ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2008年02月

医者と聖職者

 全ての職業に高低や是非はないことを前提で紹介したい。ドイツのアレンスバッハ世論調査は26日、17種の職業に対する社会的評価ランクを公表したが、それによれば医者と聖職者の社会的評価が最も高かった。医者の場合、5年前の調査よりも6ポイント上昇した一方、聖職者の評価は不動だったという。
 調査結果自体はけっして珍しくない。欧州の大学では医者になりたい学生が急増し、医学部の収容能力をはるかに越える学生が殺到しているというニュースは、新学期がスタートする時期になるといつも報じられてきた。当方が住むオーストリアでもウィーン大、グラーツ大、インスブッルク大の医学部(収容総数約1500人)に約9380人の学生が今月、講義登録のために大学の窓口に殺到したばかりだ。医者は人間の生命を守る職業で重要だが、最近は経済的魅力が医者志望の大きな理由となってきた、といわれ出した。
 一方、聖職者の社会的評価が医者に次いで高いということは、世俗化が進む欧州キリスト教社会でも、教会聖職者が依然、国民の信頼を享受していることになる。キリスト教社会の伝統の深さを感じる。
 その一方、カトリック教国のポーランドでは聖職者の予備軍ともいうべき神学生の数が減少する一方、聖職者が関与した性スキャンダルが後を絶えない、という現実もある。もちろん、欧州教会だけではない。米カトリック教会では2004年、ポートランド大司教区、アリゾナ州ツーソン教区、ワシントン州スポーケン教区が次々と破産宣言を強いられた。聖職者たちが子供たちに性犯罪を犯したことが発覚し、教会側は被害者に巨額な損害賠償の支払いを強いられたからだ。米CNN放送によると、過去50年間、全米で1万件を超える性的事件が教会聖職者らによって起こされているという。にもかかわらず、聖職者に対する社会的評価は他の職業より高い。ということは、社会が聖職者に大きな期待をかけている結果ともいえる。
 ちなみに、同調査によると、社会的評価が最下位だった職種は、労組指導者、政治家、出版業者だ。

金総書記が出した「沈黙」指令

 韓国の李明博大統領が昨年12月、大統領選で当選して以来、北朝鮮国営メディアは韓国の新政権に対してこれまで何も論評してこなかった。10年ぶりの保守政権誕生を警戒しながら、その行方を慎重に注視しているところだろう、と韓国側は一応、受け取っている。
 そこで知人の北朝鮮外交官に単刀直入に聞いてみた。
 「李政権は25日、スタートした。新大統領は過去の『理念の政治』から離脱し、実用重視の政治を施行していくと表明している。韓国の新政権に対するあなたの見解を聞かして欲しい」。
 すると、同外交官は「自分は韓国大統領の就任演説の内容を知らないから、何ともいえないよ」という。朝鮮半島の政情について、通常の日韓ジャーナリスト以上に情報通の同外交官の発言とは到底思えない。
 そこで「どうしたのですか、インターネットを通じて韓国情報を把握されているはずではないですか」と、少し語調を強めた。同外交官は困ったといった表情をしながら、「コメントはできないよ。わが国では全てのことが上からの指令で決定されることを君も知っているだろう。今回も上の指令だ」という。すなわち、同国最高指導者・金正日労働党総書記が韓国の新政権に対して「論評するな、沈黙を守れ」と指令した、ということを示唆したのだ。
 当方はすぐ「金総書記はどうして新政権への論評を控えるように指令したのですか」と尋ねると、同外交官は再び困惑した顔を見せながら、「俺は総書記ではない。どうしてそんなことを知っていると思うのか。知りたければ、君が直接、聞けばいい」と主張した。
 ちなみに、韓国新大統領に対する論評はこれまで北朝鮮の欧州最大フロント組織「朝鮮再統一・平和のための国際連絡委員会」(CILRECO、本部パリ)が今年1月号の会報の中で、韓国大統領選の結果を報じ、「李氏は当選したが、今回の大統領選の投票率は62・9%と、1997年の80・7%、2002年の70・8%よりもかなり低かった。李氏が獲得した票数は投票を棄権した有権者の数(約1400万人)よりも少なかった」と解説し、李氏の勝利は韓国国民の総意ではないと間接的に批判し、李氏の南北関係に関する声明については「統一プロセスに懸念を与える。この懸念は、李氏の所属する超保守政党(ハンナラ党)が反統一を標榜する政党であり、韓国の元軍事政権支持者が集った政党だという事実を想起すれば、更に一層深まる」と論評した程度だ。
 テーマを2月初めに開催された北朝鮮内閣会議に変えた。「内閣会議は開催されたのですよね」と聞くと、知人の外交官は「その通りだ。毎年、年の初めに開催して、年の目標貫徹について協議する。本年度は新年の社説でも明らかだが、国民生活の向上が主要議題として話し合われた」と説明してくれた。同外交官の口調は再び、軽やかになっていた。

北朝鮮書記官と「あの日」

 オーストリア・北朝鮮友好協会が出版する季刊誌「Fokus KDVR」の最新号を読んでいたら、「李3等書記官が今月末に帰国する予定です」と、北朝鮮外交官の人事が記述されていたのに驚いた。北朝鮮外交官の場合、これまで赴任も帰国も事前に公表されることはほぼ皆無だったからだ。
 本年度第1号誌の内容は昨年9月に急死したアドルフ・ピルツ協会会長を追悼する記事でほぼ占められていたが、李書記官の帰朝がわざわざ報告された背景には、同書記官が協会メンバーの間で人気があったから、というだけではないだろう。同書記官は流暢なドイツ語を駆使して北朝鮮外交官とオーストリア間の通訳として活躍してきた。大使館でゲストを招いたり、重要な商談があった時など、必ず同書記官の姿があった。書記官はオーストリア社会の対北窓口の役割を果たしてきたのだ。
 李書記官が2004年、ウィーンに赴任して以来、当方は書記官とは談笑するなど、結構、良好関係を保ってきた。しかし、「あの日」からダメになってしまった。「あの日」とは、「韓国動乱」(朝鮮戦争、1950年6月25日〜53年7月27日)について李書記官と話した時だ。当方は「韓国動乱は故金日成主席が中国と連携して韓国側に侵入したことが契機となって勃発した」と説明してしまったのだ。すると日頃は穏やかな書記官の顔が見る見るうちに紅潮し、当方の顔を睨みつけるように、「何をいうか。動乱は韓国軍と米軍がわが国に仕掛けてきた戦争ではないか」と大声で罵倒し出したのだ。
 今から考えれば、当方もあんなことを言わなければ良かったかもしれない、と反省している。なぜならば、北朝鮮では「動乱は韓国と米国が始めた戦争」という歴史教育が徹底的に行われているからだ。李書記官はその教育を受けてきただけだ。それを「それは違う。お前の国が始めたのだ」といえば、気分を害するというより、怒りが湧いてくるのかもしれない。それも日本人の当方がいったのだから一層、面白くない。李書記官は「とにかく俺は日本人が大嫌いだ。俺の父親は日本軍によって殺されたのだ」と吐き出すようにいった。
 「その日」からだ。李書記官に声をかけても返答は戻ってこなくなった。李書記官とはなんらかの和解もできずに時間だけが過ぎていった。そして同書記官は今月末に帰国する。

「良きスタートを切りました」

 早朝、ラジオを聞いていたら、アナウンサーが元気の良い声で「オーストリア国民は今週、良きスタートを切りました」という。どうして「良きスタートを切ったのか」と考えていると、「ノルディックスキー・ジャンプの世界フライング選手権でオーストリアのナショナル・チームが個人と団体で金メダルを獲得したばかりか、 ロサンゼルスのハリウッドで開催された第80回アカデミー賞授賞式で24日、ドイツ・オーストリア合作映画、ステファン・ルツォヴィツキー監督の『ヒトラーの贋札』が外国語映画部門で受賞しました」と、アナウンサーの高い声がまた流れてきたのだ。
 なるほど、自慢のノルディックスキーのジャンプで個人・団体で圧勝しただけではなく、世界の耳目が集まるアカデミー賞授賞式で「自国の監督」が手がけた映画が受賞したのだから、アナウンサーでなくても「今週は良きスタートを切った」と満足の意を吐露したくなるものだろう。
 前者のスキー・ジャンプの場合、いま伸び盛りのグレゴア・シュリーレンツァウアー選手(最長距離217メートルを記録)と、今シリーズのW杯総合優勝を既に決めているトーマス・モルゲンシュテルン選手の2選手を抱えるオーストリア・チームが金メダルを取ったとしても当然だ。
 一方、アカデミー賞外国語映画賞では、これまた不思議なことに、「ヒトラーの贋札」は前評判が非常に高かった。オーストリアのメディアでは「受賞間違いなし」といった報道が飛び交っていた。その理由として「ヒトラーとホロコーストの問題を扱った映画はアカデミー賞審査員の受けが好い」といったハリウッドのインサイド情報まで報じられていたからだ。実際、その通りとなった。
 映画のストーリーは、ナチス・ドイツ時代、強制収容所に拘束されていたユダヤ人技師(カール・マルコヴィックス主演)が贋札製造の能力を買われ、ナチスの紙幣偽造作戦に関与して敵国・英国の通貨ポンドやドルの贋札を製造する―といった筋だ。実話を映画化したものだ。ちなみに、オーストリア人がアカデミー賞を受賞したのは20年前のビリー・ヴィルダー以来だ。オーストリア通信(APA)は、社会民主党と国民党の大連立政権の亀裂といったホットな政治記事を差し置いて、アカデミー賞受賞記事をトップで流していたほどだ。

粋な街の音楽家たち

 ウィーンの繁華街ケルントナー通りは、毎日夕方5時過ぎると、街の音楽家たちのコンサート会場と化する。彼らが演奏するレパートリーは、クラシックからモダンジャズまで多種多様だ。だから、自分の好きな音楽の演奏家の前に立って聴き入る人の群れがあちらこちらにできる。
 街の音楽家たちは、常連が少なくない。都市から都市へとギターひとつで流しをする中年のセミプロ歌手もいる。トルコ出身の青年がバンジョーを奏でると、ウィーンも住むトルコ人が自然と群がってくる。犬を連れている青年は縦笛を吹く。
 最近の傾向としては、ウィーン市のコンサバトーリム(音楽学校)で学ぶ外国人音楽学生の姿が増えてきたことだ。その中には、韓国人の音楽学生が路上でピアノの生演奏する。彼女の演奏には、いつも大きな人の輪ができる。
 これらの街の音楽家たちには2つのタイプがあるようだ。ひとつは、実用型で、聴衆から投じられるカンパ目当ての人たちだ。彼らの多くは、自分の前にカンパ入れを置いておく。聴衆からカンパが投げ入れられる度に、演奏に支障がない程度にお辞儀する。ウィーン市民は一般に、非常に寛大で、時には、カンパ入れにお札が投じられることも。そんな時、実用型の音楽家たちは、風でお札が飛ばされないように小銭を札の上に置くことを忘れない。
 もうひとつのタイプは芸術派型。自分が奏でる演奏に没頭、カンパ入れにお札が飛んできても、その方に見向きもしない。時として、カンパ入れがない場合もある。このタイプは、とにかく自分の演奏を聴いてもらうことが目的なのだ。ただし、同タイプは少数派だ。
 ウィーンの街の音楽家たちは他の街の同業者よりも相対的にレベルが高いという。国立歌劇場からシュテファン大寺院までのケルントナー通りを散策すれば、音楽の都ウィーンを満喫できるだろう。

中国とバチカン、外交樹立へ?

 欧米メディアではここ数日、「バチカン法王庁(ローマ・カトリック教会総本山)が中国とまもなく外交関係を樹立するだろう」という観測情報が流れている。その背後には、米国駐在のバチカン大使、サンビ大司教がワシントンで中国国家宗教事務局の責任者と会合し、同責任者がその直後、「バチカンは中国と関係を樹立できるのならば、台湾との外交関係を断絶する用意ができている」と語ったからだ。
 実際、中国外務省報道官は21日、北京で「両国は見解の相違を乗り越える努力をしているところだ」と述べ、中国とバチカン両国は外交関係樹立へ最終の交渉段階に入っていることを示唆している。
 中国外務省は過去、両国関係の正常化の主要条件として、�|羚馥眄�への不干渉、��台湾との外交関係断絶、の2点を挙げてきた。中国では1958年以来、聖職者の叙階はローマ法王ではなく、中国共産政権と一体化した「愛国協会」が行い、国家がそれを承認してきた。「ラジオ・バチカン」によれば、愛国協会は現在、中国を138教区に分け、司教たちが教区を主導している。一方、ローマ法王に信仰の拠点を置く地下教会の聖職者、信者たちは弾圧され、尋問を受け、拘束されたりしてきた。しかし、両教会の境界線は次第に緩やかになってきている。実際、愛国協会は2006年4月と同年11月に、バチカンの許可なく新司教を叙階したが、ローマ法王が後日、追認している。
 バチカン内には、対中関係の正常化を求める声は強い。なぜならば、カトリック教会にとって中国は魅力的な宣教市場だからだ。国民の中にも宗教熱が高まってきた、という情報も聞かれる。一方、中国共産党政権は北京夏季五輪を控え、バチカンとの外交関係を樹立することで、宗教問題を含む人権問題の改善といったイメージを国際社会にアピールできる、といった政治的計算が働いているはずだ。
 中国とバチカン間の国交樹立の外交交渉は最終段階にきているが、、中国の宗教事情はけっして改善されていない。世界のキリスト者の迫害状況を伝えている米宣教団体「オープン・ドアーズ」は今月、キリスト教徒の迫害に関する2008年度「ワールド・ウォッチ」を公表したが、中国は12位から10位にアップ、ワースト10入りしている。また、「中国援助協会」(CAA)が公表した昨年度の中国の宗教状況によると、宗教者への迫害は激化している。愛国協会に所属しないキリスト教徒への襲撃件数は60件で、前年度比で3割強増加し、693人が拘束されたり、逮捕されている(前年度比で7%増)。また、100人以上の外国人キリスト教徒が拘束されたり、尋問を受けている。

アスベスト除去作業中の国連

 ウィーンの国連情報サービス(UNIS)の一部が先日、記者室に引越ししてきた。アスベスト(石綿)の除去作業のため、Gビル5階にあったUNISが移動を強いられたからだ。そのため、UNIS職員が記者室で同居することになったわけだ。
 UNISの引越しの日、当方も机やコンピューターを記者室の別の場所に移動させたり、コンピューターの接続などで、半日を費やした。
 ウィーンの国連の建物には、発がん物質のアスベストが天井や床に使用されているため、国連側は数年前からアスベストの除去作業を続けてきた(日本でもアスベストによる中皮腫死亡者問題が表面化し、大きな社会問題となっている)。ただし、国連工業開発機関(UNIDO)があるDビルだけでも22階、国際原子力機関(IAEA)の場合、28階だ。全フロアーのアスベストを除去するためにはかなりの年月が必要だ。
 除去作業中は該当するフロアーの職員は国連建物の側に緊急に設置されたコンテナーと呼ばれる臨時事務所で仕事をすることになる。だから、「俺は今、コンテナーだ」といった会話が国連職員の間で良く聞かれる。
 UNISの一部が記者室に引っ越してくることは1カ月前から知らされていたので、当方も山積する文献や古くなった書籍を整理するなど、移動の準備をしてきたが、UNISの引越しを知らなかった記者たちの中には、突然朝、机やコンピューターが移動していたため、記者室に入るなり、怒り出す記者たちもいた。
 いつもユーモアがあるドイツ人記者は「記者室の一部を失った俺たちは今、コソボを失ったセルビア民族の心情が少しは分かる」と冗談をいう余裕があった(セルビアはコソボを失うことで、領土の約13%を失ったが、国連記者たちは約30%のスペースをUNIS側に明渡すことになる)。
 アスベスト撤去後、UNIS職員は再び元のGビルに戻る予定だ。一方、今年末か来年初めには国連記者室のCビル3階でアスベストの撤去作業が始まる予定だ。そうなれば、当方も国連記者室からこのコラムを書くことは暫くできなくなるわけだ。

宗教担当記者は「社の顔」

 独週刊誌シュピーゲル最新号(2月18日号)は独カトリック教会司教会議の新議長に選出されたロベルト・ツォリチィ大司教との会見記事を掲載しているが、同週刊誌はこれまで宗教者指導者との会見記事を積極的に掲載し、その度に大きな反響を与えてきたものだ。
 少し古くなるが、独神学者オイゲン・ドレバーマン氏との会見記事はドイツだけではなく、欧州のキリスト教社会に大きな波紋を投じた(同氏は会見の中で「聖母マリアの処女受胎」にも疑問を呈する一方、「カトリック教会は一種の権力構造となっている。イエスは現教会のヒエラルキーのような組織を設立する意図はなかった」と述べている)。
 シュピーゲルだけではない。欧米メディアは宗教指導者の発言やその活動に敏感に反応する。フランクフルター・アルゲマイネやノイエ・チューリヒャー・ツァイトゥングなど、代表的なドイツ語紙はバチカン法王庁が公表する法王文書や表明文を詳細に報じる。その背後には、宗教界の動向が政治、民族問題に大きな影響を与えると分かっているからだ。
 欧米の一流紙はバチカン・ウオッチャーや宗教問題専門記者を抱えているものだ。そして彼らの多くは「社の顔」だ。「宗教専門記者が誰か」がそのメディアのランクが決定すると言われているほどだ。
 オーストリア代表紙プレッセには長い間、PMPという署名記事が見られた。宗教問題に権威のある著名なジャーナリスト、ピア・マリア・ブレヒル女史の記事だ。同女史はセンセーショナリズムに流れるメディアの中でひときわ輝くクオリティーペーパー・ジャーナリズムのシンボルとして尊敬を受けていた。同女史が12年前、突然死去した時、プレッセ関係者だけではなく、大統領府、カトリック教会からも特別メーセージが公表されたほどだ。
 欧州社会は世俗化し、キリスト教会の影響力も減少してきたが、欧米メディアでは、真摯な宗教論、世界論を展開した記事にお目にかかる機会はまだ少なくない。その点、宗教問題といえばカルト問題に制限されているような日本メディア界とは異なるわけだ。

独司教会議新議長の問題発言

 ローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王ベネディクト16世の出身地、ドイツのカトリック教会は先日、レーマン枢機卿の辞任を受け、新しい司教会議議長を選出した。フライブルク教区のロベルト・ツォリチィ大司教(69)だ。その新議長の発言が現在、ドイツ・カトリック教会内で大きな波紋を呼んでいる。
 ツォリチィ大司教はドイツの週刊誌「シュピーゲル」(2月18日号)とのインタビューで「聖職者の独身制は大きな贈物だが、聖職と独身制の連結は神学的には不必要だ」と述べ、聖職者の独身制義務に一定の疑問を呈したのだ。ドイツ教会はこれまで聖職者の独身制堅持で知られてきた教会だ。その中枢機関の司教会議議長ポストに就任したばかりの新議長が独身制の再考とも受け取られる発言をしたわけで、ドイツ教会の動揺は当然のことだ。
 新議長の発言に対し、保守派聖職者グループ「カトリック神父ネットワーク」は19日、「ツォリチィ大司教は聖職者の独身制問題で誤解される発言をした。カトリック神父のアイデンティティを高める助けとはならない発言だ」と批判している。その一方、ドイツ・カトリック中央委員会(ZDK)のハンス・マイヤー会長は「新司教会議議長の発言内容に同意する」とツォリチィ大司教にエールを送っている、といった具合だ。
 ベネディクト16世は2006年11月、幹部会会議を開催し、「聖職者の独身制」の堅持を再確認する一方、昨年3月13日には世界のカトリック信者に向けて「愛のサクラメント」と呼ばれる法王文書を公表し、その中で「神父に叙階された聖職者はキリストと完全に同じでなければならない。独身制は言い表せないほどの価値ある財産だ」と主張、独身制の意義を重ねて強調している。
 同大司教は独週刊誌との会見でまた、プロテスタント教会を「キリスト教会」との認識を表明している。しかし、バチカン法王庁教理省は昨年7月10日、「教会についての教義をめぐる質問への回答」と題された文書(通称「教会論」)を発表し、そこでイエスの教えを直接継続した弟子ペテロを継承するカトリック教会こそが唯一、普遍の「イエスの教会」であり、プロテスタント教会は「イエスの教会」ではなく、「教会的団体」と記述している。新司教会議議長の発言はここでもバチカンの公式見解とは一致しない「脱線発言」となるわけだ。
 ちなみに、前任者のレーマン枢機卿は、ベネディクト16世とは教理省長官時代(ヨーゼフ・ラッツィンガー枢機卿)から教会路線で対立を繰り返し、それが理由で枢機卿の就任が遅れた聖職者だ。ツォリチィ大司教はレーマン枢機卿と同様、ドイツ教会では改革派に属する聖職者とみなされている。

「独立宣言」への一考察

 セルビア共和国帰属のコソボ自治州は17日、議会で独立宣言を表明した。コソボ自治州の独立は欧州47番目の国家の誕生となる。民族紛争で多大の犠牲者を出してきたアルバニア系コソボ住民にとって、独立宣言は支配民族セルビアからの解放を意味する一方、セルビア民族にとって、領土約13%の喪失を意味する。
 ところで、新しい国家が誕生すれば、国旗も一つ増え、国連内のシートも一席増す。モンテネグロが独立国家(2006年6月)となり、国連加盟した直後、ウィーンの国連でも同国の国旗掲揚式が行われた。同式典を見ながら、当方は「世界は緩やかだが統合に向かっている一方、人口約60万人の新しい小国家がまた生まれた。統合と解体・分裂という相反するプロセスが同時進行している」と強く感じたものだ。
 欧州連合(EU)は最初、6カ国から成る欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)として出発し、加盟国も15カ国、25カ国、そして現行の27カ国体制となっていったが、加盟国が増加するのにつれ、経済統合から次第に外交・政治の統合を目指す段階に入ってきている。アフリカでもEUに倣い、53カ国からなるアフリカ連合(AU)が設立された。アジアでも東南アジア諸国連合(ASEAN)が拡大するなど、世界の流れは間違いなく統合に向かっている。
 同時に、それに反するように、旧ソ連邦と旧ユーゴスラビア連邦の解体を契機に、数多くの小国家が誕生した。その流れは今も続いている。固有の国家を有さない最大民族クルド人を筆頭に、イスラエルに追放されたパレスチナ人、ロシアのチェチェン人、スペインのバスク人など、コソボと同様、独立国家を目指す民族が多数、控えている。
 欧州の政治学者は「強国に支配されきた民族は独自の国家を樹立することでしか高揚した民族主義を鎮静化できない。統合プロセスへの参画はその後とならざるを得ない」と分析している。すなわち、被支配民族は独自の国家建設というプロセスを通過しない限り、その民族主義を昇華し、統合プロセスに参加できないというわけだ。換言すれば、「独立宣言」は民族主義という爆発性の高いガスの抜き取り作業ともいえるわけだ。
 長期的観点からみるならば、コソボは将来、主権国家としてEU統合プロセスに参加し、そこで再び、過去の盟主セルビアと共存する道を模索していくことになるのだろうか。
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