ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2010年02月

ロシア、未成年者伝道の規制法案

 ロシア法務省は国内の宗教団体の未成年者への伝道活動を制限する法案を検討中だ。ロシアのインタファクス通信が16日、報じた。同省は目下、同法案と「信仰の自由」との整合性などを審議しているという。
 同法案の狙いは、宣教活動を法的に規定し、未成年者への伝道活動を禁止するというものだ。特に、未成年者伝道目的で物質的贈答や社会的恩恵を提供することを制限するという。
 同法案の背後には、同国の主要宗派ロシア正教会の強い要望が働いていることは間違いないだろう。
 ロシア正教会最高指導者アレクシー2世時代から、正教会は外国の宗教団体、特に、ローマ・カトリック教会の国内伝道活動を「正教徒を改宗しようとしている」として激しく反発してきた経緯がある。
 アレクシー2世は生前、「バチカンは旧ソ連連邦圏内で宣教活動を拡大し、ウクライナ西部では正教徒にカトリックの洗礼を授けるなど、正教会に対して差別的な行動をしている」と批判してきた。
 アレクシー2世の後継者に選出された新総主教キリル1世(2009年2月1日、モスクワ総主教に着座)はカトリック教会との対話促進を支持、ローマ法王べネディクト16世との首脳会談に意欲を示す発言をしてきた。その為、両派の首脳会談が近い将来、実現するものと期待されてきたが、まだ実現していない。その最大の理由は、やはりカトリック教会の国内伝道活動といわれる。正教会の対カトリック教会関係では、キリル1世時代に入っても大きく変らないわけだ。今回の新法案はそのことを物語っている。
  ロシア正教会は共産党政権との癒着問題もあって、冷戦終焉直後は教会の基盤も非常に脆弱だったが、ここにきて再び力を回復してきた。同時に、自信を回復してきている。
 ちなみに、ウィーン国連駐在のロシア記者は今回の法案について、「メドベージェフ大統領やプーチン首相が教会にしばしば足を向け、公の場で祈っている現在、ロシア政府が宗教一般に対して昔のような迫害政策を実施するとは考えられない。同法案が正式に採決されるかも不明だ」という。

クォ・ヴァディス(主よ、何処へ)

 ドイツのイエズス会修道院が経営する学校で2人の教師(修道僧)が1970年、80年代、25人の生徒(13歳から16歳)に性犯罪を犯していたことが発覚し、ドイツ全土に大きな衝撃を投げかけた、と報じたばかりだが、調査が進むに連れ、その犠牲者の数が3桁台に拡大してきたという。数百人の未成年者が聖職者の性犯罪の犠牲となったアイルランドのカトリック教会の歴史的不祥事に酷似してきたわけだ。ベルリンのイエズス会系学校で繰り広げられた性犯罪はキリスト教会史上、修道僧による最大規模の性犯罪事件となることは確実となってきた。
 カ二シウスのギムナジウム校のメルテス現校長は15日付の現地の新聞とのインタビューの中で、「憶測はしたくないが、被害者数が3桁に入ることが予測される」と述べ、調査が進めば、犠牲者数がさらに増加すると示唆。イエズス会修道院責任者が当時、どうして早急に警察当局に連絡せず、対策を取らなかったのか、との質問に対しては、「教会側は傲慢だった。問題を安易に解決できると考えていたのだ」と説明している。
 ドイツのイエズス会系学校の性犯罪問題が大きな話題となっている最中、ローマのバチカン法王庁で今月15日、2日間の日程でべネディクト16世は24人のアイルランド教会司教たちと緊急会合を開いている。テーマはアイルランド教会聖職者の性犯罪について対応を協議することだ(同国教会では1975年から2004年までに数百人の未成年者が教会聖職者の性犯罪の犠牲となった、と報告されたばかりだ)。
 ドイツ教会出身のローマ法王べネディクト16世は母国ドイツ教会のイエズス会系学校の性犯罪事件についてこれまで何も語っていない。法王は事件の最終調査結果を待って、何らかの謝罪声明をするとみられる。
 いずれにしても、べネディクト16世は就任直後から外遊の先々で自分の羊飼いたち(聖職者)が犯した性犯罪に対し、謝罪を繰り返してきた。
 べネディクト16世は2008年4月、訪米中、ニューヨークのセント・パトリック大聖堂で米教会聖職者の性犯罪に対し、「恥ずかしい」と述べ、教会最高責任者として犠牲者に謝罪と償いを表明したことはまだ記憶に新しい。その法王は「世界青年の日」(同年7月15日〜20日)に参加するためにオーストラリアのシドニーを訪れた時も、聖職者が犯した性犯罪問題に直面し、犠牲者から「謝罪」を要求されている、といった具合だ。法王就任期間中にこれほど頻繁に謝罪表明を強いられたローマ法王はべネディクト16世以外にいないだろう。
 世界に約11億人の信者を誇る最大宗派、ローマ・カトリック教会の土台は聖職者の性犯罪の拡大に伴い、内部から次第に自壊してきた。カトリック教会よ、何処へ。

「お年玉」がなかった中国の旧正月

 少々、時期を逸した感がするが、正月の風習について書く。日本の子供たちは正月の三が日、両親や親戚からお年玉をもらう。このように書く当方は、既に日本の正月風景を忘れてしまったが、お正月にお年玉が出る風習はまだ続いていると信じる。
 ところで、今月14日は旧正月だ。中国や韓国などで旧正月が華やかにお祝いされたと聞く。例外は北朝鮮だけだ。旧正月が今月16日の金正日労働党総書記の68歳誕生祝賀会と重なったこともあって、北朝鮮情報専門誌「デイリーNK」によると、「金総書記の誕生祝賀が先行し、正月の雰囲気は全然しない」という。
 問題は、中国の旧正月にお年玉が出なかったことに失望している人々がいることだ。中国の子供たちではない。ローマ・カトリック教会総本山のバチカン法王庁関係者と地元中国のカトリック教会の地下教会関係者たちだ。
 旧正月が到来すれば、政治収容所に拘束中の2人の司教たちが釈放されると期待されていたが、バチカン放送によれば、「信者たちや親族からの必死の要望にもかかわらず、中国共産党当局は2人の地下教会聖職者の釈放を拒否した」という。すなわち、当局からお年玉が出なかったのだ(ひょっとしたら、中国の正月では、日本のようにお年玉を出す風習がないのかもしれない。中国の旧正月の風習をご存知の読者は教えて下さい)。
 当コラムの読者は既にご存知だが、中国共産党政権は官製聖職者グループ「カトリック愛国会」に所属しない地下教会聖職者に対し、厳しい迫害を続けている。アジアニュースによると、中国では現在、数十人の地下教会神父たちが政治犯収容所に拘束されているという。
  地下教会に所属していた中国カトリック教会の姚良(Yao Liang)司教が昨年12月末、河北省張家口市教会で死去したが、1月6日に行われた葬儀には、共産党当局の厳しい迫害と監視にもかかわらず、約5000人の信者たちが参加したことは当ブログ欄で紹介済みだ(「中国地下教会所属司教の『葬儀』」2010年1月14日)。
 中国共産党当局が最も恐れているのは、国民の間に広がってきたこの“宗教熱”だ。その意味で、中国共産党当局が今年の旧正月、お年玉を出さなかったのは至極当然かもしれない。

イスラム教の兄弟たちよ

 今回はイスラム教徒にとっては快いコラムではないと思うが、大切な点だと思うから書く。欧州ではブルカ着用問題を抱えるフランスやミナレット(塔)禁止を決めたスイスだけではない。程度の差こそあれ、欧州全土でイスラム教問題が浮上している。ここでは欧州キリスト教社会に定着するイスラム教徒の統合問題を考えたい。
 欧州に住むイスラム教徒たちはブルカ問題やミナレット問題を欧州キリスト社会のイスラム・フォビアと受け取り、抵抗や反発を感じている。彼らは「信仰の自由」を主張し、少数宗派の権利を要求する。それに対し、ドイツで長年間、イスラム教徒の統合問題を研究してきたイスラム教学者ラルフ・ガドバン氏が正論を述べている。バチカン放送(独語電子版)によると、同氏は「イスラム教徒は自身の権利を要求する前に、宿題を先ず片付けなければならない」と指摘する。具体的には、「民主主義への認知」と「政治と宗教の分離原則」を標榜する欧州の憲法への理解だ。
 イスラム教徒は「政治と宗教」の分離原則をとらない。両者は一つだ。そして宗教指導者の教えが政治、生活の指針となり、民主主義の多数決原理や対話は不可欠のものではない。
 すなわち、イスラム教の世界観を堅持しながら、「政治と宗教の分離」と民主主義原理を標榜する西欧キリスト教社会に統合することは、基本的には難しい。一方、西欧社会の原則を受け入れたイスラム教徒をイスラム過激根本主義者は世俗化イスラムという意味を込め、ユーロ・イスラムと呼んで蔑視する。
 ところで、西欧社会がイスラム系移住者のホスト国とすれば、イスラム系移住者はゲストだ。ゲストがホストに「こうすべきだ」「ああすべきだ」と要求する権利はない。ゲストはホスト国のしきたり、風習を尊敬し、受け入れる以外に統合できない。
 しかし実際、西欧社会に生きるイスラム教徒は「どうしてブルカを着用してはいけないのか」とか、「なぜ、ミナレットの建設を禁止するか」と不満の声を上げる。それに対し、ホスト国は最初は寛大な姿勢を示すが、ゲストの要求がその許容範囲を越えると、フランスで見られるように、法律でイスラム教の風習や慣習を禁止する動きが出てくるわけだ。

 イスラム教徒の兄弟たちよ、ホスト国の政治システムやその慣習を尊敬すべきだ。同時に、キリスト教会とイスラム教の指導者は対話を促進すべきだ。西欧社会で生じているキリスト者とイスラム教徒間の衝突には、相手への理解不足も見られるからだ。

雪が降る

 米国の首都ワシントンは大雪に見舞われ、ホワイトハウスだけではなく、休職を余儀なくされる会社や学校も出てきているという。欧州でも今年、雪が良く降る。雪の大好きな当方は毎朝、犬のように外に飛び出していくが、雪崩の被害などを聞くと、「嬉しい」とだけいっておれない。雪による被害情報が増えているからだ。
 当方は約30年間、欧州に住んでいるが、今年の冬は確かに雪の日が多い。しかし、オーストリアに赴任した直後、もっと雪が降った、という記憶がある。同国3番目の都市リンツ市にいた時、確か零下25度といった寒い日もあった。
 あれからここ数年前まで暖冬が続いてきた。ウィーン市内で雪かきが必要なほど雪が降ることもなかった。だから、当方は当ブログ欄で「雪が降ってきた」(2007年1月24日)というコラムを書いたほどだ。それが今年、これまで蓄えられてきた雪が一度にどっと地上に落ちてきたように、良く降る。
 冬スポーツのメッカ、オーストリアではスキー場経営者が喜んでいる。一方、暖房代や雪かき代が例年より増加してきた。オーストリア日刊紙によると、この冬、路上の雪かき代(市町村負担)として約4億ユーロの費用が必要という。暖房費も平均18%増えると予測されている。雪がもたらす地上の人間の明暗だろう。
 今年、雪が多く降ることについて、地球温暖化の影響などが囁かれている。地球の軸がシフトしてきたのではないか、といった深刻な意見も聞く。例年にない気象現象が発生した場合、当然、その原因を考えるのが人間だから、当然だろう。
 「どうして今年、多くの雪が降るか」という問題は気象学者や環境問題専門家に任せ、当方は雪の素晴らしさを満喫したいと思っている。来年の冬も雪が降る、という確実な保証がないからだ。
 雪の美しさは顕微鏡でその結晶を見なくても、十分だ。空から落ちてくる雪をじっと見ていると、その軽やかな舞い、その多様な形に感動するだけだ。雪の降らない世界を想像して欲しい。雪は人を区別することなく、等しく舞い落ちてくる。

金総書記祝賀会と「ウォン」印刷話

 北朝鮮最高指導者、金正日労働党総書記の68歳誕生祝賀会が11日午後5時半(現地時間)から駐オーストリアの北大使館内で開催された。
 雪が降る中、オーストリア・北朝鮮友好協会のメンバーたち約30人が集まってきた。その中には、常連のオーストリア共産党系労組事務局長や共産党青年部出身者たち、友好協会会長代理のクナップ氏の姿が見られた。
 午後6時半からは、貴賓ゲストだけが参加する祝賀会が別室で開かれた。そこには10人余りのVIPゲストが参加した。
 ゲストの中で外交官は駐オーストリアの中国大使館参事官1人だけ。ハンガリーから2人のゲストがきたが、その職務は不明だ。
 VIPゲストの中には多分、初参加と思われる初老の紳士がいた。オーストリア国立印刷所(Osterreichische Staatsdruckerei )のガウシュテラー総裁( Reinhart Gausterer)だ。北大使館前でVIPゲストの面々をチェックしていた当方は早速、総裁に話しかけてみた。
 同総裁によると、国立印刷所は北朝鮮の注文で主に書籍を印刷してきたという。北朝鮮とオーストリア国立印刷所は久しくビジネス・パートナーという。
 数年前、オーストリアで北朝鮮紙幣ウォンが印刷されているという情報が流れた。当方が「国立印刷所で北紙幣ウォンを印刷されているのですか」と単刀直入に聞くと、「自分の処ではしていない。ひょっとしたら、連邦中央銀行で印刷されているかもしれない」という。
 欧州連合(EU)でユーロが導入されて以来、オーストリア中央銀行印刷局では操業を休む印刷機が増えた。そこで外国の注文で紙幣を印刷するビジネスが盛んになってきた。同国の紙幣印刷技術は非常に高水準で有名だ。
 ところで、北朝鮮のドル札偽造も良く知られている。西側情報機関筋によると、同国は30年前から同国造幣局で偽造を開始したという。その際、印刷機械は日本、紙は香港、インクはフランスから密輸入したといわれてきたが、ひょっとしたら、オーストリアの高水準の印刷技術が北側に流れたのではないか、と考えていた(駐オーストリアの北朝鮮ビジネスマンが約15年前、独製の高速紙幣鑑識機を密輸入したことが発覚している)。


 午後7時過ぎになると、ゲストたちが1人、1人、帰途に向かった。当方は総裁の「ウォン印刷」の話に心が奪われて、金総書記の68歳祝賀会のことをすっかり忘れていた。

北、米政権の「後回し」政策に窮地

 「何もせず、じっと見守る」ことがこれほど大きな成果をもたらすとは、当事者も予想だにしなかったことだろう。
 ここでいう「当事者」とは、オバマ米政権を、「何もせず、じっと見守る」とは同政権の対北政策を意味する。
 ブッシュ前米政権からオバマ政権に代って、最も被害を受けた国は米軍普天間飛行場移設問題で対米関係が険悪化してきた日本だけではない。北朝鮮もそうだ。
 北朝鮮当局は今、閉塞感に悩まされている。同国が昨年11月末、実施したデノミネーション(通貨単位切り下げ)は超インフレを生み出し、国内経済は一層混乱の様相を深め、民心の離反傾向も出てきた。それ以上に深刻なことは、同国の命運を握る米国との関係改善の見通しがまったくないことだ。
 北朝鮮は過去、瀬戸際外交を展開し、韓国や米国から何らかの譲歩を獲得してきたが、その政策の効力は韓国で李明博政権が誕生して以来、急速に無くなってきた。肝心の米国はオバマ米政権が発足して以来、北側の出方待ちに終始、「何もせず、じっと見守る」だけだ。それに対し、北側は打つ手が無いのだ。北当局者を捉えている「閉塞感」はどうやらそこら辺に原因があるらしいのだ。
 知人の北外交官は「食糧不足はメディアが報じるほど深刻ではない。それ以上に、米国との関係が問題だ」と指摘し、「わが国が直面している諸々の課題を解決するためには、どうしても米国との関係改善が不可欠だ。残念ながら、わが国の将来は米国次第だ」と語ったほどだ。
 そのオバマ大統領は見返りを拒否し、北側に非核化の履行を要求するだけで、積極的に対北関係改善に乗り出そうとはしていない。
 北側にとって、非核化、それに関連する6カ国協議の主要目的はズバリ、経済的見返りが狙いだ。核兵器を破棄したり、核計画を停止する考えなど元々ない。あくまで、交渉カードに過ぎない。しかし、米国が応じてこないのだ。
 ブッシュ前米政権はアメと鞭の政策で北側に非核化を強要してきた。その度に北側は何らかの支援を要求し、テロ支援国指定削除など、一定の成果を得てきた。しかし、オバマ政権になって、両国関係は悪化こそしていないが、前進もない。すなわち、停滞しているのだ。
 大国・米国は、イラクやアフガニスタン問題のほか、金融危機の打開などで超多忙だ。北問題は「後回し」というのが本音だろう。しかし、小国・北側はそうはいかない。米国からの支援や関係改善は自国の存続に関る急務だ。「後回し」できないのだ。
 皮肉なことだが、オバマ政権の対北「後回し」政策が平壌を窮地に追い込んでいるわけだ。「何もしないこと」が時には最大の成果を生み出すという実例だろう。

「祈り」を禁止できるか?

 いつものようにバチカン放送(独語電子版)のHPを読んでいると、「トルクメニスタン、祈りを禁止」という見出しの記事に目がいった。「トルクメニスタンでキリスト信者への迫害が続いている」という。ニュース源は通信社アジアニュース(asianews)だ。
 もう少し記事の内容を紹介する。「イスラム教の指導者が警察当局の支援を受けて組織的にキリスト信者を迫害。イスラム教徒がキリスト信者の自宅に侵入し、聖書を押収する一方、信者を強制的に警察当局に連行している」「同国ではキリスト者の集会禁止、祈祷禁止が行われている」というのだ。ちなみに、同国では人口の90%がイスラム教徒(スン二派)で、キリスト信者は人口の10%以下という。
 旧ソ連・東欧諸国の共産政権時代、キリスト信者の「信仰の自由」は著しく制限され、集会・結社の自由は認められていなかったが、「祈りの禁止」は聞いたことがなかった。
 どのようにして信者たちの祈りを禁止できるだろうか。祈祷会など正式な集会では禁止できても、信者が各自行う神へ祈りを禁止することは物理的にもできない。ましてや、政府が各自の祈りに干渉することなどはできないはずだ。
 例えば、アラブ諸国でキリスト教に対し最も厳しい制限を実施する国はサウジアラビアだ。同国では依然、キリスト教会の教会建設は許されていない。しかし、同国内で働く外国人労働者の多くがキリスト信者であるため、彼らのために仕事場や一定の場所で祈ったり、日曜礼拝をすることを許している。
 そこで駐オーストリアのトルクメニスタン大使館に電話して情報の真偽を聞くことにした。報道官は「そんなことはない。わが国では少数宗派の権利は保証されている。キリスト信者とはロシア正教徒だ。彼らは自由に信仰を実践できる」と説明、アジアニュースの報道を「大袈裟なニュース」と一蹴した。予想されたことだが、「祈りの禁止」など行われていないという。
 当方が「祈りの禁止」に拘るのは、「祈り」がどのような宗教でも信仰生活の核心と思っているからだ。
 ちなみに、中央アジアの政情に通じた学者の報告を読むと、トルクメニスタンは「中央アジアの北朝鮮」と呼ばれ、権威主義的政治が席巻し、「宗教の自由」も大きく制限されているという。同国の宗教事情を今後も注視していきたい。

金日成主席が語った「人生の教訓」

 イタリア人の実業家ギアンカルロ・エリア・ヴァローリ氏(Giancarlo Elia Valori)は1月27日、同国のメディアとのインタビューの中で「北朝鮮の故金日成主席は生涯を国家のために献身してきた人物だ」と、北朝鮮の状況を少しでも知っている人が聞けばビックリするような称賛を送った。
 もちろん、そんな称賛記事を報道するのは北朝鮮国営、朝鮮中央通信社(KCNA)以外にないことは説明に及ばないだろう。KCNAは2月5日、ヴァローリ氏の異常とも思える故金主席称賛発言を報じている。ちなみに、1月27日の発言が2月5日に流れるところなどは、典型的な北朝鮮メディアだ。
 ヴァローリ氏の称賛発言をもう少し紹介する。同氏は「金主席は全て国民の自由と幸福のために行う。人間愛の実例だ」と述べる。そして「故金主席は私と実母を何度も歓迎してくれた。人生は社会と祖国とその国民のためにある、という貴重な教訓を与えてくれた。私の母はこの教えをその人生のモットーとしていた」と証している。ここまでくると、「このヴァローリ氏はどのような人間か」といった素朴な好奇心が湧いてくるはずだ。
 ヴァローリ氏は最近では2008年9月、北朝鮮建国60周年に参加するために平壌を訪問し、同国最高指導者・金正日労働党総書記に贈物をしている。
 同氏は一時期、イタリアの道路公団に当たる「アウトストラーデ」社の会長にも就任している。KCNAによると、現在は「地中海開発銀行」総裁であり、「イタリア・ジェネラル・投資グループ」会長となっている。
 ヴァローリ氏は経済関係や国際関係の著書もある学者である一方、ユーロ地中海基金の創設者であり、商業銀行の顧問などにも就任し、その文化活動が評価され、パリに拠点を置くUNESCO(国連教育科学文化機関)の善意(Goodwill)の大使にも一時選出(2001年)されたほどだ。
 北のイタリア人脈の中でも大物の同氏がどのようなきっかけで北朝鮮に関心を持ち出し、金ファミリーと交流するようになったのか。どうしてあれほど故金主席ファンとなったのか、一度会って聞いてみたい人物だ。そして、北朝鮮のイタリア工作で同氏が果たしてきた役割についても、知りたいと思っている。

ピウス12世とその「歴史的評価」

 近代のローマ法王の中でピウス12世(在位1939−58年)の評判は余り芳しくない。ドイツ国家社会主義(ナチス)が推進した反ユダヤ主義政策を擁護した法王としてのイメージが強いからだ
 当方はアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所解放65周年の取材でウィーン市の「イスラエル文化センター」の1人のラビ(ユダヤ教法律学者)、シュロモ・ホーフマイスター師と会見したが、バチカン法王庁が進めているピウス12世の聖人化について意見を聞くと、「ローマ法王は当時、ナチス政権も干渉できない唯一の機関だった。だから、法王がその見解を表明すれば、大きな影響を欧州諸国に与えたことは間違いない。しかし、ピウス12世はその権限を行使しなかった。それによって、どれだけの多くのユダヤ人がナチス政権の犠牲となったことか。その意味で、彼は聖人に値しない」とはっきりと語った。
 ところで、イタリアの歴史学者、ベルガモ大学のロベルト・ペルティチ教授はバチカンの日刊紙オッセルバトーレ・ロマーノ(6日付)に寄稿し、そこで「ドイツ国内のヒトラー政権への抵抗グループ代表は当時、ピウス12世に対し、『ナチス政権の独裁者を公の場で批判しないように』と要請していた。その理由として、ドイツ野党勢力は『法王が直接ヒトラーを批判すれば(ドイツ野党勢力が)ドイツ国民の支持を得るのが難しくなる』と恐れていたからだ」という。
 同教授の主張は、1978年に公開された45年時の文献に基づく。そこでは、駐バチカンの米国大使(Harold Tittmann)が45年6月3日、ドイツ・ナチス抵抗運動のカトリック教会信徒ジョセフ・ミュラー氏と会談した内容が記述されている。ミュラー氏はドイツ抵抗勢力がピウス12世にナチス政権への直接批判を避けるように常に要求してきたことを明らかにしたという。
 ちなみに、世界のユダヤ人は「カトリック教会が無神論を標榜するボルシェビキの共産革命を恐れ、その対抗勢力としてナチス政権を支持した」と受け取っている面が強い。その一方、、ピウス12世の「ユダヤ人を見殺した法王」というイメージが定着した背景には、ドイツの劇作家ロルフ・ホーホフート氏(Rolf Hochhuth)が63年、「神の代理人」という戯曲の中で「恐怖に襲われ、ナチスを助けるローマ法王」と風刺したことが大きな影響を与えたといわれている。
 なお、バチカン法王庁はピウス12世の聖人化を進める一方、同12世に関する歴史文献を2014年、ないしは15年には公開する予定で準備中という。同12世関連の歴史文献が公開されれば、ピウス12世の歴史的評価にも何らかの影響が考えられる。それだけに、同12世の聖人化手続きは本来、歴史文献の公表後からでも遅すぎることはないはずだ。
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