「宗教の自由」に関する欧州人の反応について、一般の日本人は理解できない面がある、という意見を頂いた。そこで当方が欧州で目撃した欧州人の「宗教の自由」に対する基本的姿勢を実例を通じて紹介する。
時は、オウム真理教事件の余波を受けて自民党内で宗教の自由を制限する危険性が網羅された「宗教法基本法」案が作成された1996年だ。
池田外相(当時)は、初めてサラエボを訪問し、帰国直前にウィーンのホテルで外務省主催懇談会を開催した。同懇談会には外務省から招待状を受け取った10人の記者が出席した。ドイツ通信(DPA)、ロイター通信、AP、フランス通信(AFP)の各通信社支局長やオーストリア日刊紙「スタンダード」などの一流紙の記者たちと、国連記者クラブ副会長といった錚々たる顔ぶれが招かれた。
外務省国際報道課首席事務官である津川報道官(当時)は、池田外相の欧州歴訪について食事をしながら説明、日本外相の初のサラエボ訪問を「歴史的な訪問」と説明する一方、日本の経済支援の貢献度をアピールした。
外国人記者たちとの質疑応答は外務省が前もって想定していた範囲で順調に進んだ。その時だ。一人の記者が「オウム真理教の犯罪後、日本では宗教団体を厳しく取り締まる宗教基本法案が検討されていると聞く。宗教の自由と関連してどうなのか」と質問したのだ。津川報道官の表情は一瞬こわばった。「津川報道官は約30秒、返答に苦慮して沈黙していた」と証言した記者もいたほどだ。
憲法で明記されている「信教の自由」を侵す危険性があるとして宗教界や学界からも批判されてきた同法案について、欧州の外国人記者から質問されるとは考えていなかったからだ。想定外の質問だった。
津川報道官は「同法案は一部の議員が提案したものだ。宗教活動を制限する法案が成立することはない。宗教と政治が密接な関係を有する欧米とは違い、日本では宗教と政治は明確に分離されている」と説明したまでは良かったが、「国民の大多数は今日、無神論者だ」と主張し、宗教が日本社会では余り尊重されていない、という見解を示したのだ。
「大多数の日本人は無神論者だ」と聞いた外国人記者は「欧州で無神論者とは人生哲学も信念もない人間のことを意味する。外務省高官が『国民はバカだ』といっているのに等しい」と語り、同報道官の発言を「理解に苦しむ」と述べたほどだ。
外国人記者の質問とそれに対する津川報道官の返答は、「宗教」「信教の自由」について欧州人と日本人との間でかなりのギャップがあることを端的に示した実例だろう。
欧州社会も世俗化が進んでいる。キリスト教会関係者の性スキャンダルも頻繁に発生している。「神」は益々、その地位から追われようとしている。しかし、「宗教の自由」が危機に陥るならば、神を信じない欧州人も「宗教の自由」のために立ち上がろうとする。「信教の自由」は人権と同様に不可欠の権利であることを欧州人は歴史を通じて体験してきたからだ。
時は、オウム真理教事件の余波を受けて自民党内で宗教の自由を制限する危険性が網羅された「宗教法基本法」案が作成された1996年だ。
池田外相(当時)は、初めてサラエボを訪問し、帰国直前にウィーンのホテルで外務省主催懇談会を開催した。同懇談会には外務省から招待状を受け取った10人の記者が出席した。ドイツ通信(DPA)、ロイター通信、AP、フランス通信(AFP)の各通信社支局長やオーストリア日刊紙「スタンダード」などの一流紙の記者たちと、国連記者クラブ副会長といった錚々たる顔ぶれが招かれた。
外務省国際報道課首席事務官である津川報道官(当時)は、池田外相の欧州歴訪について食事をしながら説明、日本外相の初のサラエボ訪問を「歴史的な訪問」と説明する一方、日本の経済支援の貢献度をアピールした。
外国人記者たちとの質疑応答は外務省が前もって想定していた範囲で順調に進んだ。その時だ。一人の記者が「オウム真理教の犯罪後、日本では宗教団体を厳しく取り締まる宗教基本法案が検討されていると聞く。宗教の自由と関連してどうなのか」と質問したのだ。津川報道官の表情は一瞬こわばった。「津川報道官は約30秒、返答に苦慮して沈黙していた」と証言した記者もいたほどだ。
憲法で明記されている「信教の自由」を侵す危険性があるとして宗教界や学界からも批判されてきた同法案について、欧州の外国人記者から質問されるとは考えていなかったからだ。想定外の質問だった。
津川報道官は「同法案は一部の議員が提案したものだ。宗教活動を制限する法案が成立することはない。宗教と政治が密接な関係を有する欧米とは違い、日本では宗教と政治は明確に分離されている」と説明したまでは良かったが、「国民の大多数は今日、無神論者だ」と主張し、宗教が日本社会では余り尊重されていない、という見解を示したのだ。
「大多数の日本人は無神論者だ」と聞いた外国人記者は「欧州で無神論者とは人生哲学も信念もない人間のことを意味する。外務省高官が『国民はバカだ』といっているのに等しい」と語り、同報道官の発言を「理解に苦しむ」と述べたほどだ。
外国人記者の質問とそれに対する津川報道官の返答は、「宗教」「信教の自由」について欧州人と日本人との間でかなりのギャップがあることを端的に示した実例だろう。
欧州社会も世俗化が進んでいる。キリスト教会関係者の性スキャンダルも頻繁に発生している。「神」は益々、その地位から追われようとしている。しかし、「宗教の自由」が危機に陥るならば、神を信じない欧州人も「宗教の自由」のために立ち上がろうとする。「信教の自由」は人権と同様に不可欠の権利であることを欧州人は歴史を通じて体験してきたからだ。