ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2010年05月

中国のキリスト者のために祈りを

 日本のキリスト教信者数は人口の約1%、100万人前後と推定されているが、約13億人の人口を有する中国のカトリック教徒数も人口比ではほぼ1%だ。プロテスタント系教会メンバーも含めば、中国のキリスト教信者数は数千万人とみられ、信者数では既に韓国、フィリピンなどよりもはるかに上回っている。
 一部の情報によると、中国のキリスト教徒総数は中国共産党員数(2007年度約7500万人)を凌いだともいわれる。中国はもはや純粋な共産党政権国家とはいえないわけだ。
 欧州に亡命した中国反体制派グループから聞いた話だが、中国の共産党幹部は党員証より民間企業の会社名刺を持っていることを自慢するという。すなわち、企業の重役ポストの名刺が党員証よりも社会的ステイタスが高いわけだ。
 さて、中国の宣教に意欲を燃やすローマ・カトリック教会総本山バチカン法王庁では今月24日を「中国教会のために祈祷を捧げる日」として、信者たちに祈りを呼びかけている。これはローマ法王べネディクト16世のイ二シアティブに基づく。
 同16世は07年6月30日、中国のカトリック信者向けに「中国人への書簡」を公表し、そこで(1)中国共産党独裁政権下で弾圧を受けている地下教会の聖職者、信者への熱いメッセージ、(2)北京政権に対しては「信仰の自由」の保証、特に、バチカンの聖職者任命権の尊重を要求した。
 中国では1958年以来、聖職者の叙階はローマ法王ではなく、中国共産政権と一体化した「愛国協会」が行い、国家がそれを承認してきた。バチカンによれば、愛国協会は現在、中国を138教区に分け、司教たちが教区を主導している。一方、ローマ法王に信仰の拠点を置く地下教会の聖職者、信者たちは弾圧され、尋問を受け、拘束されたりしてきた。
 ただし、中国とバチカン両国はここにきて歩み寄りが見られる。というより、バチカン側の譲歩が目立つ。「愛国協会」公認司教をバチカン側が追認するケースが増えてきた。バチカンと中国両国の外交樹立が差し迫ってきた、という予測記事が流れるほどだ。
 なお、今年は中国宣教の基礎を築いたイタリアのイエズス会修道士マテオ・リッチ師(1552―1610年)の死後400年に当たる。

欧州初の北芸術展示会、オープン

 オーストリア応用美術博物館(MAK)で北朝鮮の芸術・建築作品の展示会が19日にオープンした。9月5日まで一般公開される。1864年に創設された由緒ある博物館で北の工芸品、美術品が展示されるのは今回が初めて。同展示会は「平壌民族ギャラリー」とMAKの共催。展示会には、約100点の絵画と約30点のポスターが出品されている。展示会のタイトルは「金日成主席への花、北朝鮮からの芸術と建築」だ。
 一般公開を前に18日午前、記者会見が開かれた。MAKによれば、「今回のような大規模な北朝鮮展示会は海外では初めて」という。
 博物館内には多数の警備員が目を光らせていた。特に、故金日成主席と金正日総書記が描かれた絵画の前には警備員が厳重警戒に当たっていた。展示会開催中に故金主席と金総書記が描かれた絵画が傷つけられたり、壊されたりしたら、政治・外交問題になるからだという。
 その背後には、北の芸術品展示会をMAKで開催することにウィーン市民から批判の声があるからだ。「国民を蹂躙する独裁国家の芸術品をわざわざ展示する価値があるか」「国民の税金を使って北のプロパガンダを支援する必要があるか」といった声だ。
 それらの批判に対し、MAK報道官は「われわれは冷戦時代、ロシアの革命芸術作品を展示したことがある。国民にとって未知の国の芸術を紹介することはMAKの使命だ」と説明し、「政治的意図はまったくない」という。MAK関係者によると、同展示会が実現するまで4年間余り、ウィーンと平壌間でさまざまな紆余曲折があったという。
 当方は今回、北の画家たちの油絵を見た。労働者が工場内で労働新聞を読んでいる絵や朝鮮半島の「統一」を描いた紙を持つ少女の絵画は別として、感動する絵もあった。画家名は忘れたが、「雨の路上」という題の油絵は素晴らしかった。ただし、絵画で描かれる人物の表情、特に、若い女たちの表情が一様に画一的な雰囲気を漂わしていたのが気になった。北の芸術家たちが自由に、創造的に活動できる環境で生活できれば、もっと素晴らしい作品が描けるだろうに、と感じた次第だ。
 なお、9月5日までの展示期間中、北に関するシンポジウムや映画の上演も予定されている。

「天安」爆破は金総書記の命令でない

 韓国将校46人が犠牲となった韓国の哨戒艦「天安」(1200トン級)の沈没事件は北側の魚雷による可能性が高まったが、欧州気鋭の北朝鮮問題専門家、ウィーン大学東アジア研究所のルーディガー・フランク教授は「金総書記の命令ではなく、指導層内の不従順分子によって行われた可能性がある」と主張し、注目されている。
 フランク教授は「明らかな不従順な行為?」というタイトルの分析記事の中で、「北朝鮮指導部の最重要課題は政権の堅持だ。その観点かいうならば、天安の爆破は勝算のない韓国との全面戦争の危機を孕んでいる。金総書記は韓国との戦争を望んでいないから、その危機が生じる韓国哨戒艦への攻撃命令を下すとは考えられない」と分析する。そこで「誰が命令したか」という問題が浮上してくる。
 フランク教授は「北指導部内の不従順勢力が行った」とみる。「金総書記の命令なく、韓国哨戒艦が撃沈されたとすれば、金総書記の権力基盤が不安定であることを実証する。北のエリート層は、金総書記がどのように出てくるかを注視しているはずだ。金総書記としては、指導層内の不純分子を粛清し、政権維持の意思を明確に示さなければならない。金総書記が確固たる行動に出ない場合、不従順勢力は勢いを得ることになる」という。
 それが事実ならば、金総書記は政権の安定維持のため、国内向けでは自身の命令で韓国艦への攻撃が行われた、と宣伝せざるを得ないかもしれない。
 参考までに、「天安」沈没後の北朝鮮の動向を時間を追って振り返ると、(1)北側は4月17日、天安沈没を「北関与説は南側の捏造」と否定。(2)金総書記の訪中(5月3−7日)、(3)党機関紙「労働新聞」は5月12日、核融合反応が成功したと報じ、水素爆弾の開発を示唆。(4)北朝鮮中央通信社(KCNA)は5月13日、「北の国防委員会は金イルチョルを年齢上(80歳)の理由で国防委員会委員、人民武力部1副部長の職務から解任した」と発表した。金イルチョルが海軍出身という点から、天安艦事件と関連がある、との憶測がある。(5)北の警備艇1隻が5月15日午後、黄海の北方限界線を1・4マイルまで侵入した。(6)KCNAは18日、北朝鮮の国会に相当する最高人民会議を6月7日に再度開催すると報じた。
 以上、韓国哨戒艦「天安」沈没事件後、北朝鮮では異例な出来事や動きが見られることは事実だ。権力闘争すら予感させるフランク教授の北朝鮮分析が正しいかどうかは、近い将来、明らかになるだろう。

法王、支持者に「心の回心」を諭す

 “空飛ぶ法王”と呼ばれ、信者ばかりか世界の多くの人々からも愛された前ローマ法王ヨハネ・パウロ2世の治世27年間でも、あのようなデモは無かった。
 あのようなデモとは、バチカンのサンピエトロ広場で16日、日曜日正午の祈祷会が開かれたが、約15万人の信者たちがローマ法王べネディクト16世を支持する連帯デモを行ったのだ。彼らは口々に「われわれは法王を支持する」「法王よ、あなたは独りではない。われわれがいる」と叫んだ。
 具体的には、イタリア司教会議関係者、60余りのカトリック教会系団体、それにイタリア政界の著名な政治家らが、聖職者の未成年者への性的虐待問題で窮地にあるベネディクト16世へ「連帯」を表明するために集まった。
 世界約11億人の信者たちの頂点に立つ最高指導者ローマ法王に対し、連帯表明するデモなど過去、聞いたことがない。異常な風景だ。
 デモである以上、タイの反政府デモをみても明確なように、何かに対し抗議するケースが通常だ。しかし、法王支持デモの場合、その「何に抗議するか」が見えないからだ。
 「法王を支持する」という以上、「法王を支持しない勢力」の存在が前提となるが、その勢力の輪郭が不明だから、デモ自体が一層、漠然としてくるわけだ。
 べネディクト16世はサンピエトロ広場に集まった信者たちに対し、「素晴らしい、自発的な信仰のデモに対し、感謝する」と述べる一方、「何に対して立ち上がらなければならないか」を信者たちに諭している。さすがに、歴代法王の中で最高の知性の持ち主だ。
 ローマ法王は「われわれが恐れ、戦わなければならない真の敵は、罪だ。悪は時には教会信者にも伝染する。われわれは世界を恐れる必要はない。恐れなければならないのは、われわれの罪だ」と指摘する。
 べネディクト16世は11日、ポルトガルのリスボンへ向かう機上の中で随伴したジャーナリストたちとの会見で、「教会の受難は外から来るのではない、教会内の罪からもたらされる。罪は教会内に存在する。最大の教会迫害は教会内からくる」と語ったが、デモ参加者に諭した法王の発言はそれと通じる内容を含んでいる。
 バチカン放送(独語電子版)によると、同16世は最後に、連帯表明する信者たちに対し、「心の回心のために祈ろう」(Beten Wir fuer die Bekehrung der Herzen)と呼びかけたという。学者法王の面目躍如の感がある。

自家製サラミ・ピザに挑戦

 米国人ほどではないが、オーストリア人もピザが好きだ。日本人が立ち喰いソバを食べる感覚で一口ピザパンを買って歩きながら食べる若者が多い。外でピザを食べることができるうえ、出前でピザを注文できるから、自宅で小麦粉とGERM(酵母)で生地をつくってピザを作る人は案外、少ない。忙しいうえ、簡単にファストフードが手に入る食文化に生きていると、面倒なことは避けるようになるものだ。
 当方は土曜日、自家製サラミ・ピザに挑戦した。ピザの土台をつくり、膨らむまでピザの上の具を準備する。トマトのベースを水で少し溶かし、油で少し炒めたシャンピニオンやニンジンを置き、その上にエーメンタール・チーズをおろし、パルメザン・サラミ(チーズ巻きサラミ)を乗せる。その前に、オーブンを210度で5分間、暖めておく。
 全ての準備が完了すると、いよいよ暖まったオーブンにピザを入れる。10分も経たないうちに、サラミ・ピザは出来上がる。火のとおりが心配ならば、7、8分後、箸でピザを刺してみれば分かる。
 オーブンの鉄板の大きさによって異なるが、家庭用オーブンの場合、4人分のピザが一度に出来上がる。ピザにサラダでもつければ、立派な昼食だ。ピザの上にホウレンソウを乗せ、卵を割ると、別のピザも出来上がる。ツナの缶詰を利用すれば、ツナ・ピザも出来る。
 「食録の星」に生まれた当方はテレビの料理番組が好きだ。英国の著名な料理家ジェミー・オリバー(Jamie Oliver)さんの料理番組をよくみた。オリバーさんはファストフードではなく、手作りの料理を子供たちに食べさせるべきだと主張し、学校給食の改善を教育関係者、児童のお母さんたちに呼びかけてきた若き料理人だ。オリバーさんについては、「ジェミー・オリバーさんの勝利」(2008年6月16日)というコラムで紹介した。再読していただければ幸いだ。
 最後に、当方が料理できるメニューを紹介すると、カレーライス、クリーム・シチュー、チャーハン、スパゲティー、オムレツ、豚肉のソティー、ウィーン風シュニッツェル(薄いカツレツ)、ハンガリー風グラーシュ、和風煮物、そぼろ丼、親子丼、サラダ・プラッテ、和製ホットドック、自家製焼きそば、それに今回初めて挑戦した自家製ピザだ。
 一つ一つの料理をマスターするまで試行錯誤がある。何度か焦がした和製ホットドックを子供たちに食べさせたことがある。しかし、料理は創造だ。具を変えることでまったく違った料理ができる。トマト、キューリ、パブリカなどの野菜の自然な色は食べる人の目を楽しませてくれる。
 当方の作った料理を食べてくれる常連の客は3人の子供たちだ。食欲が旺盛だから、味より量が問われる。美味しくても少量では満足しない。子供たちは結構“注文の多いお客”だ。

昨年度の独教会の“懐具合”

 独ローマ・カトリック教会(27教区)の2009年度総税収入は約49億ユーロだった。ドイツ・カトリック通信(KNA)が11日、公表した。
 KNAによれば、09年度の総税収入は最高記録を樹立した前年度の約51億ユーロに次ぐ2番目に多い。ドイツ教会では財政危機から税収入の減収を覚悟していただけに、教会関係者もホッとしたところだろう。同国司教会議議長、ロベルト・ツォリチィ大司教は「前年度比で5%減、ひょっとしたら10%の減収を予想していた」というほどだ。結局、前年度比で3・2%減に留まった。
 ドイツでは教会税が施行されており、教会信者は所得税の8〜9%を源泉徴収される(バイエルン州とバーデン・ビュルテンベルク州では8%、他の州では9%)。
 ところで、独ローマ・カトリック教会は毎年、巨額な税収入をどのように利用しているか。収入の大部分は人件費(海外宣教費を含む)、教会関連施設や建物の維持、修理代などに注がれる。ただし、聖職者の未成年者への性的虐待問題が発覚した今日、犠牲者への賠償金問題が持ち上がっている。収入の一部はその支払いに投入せざるを得ないだろう。
 資金の一部は企業と同様、投資に回される。ちなみに、独週刊誌シュピーゲルは昨年、「国内のローマ・カトリック教会系銀行Pax銀行が避妊薬や軍需品を製造する企業に投資し、資金運用していたことが明らかになった」と暴露して、信者たちを驚かせた。
 Pax銀行はLiga銀行と共に1917年、教会や慈善活動組織カリタスのために創設されたカトリック教会系銀行だ。その銀行が資金の運用先として避妊薬などを製造する米国の大手医療関係メーカー「ワイス社」(Wyeth)や軍需品のトップメーカーの英「BAEシステムズ」に投資していたというのだから、批判を受けても仕方がないところだ(「教会系銀行の資金運用先」2009年8月5日)。
 聖職者の性犯罪を契機に信者たちの教会脱会が広がっている。信者の大量脱会は教会税収入の減少に繋がる。また、教会から脱会しなくても、教会税の支払いを拒否する信者たちが増えてきた。彼らは「教会税廃止運動」を支持している。他人の懐具合を心配してもどうにもならないが、教会側が抜本的な改革を実施しない限り、近い将来、これまで享受してきた巨額な資金が途絶えてしまう危険性がある。教会財政担当者は教会側に緊縮財政を要求している。

「聖母マリアの顕現」の舞台書割

 オーストリアのカトリック通信は「聖母マリアの顕現は既に初期キリスト教時代からあった」という記事の中で、英国の歴学者デビッド・ブラックボーン氏(David Blackbourn)の興味深い説を紹介している。
 ブラックボーン氏は「聖母マリアの顕現には一定の共通パターンがある」というのだ。例えば、聖母マリアが1858年、フランス南西部の人口約1万6000人のルルドで14歳の少女、ベルナデッタ・スビルーに現れたケースと、ポルトガルの首都リスボン北約130キロにある人口2500人余りの小村ファティマで1917年、3人の羊飼いの子供たちの前に現れた場合を比較すれば分るという。
 両者の聖母マリアの顕現には、?幼い羊飼いや少女の前に顕現、?都会ではなく、小村、?経済、政治的に危機の時代、等のパターンがあるという。すなわち、両者の舞台書割は酷似しているというのだ。
 ブラックボーン氏は「ルルドの聖母マリア顕現がその後の聖母マリアの降臨の基本となった」と主張しているほどだ。
 最近では、ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボ西約50キロにあるメジュゴリエに1981年6月、聖母マリアは顕現している。そこでも聖母マリアは当時15歳と16歳の少女の前に顕現し、3歳の不具の幼児が完全に癒されるなど、数多くの奇跡が起きている。ブラックボーン氏の説を裏付けている(バチカン法王庁はメジュゴリエの聖母マリア再臨地を公式の巡礼地とは認めていないが、2008年7月、「メジュゴリエ聖母マリア再臨真偽調査委員会」を設置し、調査を開始)。
 聖母マリアは西暦41年、使徒ヤコブの前に最初に顕現している。中世前までは、聖母マリアは一般に大人の男性や聖職者の前に顕現してきたが、西暦1400年以降は少女や素朴な国民が選民として選ばれている。同時に、聖母マリアは経済的、政治的危機の時代に頻繁に顕現していることは先述した通りだ。また、聖母マリアはカトリック国、イタリアとフランスで最も頻繁に顕現している、といった具合だ。
 それらの「聖母マリアの顕現」に見られる共通パターンに対し、「どうして」「なぜ」か、と聞いたとしても余り意味がないだろう。歴史が人間の営みを記述するものである限り、どの時代にも一定のパターンが出てくるのは自然ではないだろうか。
 ちなみに、「ファティマの予言」の項でも指摘したが、カトリック教会では「神の啓示」は使徒時代で終わり、それ以降の啓示や予言は「個人的啓示」とされている。その個人的啓示を信じるかどうかはあくまでも信者個人の問題と受け取られている。

辞職願いを提出した司教の「本音」

 オーストリアのローマ・カトリック教会アイゼンシュタット教区パウル・イビ司教(Paul Iby)は同国代表紙プレッセ(12日付)とのインタビューの中で「聖職者の強制独身制度は廃止すべきだ」と発言し、大きな反響を呼んでいる。それだけではない、「中期的には女性の叙階も検討されるべきだ」と述べたのだ。
 イビ司教が突然、バチカン法王庁の方針とは異なる立場を表明したのにはそれなりの理由がある。同司教は今年1月で75歳を迎えたことで辞職願いをローマ法王ベネディクト16世に提出済みだ。だから「気楽な身になって日頃から考えてきた改革案(本音)を語ったのではないか」と受け取られている。
 そうかもしれない。しかし、重要な点は、司教の発言内容だ。いずれにしてもバチカン法王庁の締め付けがなくなれば、イビ司教のように本音を語る聖職者が続出するかもしれない。
 イビ司教の辞職直前の“本音”をもう少し聞いてみよう。
 ――聖職者の未成年者への性的虐待問題が発覚して教会は危機にある。
 「危機は非常に深い。教会から脱会者が続出している。教会は信者の信頼を再び得るためには長い時間がかかるだろう」(本年度第1四半期の脱会者数は前年度同期比で約42%増)
 ――12年前、未成年者へ性的虐待を犯した聖職者が最近まで聖職に従事していた。告訴する考えはなかったのか。
 「そのような対応の経験がわれわれにはなかったのだ」
 ――同じようなケースが今後生じた場合はどうするか。
 「直ちに関係当局に通達する」
 ――聖職者の強制独身制は今日、まだ受け入れられるか。
 「強制独身制が廃止されれば、世界の神父たちの重荷が一つ軽くなるだろう。既婚聖職者の聖職認可も歓迎する。彼らが聖職を履行できれば、神父不足は大きく改善されるだろう」
 ――司教になったことを後悔しているか
 「後悔はしていない。しかし、もう一度、司教になるか聞かれたら、ノーと答えるだろう。司教は今日、マネージャー、経済学者、そして心理学者でなければならないからだ」

「ファティマは希望の窓」

 ローマ法王べネディクト16世は11日、ポルトガルのリスボンへ向かう機上の中で随伴したジャーナリストたちとの会見を開いたが、そこで「教会の受難は外から来るのではない、教会内の罪からもたらされている。罪は教会内に存在する。だから、懺悔と浄化が必要だ」と述べた。
 法王の発言内容は聖職者の未成年者への性的虐待問題に関連していることはいうまでもない。法王は「最大の教会迫害は教会内からくる」と初めて公式に認めたわけだ。
 バチカン法王庁はこれまで、聖職者の未成年者への性的虐待問題では過大報道するメディアを非難してきた。それに対し、法王は「教会迫害は自身の罪に起因する」と明確に語ったわけだ。聖職者の性犯罪問題で大きな転換点となる重要な発言だ。
 伊アリタリア航空のエアバス320が同日午前11時頃(現地時間)、リスボン国際空港に到着すると、ポルトガル政府首脳たちの歓迎を受けた法王は感謝の辞の中で、ファティマの「聖母マリアの顕現」に言及し、「93年前の1917年、ポルトガルの天は開いた。ファティマは神が開いた、希望の窓だ」と指摘、「聖母マリアは福音の真理を人間に伝えるために、天から降臨された」と強調した。
 べネディクト16世のファティマ巡礼は11日から始まった4日間のポルトガル訪問のハイライトだ。べネディクト16世はファティマを巡礼する3人目のローマ法王となる。
 同16世は新ミレニアムの西暦2000年、教理省長官としてファティマの「第3の予言」を公表した責任者だ。封印されてきた「第3の予言」内容について、「ヨハネ・パウロ2世の暗殺未遂事件を予言していた」と説明している。
 ちなみに、キリスト教の教義では、「神の啓示」や予言はイエス時代の使徒たちで終わる。それ以降の「啓示」はあくまでも「個人的啓示」と見なされ、「神の啓示」とは一定の距離を置いて扱われてきた。その意味からいうならば、ファティマの「聖母マリアの予言」はカトリック教会でも異例の啓示と受け取られていることが分る。
 べネディクト16世はファティマでは「聖母マリアの顕現」の証人となった3人の羊飼いのうち、ヤチンタとフランシスコの2人の列福10周年記念行事に参加する。

バチカン法王庁内で“異変”!

 オーストリア・ローマ・カトリック教会最高指導者クリストフ・シェーンボルン枢機卿は「ハンス・グロア枢機卿(Hans Groer )が教え子に性的虐待を犯したことが発覚した時、当時教理省長官だったべネディクト16世は調査委員会を設置して徹底的に究明する意向だったが、当時の国務省長官だったアンジェロ・ソダノ国務長官(現枢機卿会議議長)がそれをストップさせた」と、バチカン内の当時の事情を暴露した。
 グロア枢機卿事件とは、オーストリア教会だけではなく、世界のカトリック教会を大きく揺り動かした大事件だ。枢機卿といえば、ローマ法王を支える最高位聖職者だ。その枢機卿が教え子に性的虐待を繰り返していたことが教え子の証言を通じて判明すると、教会に大ショックが走った。1995年のことだ。事件に衝撃を受けた信者たちの大量脱会が起きると共に、教会への信頼性は急速に失われていった。当時、“教理の番人”ラッツィンガー教理省長官(現ローマ法王)は早速、調査に乗り出そうとしたが、それを止めたのがソダノ枢機卿だったわけだ。枢機卿の証言だ。その発言の信憑性が高い。
 シェーンボルン枢機卿の発言はまだ続く。ソダノ枢機卿は先月4日、イースター記念礼拝の開始直前、べネディクト16世に向かって「教会信者たちはあなたと共にあります。一連の無意味なおしゃべりで影響を受けることはありません」と述べ、法王を激励する一方、聖職者の性犯罪問題を報道するメディアを批判した。その発言に対し、シェーンボルン枢機卿は「聖職者による性的虐待の犠牲者の心情を傷つけるものだ」と指摘し、ソダノ枢機卿の軽率な発言を批判したのだ。
 シェーンボルン枢機卿の爆弾発言に対し、バチカン内では称える声がある一方、「同胞の枢機卿を批判することは余り良くない」(前列聖長官、ホセ・サライバ・マルチンス枢機卿)といった批判の声も聞かれる。
 明確な点は、“ラッツィンガー・サークル”と呼ばれるべネディクト16世の個人シンクタンクのメンバーであるシェーンボルン枢機卿が、聖職者の性的犯罪を過去隠蔽してきた影の大物、ソダノ枢機卿を名指しで批判したことだ。前国務長官(法王に次ぐナンバー2の地位)の高位聖職者を直接批判することはシェーンボルン枢機卿にとってもかなりの冒険だ。
 実際、ソダノ枢機卿の周辺には多くの問題がある。修道会「キリスト軍団」の創設者であり、未成年者へ性的虐待を繰り返してきたメキシコ出身のマルシャル・マシエル・デゴラード神父の調査を妨害した聖職者はソダノ枢機卿であったことはこのコラム欄(「ソダノ枢機卿には説明責任がある」2010年4月17日)でも報告済みだ。同枢機卿はデゴラード神父と個人的にも親密な関係を築いている。結局、デゴラード神父問題の調査はべネディクト16世が05年、法王に就任してから始まった。
 次期法王の有力候補者の1人、シェーンボルン枢機卿の発言は今後も尾をひくだろう。なぜならば、シェーンボルン枢機卿のソダノ枢機卿批判の背後にはべネディクト16世が控えているはずだからだ。
 聖職者の未成年者への性的虐待問題の調査を常に妨害してきたソダノ枢機卿とバチカン高位聖職者に対し、べネディクト16世は法王の名誉をかけ、戦いを始めようとしているのかもしれない。それが事実とすれば、シェーンボルン枢機卿の今回の暴露発言は、高齢法王の代理として表明した一種の「宣戦布告」のようなものだ。
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