ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2010年04月

「独身制」再考を促す新しい風?

 ローマ・カトリック教会で聖職者の未成年者への性的虐待問題が発覚して以来、教会内外で「聖職者の強制独身制が不祥事の原因となっている」といった声が頻繁に聞かれる。バチカン法王庁はその度、「聖職者の性犯罪問題とその独身制とは関係がない」と反論してきた。
 ところが、ここにきてバチカン関係者から新しい風が吹いてきたのだ。改革をもたらす旋風となるか、一時的な突風に過ぎないのか、後日、判明するだろう。
 バチカンのタルチジオ・ベルトーネ国務省長官はスペインのTVとのインタビューの中で「聖職者の独身制は有意義であり、実り豊かな教会の伝統だ」と独身制を評価する一方、「独身制も決してタブー・テーマではない」と述べ、独身制の再考の余地を示唆している。そしてラッツィンガー教理省長官の後継者、ウィリアム・ジョゼフ・レヴェイダ教理省長官も米国のテレビとの会見の中で聖職者の性的虐待問題に言及し、「原因は社会の大きな変化だ。それに対し、教会も聖職者も十分、準備がなかった。例えば、性の革命時代にどのように独身を維持していくか、といった問題を考えてこなかった」と述べている。
 ベルトーネ国務省長官もレヴェイダ教理省長官もバチカン法王庁の高位聖職者だ。彼らが「独身制の再考」を示唆する発言をメデイアに向けて発したということは非常に興味深いことだ。
 バチカンが聖職者の独身制を再考する兆候はその前にも見られた。べネディクト16世の弟子の1人、オーストリア教会最高指導者、シェーンボルン枢機卿は「聖職者の性犯罪とその独身制はまったく無関係だ」と主張していたが、聖職者の性犯罪が拡大してきた今日、「(問題の解決のためには)独身制も議題の一つに含まれる」と、その見解を修正してきたのだ。
 バチカンはこれまで聖職者の独身制堅持の姿勢を貫いてきた。エクソシストとして世界的に有名な聖職者エマニュエル・ミリンゴ大司教が2001年、世界基督教統一神霊協会(通称、統一教会)の祝福式に出席し、韓国人女性と結婚した時、バチカンは大きな衝撃を受けた。
 ベネディクト16世はその直後(06年11月)、幹部会会議を緊急招集し、「聖職者の独身制」の堅持を再確認する一方、07年3月13日には世界のカトリック信者に向けて「愛のサクラメント」と呼ばれる法王文書を公表し、その中で「神父に叙階された聖職者はキリストと完全に同じでなければならない。独身制は言い表せないほどの価値ある財産だ」と主張、独身制を弁護している。
 ただし、「イエスがそうであったように」、結婚を断念し、生涯、独身で神に仕えるという神学的な意味は依然、非常に薄弱だ。「教理の番人」(教理省長官)を久しく務めたべネディクト16世自身も「聖職者の独身制は教理ではない」と認めている。
 キリスト教史を振り返ると、1651年のオスナブリュクの公会議の報告の中で、当時の聖職者たちは特定の女性と内縁関係を結んでいたことが明らかになっている。カトリック教会の現行の独身制は1139年の第2ラテラン公会議に遡る。聖職者に子供が生まれれば、遺産相続問題が生じる。それを回避し、教会の財産を保護する経済的理由が(聖職者の独身制の)背景にあった、といわれる。
 なお、ローマ・カトリック教会の神父が結婚などを理由に聖職を断念した数は1964年から2004年の40年間で約7万人と推定されている。

ヨハネ・パウロ2世の「問題」

 ローマ・カトリック教会で聖職者の未成年者への性的虐待問題が発覚して以来、当方には一つの疑問があった。ドイツ出身のローマ法王べネディクト16世が聖職者の性的虐待問題を隠蔽していたかどうかではない。同16世の前任法王、ヨハネ・パウロ2世(在位1978年〜2005年)はどうだったか、ということだ。
 なぜならば、聖職者の性的虐待問題はアイルランド教会でもドイツ教会でも主に1980年、90年代に集中しているからだ。例えば、べネディクト16世はミュンヘン大司教時代(ラッツィンガー枢機卿)、性的虐待問題を犯した聖職者の処遇問題で批判されたが、当時のローマ法王はヨハネ・パウロ2世だった。オーストリアのカトリック教会最高指導者グロア枢機卿が教え子に性的犯罪を犯した不祥事が判明したのは1995年だった。すなわち、現在、問題となっている聖職者の性的虐待問題の多くがポーランド出身のヨハネ・パウロ2世時代に生じているのだ。偶然だろうか。ヨハネ・パウロ2世は聖職者の不祥事をまったく知らなかったのだろうか。
 オーストリアの代表的週刊誌プロフィール最新号(4月26日号)は「バチカン法王庁が聖人化の手続きを進めているヨハネ・パウロ2世は聖職者の性的虐待問題を熟知していたが、それを隠蔽していた疑いがある」と報じた。
 同誌によると、パウロ2世は2004年11月、修道会「キリスト軍団」の創設者であり、未成年者へ性的虐待を繰り返してきた疑いがもたれたメキシコ出身のマルシャル・マシエル・デゴラード神父とローマで会見し、祝福ししたという。同神父の性的虐待問題はバチカン側に既に報告されていたが、ヨハネ・パウロ2世はそれを無視したというのだ。
 これが事実とすれば、同2世の聖人化プロセスは即停止されなければならなくなる。バチカンにとって大変な事態となる。
 それだけに、反応は早い。イタリアの保守系日刊紙ジョルナレは27日、バチカン教理省の文献から「ヨハネ・パウロ2世はキリスト軍団の創設者デゴラード神父の未成年者への性的虐待問題を知らされていなかった」と報じ、同2世の容疑を否定している。ただし、同紙が入手した教理省文献(2007年11月17日付)の中で、ウィリアム・ジョゼフ・レヴェイダ教理省長官は「ヨハネ・パウロ2世はデゴラード神父の性的虐待問題に全く関与していない。ただし、同神父の問題を指摘した法王宛ての書簡は届いていた」と認めている。デゴラード神父によって性的虐待を受けた神学生は1978年、89年、ヨハネ・パウロ2世宛てに書簡を送っているのだ。
 バチカン教理省長官であったラッツィンガー枢機卿(現ベネディクト16世)が当時、同問題の調査を開始し、後任に就任したレヴェイダ長官が調査を継続。そして2006年、バチカンはデゴラード神父の聖職剥奪などの処分を決定したというわけだ。同神父は08年に死去している。
 ベネディクト16世の容疑問題の時もそうだったが、バチカンから聞こえるのは「ローマ法王(ヨハネ・パウロ2世)はまったく関与していなかった」という説明だけだ。
 もちろん、聖人化手続きが進められているローマ法王の問題だけに慎重に調査しなければならないだろう。現時点で明確なことは、冷戦の終焉に大きな功績のあったヨハネ・パウロ2世の在位時代に、教会やその関連施設内で聖職者の未成年者への性的虐待が頻繁に生じていたという事実だけだ。

独トルコ系初の州閣僚の「発言」

 独二ーダーザクセン州で27日、アギュル・エツカン(Ayguel Oezkan)女史が社会相に就任するが、同女史は先週、独週刊誌「フォークス」とのインタビューの中で、「公共学校は宗教的には中立でなければならない。学校内の十字架を外し、スカーフ着用も禁止すべきだ」と発言し、大きな反響を引き起こした。
 同女史はトルコ系のイスラム教徒であり、与党「キリスト教民主同盟」(CDU)のメンバー、その上、ドイツ政界で初のトルコ系閣僚に就任するということもあって、ドイツのメディアで大きな話題を呼んできた。
 CDUはその党名が示すようにキリスト教の教えを政治信条とする政党だ。その党員の州閣僚が十字架を外すべきだと発言したのだから、CDUとその姉妹政党「キリスト教社会同盟」(CSU)から激しい反発を受けたわけだ。
 ヨハネス・シングハマー連邦議会議員(CSU)は「学校内で文化闘争を誘発するものだ」と不快感を表明し、エツカン女史に対し「ドイツのキリスト教文化を尊重すべきだ」と苦言を呈したほどだ。
 同州カトリック教会事務所フェリックス・ベルナルド所長は「十字架を外す考えはない」と真っ向から反対を表明し、「二ーダーザクセン州の学校法ではキリスト教の価値観に基づく教育が求められている」と強調している。
 エツカン女史(38)を閣僚に任命したクリスチャン・ヴルフ州首相は「わが州の公共学校で十字架を外す考えはない」と弁明する一方、女史に発言の撤回を要求。結局、エツカン女史が「公共学校の十字架は寛容される範囲」ということで譲歩し、「十字架論争」は一応、終止符を打たれた。
 ちなみに、独の野党「社会民主党」(SPD)からは「エツカン女史はSPDに入党すればいい。CDUはトルコ系閣僚を任命するほど成熟していない」と皮肉が発せられ、自由民主党(FDP)は「エツカン女史は公共建物内の磔刑像(十字架)を違憲と判決した独連邦裁判所の1995年の決定を繰り返しただけだ」と擁護している、といった具合だ。
 なお、ビルト日曜版によると、エツカン女史は極右派グループから「イスラム教徒が閣僚に就任すれば、殺す」といった内容の脅迫状を受け取っているという。

アルプスの大統領選の顛末

 アルプスの小国オーストリアの大統領選挙(25日投票実施)は予想通りの結果となった。まず、現職のハインツ・フィッシャー大統領(71)が得票率78・9%で圧勝し、再選した。次に、投票率(暫定)は49・2%と同国の大統領選史上、最低を記録した。
 フィッシャー大統領圧勝の理由は、過去6年間の職務が認められたというより、真の対抗候補者がいなかったからだ。野党第1党の自由党が擁立したバーバラ・ローゼンクランツ女史(52)とキリスト教系のルドルフ・ゲーリング氏(61)の2人が立候補したが、シリアスな挑戦者とは受け取られなかった。実際、フィッシャー大統領自身、選挙戦で2人の候補者と一緒に選挙討論のTV番組に参加しないなど、2人を相手にしない姿勢を見せていた。
 次に、歴史的な低投票率だ。欧州議会選挙ではそれ以下の投票率を記録したことがあるが、大統領選では最低だ。前回(2004年)の大統領選投票率は71・6%だった。
 同国メディアの一部ではフィッシャー大統領を「少数派大統領」と既に呼んでいる。棄権と無効投票を投じた有権者数(約7・3%)をあわせて計算すれば、フィッシャー大統領の得票率は約36%となり、過半数を大きく下回るわけだ。
 低投票率の原因の一つは、連立政権のパートナー、国民党が独自候補者を擁立せず、有権者(約640万人)に白紙投票を薦めたことだ。
 中道右派でキリスト教を政治信条とする国民党支持者にとって、フィッシャー大統領は支持できない政治家だ。そこで国民党の一部幹部たちが支持者に白紙投票を呼びかけたわけだ。
 議会に議席を有する5政党で候補者を擁立したのは社会民主党と自由党の2党だけ。「緑の党」はフィッシャー支持を表明したが、国民党、未来同盟は候補擁立を見送った。これでは投票率が高くなるわけがない。
 ちなみに、自由党が敗戦確実な大統領選にローゼンクランツ女史を擁立したのは、今秋に実施されるウィーン市議会選の見通しを観測する目的があったといわれる。シュトラーヒェ党首は当初、30%以上の得票率を獲得すると豪語していたが、ローゼンクランツ女史の得票率は約15・6%に留まった。
 同国の大統領職は名誉職で政治権限は元々限られているが、今回の低投票率はフィッシャー大統領の権限を一層、弱めることになろう。大統領廃止論者からは「金の無駄使いに過ぎず、価値のないポスト」という声が既に聞かれる。

司教たちの辞任

 ローマ・カトリック教会の欧州教会では、聖職者の未成年者への性的虐待事件が発覚して以来、枢機卿に次ぐ高位聖職者、司教たちが責任を追及され、辞任に追い込まれるケースが増えている。
 先ず、ノルウェー教会トロンハイム教区のゲオルグ・ミュラー司教は昨年6月、児童に性的虐待を行ったことを認め、辞任した。そして聖職者の未成年者への性的犯罪問題の先駆を切ったアイルランド教会では既に数人の司教が辞任している。メディアで報じられたところでは、キルデアのジェームス・モリアティ司教、リメリックのドナル・ムレイ司教が辞任した。両司教は「組織的に性的虐待が行われた」ダブリン教区時代、性的虐待事件を隠蔽した疑いがもたれてきた。同国では他の司教たちも将来、責任を追及されて、辞任に追い込まれるケースが出てくると予想されている。司教陣の総入れ替えの様相だ。
 一方、ローマ法王べネディクト16世の出身地、ドイツ教会のアウグスブルク教区のヴァルター・ミクサ司教は先日、教区の沈静化のため自ら辞任を表明したばかりだ。同司教の場合、未成年者に暴力を振るったという批判を受けてきた。ベルギーのブリュージュではロージャー・バングヘルヴェ司教が未成年者への性的虐待の疑いから辞任を強いられた、といった具合だ。
 高位聖職者の司教の場合、辞任表明から、実際辞任するまでのプロセスは教会法で明記されている。教会法401条第2項によれば、健康問題や他の困難さから聖職が履行できない場合、辞任申し込みをローマ法王に提出することが出来る。ただし、辞任を受理するかどうかは。法王の決定次第だ(教会法377条)。辞任表明しても、法王がその受理を拒否することもある。ただし、未成年者への性的虐待問題に関わってきた司教たちの辞任表明の場合、べネディクト16世はこれまで全て受理している。
 聖職者の性的虐待事件は信者たちの教会脱会を加速させ、教会を財政的にも厳しくさせているが、教区の中心的聖職者、司教たちの辞任続発は未成年者への性的虐待問題が教会の中枢にまで入り込んでいたことを端的に物語っているわけだ。

国連主催の「避難訓練実習」に参加

 国連警備担当官から先週、「君も避難訓練の講義を受けて欲しい」と言われた。そこで時間の余裕のある月曜日午前から2時間、集中講義を受けることになった。
 国連職員でもない当方が国連の避難訓練を受ける羽目になったのは、理事会など会議が開催されるMビルに常時勤務している職員が印刷担当の2人だけだからだ。Mビルで火事や何か災害が生じた時、外部から会議に参加している外交官たちを安全場所に避難誘導しなければならない。そこで国連警備側はMビルの記者室に屯している当方など数人の国連常駐記者たちに目をつけたというわけだ。記者たちに避難訓練の基礎知識を伝授するため、当方らを招待したという経緯だ。
 最初の1時間はテロや火災などの事故を想定して、避難に関する基礎知識だ。避難ルート、誘導担当官の権限(権限によって、黄色からオレンジ色のユニフォームを着用する)、階段から避難する場合、手すりを持って一列で降りていくこと、パニック状況となった職員に対する対応から、緊急時の連絡先、報告内容など、全ては具体的な情報だ。
 後半の1時間はもっぱら火災への対応だ。消火器の種類からその使用方法などだ。最後に、外に出て消火器の実習があった。初めて消火器を使用した当方などはその重たさにビックリした。消化作業は火の下から始めなければならないことなど、初めて知った。
 正直言って、「国連職員でもないのに面倒なことだ。出来れば、そんな講義には参加したくない」と考えていたが、参加してみて、「非常に役立つ」と感謝している。
 米国内テロ多発事件後、安保理決議に基づき、世界の国連機関は対テロ対策としてさまざまな対策を実施した。ウィーンでは、国連機関の全建物の窓を補強する一方、セキュリティ職員を約60人から約150人に増強した。ウィーン国連では現在、30人に1人は警備職員という計算になる。
 幸い、その後、テロなど大きな事件も災害も生じていない。「災害は忘れた頃にやってくる」といわれる。気を緩めてはダメだろう。
 ちなみに、当方は、国連がテログループの襲撃対象とはならないと確信している。イスラム過激派テログループは国連内に連絡員を潜伏させている。治外法権の国連は最高の潜伏拠点だからだ。「国連と『テロ』の関係」(2007年8月29日)や「国連内の治安統計報告の全容」(07年12月14日)を参照して頂きたい。

ロシアの「洗礼の日」を法定祝日に

 ロシア民族の「キリスト教化の日」を法定祝日とする動議がロシア議会(下院)第一読会で協議され、賛成多数で採決された。具体的には、ロシア民族の「洗礼の日」に当たる「7月28日」を国の祭日とする案だ。
 22日付のオーストリアのカトリック通信社(カトプレス)によれば、同動議を提出したマルコフ議員は「ロシアのキリスト教化は民族にとって非常に重要な瞬間だった。その日を期して、ロシアは欧州文明の一つとして受け取られるようになった」と説明した。
 歴史的に見ると、キエフ大公国のウラジミール大公は988年7月28日、ビザンティン帝国からキリスト教(東方正教)の洗礼を受け、キリスト教を国教とすることを決定している。キエフ大公は現在のロシア、ウクライナ、ベラルーシ(白ロシア)を含む。伝説によると、ウラジミール大公はアンナとの婚礼を契機にキリスト教に改宗したという。ロシア正教会は12世紀、同大公を聖人としている。
 宗教祭日といえば同国ではこれまで正教会のクリスマスに当たる「1月7日」の一日だけだ。ロシア正教会は過去2年間、民族がキリスト教の洗礼を受けた日を祭日とすべきだと要求してきた。
 ロシア正教会と友好関係を築くメドベージェフ大統領とプーチン首相は昨夏、「7月28日の祭日化」と提案している。
 ちなみに、同動議に強く反対しているのは野党のロシア共産党の1党だけだ。同党は昨年11月、ロシア国歌の歌詞から「神」に言及した個所を削除するように要求した改正案を連邦下院に提出している。
 なお、ウクライナでは2008年、同国のキリスト教化の日を既に法定祝日としている。

法王、2015年前に退位へ?

 ローマ・カトリック教会元司教補佐、ペーター・ヘンリッチ氏は雑誌とのインタビューの中で、ローマ法王べネディクト16世が中世の法王ケレスティヌス5世生誕800周年を迎える2015年前に退位するだろうと語った。
 ケレスティヌス5世(1215年〜96年、Caelestinus)は法王職を願わず、自ら教会法を改正し、半年余りで法王職を自主的退位した初のローマ法王(在位1294年)だ。
 イエズス会の聖職者だったヘンリッチ氏は1960年から93年までローマのバチカン法王庁立グレゴリアン大学哲学歴史教授だった。93年にスイスのクール教区の司教代理、2003年までチューリッヒで聖職を務めた後、3年前に高齢を理由に聖職を辞任した。
 ヘンリッチ氏が、べネディクト16世が2015年前に退位すると確信する理由として、同16世がケレスティヌス5世の墓を訪れ、そこで法王の権限を象徴するバリウムを供えるという象徴的な行動をしていること、ラッツィンガー枢機卿時代、法王選出に関する教会法改正について、「古い法王がまだ生存している時だけ合法だ」と主張してきた経緯があることだ。すなわち、ベネディクト16世は自身の死の前に法王職を退位する考えがある、とみているわけだ。
 興味深い点は、バチカン放送(独語電子版)が21日、ヘンリッチ氏の見解をかなり大きく紹介していることだ。バチカン法王庁は通常、法王の健康問題や動向について報道を避ける傾向がある。にもかかわらず、元司教補佐の個人的見解を大きく伝えたということは、「バチカンもベネディクト16世の生前中の法王退位を既成事実として受け止めている」と憶測できるわけだ。
 ちなみに、教理省長官のラッツィンガー枢機卿がコンクラーベで法王に選出された背景については、同枢機卿が高齢(当時78)で長期政権が難しいからだった。ショートリリーフの法王が当時、願われていたのだ。
 いずれにしても、15年といえば、べネディクト16世が88歳だ。年齢的にも法王の職務履行が難しくなる歳だ。べネディクト16世が自主的に退位すれば、ローマ法王の終身制は転換期を迎えることになるだろう。

礼拝中に眠り込んだローマ法王

 訪問先のマルタのフロリアナで礼拝中、ドイツ出身のローマ法王べネディクト16世は瞬間、前屈みとなり、眠り込んでしまった。驚いた周りの者が法王をそっと起こしたという。16日に83歳となった法王は疲労困憊、といった状況だったのだ。
 「礼拝中に眠り込んだ」という報道が流れると、高齢法王の健康問題がメディアで再び囁かれだした。
 使徒ペテロの後継者ローマ法王は本来、終身制だが、教会法332条第2項によると、健康悪化で職務履行が不可能な場合、自発的に辞任することができることになっている。前任の法王ヨハネ・パウロ2世も晩年、健康理由に退位を検討していたといわれる。
 ちなみに、自ら辞任した法王は過去、1人いる。中世のローマ法王ケレスティヌス5世(在位1294年)だ。同5世は元々、法王職を願わず、自ら教会法を改正して法王の自主的辞任の道を開いた後、半年余りで法王職を捨てた。
 べネディクト16世の実兄(ゲオルグ・ラッツィンガー)によれば、ベネディクト16世は過去3度、軽い脳卒中の発作に見舞われている。ラッツィンガー枢機卿が第265代法王に選出された時、実兄は「心労が重なる法王職を務めることは無理ではないか」と懸念を表明したほどだ。
 教理省長官のラッツィンガー枢機卿がコンクラーベで法王に選出された背景については、同枢機卿が高齢(当時78)で長期政権が難しいからだったといわれる。すなわち、ショートリリーフの法王が当時、願われていたのだ。
 法王に就任して5年間が過ぎた。高齢の法王には穏やかな日々はなかったはずだ。不祥事とハプニングの連続で、その対応に苦慮してきたからだ。
 歴代法王の中でも最高の知性の持ち主といわれるべネディクト16世にとっては、外交センスが要求される法王職の履行は元々、安易ではない。書斎で好きな文献を研究し、著作活動ができれば、幸福だったろう。
 ここ数カ月間の聖職者の性犯罪問題は高齢の法王の健康を悪化させたことは間違いない。聖職者の不祥事は、アイルランド教会から始まり、ドイツ、オーストリア、スイス、イタリア、オランダ、デンマーク、ノルウェーなど欧州各地の教会に拡大し、最高指導者としてその対応を強いられてきた。特に、ミュンヘン大司教時代、性的虐待問題を犯した聖職者を再雇用したことを指摘され、世界のメディアからその責任を厳しく追求されたばかりだ。
 ヨハネ・パウロ2世が法王に選出された時、58歳だった。それに対し、ベネディクト16世は78歳だ。この20歳の年齢の違いは大きい。べネディクト16世にとって、法王の日々は肉体的にも過酷な戦いであろう。

「白紙投票」と「低投票率」

 アルプスの小国オーストリアで25日、任期(6年間)の満了に伴う大統領選挙が実施される。ハインツ・フィッシャー現大統領(71)のほか、野党第1党の自由党が支持するバーバラ・ローゼンクランツ女史(52)とキリスト教派独立候補ルドルフ・ゲーリング氏(61)の3人が立候補している。
 「投票日に向け3人の候補者が激しく火花を散らしている」と書きたいところだが、今回の大統領選は低調だ。なぜならば、大統領選の結果は既に明らかだからだ。フィッシャー大統領の再選は確実だ。
 問題は、投票前から結果が明らかな選挙の場合、有権者(約640万人)の棄権が増えることだ。
 前回の大統領選(2004年)の投票率は歴代最低だったが、それでも71・6%だった。複数の世論調査によれば、今回は66%前後とさらに急降下すると予想されている。
 それだけではない。社会民主党出身のフィッシャー大統領を支持したくない連立政権のパートナー、国民党が有権者に白紙投票を薦めているのだ。理由は「大統領は党派を超えた立場で職務を履行すべきだが、フィッシャー大統領の言動は社民党寄りであり、その政治信条は元々“赤”だ」というわけだ。
 白紙投票を投じる有権者は、投票場に足を運んだ有権者の17%前後と予想される。すなわち、投票率66%前後のうち白紙投票が17%とすれば、有効投票の投票率は55%前後と歴史的な低投票率となるわけだ。
 現職のフィッシャー大統領としては、信任投票の性格がある今回の選挙で歴史的な低投票率だけは回避したい、というのが本音だろうが、簡単ではない。
 同大統領が参加するTV討論番組の視聴率は考えられないほど低い。有権者の多くは勝敗が明らかな大統領選に関心がないのだ。政治家の中には「名誉職の大統領を維持する意味があるのか」といった声と共に、大統領ポストの廃止論も再び囁かれているほどだ。
 フィッシャー大統領は、集会では、自身の政策をアピールすることも忘れ、「国民は民主主義の権利である投票権を行使すべきだ」と強調し、中央選挙委員会の関係者のように、有権者に投票を呼びかけている。
訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

Recent Comments
Archives
記事検索
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ