2007年12月 : ウィーン発『コンフィデンシャル』

2007年12月

2007年12月21日06:00

カテゴリ: 北朝鮮

韓国の政権交代は想定内

　韓国大統領選挙は大方の予想通り、ハンナラ党候補者の前ソウル市長の李明博氏が圧勝し、１０年ぶりに保守政権の発足が決まった。そこで早速、北朝鮮側の反応を探ってみた。
　北朝鮮のエコノミストのＹ氏は「選挙結果はサプライズでもなんでもない。予想通りだ。韓国の国民が選択した結果について、ああだこうだと言う考えはない」と優等生の返答が返ってきた。すなわち、ハンナラ党の李氏の当選は想定内というわけだ。
　そこで「ハンナラ党の政権発足で南北関係はこれまで以上に厳しくなるのではないか」というと、「どの大統領が選ばれたとしても、南北間の合意事項は変わらないはずだ。核問題でも韓国政権だけではない。あくまでも６カ国協議の枠組みで決定されるものだ。韓国の政権交代もその意味であまり大きな影響はない」と冷静に答えた。
　当方は今月、平壌から国連工業開発機関（ＵＮＩＤＯ）総会に参加するためにウィーン入りした金トンホ外務省国際機関担当部長（金永南最高人民議会常任委員長の息子）と話す機会があったが、同氏は「李明博氏が勝利すれば、南北関係は厳しくなる。われわれはその点を憂慮している。わが国は現政権の路線継続を期待する」と懸念を表明し、北朝鮮側が韓国の政権交代阻止に腐心していることを示唆したほどだ。北朝鮮国営メディアは過去、「ハンナラ党政権が発足すれば、核戦争の危機が生じる」と警告を発し、ハンナラ政権の誕生を牽制してきたほどだ。
　どちらが、北朝鮮指導部の本意か、即断できないが、新大統領の下では現政権のような一方的な対北経済支援は減少する一方、相互主義が台頭してくることは間違いないだろう。
　李氏は来年春に大統領に就任するが、株価操作による不正蓄財疑惑調査が始まり、最悪の場合、就任前に李氏が拘束される可能性は完全には排除できないが、Ｙ氏は「大統領に当選した人物に対し、司法側はもはや手を出せない」と断言した。Ｙ氏の見解は韓国メディアのどの主張や解説よりも明確であり、現実的であった。

2007年12月20日06:00

カテゴリ: カトリック

バチカンの省エネルギー

　欧州各地で省エネルギーと環境保護の一環として「５分間電気を消す」運動が広がっている。オーストリアでも今月、初めて実施されたばかりだ。同日は首相官邸を初めとして公共施設ではおおむね実施された。メディア機関は電気を消して暗くなった首相官邸の写真などを掲載して、節電のキャンペーンに参加している。それはいいことだ。
　ノルウェーのノーベル賞委員会は本年度ノーベル平和賞を国連の「気候変動に関する政府間パネル」（ＩＰＣＣ)とアル・ゴア前米副大統領に授与したが、ゴア氏は授賞式直後、湯水のようにエネルギーを浪費しているという批判を受けてきたテネシー州の豪邸を省エネルギー化するために改築する計画、といった報道も報じられてきた。どこもかしこも、環境保護、省エネルギーが話題となってきた。これまたいいことだろう。
　そのトレンドに遅れまいとして、ローマ･カトリック教会総本山､バチカン法王庁はサンピエトロ広場の１８カ所の回廊ランプをこれまでの白熱電球から節電と発光効率の高いナトリウムランプに変えた。バチカンによれば、ナトリウムランプに変えたことで６０００キロワット時を年に節約できるという。バチカンは来年末までにサンピエトロ広場の全てのランプを節約ランプに変える計画という。対応が少し遅すぎた、という印象を免れないが、日頃、神の教えを説いている教会としては、「いいことは人目を気にせずに実施してこそ模範となる」ということだろう。
　ところで、「何の為に環境を保護し、省エネルギーに努力しなければならないのか」と質問された時、どのように答えることができるだろうか。ある学生が「どうして人を殺してはならないのか」と質問し、先生はその返答に窮した､という話を聞いたことがある。環境保護問題も同様だ。「なぜ、われわれは環境を大切にしなければならないのか」という質問に対し、明確な返答が必要だ。さもなければ、現行の一連の環境保護運動はトレントに終わってしまう危険性が出てくる。エネルギーの浪費は自然破壊に繋がる。自然と共存する人間は環境に優しくなければならない。その程度の説明で十分だろうか。
　バチカンは白熱電球からナトリウムランプに変えることで省エネルギーの姿勢を内外に誇示したが、バチカンには、「なぜ、環境保護が必要なのか」について、神の教えに基づいて自信を持って堂々と説明してほしいところだ。

2007年12月19日06:00

カテゴリ: 日常雑感; オーストリア

来年のクリスマスを準備する人

　「人はどうしてショッピングするのか」「人はなぜプレゼントを買うために奔走するのか」。そんなことを考えてしまうほど、ウィーン市では先週末もその前の週末もショッピング街はどこも買物客で一杯となった。歩行者ゾーンとなったショッピング街周辺は、買物に勤しむ人々で文字通り、立錐の余地もなかった（メディア報道によれば、１００万人が買物に出かけたという）。
　子供たちへのプレゼントは、親である限り避けて通れない義務だ。そんな使命感を顔中にみなぎらせた人々がデパートのおもちゃ部門に殺到していた。若い女性たちは化粧品や衣服品コーナーに、学生や青年たちは電気用品に殺到している。買物に疲れた人々は近くのファースト･フードでコーヒーや軽食をしている。
　人間だけではない。異様な雰囲気を察知した犬たちもなんとなく落ち着かない。街中で吼えれば、飼い主に怒られるのを知っているから、賢い犬たちは吼える代りに、目をキョロキョロとさせている。
　これらのクリスマス風景は毎年、変らない。クリスマスの買物に走る人々を「浅薄な消費文明に躍らされている」「物質主義の極地だ」といって蔑む人たちもいる。これも何時もの通りだ。踊る人がいれば、必ず踊らない人もいる。
　今回初めて聞いたことだが、クリスマスの贈物を買いに出かけるが、決して１２月２４日前ではない、という人々がいるのだ。クリスマス明けを待って、クリスマス用のプレゼントを買いに出かけるのだ。もちろん、クリスマスが過ぎれば、クリスマス用品の値段はガクッと下がる。商品によっては半額以下だ。その時、ゆっくとりと買物をするのだ。しかし、過ぎてしまったクリスマスの為の買物ではなく、来年１２月２４日用のプレゼントなのだ。この人たちは毎年、１年先のクリスマス・プレゼントをクリスマス明けに買う人々なのだ。
　当方はその話を聞いて､非常に感動していたら、妻が「あなたにプレゼントした昨年のワイシャツはその前年のクリスマス明けに買っておいたものよ」というではないか。ということは、妻は今年、昨年のクリスマス明けに買っておいた品を当方にプレゼントする考えなのだ。

2007年12月18日17:09

カテゴリ: カトリック

日本の司教団、法王訪問

　日本のカトリック司教団は１０日から１７日までローマ法王庁を訪問（アド･リミナ）し、ローマ法王ベネディクト１６世を謁見した。アド･リミナとは、５年に１度、各国教会司教団がローマ法王庁を公式訪問することを意味する。
　バチカン放送は日本司教団のローマ到着を伝えると共に、日本の宣教が１５４９年、カトリック教会宣教師、イエズス会の創設者の１人、フランシスコ･ザビエルから始まったこと、日本のキリスト教宣教が難しいことなどを簡単に伝えた。
　司教団の溝辺修司教（高松教区）は「日本では依然、キリスト教は異教と見なされている」と述べ、「日本のキリスト教会は日本文化に適応する努力を重ねてきたが、今日までキリスト教は日本の土壌に根付くことができなかった。日本文化は仏教、儒教、神道に根付く一方、汎神論的な自然宗教が強いため、一神教に対して距離を置く傾向が強い」と説明している。
　日本司教団と会談したローマ法王ベネディクト１６世は１５日、「日本のような先進国でも多くの人々が経済的成功を手にし、科学技術を享受できたとしても内面の心を満たすことが出来ないで苦しんでいる」と述べ、神との関係がなくしては真の希望を持ち得ないと強調している。
　公式統計によると､日本ではカトリック信者数は約４５万人で､最大のキリスト教会だ。昨年、７０００人が洗礼を受け、１５５０人の神父、６０００人の修道女がいる。
　隣国･韓国ではキリスト教信者は全体の３０％を大きく越え、キリスト教の宣教は成果をもたらしているが、日本ではキリスト者の総数は人口の１％以下に留まっている。数字では１００万人を少し超える程度だろう。キリスト教年鑑によると、終戦直後の１９４８年のキリスト信者数は約３３万人、６８年には約７５万人、そして９８年に１００万台に突入している。信者数は微増しているが、ここ数年は頭打ちの状況だ。

2007年12月17日06:00

カテゴリ: 北朝鮮

重い記憶

　欧州で北朝鮮の動向をフォローして２０年余りが経過したが、苦い経験が少なくない。忘れようとしても忘れることが出来ない苦い思い出の中には、２人の北朝鮮経済専門家がいる。平壌からの情報によれば、２人とも帰国後、処刑されたと聞く。
　１人は、北朝鮮のエコノミスト、金正宇氏だ。羅津・先鋒経済自由地帯が西側に紹介された１９９０年代だ。金氏はリベラルな経済改革を提案し、同経済自由地帯を推進していた。金氏はスイス･ダボスの世界経済フォーラムに参加した後、ウィーンでオーストリア商工会議所主催の北朝鮮経済交流セミナーに出席した時、初めて知合った。当方が北朝鮮に対し批判的な記事を書いていることを聞いたのか、「わが国のいい面も紹介してくださいよ」といいながら、童顔の金氏は当方に話し掛けてきた。金氏とは国連工業開発機関（ＵＮＩＤＯ)を訪問した際にも再会した。当方の印象は、「気さくで、オープンな紳士」といったところだった。その金氏は帰国後、「自宅でドルを蓄えていた」ことが発覚して､「公金横領」で処刑されたと聞く。
　もう１人は、ホ･ヨンホ氏だ。平壌の大城銀行の出向社員としてウィーンに就任したホ氏は、英国ロンドンで西側経済学を学んだエリート・エコノミストだった。対オーストリア借款の返済窓口となって、さまざまなビジネスを行っていた。同氏がドイツ･ミュンヘンの会社から紙幣鑑定機を密かに購入したという情報を入手し、「北朝鮮、偽造米紙片の品質管理のため独社から紙幣鑑定機を購入」という記事を書いたことがあった。その直後、ホ氏から早速、激しい抗議の電話が掛かってきたものだ。
　ホ氏は日本レストランで昼食を取り、高級なウィーンの店で買物をする姿を良く見かけた。ホ氏はまた、韓国ドラマが好きな金正日労働党総書記のために、ウィーンの韓国店でビデオを大量に購入していた。
　そのホ氏はその数年後、投資ビジネスで大損失をし、それを平壌指導部に知られる結果となり、強制的に帰国命令を受けた。ホ氏の夫人は帰国直前、オーストリアのビジネスマンに「帰るのが怖い」ともらしていたという。ホ氏が帰国後、処刑された、と風の便りで聞いた。
　２人の北朝鮮経済専門家との思い出は、当方の心の中で重い記憶としていつまでも消えない。

2007年12月16日06:00

カテゴリ: キリスト教; イスラム

イスラム教徒の急増と新教後退

　ローマ･カトリック教会総本山バチカン法王庁のお膝元、イタリアではイスラム教が第２宗教となって久しいが、オーストリアでもイスラム教がとうとうプロテスタント（新教）を抜いてカトリック教会（旧教）について第２宗教に踊り出た。元々､時間の問題だったが、現実となると、「イスラム教の台頭」を肌で感じる国民も少なくないはずだ。
　オーストリアの日刊紙が１１日付で報道したところによると、同国で昨年、イスラム教徒数が４０万台に到達する一方、プロテスタントは３２万人に留まり、イスラム教徒がプロテスタントを上回ったことが明らかになった。
　１９７１年度の統計をみると、プロテスタントは当時、約４５万人であった一方、イスラム教徒は２万２０００人余りに過ぎなかった。それが過去３６年間でプロテスタントの数は１２万人減少した一方、イスラム教徒は約２０倍化したことになる。イスラム教徒の急増の背景として､①移住者の増加、②高出産率の２点が指摘されている。
　ちなみに、オーストリアの第１宗教はローマ・カトリック教徒でその数は約５６０万だ。しかし、１９７１年度は６５０万人だったから、約１００万人の信者が教会から去っていったことになる。いずれにしても、新旧教会の後退とイスラム教徒の急増は目を見張るものがある。
　日刊紙オーストライヒによると、ザルツブルクのラウン司教補佐は「わが国は１９７５年、受胎３カ月内の中絶を合法化した。それが今日、結果となって現れている。オーストリア国民は自身で絶滅の道を選択したのだ」と嘆き、「中絶を全面禁止すべきだ」と政府に呼びかけている。
　オスマン・トルコ軍が１６８３年、ウィーンを包囲したことがある。その時、ポーランドの王ヤン３世ソビエスキがイスラム教徒から欧州を守る為に兵を派遣して、トルコ軍の侵略を阻止したが、オーストリアは今日、再びイスラム教の北上に直面している。

2007年12月15日06:00

カテゴリ: チェコ

チェコ大統領の著書

　チェコのバスラフ･クラウス大統領が今年３月にプラハで出版した著書「Blauer Planet in greunen Fesseln」（緑に覆われた青い惑星）のドイツ語訳が１４日、ウィーンで出版された。同日、著者クラウス大統領が自らウィーンに乗り込み、出版記者会見を開いたので出かけてみた。
　クラウス大統領は「地球温暖化防止とは、究極的には人間本来の自由の制限を意味する」と主張し、一連の環境保護主義に非常に懐疑的な立場を取っている。
　大統領は①地球環境は永遠に変化してきたし、これからも変化し続ける、②温暖化防止を叫ぶ科学者の間でもその原因についてコンセンサスがない、③人間は環境変化に適応できる能力を有する、④地球規模の環境変化に対して人間的な努力は限られている、等の理由を挙げて、現在進行中の環境保護運動や地球温暖化阻止に対して大きな疑問を呈する。
　大統領は「４０年間余り、共産政権下で生きてきた人間として、一つのイデオロギー（Environmentalismus、環境保護主義）で社会､国家を規制する動きに非常に危険を感じる。環境保護主義は人間に脅威を与える、新しい衣を着た全体主義に他ならない」と指摘し、インドネシアのバリ島で開催中の「国連気候変動枠組み条約第１３回締約国会議」（ＣＯＰ１３）に対しても「あまり意味がない」と述べ、「人間に不安を誘発させる気候カタストロフィー・ヒステリーだ」と切り捨てる。
　欧州の政治家、それも大統領が反環境保護とも受け取られる発言をすれば、批判が出てくるのは当然だ。しかし、クラウス大統領は「グローバルな温暖化に関する議論は自然科学の問題というより、社会科学の問題とすり替えられている」と警告を発する。環境変化に対するデータｰが科学的に解釈されず、安易化、不正確に悪用されていくことに対し、「その背後にプロパガンダ工作を感じる」とまで言い切る。
　ノルウェーのノーベル賞委員会が本年度ノーベル平和賞に国連の「気候変動に関する政府間パネル」（ＩＰＣＣ)とアル・ゴア前米副大統領に授与すると発表した時、クラウス大統領は「ゴア氏の活動と世界の平和とは全く繋がりがない」と指摘し、ゴア氏の受賞を批判した数少ない政治家の１人だ。クラウス大統領には「科学技術と経済の発展は環境問題の解決をもたらすが、（環境問題の）原因ではない」という強い信念がある。
　大多数が一つの方向に走り出した時、それとは反対の方向を示す者がいるとすれば、その少数派の声にも耳を傾ける必要があるだろう。単に好奇心からではなく、多数派が見落としてきた事実がそこにあるかもしれないからだ。大統領職という激務の合間にまとめた著書には、著者、大統領の使命感が感じられる。

2007年12月14日06:00

カテゴリ: 国連記者室

国連内の治安統計報告の全容

　ウィーンに本部や事務局を置く国連機関は多い。例えば、イラン、北朝鮮の核問題で花形機関の国際原子力機関（ＩＡＥＡ)を筆頭に、国連工業開発機関（ＵＮＩＤＯ)、包括的核実験禁止機関（ＣＴＢＴＯ)、国連薬物犯罪事務所（ＵＮＯＤＣ)、国際麻薬統制委員会（ＩＮＣＢ)などだ。ウィーン国連機関のスタッフ総数は約４５００人だ。その中で最大の職員数を抱えている機関はＩＡＥＡである。
　ところで、ドナウ河沿の国連内で本年度発生した治安･安全問題（犯罪を含む）総件数は４４８件だ。その数字を国連職員数で割れば、人口１０万人に対する発生率が出てくる。簡単に計算すれば、国連職員１０人がいたら、１人は何らかの治安問題に関った割合となる。
　当方が入手した国連内の本年度治安統計報告を見ると、爆弾脅迫が１件、脅迫２件、不審なメール､手紙､電話６件、公共秩序違反件数は２３件が記録されている。わいせつ・セクハラも２件起きている。一方、財産関連件数としては、財産の損失５４件（公共と私有財産）、情報技術機材の悪用１件、公共財産損傷２４件だ。窃盗件数はＣＴＢＴＯで１件、ＩＡＥＡ８件、ＵＮＩＤＯ２件、ウィーン国連事務所（ＵＮＯＶ)８件など、計３７件が発生している。ちなみに、国連内で自動車事故も１８件発生している（地下駐車場内での衝突など）。
　国連では各種の国際会議が開催されるが、それに伴う外交文書やコンフィデンシャルな文書が失われるケースも頻繁に起きている。治安統計報告によると、少なくとも１８件の文書損失が記録されているが、この数字は発覚件数だけで、実質件数はその数倍と推定して間違いはないだろう。
　一方、国連内の安全と治安を担当する職員数は現在、約１５０人だ。多国籍軍の対イラク戦争後、安保理決議に基づいて、治安職員は大幅に増員された。ウィーン国連では現在、３０人に１人は治安職員という計算になる。
　このように見ていくと、世界の平和実現を標榜する国連憲章のもとで運営されている国連機関も治安状況という点では他の民間機関、社会、会社と大きな相違がないことが分かる。発生率から判断すると、状況はむしろ悪い。統計には言及されていないが、ネポティズム（縁故主義）、腐敗、権力乱用など、国連機関特有の問題点もある。

2007年12月13日06:00

カテゴリ: カトリック

「無原罪の聖マリア」の凋落

　１９８０年代、「１２月８日」は依然、カトリック教会の重要な祭日として輝きを放っていたが、その輝きは今日、もはや消え去ろうとしている。
　「１２月８日」はローマ･カトリック教会では「無原罪の聖マリア」の祝日に当たる。カトリック教国のオーストリアでは学校も店も休みだ。それが今日、学校は別として、同日に店を閉める商売人は少なくなってきた。なぜならば、クリスマスを控えて買物客が殺到する時期と重なるからだ。８０年代に同日、店を開くと商工会議所や労組から罰金を科せられたものだ。しかし今日はそんな心配はいらない。
　今年の同日が土曜日だったこともあって、ウィーン市ばかりかザルツブルク市でも買物客が市内に溢れた。どの店も売上高の新記録を樹立したという。買物に走ったのはオーストリア国民だけではない。ドイツ･バイエルン州からもザルツブルクに買物ツアーが殺到。ウィーンの店の電気製品が安いということもあって、東欧諸国からもバスで買物ツアーが殺到した。ウィーン市だけでも同日、１００万人を超える市民がショッピングに出かけたというから､凄い。
　もちろん、カトリック教会側は憂慮している。なぜならば、「１２月８日」は「聖母マリアの無原罪の御宿りの日」だからだ。買物に奔走する日ではなく、本来は教会で静かに礼拝する日だ。「ヒトラーがキリスト教への憎悪から教会の祝日を廃止した」（ザルツブルクのラウン司教補佐）ように、教会の祭日は次第に空洞化してきたのだ。
　ところで、ドイツ語圏の神学界で最も注目されている神学者オイゲン・ドレバーマン氏（６７）は独誌とのインタビューの中で「聖母マリアの無原罪の御宿りは考えられない」と疑問を呈したことがある。バチカン法王庁から糾弾されたが、同氏の発言は教会内外で大きな反響を投じた。ちなみに、「聖母マリアの無原罪の御宿り」はカトリック教義だが、新教や他のキリスト教から批判が出ている。
　カトリック教会が「１２月８日」の祝日の意義を他の祭日の時のようには信者たちに懸命に訴えかけないのは、不思議だ。クリスマス･フィーバーに酔う国民をもはや制止できないという諦めからではなく、聖母マリアの「無原罪の御宿り」問題が再熱化するのを回避したい、という思惑が教会側にあるからかもしれない。

2007年12月12日06:00

カテゴリ: オーストリア

ウィーン少年合唱団の逆転勝利

　日本でも「天使の歌声」として有名な「ウィーン少年合唱団」が計画してきた新しいコンサート・ハウス建設計画は１０日、経済省のバルテンシュタイン経済相に正式に承認された。これを受け、来年初めにも建設が始まる予定だ。昨年から是非の議論を呼んできた新コンサートハウス（正式名「コンサート・クリスタル」）建設問題は、反対区民運動や野党「緑の党」の声を退け、「ウィーン少年合唱団」の全面的勝利となった。
　合唱団の拠点であるウィーン市２区の区民が環境・交通機関の悪化、歴史的建造物の保護などを理由にコンサート･ホール建設に強く反対、合唱団と区民の間でホットな文化闘争が展開されてきた。
　コンサート・ホールは、アウガルテン宮殿内の公園内で工費１０００万ユーロを投入して地下１階、地上２階の近代的建物。最新の舞台装置を完備し、ホール座席数は４３０席だ。同ハウスは合唱団だけではなく、「子供劇場」側も利用できることになっている。
　合唱団側は「近くに独自のコンサート・ホールが完成すれば、合唱練習や後継者育成にとって効果的だ」とホール建設の意義を説明してきたが、騒音問題や交通事情の悪化を懸念する反対区民は「緑の党」の政治家を動員して反対署名活動を展開する一方、メデイアを通じて建設反対の声を強めてきた。
　当方は今年５月の当ブルグで、「悲しきウィーン少年合唱団」というコラムを書いた。その当時は反対区民運動が強く、コンサートハウス計画は無期延長の気配を深めていたのだ。それが今回、財務相の「建設ゴー・サイン」が出たのだ。文字通り、合唱団の「逆転勝利」といったところだ。
　「合唱団」に子供を送っている家族会のヘルベルト・フリザッヒャー会長は当方の電話取材に対し、「今回の決定には自分も驚いている。財務省が承認したから、反対派の抵抗も次第になくなるだろう」と述べ、新コンサート･ハウスに期待を膨らませた。
　なお、反対区民側は「今回の決定は政治的動機に基づいている」と批判し、反対運動を今後も継続していく考えを表明している。