ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2010年09月

「より重く、より高く、より太く」

 「より早く、より高く、より遠くに」という言葉を聞かれたことがあると思う。夏季五輪大会の陸上選手への一種のキャッチフレーズだ。100m競争では「より早く」、走り高跳び競争では「より高く」、そして3段飛び競争では「より遠くに」といった具合だ。
 ロンドン夏季五輪大会(2012年)までまだ時間があるのに、「気の早いことだ」と笑われるかもしれない。当方はここで夏季五輪陸上選手をテーマにコラムを書くつもりはない。ここでは「より重く、より高く、より太く」なってきたオーストリア国民の身体検査結果について、読者の皆さんに紹介したいのだ。
 オーストリアの「医学スポーツ科学相談研究所」(IMSB)が過去30年間、2万人の国民を対象に国民の身体発達状況を調査してきたが、このほどその結果が公表された。それによると、同国民の男性(18歳から25歳)は過去30年間で平均73kgから77kgと重たくなり、身長は178cmから180cmと高くなった。一方、女性(18歳から25歳)は60kgから65kgに、165cmから171cmにそれぞれ発達(?)した。すなわち、男性は過去30年間で4kg、女性は5kg、「より重たく」なったのだ。また、体の脂肪分が55歳から60歳では21%増加している。
 他の諸国と比較すると、オーストリア国民はギリシャ、米国、英国、ドイツ、フィンランドについて世界で第六番目に「太っている国民」という。
 同研究所によれば、オーストリアでは約100万人の国民がボディマス指数(BMI)が25で、肥満体に入るというのだ。
 それだけではない。同国の子供たちの身体発達でも問題が表面化しているのだ。10歳から12歳の子供たち1100人を対象に調査した過去4年間で肥満児の割合が24%(06年)から44%(10年)と急増しているのだ。
 同研究所関係者によると、「より重く、より大きく、より太く」なったオーストリア国民を再び、理想的な身体に復帰できる道はただ一つだという。「運動」だ。

会議成功の鍵を握るロシア方程式

 国際原子力機関(IAEA)の定例理事会で16日、イスラエルの核能力について欧米理事会とアラブ諸国理事国の間で激しいやり取りが展開した。
 その進展状況を知人のロシア人のS教授(旧ソ連邦時代の次官)に話すと、教授は笑いながら、「エンドレス(終わりのない)な議論だな」といって溜息をついた後、「どのような話し合いでも参加者(国)が2人(2カ国)だったら合意も可能だが、参加者の数が増えれば増えるほど、会議の成功の見通しは良くない」という“会議成功に関するロシア方程式”を明らかにした。
 その方程式を「中東和平への見通し」に適応すれば、イスラエルと特定の中東1カ国との交渉ならば、会議の見通しは悪くないが、イスラエルとアラブ中東諸国との会議となると、成功は期待できない、ということになる。国連の場などで中東和平問題を会議した場合、ロシア方程式によれば、「絶対成功しない」ということになる、
 その意味で、9月2日に再開したイスラエルとパレスチナの直接交渉は2カ国に留まる限り、成功の可能性はあるが、他国がちょっかいを出すと成功は覚束なくなる。
 教授は「中東和平が困難な理由の一つは、各国が独自の安全観を有しているからだ。中東各国は等しく安全を願っているが、その安全に対する認識で相違があるからだ」と述べた。
 それでは、中東地域の平和実現は“見果てぬ夢”で終わるのか、と聞くと、教授は「突発的な核戦争でも勃発すれば、その後、和平への動きが出てくるかもしれないが、それ以外、難しいかもしれない」と、「戦争直後の和平」しか考えられないというシナリオを半分冗談で、半分はまじめな顔で語った。
 ところで、冷戦時代の旧ソ連はアラブ・イスラム諸国(サウジアラビアを除く)と良好関係を築いてきたが、イスラエルとは余りいい関係ではなかった。それがここにきてイスラエルとの関係が前進してきた。
 教授は「それは当然かもしれない。イスラエル住むユダヤ人移住者の約3分の一はロシア出身者だからだ。その上、米国との関係を維持するためには、イスラエルとの関係が重要となるからだ。自分個人としては、ロシアの対アラブ諸国の関係はこれまで通り、良好であるべきだと思っているがね」と述べた。

同じ世界観を有する2人の“君主”

 ローマ法王べネディクト16世は16日、法王として初めて英国を公式訪問し、同日午前、エジンバラに到着、ホリールードハウス宮殿で女王エリザベス2世と会見した。オーストリアのカトリック通信(Kathpress)の特派員は「同じ世界観を有する2人の君主」というタイトルでべネディクト16世とエリザベス2世の演説内容を紹介している。
 エリザベス女王は世界で最も著名な君主の一人であり、コモンウェルス(英連邦)、英国国教会の頂点だ。一方は世界に約11億人の信者を抱えるローマカトリック教会の最高指導者だ。文字通り、2人は世界の代表的“君主”といえるわけだ。
 両君主の会談は「非常に喜びと家庭的な雰囲気」(バチカンのロンバルディ報道官)の中で行われたという。
 エリザベス女王は、「宗教が憎悪の車輪となってはならない」と語ったローマ法王のアピールを支持した上で、カトリック教会との関係改善を希望した。
 一方、べネディクト16世は「欧州はキリスト教を土台としている」と強調し、「どのような多国籍社会でも伝統的価値観を維持し、キリスト教の土台を無視してはならない」と指摘し、英国が世界の舞台で政治的、経済的に中心的役割を果たしていると評価した。
 ところで、べネディクト16世はその前に、ドイツの過去に言及している。「神を追放し、多くに人々、特に、ユダヤ人を迫害したナチス独裁政権に対する英国の抵抗運動を高く評価する」と述べているのだ。
 ちょうどドイツ空軍の英国大空襲(1940年7月10日から同年10月31日まで、通称バドル・オブ・ブリテン)から70年目の今日、ドイツ出身のローマ法王が英国の地でこのように発言したことで、多くの英国識者はこの部分を驚きを感じながら聴いたという。
 ちなみに、ベネディクト16世は法王就任以来、演説内容で世界を驚かしてきた学者法王だ。法王就任年の9月、訪問先のドイツのレーゲンスブルク大学の講演で、イスラム教に対し「モハメットがもたらしたものは邪悪と残酷だけだ」と批判したビザンチン帝国皇帝の言葉を引用したため、世界のイスラム教徒から激しいブーイングを受けた。世界のエイズ感染者の67%を抱えるアフリカ訪問(09年3月)では、「コンドーム無用論」を発して、リベラルなメディアからバッシングにあったばかりだ。
 過去のそれらの演説と比べると、今回の演説内容については「ドイツ人出身の法王が自国の過去について自省の思いを込め、その見解を表明した」と評価する声が多い。

イランが駆使する「2つのカード」

 国際原子力機関(IAEA)定例理事会は15日午後、イランの核問題を協議したが、「IAEAとの協調が足りない」と指摘されたイランのソルタニエ大使は「天野之弥事務局長が提出した最新の報告書は誤謬が多い。その上、解決済みの問題を再びテーマ化しようとしている」と強く反論した上で、批判の矛先を日本の核の安全問題に向け、「日本はレーザー・遠心分離機技術を保有し、高・低濃縮ウランを大量の保存している。周辺国家にとってその安全が脅かされている」と強く主張し、12月理事会には日本の核の安全問題に関する報告書を提出してほしい」と要求したのだ。
 そこでイラン代表団関係者に日本批判の意図などをそれとなく聞いてみた。関係者は、「わが国は決して反日ではない。天野事務局長が報告書の中でわが国を批判したが、理事会でも日本の中根猛大使がわが国を激しく批判したのだ。だから、ソルタニエ大使が反撃しただけだ。先に攻撃したのは日本側だ」と笑いながら語り、「全ての論争は政治ゲームだ。わが国と日本は伝統的に友好関係を築いてきた。わが国としては、日本がこの政治ゲームに関らないことを願っている」と強調した。
 その上で、「イランは守勢を強いられていない。わが国には心強いカードがある。それはイスラエルの核問題だ。これまで討議されることすらなかったイスラエルの核問題が年次総会だけではなく、理事会でも議論されるのだ。国際社会はイスラエルの核問題を隠蔽してきた勢力の存在をはっきりと分るだろう。わが国は核拡散防止分野でダブル・スタンダードを許されない」と指摘した。
 すなわち、イランは「外交上、打たれ弱い日本」と「イスラエルの核問題」という「2つのカード」を駆使しながら、自国の核査察履行問題を乗り越えていこうとしているわけだ。
 先の関係者は「イスラエルの核がNPTとIAEAのセーフガード下に入るならば、わが国もその義務を積極的に果たしていく」と述べ、ここ当分は「2つのカード」を振り回しながら、国際社会のイラン批判に耐え忍ぶつもりだ。

ローマ法王の訪英のハイライト

 ローマ・カトリック教会の最高指導者ローマ法王べネディクト16世は16日から4日間の日程で英国を訪問(司牧)する。英国エリザベス2世の招きで国賓としての訪英は初めて。
 ベネディクト16世の訪英のハイライトは2点だ。第1は19日に予定されている故ジョン・ヘンリー・ニューマン枢機卿(1801〜1890)の列福式の挙行だ。第2は、英国国教会との関係改善だ。
 英国国教会は16世紀、国王の離婚問題などの理由からローマ教会と対立し、決別した。それを受け、国王を最高権威とした教会が設立された。それ以来、バチカンとの関係は途絶えてきたが、教義的には両教会は類似している。
 ただし、ここにて聖公会で同性愛者を容認したり、女性聖職者の容認などリベラルな路線が浮上し、保守派聖職者や信者たちがそれに反発し、カトリックへ改宗する動きが見られる。それだけに、べネディクト16世の発言が注目される。ちなみに、同16世は昨年11月、使徒憲章を公布し、カトリックへの再統合の道を表明している。
 列福を受けるニューマン枢機卿(1801〜1890)は英国国教会の聖職者だったが、44歳の時、ローマ・カトリック教会に改宗した。英国国教会のカトリック教会復帰を促進する「オックスフォード運動」の中心人物で、1879年、レオ13世から枢機卿に任命された。なお、バチカンは同枢機卿を「英国国教会とカトリック教会の掛け橋を果たした聖職者」として、高く評価している。
 バチカン放送が公表した法王の訪英日程によると、法王は初日の16日午前、エジンバラに到着し、ホリールードハウス宮殿でエリザベス2世女王と会見、英政府要人とも会見。17日午後には、英国国教会のカンタベリー大主教をランベス宮殿に表敬訪問。18日午前、英首相ら政府の要人と会見した後、カトリック教会のウエストミンスター大聖堂でミサを行う。そして最終日の19日午前、バーミンガムのコフトン・パークでニューマン枢機卿の列福式を挙行する予定だ。
 最後に、英国社会の法王訪英に対する反応だ。大多数の国民は法王の訪英に余り関心がない。むしろ、法王の訪英コストが巨額に達することから、「法王の訪問は価値あるか」といった懐疑的な声が少なくない。一方、過激な無視論者グループは「法王は聖職者の未成年者への性的虐待事件の責任者だ」と主張し、訪英中に法王を逮捕すべきだと要求、メディアを動員している、といった具合だ。

山口弁護士の「尊敬されない発言」

 山口貴士弁護士といっても「その人、誰?」といわれる読者が少なくないだろう。全国霊感商法対策弁護士連絡会に所属し、反統一教会(世界基督教統一神霊協会)弁護士として有名な人物だ。
 その弁護士が当コラム欄13日付で紹介したイタリアのトリノ大学内で開催された「新宗教に関する研究センター」(CESNUR)主催の国際会議の分科会「日本における強制改宗」に参加していたのだ。
 会議2日目の10日午前、「日本でのディプログラミング(強制棄教)」のタイトルで統一教会側からダン・フェッファーマン氏(Dan Fefferman)が日本での強制改宗の実態を紹介した後、強制拉致監禁グループによって12年5カ月間監禁された体験をもつ後藤徹氏が紹介された。
 後藤氏は自身の体験を通訳を通じて報告した。特に、解放された直後の同氏の痩せ細った姿の写真は会場の参加者に衝撃を与えたという。
 山口弁護士が発言したのはその後の質疑応答の時だ。同弁護士は「統一教会が主張する強制拉致監禁が事実なら、どうして日本の報道機関がそれを報道しないのか」と疑問を呈した上で、後藤氏の証を含むフェッファーマン氏の強制棄教の報告内容を「事実ではない」と否定した。
 そこでオーストリアの宗教活動家、ペーター・ツェーラー氏が山口弁護士に対し、「日本では人権擁護のNGOがほとんど存在しない」と伝えると、「それは侮辱だ。どうしてそんなことがいえるのか」と激しく反論。激高する同弁護士の姿は「聴衆には異様に見えたほどだった」という。
 ツェーラー氏は後日、当方との会見で「欧州では立場の相違は別として、自分の考えを冷静に専門的に説明できる論者を尊敬するが、山口氏のように、感情丸出しの発言は軽蔑されることがあっても、決して尊敬されることはないだろう」と語っていた。

 以上、トリノの国際会議に参加した日本の知人の報告をもとに伝えた。

 山口氏は弁護士だ。「事実の重み」を誰よりも熟知されていると信じたい。その人物が後藤氏の12年5カ月間の体験を「そんなことはなかった」と主張できるのだろうか。
 どのように詭弁を弄したとしても、後藤氏の体験は強制拉致監禁グループが犯罪人であることを実証している。

IAEA職員の守秘義務

 国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長は13日、冒頭声明の中で、理事会の重要な議題である「イラン、シリアの核問題」「イスラエルの核能力」等について、IAEAの見解を表明した後、「事務局職員の守秘義務」について初めて言及している。先ず、その個所の概要を紹介する。

 「私は、核査察に関する機密情報の保護問題で数カ国の加盟国からの懸念内容を書き留めた。全てのIAEA職員が機密情報の保護義務を履行することは非常に大切だ。私は最近、IAEAから出て行く職員に対しても守秘義務を引き続き継続する旨を署名しなければならない、といった修正をも含め、いくつかの追加処置を取った。私たちはまた、広報活動や職員と外部(メディアを含む)間の相互関係に関する職員規律なども再検討している。私は近い将来の理事会で、IAEAの情報安全体制に関する報告を理事会に提出する考えだ。それらの問題は非常に複雑であり、深く検討するためには時間が必要であることを理解していただきたい。私の前任者、エルバラダイ前事務局長によって開始された調査(09年核査察に間する機密情報をメディアにリークした問題)は完了した。調査では、リーク源の身元を判明できなかったし、事務局職員によって情報がリークされた証拠も見つからなかった」

 IAEAが機密情報の守秘に乗り出したことを歓迎したい。当方は過去、この欄で何度かIAEAのリーク問題を扱ってきた(「IAEA広報部は『外交筋』?」2009年11月20日)。
 査察関連情報のリーク源は事務局職員だけではない。機密情報を合法的に入手できる加盟国外交官による情報のリークが少なくない。例えば、イランの査察履行状況に関する機密情報が事務局職員から外交官に伝わり、そこからメディアにリークされるケースは過去、余りにも多かった。
 IAEAの歴史的なリーク事件はチェルノブイリ原発事故(1986年4月)に関するロシア政府の調査報告書が広報部長(日本人職員)から日本の朝日新聞記者にリークされた件だろう。当時のトップだったハンス・ブリクス事務局長は激怒し、リークした広報部長を更迭するなど処罰を下したことはまだ記憶に新しいことだ。残念なことだが、IAEAの広報史の最大の汚点といわれるリーク事件に日本人職員が関与していたのだ。
 日本人初のIAEAトップに就任した天野事務局長が、職員の守秘義務の強化に乗り出したということは、決して偶然のことではないだろう。
 この機会を利用して提案したいことがある。理事会前に駐IAEA日本代表部で特定の日本人記者たちを招きブリーフィングする慣例を廃止されたらどうか(それとも、全ての記者たちを招くかどちらかだ)。日本人外交官の一部が知り合いの記者に情報をリークするケースが過去、何度か生じているからだ。駐IAEA日本代表部全権大使を経験された天野事務局長はそのことを良くご存知のはずだ。
 なお、天野事務局長は13日の記者会見で「核査察関連情報の守秘は加盟国との信頼関係を維持する上でも非常に重要なことだ」と述べている。

ブログを伝道活動に活用すべし

 ボイス・オブ・ロシアによると、ロシア正教会の最高指導者キリル総主教は「ブログを伝道活動にもっと利用すべきだ」と正教聖職者に呼びかけたという。その際、手本とすべきはローマ・カトリック教会総本山のバチカン法王庁のIT技術の活用だという。
 正教会のIT専門家は「全ての宗教はインターネットを通じて国際的ネット網を構築しなければならない時代圏を迎えている」と述べ、正教会より一足早くインターネットを利用した宣教活動を実施しているカトリック教会に倣え、というわけだ。
 正教会からインターネット利用でパイオニアと称賛されたバチカン法王庁は2007年、インターネット部門の強化に乗り出している。すなわち、IT技術の伝道活動分野では正教会より3年余り先行しているわけだ。
 ベネディクト16世は当時、「インターネットは教会の世界的活動を紹介するために新しい可能性を開く」と指摘、ニュー・メディアへの期待を表明している。
 ちなみに、バチカンのお膝元のイタリアではカトリック教会系のサイトが約5万件もあるという。教会サイトは説教、聖句だけではなく、聖歌や賛美歌を流すサイトも開設されている。信者のニーズに応じて各種各様のサービスがインターネットを通じて提供される。例えば、インターネットの画像や音声を利用できる「ポッドキャスト」を活用するなど、インターネットの多様な利用が教会の伝道活動を支えているのだ。
 ロシア正教会は冷戦終焉直後、ソ連連邦時代の共産党政権との癒着問題があって守勢を強いられたが、プーチン大統領時代に入り、政府が正教会との関係強化に乗り出したこともあって、「国家と正教会」の関係は急速に改善されてきた経緯がある。
 ロシアのメドベージェフ大統領は今年5月25日、モスクワでコンスタンティノープルの世界聖教会最高指導者の総主教バルトロメオス1世と会談の中で、「国家が直面しているさまざまな問題を正教会と対話して解決していきたい」と述べ、正教会との関係の重要性を強調しているほどだ。
 国家との良好な関係を背景に、正教会は伝道・信者への牧会活動にいよいよ本格的に乗り出すわけだ。「ブログ利用への奨励」はその第一歩というわけだろう。

伊で日本の拉致監禁問題が報告

 世界基督教統一神霊協会(通称・統一教会)の信者、後藤徹氏(46歳)は10日、イタリアのトリノ大学内で開催された「新宗教に関する研究センター」(CESNUR)主催の国際会議で脱会説得工作の専門家グループによって12年5カ月の間、拉致監禁された体験を報告した。同会議は9日から11日の3日間の日程でトリノ大学で「Changing Gods. Between Religion and Everyday Life(変遷する神観、宗教と日々の生活の間で)」というテーマで開かれたもので、参加者は宗教学の学者、専門家など約100人。
 後藤氏は10日のセッション「日本でのデプログラミング(強制棄教)」で自身の体験を語った。同氏は1995年(平成7年)9月11日、突如として無理やりワゴン車に押し込まれて拉致されてから、2008年2月、自力で解放されるまで12年5ヶ月間、拉致監禁されて統一教会から脱会するように強要されてきた。
 同会議にオーストリアから参加した宗教活動家ペーター・ツェーラー氏は当方との電話インタビューに答え、「後藤氏の報告を聞いた参加者は一様に『信じられない』といった反応を示し、ショックを隠し切れなかったようだった」と述べた。
 同氏は拉致監禁に関与した家族関係者、日本基督教団関係者を訴えてきたが、東京地検は昨年12月9日、「現代のホロコースト」と呼ばれる同氏の拉致事件を不起訴にした。その点でも欧州の宗教家たちからは「理解できない」といった声が聞かれたという。
 欧州では刑法に違反したり、「信教の自由」を蹂躙した者は家族であっても起訴される。当方はこの欄で「統一教会信者拉致とトルコ人問題」(2009年11月25日)を書いたが、欧州の警察関係者は相手が誰かで対応を変えることは少なくともない。
 統一教会はキリスト教社会の欧州でセクトと受け取られている点で日本と変らないが、同教会信者たちの拉致監禁問題に対する欧州社会の反応は明確に異なっている。「信教の自由」「人権」は普遍的な権利、との認識があるからだ(「日本の『信教の自由』求める署名運動」(09年10月8日)。

シリアの核施設査察履行の現状

 国際原子力機関(IAEA)定例理事会は13日から5日間の日程でウィーンの本部で開幕する。同理事会では国連安保理決議、IAEA理事会決議を無視してウラン濃縮関連活動を継続する「イランの核問題」が焦点となるが、シリアの核問題の動向も注目される。ここでは天野之弥事務局長が6日、35カ国の理事国に配布した「シリアの核保障措置協定履行報告書」(5頁)をもとに、シリアの核問題のポイントを読者に紹介する。
 シリアがIAEAとの協力を拒否し続け、未解決問題の解明に進展がない場合、欧米理事国はシリアの核施設に対し特別査察の実施を要求してくることが予想される。IAEAはシリアに対し追加議定書の発効を求めている。

 報告書はA「ダイール・アルゾル施設」(Dair Alzour)とB「M N S R(小型研究炉)での活動」の2項目に分かれ、査察履行状況を記述している。

 A項の「ダイール・アルゾル施設」
 イスラエルが2007年9月に空爆したシリア北東部の核関連施設(ダイール・アルゾル施設)について、事務局長は08年6月2日、IAEAが米国から受け取った情報として「イスラエル空軍によって爆破されたダイール・アルゾル施設は核施設で、破壊された時は建設中で操業はしていなかった。そして北朝鮮の支援を受けて建設されていた」と理事国に報告した。
 それに対し、シリア側は「破壊された施設は核とは無関係の軍事施設だった」と反論し、北朝鮮との核協力も否定した。IAEAは「施設の形態やクーリング施設と連携されていた点などをみれば、破壊された施設は原子炉施設と酷似している」と主張した。
 IAEAは08年6月23日、ダイール・アルゾル施設を初めて査察した。ただし、破壊された施設に関する文書や同施設関連の3カ所のサイトへのアクセスは認められなかった。査察官か採集した環境サンプルから微量の人工ウランが検出された。同核物質はシリアがIAEAに提出した冒頭報告には明記されていない。それに対し、シリア側はイスラエルが発射したミサイルに付着していたと主張。IAEAは「その可能性は低い」と指摘し、「破壊された施設で核関連活動が行われた可能性が高い」と判断、「施設に関する情報提供と現地調査」を要求。それに対し、シリアは今日まで「施設が非核の軍事施設」と強調し、「IAEAとの間で締結した核査察協定は軍事施設の査察容認を義務つけていない」と主張。IAEAは「シリア側が協力しない限り、ダイール・アルゾル施設が原子炉であったか、非核の軍事施設だったか、判断できない」と報告している。

 B項の「M N S R(小型研究炉)での活動」

 IAEAは09年6月、「08,09年にダマスカス近郊のM N S Rで未申告の人工加工されたウラン粒子が検出された」と理事国に報告した。IAEAは同年10月、シリアに対して施設関連情報及の提供などを求める。シリア側は「M N S Rでの未報告のウラニウム硝酸塩製造に関連した活動から起因した」等と主張。IAEA側はM N S Rへの査察など要求しているが、シリア側から協力を得られない状況が続いてきた。ただし、今月3日、ウィーンでの会合で未解決問題を解明するための活動計画を作成することで合意した。
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