ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2009年11月

IAEA広報部は「外交筋」?

 国際原子力機関(IAEA)は国連機関の中でも国際メディアがその動向を注目する花形機関だ。理由は簡単だ。イラン問題を筆頭に北朝鮮、シリアの核問題を扱う専門機関だからだ。
 例えば、IAEA事務局長が理事会開催前に理事国に提出するイランの「査察履行報告書」は機密情報だ。理事国関係者以外、本来入手できないものだ。しかし、現実は、ロイター通信など大手メディアは報告書内容を事前に入手している。
 どこから得るのか。ズバリ、多くはIAEA広報部からだ。広報部職員が知り合いのジャーナリストや大手メディアの記者たちを密かに招き、報告書のポイントをブリーフィングするからだ。
 ただし、情報入手した記者たちは、決して「広報部」筋によれば、とは書かない。情報源は「上級職員筋」か「外交筋」だ。
 読者はIAEAのイラン最新査察履行報告書内容を報じるメディアの16日付記事を検証して頂きたい。多くは「上級職員」ないしは「外交筋」によれば、となっているはずだ。
広報部が意図的に選出したジャーナリストたちに機密情報をリークするのは、それなりの理由がある。1つは情報操作だ。
 「外交官」でもない広報部職員が「外交筋」と偽って情報を流したとしても問題にならないのは、情報という恩恵を受けている記者側がニュース・ソースを公表しないからだ。
 実例を紹介する。米新聞記者が16日、IAEA広報部員にイランの核査察履行報告書についてブリーフィングをメールで打診した時、広報部員は「われわれはイランの報告書では一切の情報を語らないし、コメントはしない」と返信している。
 実際は、イランの報告書が理事国に提出された16日午後2時(現地時間)、4人の広報部員がウィーンの国連Mビル0E75号室で10人余りのジャーナリストを招き、丁寧にブリーフィングしていた。
 天野次期事務局長の最初の仕事は情報管理だろう。情報が今日のように頻繁にリークされれば、理事国間の信頼関係に歪みが出てくるだろう。その結果、解決すべき専門領域の問題まで難しくなる事態が予想される。
 駐IAEA担当のイラン代表、ソルタニエ全権大使は当方とのインタビューの中で、天野之弥・次期事務局長に「IAEAの非政治化」を強く要求した。換言すれば、査察関連の機密情報が政治的意図からメディアにリークされることへの監視強化だ。

「自殺」と生命保険金

 生命保険金目当てで人を殺し、それを「病死」のように見せかける殺人事件は推理小説の中だけではなく、現実社会でも頻繁に起きている。ところが、「自殺」を「他殺」ないしは「自殺以外」の死因によるものと装うケースがあることを最近、知った。
 ウィーンの国連で過去、2年間、1人は国際原子力機関(IAEA)職員、もう1人は包括的核実験禁止機関(CTBTO)の職員が自殺した。当ブログ欄で報告済みだ。オーストリア警察側の調査では2件とも明らかに「自殺」だが、遺族関係者からは「他殺説」ないしは上述したように、少なくとも自殺以外の死因説が流れた。
 自殺した国連職員の家族側は「自殺する理由はない。何かがあったのだ」と他殺の可能性も強く示唆する。
 英国人のCTBTO職員の場合、遺体は司法解剖を受け、「自殺」ということになったが、遺族側が別の民間研究所に遺体の解剖を依頼した。そして「遺体の首の周りに、何か締められたような痕跡が見つかった」という。遺族から情報を入手した英国メディアは一斉に「ウィーンの国連内で殺人」といった見出しで大きく報道した。
 2件の事件を詳細に知る国連警備担当官は当方の取材に応じてくれた。担当官は「残念ながら、2件とも明らかに自殺だ。CTBTO職員の首の周辺の痕跡は落下中、ネクタイで首が締められたからだ。絞殺ではない」と証言する一方、「CTBTO職員もIAEA職員も自殺だったが、遺族側は納得しなかった」という。
 遺族関係者の反応は理解できる。昨日まで元気だった家族が突然、自殺したのだ。当然だ。家族の名誉もある。
 しかし、それだけではない。「生命保険問題が絡んでくるからだ」という。自殺となれば、遺族は保険金を受け取れない。無意識にも自殺以外の原因を捜す方向に追われる羽目となる。
 担当官は深く呼吸してから、「CTBTO職員の場合、イランの核交渉と関連している、といった憶測記事が流れたが、まったく根拠ない。CTBTO職員の自殺の原因は仕事への過度なストレス、IAEA職員の場合、薬の乱用などが自殺の引き金となった」と説明してくれた。
 2件の国連職員の場合、明らかに「自殺」だったが、遺族関係者から「他殺」説が流れ、大衆メディアがそれに乗じてセンセーショナルな記事を発信したことから、「事件の核心」が不透明となったケースといえるかもしれない。

鳩山首相夫妻と「宇宙人」

 日本の新聞を読んでいると、民主党が政権を取り、鳩山政権が誕生した直後、鳩山由紀夫首相のことを「宇宙人」と評する声があった。日本の政界に疎い当方は鳩山首相の性格を知らない。「宇宙人」と呼ばれるところをみると、少し変人に属する政治家かもしれない。別の情報によると、首相以上に宇宙人に近いのは幸夫人だという。どちらが本当の「宇宙人」か議論しても意味がないだろう。要するに、鳩山首相夫妻はちょっと変わり者夫婦だということかもしれない(失礼)。
 どうして、鳩山首相や宇宙人のことを書くかといえば、当方は宇宙人にかなり関心があるからだ。当コラム欄でも「『神の創造論』と宇宙人の存在」(2008年5月16日)というテーマで一文を書いた。
 UFO(未確認飛行物体)やエイリアン(宇宙人、異星人)の存在を信じる者は「地球は銀河の中でも端っこに位置する太陽系の一惑星に過ぎない」と説明し、神の創造論を地球中心の世界観と嘲笑する傾向がある。
 ところが、バチカン法王庁天文学者責任者、イエズス会のジョセ・ガブリエル・フネス神父は昨年、バチカン日刊紙オッセルバトーレ・ロマーノとのインタビューの中で「神の信仰と宇宙人の存在を信じることは決して矛盾しない。神の創造や救済を疑わず、人間より発達した存在や世界を信じることは全く正当だ。天文学と神信仰は決して互いに対立するものではないからだ」と主張しているのだ。画期的な意見だ。
 バチカンでは先日、フネス神父を議長に、天文学、物理学、生物学の専門家たちを集め、「宇宙と生命」というテーマで会合が開かれたばかりだ。そこでも宇宙に人間以外の生命体が存在しても可笑しくないという意見が主流を占めたという。すなわち、バチカンでは「宇宙人の存在」をもはや折込済みというわけだ。
 とすれば、鳩山首相夫妻が本当に宇宙人で、人類以上に発展した惑星から遣わされた「宇宙人」である可能性も完全には排除できないわけだ。ひょっとしたら、鳩山首相が作成したマニフェスト(政権公約)は日本を支配するための宇宙人の画策ではないだろうか?

十字架論で教会と極右党が連携?

 ストラスブールの欧州人権裁判所(EGMR)が今月3日、イタリア人女性の訴えを支持し、公共学校内の十字架を違法と判決した件は、欧州のキリスト教社会に大きな反響を引き起こしているが、ここにきて欧州の代表的極右政党、オーストリアの野党「自由党」のシュトラーヒェ党首が公共学校内の十字架を支持し、地元のカトリック教会と十字架擁護の戦線を築く姿勢を明らかにした。
 シュトラーヒェ党首は「十字架は欧州文化と歴史に繋がったものだ。その撤回要求がオーストリアで現実化した場合、われわれは公共学校内の十字架を堅持するために国民投票の実施を要求する」(日刊紙エーストライヒ11月16日付)と表明したのだ。
 自由党は、ナチス擁護発言で頻繁に物議を醸した故ヨルク・ハイダー氏の出身政党で、欧州の代表的極右政党だ。同党は選挙の度に外国人排斥を有権者に訴えて飛躍してきた。来年秋には社会民主党の牙城、ウィーン市議会選挙が行われるが、自由党の躍進がここでも予想されている。
 一方、オーストリアのローマ・カトリック教会最高指導者シェーンボルン枢機卿はEGMRの判決が伝わると、「公共学校内の十字架が児童の宗教の自由を損うという判決は受け入れられない。十字架は欧州の歴史と文化に定着してきたものだ」と主張、判決にいち早く反論した聖職者だ。
 ところで、カトリック教会は過去、自由党の外国人排斥キャンペーンには強く反対してきた経緯がある。その政党が他の政党に先駆けて十字架問題で教会擁護の姿勢を明らかにしたわけだ。
 教会側は自由党の支援声明を喜んでばかりはいられない。なぜならば、極右政党との連係は誤解される恐れが十分あるからだ。例えば、ヒトラー時代の「教会とナチス政権の癒着」問題もまだ完全に解決したわけではない。それだけに、教会側も自由党と連携して十字架擁護戦線を構築するか、自由党とは一定の距離を置くか、悩まざるを得ないわけだ。

中国聖職者の苦渋の選択?

 中国河北省保定のカトリック地下教会のフランシス・アンシュシン(Francesco An Shuxin)補佐司教(60)がこのほど中国共産党政権の官製聖職者組織「愛国会」に所属したことが明らかになり、同国の地下教会の聖職者や信者たちに大きな失望を与えているという。
 同補佐司教は地下教会時代、中国当局に拘束され、10年間収容者生活をしてきた聖職者だ(2006年7月に釈放された)。
 中国共産党政権はローマのバチカン法王庁の影響を排除する目的で愛国会を設立した。愛国会創設50年を迎えた昨年12月、北京の天安門広場の民族大講堂で記念集会が開かれたが、そこで共産党中央委員会の杜青林委員は、カトリック愛国会の政府への忠誠を評価する一方、「バチカンは中国の内政に干渉すべきではない」と警告を発した。
 それに対し、ローマ法王べネディクト16世は法王就任後、中国との外交関係樹立を実現するため積極的な外交交渉を水面下で行ってきた。一昨年6月30日には、書簡「中国人への手紙」を発表し、そこで、?中国共産党独裁政権下で弾圧を受けている地下教会の聖職者、信者へ熱いメッセージを送り、?北京政権に対しては「信仰の自由」の保証、特にバチカンの聖職者任命権の尊重を要求している。
 その一方、べネディクト16世はここ数年、愛国会が任命した司教を公認するなど、中国側に譲歩する姿勢をとってきた。そのためか、今回の聖職者の転身についても、「バチカン側の要請に応じたものに過ぎない」という情報が流れているほどだ。
 ちなみに、愛国会に転身した司教自身は「自分の管轄区の信者たちを支援するために愛国会に所属した」と述べ、「バチカンからはこれまで圧力はない」と主張している。
 なお、中国カトリック愛国会は過去50年間で170人の司教を独自に任命したが、バチカンは後日、その多くを追認している。

記憶はどこに行ったの?

 友人は脳神経外科の病棟にいた。椅子に座って親戚関係者と話していた。話せるようになったのだ。
 親戚に挨拶し、彼に声をかけた。友人は何かぶつぶついって、顔をしかめた。当方が誰か思い出せないのだ。記憶がなくなったのだ。
 最近になって、1、2、3〜5までの数字を思い出したが、それ以上はまだ出てこないという。親戚関係者に対しても同様という。生きてきた60年間の記憶が一瞬、消えてしまったのだ。
 知人のクウェート通信社(KUNA)記者が「コンピューターに例えて言えば、これまでの全てのメモリーや情報が消えたわけだ。もう一度、情報を導入すればいいだけさ。時間がかかるかもしれないが、記憶が戻る可能性は十分ある」と説明してくれた。
 脳出血で頭の中の記憶を司る部分が故障すると、10年以上、国連記者室でほぼ毎日、出会い、談笑した思い出も同時に消えてしまった。
 時には、喧嘩したり、論争となったこともあった。イランの核報告書を他のメディアに先駆けて入手し、情報交換しながら夜遅くまで記事を書いた日もあった。
 石油輸出国機構(OPEC)主催の夕食会に招待され、お互い腹一杯食べたこともあった。最近では、ウィーン国際映画祭の記者会見に一緒にいった。彼は一人者だったから、かなり自由に動けた。当方が午後6時を過ぎると帰宅するのをみて、「今夜は君が夕食をつくる番かね」とからかったりした。
 それらの日々の記憶は、友人の中から消えた。不思議な思いにかられた。
 生きていると、いい思い出ばかりではない。忘れたい嫌な思い出も少なくない。中東レバノンから欧州に定着した友人には、どちらのほうが多いのだろうか。
 開頭手術を受けたこともあって、友人は頭髪がなかった。当方を不思議そうに見る友人は奇妙に“軽い”印象を与えた。風船のように軽く、どこかに飛んでいきそうな不安定さが漂っていた。


 後で分ったことだが、友人から感じたあの“軽さ”は、記憶の喪失からくる存在感の無さに因るものだろう。地上の生活の重石となるべき「記憶」が消えたので、足が地に着陸できないのだ。友人はもどかしいはずだ。

ローマ法王がハッカーを招く時

 バチカン放送(独語版)のHPを開けた時、「ローマ法王が元ハッカーを招く」という小さな記事が目に入った。
 米司法省が8日、コンピューターシステムに不正アクセスして現金自動受払機(ATM)から巨額の金を引き出した8人のハッカーたちを起訴したというニュースが流れたばかりだ。どうしてべネディクト16世がハッカーを招くのだろうか、と一瞬、戸惑った。
 ハッカーというと、コンピュター技術や知識に長けた者がそれを不正に利用して、さまざまな情報操作をする、といった印象がある(厳密にいうと、それはハッカーではなく、クラッカーという)。いずれにしても、いい印象はなかった。
 その元ハッカーを世界に約11億人の信者を有する世界最大キリスト教派、ローマ・カトリック教会最高指導者のローマ法王がどうしてバチカン法王庁に招く必要があるのか、と考えたからだ。
 プロテスタント系キリスト教会の進出で信者離れが深刻な南米カトリック教会の対策として、カトリック教会からプロテスタント教会に改宗した元信者たちのメール・アドレスやその関連情報を入手するために、ハッカーを雇用しようというのだろうか。
 そこでオーストリアのカトリック通信社(カトプレス)のHPでもう一度、ハッカー関連記事を探し、読んでみた。すると、ローマ法王がスイス出身の元ハッカーを招く目的は、欧州司教会議評議会(CCEE)のメディア担当委員会主催で開催中の「インターネット文化と教会コミュニケーション」(今月12日〜15日)で、コンピューター世界のさまざまな問題について講演してもらうことにあるという。決して、南米教会の信者関連の情報収集ではなかったのだ(バチカン放送の記事タイトルは誤解を与える)。
 集会には元ハッカーだけではない。Facebook、YouTube、Wikipediaの代表者ら総数約100人が参加しているという。
 なお、バチカンとニュー・メディアについては、「『神』とニュー・メディア」(2007年10月30日)で紹介済みだから、時間があれば再読してほしい。

独サッカー代表GKの自殺

 サッカー・ファンだけではない。全てのドイツ国民が泣いている。同国チーム代表GK、ロベルト・エンケ選手(32)が10日夜、ブレーメン発ハノーバー行き列車に飛び込み自殺した。その悲報が伝わると、多くの国民は「信じられない」と絶句した。南アフリカのW杯代表キーパーとして期待されていた矢先だったからだ。
 エンケ選手の自殺が伝わると、所属するハノーバー96のファンたちがサッカー場前に駆けつけ、ローソクや花を供え、11日には約3万5000人のファンが追悼集会に参加したという。
 悲報の翌日、エンケ選手のテレサ夫人は記者会見で「彼はうつ病に悩まされていた。入院治療が必要といわれた時、彼は拒否した。自分の病が公になることを恐れていたからだ」という。
 同選手と一緒にゲームに出ていた同僚選手も彼が極度のうつ病に悩まされていたことを知っていた者はほとんどいなかった。
 独代表チームのマネージャー、オリバー・ビアホフ氏は「言葉が出てこない。同時に、エンケの世界を表面上でしか分らず、その内面世界の苦悩まで理解できなかったという意味で、自分には無力感がある」と述べている。
 エンケ選手は遺書の中で、家族を含む関係者に自分の死を詫びている。自殺は突発的なものではなく、周到に準備された後の行為だったことが明らかになっている。
 エンケ選手のうつ病が深刻となった背景には、3年前の最愛の一人娘の死(不治の心臓病)があったという。今年5月、エンケ夫妻は養子をもらったばかりだ(自分の病気が分れば、親としての養子権を失うのではないか、といった恐れを持っていたという)。
 サッカー界だけではない。現代のプロのスポーツ界では、所属クラブやファンからだけではなく、スポンサーからも選手の上に大きな期待と圧力がかかる。ライバル間との戦いは熾烈だ。そのような中で、ドービングや麻薬類に手を出す選手が出てくるという。
 エンケ選手の場合、心の病だ。天才的選手と期待され、FCバイエルン・ミュンヘンに一時期所属していたS・ダイスラー選手も定期的に襲ううつ病と戦いを繰り返し、2年前、選手生活を断念した。ただし、ダイスラー選手は現役時代、「自分はうつ病に悩まされている」と明らかにしていた。
 エンケ選手はプロのサッカー選手として成功してきた。ドイツ代表として来年開催のW杯行きも確実だった。動物愛護や心臓病の子供への支援には積極的に取り組んできた。あるスポーツ紙は「他人の支援には積極的だったが、自身へ差し出されていた救いの手には見向きもしなかった」と評し、その死を惜しんでいる。

朝鮮半島とサルコジ大統領の「野心」

 欧州連合(EU)の主要国の中で北朝鮮と国交関係がない唯一の国、フランスがここにきて北との外交関係樹立の方向に動き出した。
 北朝鮮の国営朝鮮中央通信社(KCNA)によると、フランスのラング北朝鮮問題担当大統領特使は今月9日から5日間の日程で訪朝中だ。両国間の国交正常化が主要議題という。
 フランスは過去、北との国交樹立に無関心だったわけではない。社会党のミッテラン政権時代、外交関係樹立の気運は高まったが、国交支持者のミッテラン大統領に同国外務省が強く反対した。最終的には、人権問題や核問題がネックとなって外交関係樹立まで踏み出すことはなかった。
 サルコジ政権の誕生で状況は変ってきた。フランスの国威高揚を夢みるサルコジ大統領はこれまで自国の外交圏外だった朝鮮半島にも強い関心を示し、昨年1月末には国交樹立の前段階として外務省代表団を訪朝させている(北との外交関係に消極的な外務省は同国の保守紙フィガロに、「北朝鮮が過去、フランス人を含む28人の外国人を拉致した」という情報をリークし、国交に積極的な大統領府に警告を発している)。
 実現できるか否かは別として、サルコジ大統領の狙いは明らかだ。大国・米国が手こずる北朝鮮の核問題に積極的に関与し、フランスの外交を世界に誇示するというものだ。
 ところで、フランスが過去、国交樹立への障害としてきた北の核問題、人権問題は何も改善されていない、むしろ悪化すらしている。北朝鮮は過去、2度の核実験(2006年10月と09年5月)を実施し、その人権問題は深刻さを増している。
 一方、北朝鮮は過去、フランスとの国交樹立を目指して活発な渉外を展開させてきた。フランスと国交関係はないが、国連教育科学文化機関(UNESCO)本部のパリに同国代表部を設置している。ちなみに、金正日労働党総書記の長男・正男氏や次男・正哲氏がパリを頻繁に訪問し、故金日成主席はリヨン大付属病院の心臓外科医に手術を受け、金総書記の夫人、高英姫氏(04年死去)もパリでがん治療を受けるなど、金ファミリーは過去、そして現在もパリとは縁が深い。
 いずれにしても、ラング特使がサルコジ大統領にどのような訪朝報告をするか分らないが、サルコジ大統領の野心に助けられ、北はフランスとの国交樹立という大きな外交成果を手に入れるかもしれない。そうなれば、フランス主導のEUカードが朝鮮半島の動向にも波及し、ひいては米朝交渉の行方にも影響を与えることになるだろう。

「宗教フォビア」の深層心理

 欧州人権裁判所(本部ストラスブール)が公共学校内の十字架を違法と判断を下したが、その反響は今も欧州各地でみられる。
 ところで、欧州では今日、宗教的言動やそのシンボルが激しい攻撃に晒されている。十字架だけではない。へジャブ(イスラム教徒の女性スカーフ)からキッバ(ユダヤ教徒の黒い帽子)まで攻撃を受けているのだ。
 「イスラム・フォビア」(イスラム嫌悪)でも「クリスチャン・フォビア」(キリスト教嫌悪)でもない。ましてや、キリスト教社会とイスラム教の文明間の衝突でもない。宗教一般へのフォビアと呼ぶべきかもしれない。
 「欧州社会の世俗化の結果」といえば、それまでかもしれないが、事態はかなり深刻だ。
 スイスで今月29日、「イスラム寺院のミナレット(塔)建設禁止案」に対して、国民の是非が問われるが、同国の民間団体が先日、「キリスト教会の鐘についても同様にその是非を問うべきだ」と主張した。理由は「教会の鐘はうるさく、睡眠と思考を妨害する」という。
 欧州では、イスラム寺院のミナレットから祈祷の時間を知らせる「アザーン」(呼びかけ)が批判されたことはあった。その批判の矢はいま「教会の鐘」に向けられているのだ。
 「アザーン」も「教会の鐘」も信者の日常生活にとって必要不可欠だが、信者でない旅行者や異邦人にとって、騒音以外の何ものでもない。しかし、欧州でこれまで教会の鐘がその音ゆえに批判されるということはほとんどなかった。現代人は「音」に対し昔以上に敏感となったのだろうか。
 教会の鐘はイスラム寺院の「アザーン」ではない。昔からあったものだ。その教会の鐘が「睡眠や思考を妨げる」という理由から訴えられているのだ。
 価値の相対主義が席巻する世俗社会では、絶対主義的な世界観を標榜する宗教に対し、病的な恐怖感、嫌悪感がみられることは事実だ。「宗教フォビア」の深層心理を検証する必要があるだろう。
訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

Recent Comments
Archives
記事検索
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ