ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2009年04月

博士から電話がある時

 自宅で寛いていた夜、携帯電話が鳴った。
 「誰だろう。こんな夜遅く」。浮かび上がった電話番号は頻繁にかけてくる友人のものではない。
 「夜遅く、申し訳ない。私だ」
 こちらが直ぐに反応しなかったので、相手は「・・・だ。私の名前を忘れたのかね」といった段階で、相手の名前を思い出した当方は「申し訳ありません。忘れていませんよ。博士」と応じた。
 当方は緊張していた。こんな遅く、博士が電話をかけてくることはこれまでなかったことだ。「何か起きた」と直感した。
 博士は「北朝鮮の動向を君は良く知っているだろう。北朝鮮は2度目の核実験を準備しているらしい」という。「核実験」という言葉が当方の頭の中で駆け出した。
 「核実験ですか」と寝ぼけた反応をしていると、「その通りだ。国際社会が北朝鮮のミサイル発射、国連安保理での議長声明、それに対する北側の過剰反応に目を囚われている時、北側は2度目の核実験を準備している。これがわれわれの分析結果だ」という。「われわれとは」国際原子力機関(IAEA)だ。分析した情報とは、北朝鮮・寧辺の核施設の封印・監視活動をし、最近、北側から国外撤去命令を受けたIAEA査察官がもたらしたものだ。
 博士は「北は1回目の核実験が中途半端で終わったことを認識している。だから、核兵器保有国を堂々と宣言するためにはどうしても2回目の核実験が必要だと考えている。その為、北当局者は多大な犠牲を甘受する考えだ。今回も地下核実験だ」と説明した。どのような情報から「核実験が近い」と判断したのか、博士は詳細には語らなかった。
 北朝鮮が2回目の核実験をする可能性があることは、これまでも考えられたシナリオの1つだ。ただし、IAEA関係者が独自に入手した情報に基づいて「核実験が近い」と判断している、ということは無視できない。
 北朝鮮が再び大きな核カードを繰り出す日が近づいているのだろうか。
 博士とは今週、再会することを約束し、電話を切った。

アヘンに依存するアフガン経済

 ウィーンに本部を置く国連薬物犯罪事務所(UNODC)は先日、「2009年度年次報告書」を公表した。そこでは56頁に渡ってUNODCの犯罪対策、麻薬対策に関連した活動報告が記述されている。ここでは「マネーロンダリングとテロ資金への関連」項目のアフガニスタンの実情報告の一部を紹介する。
 マネーロンダリングは「資金の洗浄」と訳されているように、麻薬や武器の不法取引で獲得した資金を合法的経済活動に再投資することで、文字通り、汚れた資金を“洗ってきれいにする”経済活動を意味する。2001年9月の米国内多発テロ事件後、テログループのマネーロンダリングの摘発が大きな課題となっている。
 UNODC年報によると、アフガニスタンでは2008年度、アヘンの栽培と取引きで約34億ドルの収入があったと推定されている。その内、4分の1をアヘン栽培農家が、残りの4分の3を麻薬犯罪グループ、ないしはアヘン栽培・取引きを管理する族長が獲得したという。ちなみに、アヘン栽培・取引きによる総収入額は同国の国内総生産(GDP)の34%を占めるというから、同国の国民経済がアヘン栽培に大きく依存していることが分る。
 不法アヘン栽培・取引きで得た資金の大部分は海外に再投資される。その場合、同国の銀行システムは機能を果たしていないので、Hawala と呼ばれる非公式の銀行が利用されるが、その金融取引きは組織犯罪グループやテロ・グループに悪用されている。
 なお、アフガニスタンのダウド内務次官によると、同国でアヘン生産が継続されている州はヘルマンド州、カンダハル州、ファラー州などタリバン勢力が支配する地域だ。タリバンはアヘンの不法栽培で獲得した資金で武器を買い、テロ活動を行っているわけだ。

バチカンと米大使と麻生首相

 少々、古いテーマで申し訳ないが、当コラム欄では言及したことがなかったので、週末用コラムの話として、気楽に読んでいただければ幸いだ。
 ローマ・カトリック教会総本山、バチカン法王庁はオバマ政権が駐バチカン次期大使に予定していたケネディ元大統領の長女、キャロライン・ケネディ氏(51)の大使任命を拒否した、というニュースが先日流れた。その理由は、ケネディ氏がカトリック信者にもかかわらず中絶容認者だからという。ちなみに、「駐バチカンのグレンドン米大使がべネディクト16世に離任挨拶をした際、次期大使にケネディ氏の名前を挙げた」という噂が、このニュースの情報源らしい。
 それに対し、バチカンのロンバルディ報道官は今月10日、「米政府からグレンドン米大使の後任大使の名前を入手していないし、ましてや、任命を拒否したことはない」と、全面否定。一方、駐バチカンの米大使館も「グレンドン大使が次期大使名を伝えた、といった事実はない」と、これまた否定している。
 いずれにしても、今回の「ケネディ大使の任命拒否」報道は、「離任大使の軽率な一言」「メディア関係者の旺盛な創造力」、そして「バチカンの頑迷な中絶反対」が絡み合って出来上がったニュースではないだろうか。
 ちなみに、「死刑廃止法案」に署名したばかりの米ニューメキシコ州のビル・リチャードソン知事は先日、バチカンでローマ法王べネディクト16世の熱い歓迎を受けている。バチカンは「中絶」だけではなく、「死刑制度」にも強く反対していることで有名だ。
 カトリック信者・麻生太郎首相のバチカン訪問が今夏、実現すれば、バチカンは必ず死刑廃止を首相に要求するだろう。ただし、「死刑実施国の政府代表」という理由でべネディクト16世への謁見が拒否されることはないと思うが……。

張成沢の訪欧目的は資金管理

 最高指導者・金正日労働党総書記について北朝鮮の実質的ナンバー2と受け取られている張成沢・労働党行政府長が訪問した欧州3国の国名(フランス、イタリア、スイス)を挙げると、オーストリア内務省の知人は即、「金が絡んでいるはずだ」と断言した。すなわち、張成沢氏の訪欧目的は欧州の金ファミリーの海外資金管理と密接な関係があるというのだ。
 ここで断っておくが、同発言は特定の事実に基づく結論というより、欧州の北朝鮮動向をフォローしてきた知人の直感というべきだろう。
 韓国の連合ニュースによると、張成沢氏はフランスでは、昨年、金正日労働党総書記の治療の為に訪朝したフランス医療チームと面談し、イタリアでは実業家・シャンカルロ・ヴァローリ氏と会見したという。ヴァローリ氏に関しては、昨年10月7日の当コラム「北朝鮮のイタリア人脈」の中でそのプロフィールを紹介済みだ。
 スイスには金ファミリーの海外資金が久しく眠っているといわれてきた。フランスとは国交関係がないが、北朝鮮はパリの「国連教育科学文化機関」(ユネスコ)代表部を通じて関係を深め、イタリアとは目下、欧州の中で最も親密な関係を構築している、といった具合だ。
 当方は「北朝鮮ナンバー2がイタリアの豪華ヨット取引き問題や金総書記の健康問題に関して仏医療チームと意見を交換するために訪欧した」という報道内容を、どうしても信じられないのだ。それらの仕事は、マカオを拠点とする金正男氏(金総書記の長男)ならば考えられるが、張成沢氏がそのために現地に出かけなければならないテーマとは思えないからだ。
 張成沢氏には、金融危機に直面する欧州の金ファミリー隠し資産の動向を直接、掌握する狙いがあった――知人のこの推測は決して的外れとはいえないだろう。長年培ってきた知人の捜査直感を否定できる情報を、当方はもっていない。

【短信】ウィーンで金日成誕生日祝賀会

 駐オーストリアの北朝鮮大使館で14日、故金日成主席の誕生日(15日)祝賀会が開催された。国連からは国連薬物犯罪事務所(UNODC)や国連工業開発機関(UNIDO)の関係者が参加する一方、駐オーストリアの中国大使館から参事官、オーストリア外務省アジア局関係者などが姿を見せた。ゲスト数は約30人。

北朝鮮、タリバンに急接近

 ウィーンの国連外交筋によると、北朝鮮はタリバン勢力と関係強化のための交渉を始めたという。それによると、「北側はミサイルを含む武器をタリバン勢力に売ることに関心がある一方、タリバン側は武器の調達先として北側と関係を深めることに異存ないはずだ」という。
 その上、「オバマ米政権はイラクから米軍を早期撤退させる一方、アフガニスタンに軍を集中する計画だから、北側のタリバン接近は無視できない動きだ。オバマ政権はミサイル発射後も対北対話に乗り出す気配を見せていないが、北のタリバン接近には何らかの対応が迫られるだろう」とみている。
 すなわち、北朝鮮にとって、タリバン接近は武器を売り、外貨を稼ぐ一方、米国を直接対話のテーブルに引き出す呼び水となるわけだ。文字通り、一石二鳥だ。そのため、北朝鮮はミサイル発射直後、時間を置かずにタリバンに接近する動きを見せた、というわけだ。
 北朝鮮とタリバンは過去、麻薬密売や武器売買などで関係が噂されたことがあるが、ミサイル発射直後の北朝鮮のタリバン接近情報について、西側情報機関も強い関心を寄せている。

法王就任4年目と82歳の誕生日

 世界に11億人以上の信者を抱えるローマ・カトリック教会の最高指導者ローマ法王べネディクト16世は16日、82歳の誕生日を、19日には第265代法王就任4年目を迎える。
 バチカン放送によると、冬の間、閉鎖されていたドイツのバイエルン州マルクトル・アム・インの法王の生家は公開が再開されたばかりだ。ベネディクト16世は法王就任直後、出身地ドイツではポップスター並みの人気を博し、生家には巡礼者が殺到したが、ここにきてその人気に陰りが見え出した。
 理由がないわけではない。べネディクト16世は今年1月、カトリック教会根本主義者故ルフェーブル大司教の聖職者グループ「兄弟ピウス10世会」の4人の司教に対する破門宣言を撤回する教令を出したが、4人の司教の中にホロコーストを否定する発言をした聖職者(英国のリチャード・ウイリアムソン司教)が含まれていたことから、世界のユダヤ人から激しいブーイングを受けた。補佐司教に任命されたオーストリア教会リンツ教区のワーグナー神父(54)の任命辞退問題もあった。
 法王就任初年の9月、訪問先のドイツのレーゲンスブルク大学の講演で、イスラム教に対し「モハメットがもたらしたものは邪悪と残酷だけだ」と批判したビザンチン帝国皇帝の言葉を引用したことを契機に、世界のイスラム教徒から激しい反発が起きたことはまだ記憶に新しい。
 すなわち、歴代法王の中でも最高の知性の持ち主といわれるべネディクト16世には発言や説明不足による不祥事が多いことが分る。最近では、「コンドームの不要発言」が飛び出したばかりだ。
 4年前のヨーゼフ・ラッツィンガー教理省長官(当時)の法王選出は、本格的法王出現までのショート・リリーフと受け取られてきた。べネディクト16世は高齢にもかかわらず、幸いこれまでのところ大きな健康問題はないが、最近の一連の不祥事で求心力を失ってきたことは間違いない。

北のキリスト者の祈り

 迫害されるキリスト者救援組織「オープン・ドアーズ」(本部・米カリフォルニア州サンタアナ)によると、北朝鮮でキリスト者たちが祖国とキリスト教の福音のために「祈りのキャンペーン」を始めたという。
 北朝鮮の首都、平壌は“東洋のエルサレム”と呼ばれ、キリスト教活動が活発な時代があったが、故金日成主席が1953年、実権を掌握して以来、同国にいた30万人のキリスト者が消え、当時、北に宣教していた大多数の聖職者、修道女たちは迫害され、殺害された。同国は現在、「世界でキリスト者が最も迫害されている国」といわれている。
 オープン・ドアーズの最新報告書によると、7万人のキリスト者が国内30カ所以上の労働収容所に送られている。北当局はキリスト教を独裁政権を脅かす団体と受け取っている。
 ちなみに、平壌の公式統計によると、同国には約1万人の仏教徒、1万人の新教徒、そして4000人のカトリック信者が存在する。これらの数字は政府が管理している組織に所属する信者だけだ。首都、平壌には4つの教会があり、2つの新教会、カトリック教会と正教会が各1教会がある
 世界の宗教史をみれば、どの宗教でも迫害が強い時代ほど、信者たちの信仰は高揚し、生き生きしてくる。逆に、時代に歓迎されると、宗教の指導者たちは腐敗と堕落に陥りやすい。北のキリスト者たちが祖国とキリスト伝道のために祈りを始めたと聞いた時、そのことを思い出した。
 13日の聖月曜日で今年の復活祭は終わったが、平壌が世界のキリスト者たちの“東洋のエルサレム”として復活する日を期待したい。

世界の行方の鍵を握る北朝鮮

 オバマ米大統領は欧州連合(EU)議長国チェコの首都プラハで包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期批准に前向きの姿勢を見せた。このニュースは予想された内容だったが、ウィーンのCTBT機関職員たちを喜ばしたことはいうまでもない。
 CTBTの署名は1996年9月に開始され、13年目を迎えた現在、署名国180カ国、批准国148カ国だ。条約発効には研究用、発電用の原子炉を保有する国44カ国の批准が不可欠だが、これまで35カ国が批准を終えただけだ。核保有国の米国と中国が未批准国であり、インド、パキスタン、北朝鮮の3カ国は未署名だ。
 すなわち、44カ国に属する9カ国の批准がない限り、CTBTは発効しない(条約14条)。米国、中国、エジプト、イスラエル、イラン、インド、パキスタン、インドネシア、北朝鮮の9カ国だ。
 早期発効への最大の障害だった米国が近い将来、批准を完了すれば、中国の批准は時間の問題となるし、エジプト、インドネシアといった国も批准に傾くくことは容易に予想される。
 問題はイスラエル、インド、パキスタン、そして北朝鮮の4カ国だ。イスラエルは米国から臨界前核実験データーを入手できれば批准を受け入れるだろう。インド、パキスタン両国は最終的には米国と中国の説得を受け入れるだろう。
 ここまでくれば残る国は北朝鮮だ。平壌当局にすれば、大きな外交カードを得ることになる。米国の批准後、世界の核軍縮の行方はワシントンではなく、実は金正日労働党総書記の意向に左右されることになる。北側は「世界がわが国を核保有国に認知するならば、条約に批准する」と主張するだろう。とにかく、CTBTカードを高く売りつけることは想像に難くない。
 われわれは、朝鮮半島の小国・北朝鮮が21世紀の世界の行方に大きな鍵を握った国であることを、首を傾げながらも理解しなければなならなくなるわけだ。

墓場がなくなる日

 ウィーン市の中央墓地は観光名所の1つだ。楽聖ベートーベンからシューベルト、ブラームス、ヨハン・シュトラウスなど著名な音楽家が一堂に埋葬されているからだ。「音楽家たちの墓」という札があるから、旅行者も迷子にならずに墓参りができる。中央墓地の大きさが甲子園球場より大きいから、墓の番地を知らない場合、見つけ出すのは困難だ。
 ここでは中央墓地のPRをするつもりではない。オーストリアで将来、遺体を地下に埋葬してお墓をたてる、といった習慣がなくなるかもしれないのだ。すなわち、墓石や墓場がなくなる日がそう遠くない、という話を紹介したいのだ。
 同国の高級紙ディ・プレッセ(4月9日)によれば、ここにきて遺体を墓場に埋葬する伝統的な埋葬が減少する一方、遺体を火葬し、当局が認可した自然の林や野原に生物学的に分解する骨つぼに入れて埋葬する件数が増えてきたという。
 ウィーン市では1990年と比べ、火葬件数が25%増加したという。例えば、同市14区では生物学的分解可の骨つぼに12の遺骨が埋葬されている。
 ちなみに、自分の庭に親族の遺骨を埋葬するには一定の許可と条件をクリアしなければならないが、不可能ではない。法的には禁止されているが、ドナウ河や川に遺体の灰を流すことを希望する家族もいるという。
 話を中央墓地に戻す。ベートーベンが火葬され、自然埋葬された場合、旅行者が楽聖の墓を訪れることはなくなり、観光にも影響を及ぼすことは間違いない。その一方、甲子園球場規模の空間を遺体の埋葬ではなく、他の目的に利用できるというメリットが生まれてくるわけだ。
 ところで、墓石や墓場がなくなれば、そこに屯していた幽霊たちはどこへ行くのだろうか。中央墓地の墓石に関心がある当方などは、少し寂しくなるだろう。
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