ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2009年01月

米新政権に運命を託すCTBT

 この機関ほどオバマ新政権に熱い目を注ぐ国連機関はないだろう。ウィーンに本部を置く包括的核実験禁止条約(CTBT)機関だ。
 署名開始から今年9月で13年目を迎えるCTBT条約は1月現在、署名国180カ国、批准国は148カ国に達するが、条約は発効していない、という奇妙な状況下に置かれている。
 その主因はCTBTの第14条にある。条約発効には研究用、発電用の原子炉を保有する国44カ国の批准が不可欠だが、これまで35カ国が批准を終えたが、核保有国の米国と中国が未批准国であり、インド、パキスタン、北朝鮮の3カ国は署名もしていないのだ。
 しかし、大統領選で「チェンジ」を標榜してきたオバマ新政権が発足したことで、CTBT機関に俄然希望が出てきたのだ。オバマ大統領自身がCTBTOの重要性を認識し、批准を目指していると言われるだけに、その希望は一層、現実味を帯びてきている。
 大国・米国が批准すれば、中国の批准は時間の問題であり、他の未批准国にも大きなインパクトを与える事は必至だ。
 国連機関の中で肩身の狭い思いをしてきたCTBT機関は今年、長いトンネルを潜り抜け、日の目を迎えることができるだろうか。米新政権に運命を託するCTBT機関の動向が注目される所以だ。

ウィーン市とシカゴ市の比較

 オーストリア日刊紙オーストライヒ(1月16日付)は「ウィーン市は米国のシカゴ市になる」と警告を発し、音楽の都ウィーン市が1930年代、ギャングの街といわれた米国シカゴ市より治安が悪くなった、とセンセーショナルに報じた。
 極右政党「自由党」党首だったハイダー氏は選挙戦で、「外国人移住者の増加と犯罪拡大でウィーン市が第2のシカゴとなる」と指摘し、国民を扇動したことがあった。オーストリア国民にとって、シカゴ市はギャングの街であり、犯罪都市というイメージから抜けきれないのだろう。ちなみに、犯罪都市のレッテルを貼られた当のシカゴ市から「わが都市はもはやギャングの街でも犯罪都市でもありません。犯罪都市の代名詞に使わないで下さい。迷惑です」という抗議があったという。
 ところで、ウィーン市の昨年度犯罪総件数は内務省発表のデーターによれば、増加していない。減少している。昨年度は21万3201件で前年度比で0・69%減少したのだ。それでもウィーン市の犯罪総件数は人口比ではシカゴ市(昨年度犯罪総件数15万5184件)より多いことは事実だ。この場合、犯罪発生率だ(ただし、殺人件数はウィーン市が15件でシカゴ市は479件だ)。
 どちらの事実に重点を置くかで、記事内容が変ってくる。同紙記者は「ウィーン市はシカゴ市より犯罪件数が多い」という事実を強調し、「ウィーン市の犯罪件数は昨年度減少した」という事実にあえて目をつぶったわけだ。だから、同紙の読者は「ウィーン市はギャングの都市シカゴ市よりも犯罪多発都市となってしまった」という恐怖感を抱く結果となるわけだ。

平和がほしい

 ウィーンの見本市会場で18日まで観光見本市(Ferien Messe)が開催されたので行ってきた。当方の関心は北朝鮮観光を進める旅行会社のスタンドを訪ねて、今年の訪朝計画を聞くことにあった。その他、日本が同見本市に初めてスタンドをオープンしたと聞いたので一度見てみたかったのだ。今年は日本とオーストリア両国修好140周年に当たるので、駐オーストリアの日本大使館も支援し、官民一体化してオーストリア国民に日本の旅の魅力をアピールしていた。
 ところで、日本のスタンドの隣はイスラエル旅行会社のコーナーだった。訪問者の姿は見当たらない。2人のイスラエル旅行会社の関係者が暇そうに椅子に座っている。そこで挨拶をして聞いてみた。
 「お客は少ないですね」というと、1人の関係者は「午前は沢山来ましたよ」と少し声を高める。当方が「やはり、あれの影響ですかね」というと、関係者は「少しはあるが……」というだけだった。あれとはイスラエル軍とハマスの戦闘だ。
 「戦闘は観光には致命的ですね」というと、「観光業には平和が大切だ。幸い、停戦交渉が進んでいると聞くから、もうしばらくしたら大丈夫だろう」と楽観的にいった。
 時間がありそうだったので、いろいろと聞いてみた。オーストリアからは年間約4万人がイスラエルを訪問するという。観光シーズンの2月をまじかに控え、平和が急がれるわけだ。
 「君が日本ジャーナリストだからいうが、日本とイスラエル間の直行便がないから、韓国や北京などを経由しなければならない。早く両国間で直行便が開通したらいいね。ちなみに、日本からイスラエルを訪問するキリスト教系団体が大量にわが国を訪問してくれるので、われわれ観光業関係者は本当に感謝しているよ」という。
 なお、北朝鮮観光では今年も2度、4月と9月に計画されているという。具体的に実現できるかどうかは、平壌の政情に依存していることは昨年と同様だ。 

記者会見を避ける日本大使

 駐オーストリアのオサッチィ・ロシア大使がガス供給問題で緊急記者会見を開催したことは報告済みだが、当方は国連記者室に戻った後、記者室にいたロシア人記者に会見内容を報告すると、同記者は「大使にとって重要なことは、モスクワ外務省の指令を受けて駐在国でロシア側の主張を繰り返すことだ。大使は今ごろ、モスクワに会見を開催しました、と報告しているだろう」という。
 駐オーストリアの金光燮・北朝鮮大使は過去、2度、大使館内で記者会見を開いたことがあった。これも平壌からの指令を受けて行ったものだ。大使自らが勝手に記者会見を開催することなどはない。その点、ロシア大使も北朝鮮大使も同じだろう。
 ところで、不思議に思うことは、駐オーストリア駐国連機関担当の日本大使が記者会見を開いて、日本の立場を表明した、といったことをほとんど聞かないことだ。皆無とはいわない。例えば、昨年7月8日、在オーストリアの田中映男特命全権が日本・オーストリア交流年に関する記者会見を開いた。それ以外、日本大使が記者会見を開催したということを思い出すことができない。
 高級レストランでのひそひそ話や閉鎖社会の日本人記者クラブでは堂々と意見を述べる日本大使が、外国人記者も参加した記者会見を開き、日本政府の立場を説明する、といったことはこれまでなかった。米国大使などは機会があれば記者会見を招集して、自国の立場を公表しているのとは好対照だ。
 国際原子力機関(IAEA)事務局長選に候補している駐国連機関担当日本代表部の天野之弥大使、オーストリアとの交流年を支援する田中大使、日本政府の立場をもっと積極的に発信して頂きたい。

増加する教会脱会者数

 オーストリアのカトリック教会系通信社、カトプレス(Kathpress)によると、同国で昨年度、カトリック教会(最高指導者シェーンボルン枢機卿)から脱会した信者数は4万0596人だった。前年度比(3万6858人)で約10・1%増加したことになる。同国のカトリック教会信者数は約560万人となった。
 昨年度は同国9州全土で信者の脱会数が増加したことが特徴だ。例えば、ウィーン大教区では1万2934人が教会を離れ、前年度比で約11%増を記録し、ザルツブルク教区では3307人が脱会、前年度比で14・9%の増加を示した、といった具合だ。
 これまでは、グロア枢機卿の性犯罪が発覚した時(1995年)、ウィーン大教区の信者が大量に脱会し、サンクト・ぺルテン教区の聖職者のスキャンダルが明らかになると、二ーダーエスタライヒ州の信者の脱会者が増えた、といったように、教会脱会数の動向は教会や聖職者の不祥事と密接に関係してきた。
 ところが、昨年度は大きな不祥事がなかったが、信者の教会離れは進行していることが明らかになっただけに、教会側は対策に頭を痛めている。ちなみに、教会指導者は、2007年9月のローマ法王べネディクト16世のオーストリア訪問後、信者たちの間で霊的なリバイバル運動が起きると期待していた。それだけに、昨年度の教会脱会者数の増加は教会側の期待を裏切ったことになる。
 なお、昨年度は5207人が教会に復帰している。子供誕生によって教会洗礼を受けるためなど、さまざまな理由があるという。

正男氏の親族筋、「後継決定は誤報」

 韓国の聯合ニュースは15日、ある情報筋として「北朝鮮の金正日労働党総書記が自身の後継者に3男の正雲氏(25)を指名し、関連の教示を労働党組織指導部に下達した」と報じた。同筋によると、同教示は今月8日ごろ、党に下達されたという。
 この情報が正しいとすれば、金総書記は自身の後継体制として、正雲氏を指導者とした集団指導体制を考えている可能性が高まる。
 ところで、この後継者決定情報について、金総書記の最初の夫人、故・成恵琳夫人との間で生まれた長男、金正男氏の親族筋(欧州居住)は当方の質問に答え、「まったくの噂情報に過ぎない」と一蹴し、その根拠として「そのような情報を聞いていないし、公式に伝達されていない」と説明した。
 親戚筋はまた、「聯合ニュースの記者が中国で誰からか聞いた情報をソウル発で流しただけではないか。米CNN放送か英BBC放送が報じた情報ならば考えなければならないが、韓国の通信社の情報はいつも誤報だらけだ」と述べた。
 正男氏は現在どこにいるのか、との質問について、親戚筋は「平壌」と述べるだけに留めた。金総書記と故・高英姫夫人との間で生まれた正雲氏が後継者に決定したならば、異母兄弟に当たる正男氏の立場が難しくなるのではないか、との質問には軽く頷くだけだった。
 いずれにしても、聯合ニュースの情報の真偽が判明するまで、もう少し時間がかかるだろう。

露、市場価格以下では供給せず

 駐オーストリアのロシア大使館で14日午前、ガス供給問題で緊急記者会見が行われた。当方も早速、自宅から同大使館のあるウィーン3区に直行した。
 シュタニスラフ・オサッチィ大使(Stanislaw Ossadtchij)は開口一番、「あなた方にも問題があるように、われわれにも問題がある」と述べ、ウクライナと天然ガス供給で見解の相違があることを改めて指摘した。
 大使曰く「供給が問題ではない。問題が生じているのは輸送だ」と主張し、ウクライナ側が天然ガスの支払いを拒否する一方、輸送段階でガスを抜く取っていると強調した。
 「どの国が天然ガスを無料で供給する国があるだろうか。ロシアは市場価格以下ではガスをもはや供給する考えはない」と主張した。すなわち、千立方メートル当たり450ドル以下では売らないということだ。
 ロシアは6本のパイプラインを使って天然ガスを欧州に供給している。ロシアは欧州連合(EU)とウクライナの合意に基づいて13日、ガスの供給を再開したが、欧州には届いていない。その理由について、大使は「パイプラインのガス圧力が十分でなかった可能性がある。わが国はモスクワ時間で14日午前10時、ガスの供給(7660万立方メートル)を再度開始した。今度は無事、欧州に届く事を期待しているよ」と述べた。
 天然ガス供給問題ではウクライナより供給先のロシアへの批判が強いことに、大使は強い不満を表明した。大使は「君たちジャーナリストの責任もある。問題はウクライナが金を払わない点にある。ロシアは全ての合意義務を履行している。ウクライナの改革時にはキエフを支援した欧州ではないか。今回、ウクライナに積極的に働きかけて、義務履行を促すべきだ」と皮肉を飛ばし、「ウクライナは政治的、経済的にも問題を抱えている」と言い切った。
 次はウクライナ側の主張を聞きたいものだ。

金総書記は大丈夫か

 北朝鮮国営の朝鮮中央通信社(KCNA)は新年に入っても頻繁に金正日労働党総書記の現地視察を報じ、同総書記の健康回復を印象付けている。
 北朝鮮は今年3月に最高人民会議の第12期代議員選挙を実施すると発表したばかりだが、このニュースも金総書記の健康回復を伺えさせるものだ。
 駐オーストリアの北朝鮮大使館で先月、金正日労働党総書記の軍最高指導者就任17周年を祝う会が開催されたが、「オーストリア・北朝鮮友好協会」のメンバーの一人が金光燮大使(金総書記の義弟)に近づき、「金総書記は大丈夫なのか」と単刀直入に聞いた。祝い酒を飲み過ぎ、酔いが回ってきた金大使はメンバーの顔を見るなり、「問題ない、問題ない」と繰り返して答えたという。
 そこで後日、北朝鮮の知人にそれとはなく聞いてみた。
 「金総書記の健康問題は解決済みと受け取るべきか」
 知人は「イエス」とも「ノー」とも答えないで、考えている。そのような場合、答えは聞き手の考えに委ねるというサインだ、具体的には、金総書記の健康情況は依然不安定、という当方の憶測を間接的に認める、というサインだ。
 世界各国の北朝鮮友好協会では、金総書記の67歳誕生日(2月16日)祝賀準備委員会が次々と設置されている。金総書記は本当に大丈夫なのか。

昨年度、北製偽米ドル紙幣はなし

 オーストリア中央銀行が12日、昨年度のユーロ紙幣偽造に関する報告記者会見を開いたので、当方も出かけて行った。
 報告によると、昨年度ユーロ通貨流通総額は硬貨200億ユーロ、紙幣7630億ユーロ、総計7830億ユーロで、前年度比で12・5%増加した(その内、オーストリアの流通総額は約215億ユーロ)。
 ユーロ圏内の昨年度偽造紙幣総数は66万6000枚で、前年度比で約10万枚増加した。オーストリアでは8082枚(前年度7768枚)が見つかった(全体の1・21%)。
 ユーロ偽造紙幣の中で最も多いのはユーロ圏では20ユーロ紙幣で、全体の37・4%、それについて50ユーロ紙幣(35・2%)だ。一方、オーストリアでは100ユーロ紙幣が偽造紙幣全体の52・9%でダントツだ。
 参考までに、ユーロ紙幣の最高額紙幣500ユーロの偽造件数は全体の1%にも満たない(オーストリアでは昨年度、37枚の偽500ユーロ札が見つかった)。通常、500ユーロ紙幣で買物をすることはない。コーヒーを飲んで500ユーロ紙幣を出せば、店側が受け取りを拒否することが多い。
 オーストリア連邦犯罪局偽造紙幣担当のエーリッヒ・ツヴェトゥラー課長(Erich Zwettler)によると、偽造紙幣の製造拠点は旧ユーゴスラビア諸国という。2、3年前まではブルガリアが主要な製造拠点だったが、関係国やユーロポール(欧州刑事警察機構)の努力で偽造グループが摘発された。
 なお、同課長によると、オーストリアで昨年度、171枚の偽米ドル紙幣が見つかったが、北朝鮮製と思われる偽紙幣(スーパードル)はなかったという。

「上を向いて歩こう」が聞こえた

 ベットに就いたが眠れない。体は疲れているが、頭が動いている。何度か寝返りをうっているうちに、瞬間だがウトウトとした。その時だ。どこからか歌が聞こえてくる。昔聞いたことがある歌だ。そうだ、坂本九ちゃんの「上を向いて歩こう」(作詞永六輔、作曲中村八大)ではないか。
 「上を向いて歩こう、涙がこぼれないように……」
 懐かしさが溢れる一方、「あれ、どうして突然、九ちゃんの歌が出てきたのだろうか」と考えた。壁時計の針も見えない暗い部屋のどこから流れてきたのだろうか。
 「上を向いて歩こう」では最近、ウィーンに長く住む日本人女性から同じような話を聞いたことがある。彼女が同じように眠れない夜、ラジオで音楽を聴いていたら「上を向いて歩こう」が流れ出してきた。歌詞を追いながら、自然に涙が流れ止まらなかったという。
 「九ちゃんの歌が流れ出した時、あれどうしたのかなと思ったが、最後には一緒に口ずさんでいたのよ」という。
 音楽の都ウィーンで九ちゃんの「上を向いて歩こう」がラジオから流れたとしても不思議ではない。米国のヒットチャート誌「ビルボード」で「Sukiyaki」という曲名で3週連続トップとなった大ヒット曲だからだ。
 坂本九ちゃんが1985年8月12日、日本航空123便の墜落事故で亡くなった、というニュースが入ってきた時、当方は既に欧州にいたから、日本でのその後の反響はよく知らない。
 「異国の地で『上を向いて歩こう』を聞くと、心が激しく揺さぶられるのよ」と先の日本人女性が語ってくれた。
 それにしても、当方の場合、ラジオをつけてもいなかったのに、どうして「上を向いて歩こう」の曲が聞こえてきたのだろうか。今も分からない。
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