といった声が聞かれた。

音楽の都ウィーンで極右、大躍進

 音楽の都・ウィーンの市議会選挙(定数100)が10日、実施され、即日開票の結果、ホイプル現市長が率いる与党・社会民主党が過半数の議席を失う一方、極右政党・自由党が前回(2005年)のほぼ倍の得票率を獲得し、大躍進した(約16万人の手紙投票結果がまだ集計されていないため、最終結果は12日以降の予定)。
 暫定結果は、戦後からウィーン市議会を牛耳ってきた与党・社会民主党は得票率44・1%で前回の49・1%より約5%の得票率を失った。一方、極右政党・自由党は27・1%と前回より12・2%を上積みした。一方、社民党と自由党の選挙戦の狭間にあって苦戦してきた保守党「国民党」と「緑の党」は13・2%(18・8%)、12・2%(14・6%)で、それぞれ5・5%、2・4%の得票率を失った。
 この結果、社民党は48議席に留まり、これまで維持してきた単独過半数(前回55議席)を失う一方、自由党は29議席を得て市議会第2党に飛躍。ちなみに、国民党は13議席、「緑の党」は10議席に留まった。
 選挙戦では明確な政策論争はなく、もっぱら過半数維持に腐心する社民党に対し、外国人排斥を訴える自由党との一騎打ちの様相が終始、濃かった。
 自由党躍進の背景には、同党が増加する外国人(イスラム系住民)に対する市民の懸念に理解を示し、「オーストリア・ファースト」をアピールする一方、経済危機に直面し、失業への不安を抱える有権者の批判票を巧みに吸収したことが挙げられる。同党は伝統的に社民党支持区の労働者区(10区、11区、21区)でも大きく得票を伸ばした。
 同党のシュトラーヒェ党首は選挙戦前、イスラム教の進出を警戒する市民に向けて、「イスラム寺院は過激派の拠点だ」と主張し、ミナレット建設とスカーフ、ブルカの着用の是非、法治国家の容認などイスラム教問題を問う住民投票の実施を要求している(ウィーン市のイスラム教徒は約12万人、市人口の7・8%)。
 過半数を失ったホイプル市長は「国民党と緑の党との連立交渉を開始し、遅くとも11月末までには新政権(任期5年)を発足したい」と表明している。なお、社民党は極右政党・自由党との連立を拒否している。
 これで今年最大の選挙戦だったウィーン市議会選は終わった。2013年の連邦議会選まで同国では選挙はない。
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