ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2009年03月

北朝鮮、観光査証の発行拒否

 オーストリアの大手旅行会社「フェアケアスビューロ」の支店長、ヨハネス・スティヒ氏によると、4月に計画していた北朝鮮観光が査証の不発行で中断になったという。
 同氏によると、4月旅行にはウィーンから8人、ドイツからと合わせると総計15人が参加予定となっていた。同氏が10日前、ベルリンの北朝鮮大使館に査証(ビザ)発行を要求したところ、「発行できない」という返答が返って来たという。
 査証不発行の理由について、「北側からは何も説明がなかった。何らかの政治的な理由かもしれない」という。北朝鮮観光の窓口であった平壌の観光会社が突然、変更したこともあって、双方の意思疎通がうまくいかなくなった面もあるという。
 ところで、北朝鮮では4月は多忙を極める月だ。9日は同国最高指導者・金正日労働党総書記の軍委員会議長選出記念日、15日は故金日成主席の生誕日、25日は人民革命軍創建日、といった具合だ。それに4日から8日の間に人工衛星(ミサイル)を打ち上げると表明しているから、4月は「外国人観光客は招かざる客」と受け取られても不思議ではない。
 スティヒ氏は「北朝鮮は世界でも稀に見る国だ。自分は世界を旅行してきたが、北朝鮮は知らなかった。だから、3年前に北朝鮮観光を初めて計画して旅行者とともに初訪朝した。これまで、4度、訪朝したが、いずれも忘れる事ができない感動を受けた」と語ってくれたことがある。
 同氏は「9月の観光計画は大丈夫だと思うが、全ては同国を取り巻く政治事情に依存しているから、今から断言はできない」という。

携帯メールをキャッチせよ

 今月26日から2日間、開催された次期事務局長を選出する国際原子力機関(IAEA)特別理事会では、5回の秘密投票が実施されたが、その結果を素早く入手していた記者がいた。どうして投票結果を会議室の外にいながら入手できるのかと不審に思い、当方はその記者の動きを観察した。
 投票が終わる頃になると、その記者は頻繁に携帯電話を覗く。ここまで説明すれば、賢明な読者ならばもうお分かりだろう。その通りだ。その記者は知人の理事国外交官から携帯メール(SMS)を受け取っていたのだ。投票結果が出ると、会議室の外交官は外で待っている記者に携帯メールを送っていたのだ。
 参考までに説明すると、IAEAの理事会は非公開会議だ。そのため、理事会を取材するメディアは通常、会議後や休憩時に出てきた外交官に会議の様子を聞く。記者会見が予定されていない場合、外交官からの情報は生命線となる。
 それが携帯メールの登場で従来の取材方式に変革がもたらされてきたのだ。是非は別として、時代が提供した新しい取材方法、といってもいいかもしれない。
 会議室から届いた携帯メールを紹介しておく。在ウィーン国際機関日本代表部の天野之弥大使と駐IAEAの南アフリカ代表のミンティ氏との間の投票で、天野大使が獲得した票は21票、20票、20票、23票、22票だ(5回目の信任投票では1票が棄権)。IAEA広報部が投票結果を公表する頃には、大多数の記者たちは投票結果を書いた記事を既に送信済みだったはずだ。携帯メールの威力だ。
 いずれにしても、携帯メールの活用でコンフィデンシャルの保持が益々難しくなるだろう。IAEA事務局が携帯メール対策に乗り出すかもしれない。当方もグズグズしておれない。携帯メールを送信してくれる信頼の置ける外交官を探さなければならない。

ウィーンから撤退する日本メディア

 冷戦時代が終焉すると、ウィーンに事務所を構えていた日本の新聞社も1社、2社と閉鎖、ないしはベルリンに移転していった。当方が知っているだけでも、時事通信や産経新聞などだ。韓国のメディアは冷戦後、ウィーンに特派員を派遣している新聞社はなくなった。全てがベルリンに移動して久しい。もちろん、ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)の理事会が開催される時などはベルリン特派員がウィーンに取材に来る。移動特派員もいる。
 どうしてそんなことを書くのかといえば、ウィーン支局に特派員を常住させてきた日本のN紙がロンドンに集中し、ウィーン支局は現地アシスタントだけが勤務することになったという。だから、今回のIAEA特別理事会の時はロンドンから特派員が派遣されるという。支局の位置付けが変わるわけだ。この話は同社アシスタントから聞いた。
 ロンドンは欧州と世界の金融活動の拠点だから、N紙がウィーンを縮小してロンドンに集中するのは当然かもしれないが、冷戦後もウィーンに常駐する当方にとって、この話は何か寂しい思いがする。
 朝日新聞社が巨額の赤字を計上した、といったニュースが飛んでくるご時世だ。大手新聞社の統合、縮小など経営健全化への動きがこれから加速していくことは間違いないだろう。N紙の支局縮小という話は当方の身近でもその動きが始まろうとしていることを痛感させた。
 冷戦後のメディアの統合と再編成を第1弾とすれば、金融危機後の今日のメディアの動きはその第2弾というべきだろうか。

天野大使と信任率約64・7%

 在ウィーン国際機関日本代表部の天野之弥大使(61)は国際原子力機関(IAEA)の次期事務局長選で落選した。厳密にいえば、当選を逸した。
 27日に実施された天野大使への信任投票で22票が支持、反対は12票、棄権1票だった。すなわち、天野大使の信任率は約64・7%だ。当選には有効投票の3分の2、信任率約66・7%が必要だった。当選ラインまでに約2%不足したのだ。
 歴史で「もし」という言葉は禁句だが、「もし、もう1国の理事国が天野大使支持に回っていたならば」、天野大使は今頃、シャンパンの雨を浴びていただろう。
 天野大使が落選直後、「再度立候補する」と表明したのも頷ける。目標まであと僅かだったからだ。だから、次回は当選できる、という思いが湧いてくるのは当然だろう。
 しかし、IAEA事務局長選では、5回の投票(信任投票を含む)で当選ラインに到達できなかった候補者が次回の立候補で当選できる可能性は少ない。その理由は、新鮮さを欠き、理事国の間でも第3の候補者への期待が高まるからだ。
 天野大使は再出馬を正式に表明する前に今回の投票結果を慎重に分析する必要があるだろう。IAEA事務局長ポストを獲得することを今年最大の課題に掲げてきた日本外務省も同様だ。それからでもIAEA事務局長ポスト再挑戦は決して遅くないはずだ。

当方は日本人ジャーナリスト!

 国際原子力機関(IAEA)の特別理事会は26日午前、開幕され、今年11月に退陣するエルバラダイ事務局長の後任選挙が実施された(初日の投票結果は既に報道済みだから、ここでは省略する)。
 特別理事会にはほぼ全ての日本メディアが勢揃いした。天野大使当選の速報を東京に送信するために待機していた。
 当方は、といえば、朝6時頃、カタールのアルジャジーラ放送のウィーン記者から電話が入った。「天野大使はウィーン就任、何年目だ」と聞いて来た。そこで「オーストリア外務省のHPを開ければ外交官リストがある。そこを見れば分るだろう」というと、「放送時間が差し迫っている。直ぐ教えてくれ」というから、「正確ではないが、多分4年ぐらいだろう」と答えた。
 朝食を終えて国連に行き、IAEA理事会の会議室前に到着すると、既にメディア関係者で一杯だ。うろうろしていると、知り合いの中東TV記者が来て、「日本にとってIAEA事務局長ポストはどのような価値があるのか」と質問してきた。そこで少し考えた末、「世界唯一の被爆国・日本にとって、IAEA事務局長ポストは核拡散防止の促進の上で重要な貢献ができる立場だ」と述べた。また、当方が記事を書いていると、別の中東放送記者が「君は日本人記者だから、インタビューしたい」という。少々厚かましい。当方は「後にしてくれ。記事を送信しなければならないからね」といって丁重に断った、といった具合だ。
 当方はイランやシリアの核問題では中東ジャーナリストにいろいろお世話になっている手前、彼らからの質問や要請を簡単に「ノー」と断れない事情がある。
 いずれにしても、今日は自分が「日本人ジャーナリスト」であることを久しぶりに思い出した。天野大使のお陰だ。同大使の27日の健闘を祈る。

次期事務局長選の投票日の朝

 国際原子力機関(IAEA)は26日から2日間の日程で、次期事務局長選に関する特別理事会を開催する。今年11月末に3期目の任期を終えるエルバラダイ事務局長の後任選には、駐国連機関日本代表部の天野之弥大使(61)と南アフリカのIAEA代表のミンティ大使(69)の2人が立候補している。35カ国で構成された理事国の3分の2を獲得した候補者の当選が決まる。投票は最高3回まで実施され、当選者がない場合、翌日27日にも継続される。それでも当選者がない場合、選出作業は振り出しに戻り、新たな候補者探しが始まることになる。
 理事国関係者筋によれば、天野大使が断然先行しているが、当選ラインの24カ国支持まで届くかどうかは不明という。
 それだけに、天野大使は先週から今週にかけハードのスケジュールをこなしてきた。大使はこれまで馴染みが薄かったクウェートやアルジェリアのアラブ諸国の建国記念日のレセプションにも積極的に顔を出し、参加国の外交官とコンタクトを深めていったばかりだ。
 同じレセプッションに顔出していた知人のジャーナリストによると、天野大使は元気が良く、知人にも丁寧な挨拶をしてきたという。それだから、というわけではないが、「天野氏は感じのいい紳士だ」と、知人は天野贔屓になってしまったほどだ。
 理事国関係者の中には「天野氏には指導者としてのカリスマ性に欠ける」という声も聞くが、事務局長に要求される資質は理事国間の意見や利害の調整力だろう。天野大使は既にIAEA年次総会議長などでその手腕を実証済みだ。天野氏の当選を期待する。

韓国外交官のテロ情報収集活動

 イラク出身の中東問題専門家B氏宅の電話が鳴った。駐オーストリア韓国大使館の外交官からの電話だ。「是非とも、今回のテロ事件の背景について、食事しながら聞きたい」という。中東地域やイスラム教国の地域でテロが発生するたびに、電話をかけてくる外交官だ。
 イエメン東部の観光地シバームで今月15日、4人の韓国人旅行者が自爆テロの犠牲となった。事件調査のため現地入りした韓国調査団も18日、自爆テロ攻撃を受ける寸前だった。
 B氏はもちろん快諾した。韓国外交官がウィーン居住の自分から期待しているテロ情報がどの程度のものかを知っていたからだ。
 B氏は早速、事件を報じるアラブ系メディアやサイトをフォローし、「韓国人を特定としたテロ事件ではない」と断定。その上、「アルカイダがイエメンに結集しだした兆候がある」というテロ分析を付け加えれば、それで仕事は終わりだ。念のために、駐オーストリアのイエメン大使に電話してその見解を取材した。
 今回のテロ事件についてはロイター通信など世界の通信社が既にかなり詳細に流しているが、韓国外交官は現地の中東専門家から直接入手した情報、という付加価値を喜ぶという。だから「韓国人を狙ったテロ事件ではないが、韓国人はイエメンなど危険地域に旅行することは避けるべきだ」という警告を付け加えるという。
 上記の内容は、B氏が韓国外交官と会食する前日、当方に語ってくれたものだ、
 ちなみに、米国内多発テロ事件以降、海外駐在の韓国大使館でも北朝鮮外交官の動向だけではなく、テロ関連情報の収集を担当する外交官が常駐している。

元ウィーン市長のスパイ容疑

 元ウィーン市長のヘルムート・ツィルク氏(Helmut Zilk)が旧チェコスロバキア共産党政権時代の秘密警察(StB)の情報提供者だったことを記述したStB文書が明らかになり、オーストリア国民は大きな衝撃を受けている。同国の週刊誌プロフィール最新号(3月23日)は表紙に「スパイのヘルムート・ツィルク」というタイトルを付け、詳細に報じているほどだ。
 ツィルク氏はTVジャーナリスト、教育相などを歴任した後、1984年から10年間、ウィーン市長を務め、国民から絶大の人気があった政治家だ。同氏が昨年10月24日、入院先の病院で心不全のため死去した時、当方は「前ウィーン市長の意外な申し出」(昨年10月29日)という題のコラムで同氏との出会いを紹介したばかりだ。
 StB文書によると、同氏は国営放送の記者だった1965年から68年頃、StBと58回に渡り接触し、オーストリアの政界情報などをチェコ側に流していた。その代償として、金銭や物品を受け取っている。公表された文書の中では、ツィルク氏は「Holec」と呼ばれ、金銭のやり取りも詳細に記述されている。ちなみに、駐オーストリアのチェコ大使だった外交官は「この文書は本物だ」と証言している。
 ツィルク氏の過去問題については10年前、独紙「南ドイツ新聞」が初めて報道したことがあったが、ツィルク氏は当時、スパイ活動を全面否定している。
 ツィルク氏のスパイ説を裏付けるStB文書が公表されると、同氏を知る友人、政治家は異口同音に「信じられない」と驚きを表している。特に、同氏の妻で女優のダグマール・コラー女史(Dagmar Koller)はTV番組の中で、「ヘルムートを静かに眠らせてほしい」と述べ、国民的人気者だった夫の過去が暴露されることに深い憂慮を表明している。
 当方は、ツィルク氏のスパイ説を信頼性の高い情報と受け取っている。公職から退いた後も親中国ロビストとして中国外交官の良きアドバイサーであったことを知っているからだ。もちろん、無償の仕事ではないはずだ。知人のオーストリア内務省関係者が「中国外交官やビジネスマンが事件を起こしてもいつも彼(ツィルク氏)が関与してきて捜査を妨害する」といって悔しがっていたことを知っているからだ。

北大使「人工衛星撃墜は戦争宣言」

 爽やかな春の週末だ。当方は21日午前、駐オーストリアの北朝鮮大使館を訪ねた。土曜日の学習会を追えた北朝鮮外交官たちが中庭で喫煙しながら、久しぶりの春の陽射しを満喫していた。当方はいつものように金光燮大使(金正日労働党総書記の義弟)が出てくるのを大使館前で待っていた。しばらくすると大使が姿を見せた。当方は挨拶後、素早くインタビューした。以下は、金大使との1問1答だ。
 ――久しぶりです。お元気ですか。
「ありがとう。元気だ」
 ――ところで、朝鮮半島周辺は貴国のミサイル発射問題で険悪な雰囲気が漂っています。
「ミサイルではない。人工衛星だ」
 ――ミサイルも人工衛星も技術的には酷似していますね。
「繰り返すが、わが国が今回発射するのは人工衛星だ。米国や日本が騒ぐ問題ではないだろう。どの主権国家も宇宙の平和利用の一環として人工衛星を打ち上げる権利はあるはずだ。日本は過去、何十回と人工衛星を打ち上げているではないか。日本はいいが、わが国の人工衛星は駄目だ、というのは暴論だ」
 ――日本では自国の領空を通過する以上、安全問題と深刻に受けとめています。必要ならば、破壊すべきだという声もあります。
「日本がどのように考えようと関心がないが、もしわが国の人工衛星を撃墜するならば、それは即戦争宣言とみなす。わが国は必要な対応を即、敷く用意ができている」
 ――北朝鮮は最近、開城工業団地の出入りを制限するなど、強硬姿勢が目立ちますね
 「米韓の軍事演習への対応だ。同演習はわが国の安全を著しく脅かしているからだ」
 ――オバマ米政権はイランに対し対話を呼びかけたが、北朝鮮は米国との対話の用意はありますか。
「どの政治家が米大統領であろうとわが国の政策に変化はない。米国がわが国への敵対政策を放棄するならば、わが国は米国といつでも対話する用意がある」
 ――核問題の6カ国協議の再開に見通しは。
「平壌から新しい方針を聞いていないから、わが国の6カ国協議への関与政策に変化はないはずだ」

 金大使は当方との会見を終えると。ベンツに乗って私邸に向かった。

駐アンゴラ北外交官金元錫氏のこと

 ローマ法王べネディクト16世は20日、アフリカ訪問を進め、カメルーンから第2の訪問国・アンゴラの首都ルアンダに到着、1979年以来、権力の座に君臨するドス・サントス大統領の歓迎を受けた。
 ドイツ出身の法王は「自分は戦争と分断を経験した国から来た者だ」と述べ、平和の重要性を知っていると強調した。この法王の発言は、アンゴラが独立後、27年間内戦を経験し、50万人の犠牲者を出し、400万人の難民が生じた紛争地だったことを踏まえたものだ。そして、「国家再建の要は紛争勢力間の和解にある」とアピールした。
 アンゴラは今日、石油輸出国機構(OPEC)に加盟し、ダイヤモンドや鉄鉱石など地下資源に恵まれている。同国の近年の経済成長は著しい一方、貧富の格差は大きな社会問題となってきた。同国人口約1600万人のうち、約900万人は18歳以下の国民だ。その意味で若い国だ。
 一方、同国のカトリック教会は今年、キリスト福音化500年祭を迎える。カトリック教徒数は人口の55%を占め、約860万人と推定されている。以上、バチカン放送から紹介した。
 ところで、べネディクト16世のアンゴラ訪問が公表された時、当方はなぜか金元錫の名前を思い出した。大韓航空機858便爆発事件(1987年11月)の犯人の1人、金賢姫工作員の父親・金元錫氏のことだ。金氏は60年代、キューバ駐在3等書記官を務めた後、アンゴラ駐在の北朝鮮貿易代表部に勤務していた。事件後の同氏の動向は不明だ。
 ローマ法王のアンゴラ訪問と金氏とはまったく関係がないことだが、当方の記憶の中で両者は妙にダブってくるのだ。日本人拉致被害者の家族と会見した金氏の娘、金賢姫元工作員のことを考えているからかもしれない。
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