ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2007年11月

アフガニスタンと「ヘロイン」

 国連薬物犯罪事務所(UNODC)が先日公表した「2007年度アフガニスタン・アヘン調査報告書」によると、同国産のアヘン売上総額は約40億ドルで同国の国内総生産(GDP)の53%を占める。前年度(2006年)比で29%増を記録したという。
 売上総額のうち、アヘン栽培農家が約10億ドルを得、その他は取引業者、部族支配者、そして密輸入業者たちが獲得するという。
 アヘンの価格は国境を越える度に上昇していく。アヘンに含まれるモルヒネから作るヘロイン1グラムの卸価格はアフガニスタンで平均2・5ドルだが、パキスタン、イランに入ると3・5ドル、トルコに行くと8ドル。アルバニアで12ドル、スロベニアやスロバキアでは18ドルとなる。そして、ドイツに入ると22ドル、英国に渡ると30ドルとなり、ロシアで33ドルと最高値をつける、といった具合だ。その小売価格は通常、卸価格の10倍まで高騰するといわれている。
 アフガニスタンでアヘン生産量(本年度約8200トン)が急増したことを受け、イラン、パキスタンなど隣国や密輸ルートでヘロインの拡大が著しい。アフガニスタンから運ばれるヘロインやモルヒネの量は660トン以上と推定されるが、数億ドルの収入がタリバンなどテロリストや組織犯罪グループの懐に入っている計算となる。
 ウィーンに拠点を置く国際麻薬統制委員会(INCB)のコリ・コウアメ事務局長は、麻薬犯罪と国際テロとの関係について、「両者の明確な繋がりを実証するのは難しいが、組織犯罪グループが不法麻薬取引で稼いだ資金をマネー・ロンダリングし、その資金で武器を購入する、といったパターンが存在することは間違いない。その意味で、不法麻薬取引とテロが関連していることは疑いがない。例えば、アフガニスタンでアヘン生産が急増している地域はタリバン前政権が支配している地域と合致する。不法麻薬生産がタリバン勢力の活動資金源となっていることは明白だろう」と語っている。

南北両国で勝ち取った万博誘致

  パリで開催された万国博覧会国際事務所(BIE)第142次総会で26日、2012年の万国博覧会(EXPO)開催地に韓国の麗水市を決定した。今回はモロッコのタンジール市、ポーランドのウロツワフ市、そして韓国の麗水市の3都市が競っていた。
 第1次投票では麗水市が68票でトップだったが、過半数(全140票)を獲得できず、タンジール市との間で決戦投票が行われ、麗水市が77票を取って勝利した。国際イベントの誘致戦では強い、といわれてきた韓国がその地力を発揮し、1993年の大田(テジョン)について2度目の万博開催を手中に収めたわけだ。
 ウィーンでパリ総会の投票結果を待っていた韓国外交官や同国ビジネスマンたちは26日午後からそわそわしていた。同日はウィーン市郊外のホイリゲンで「オーストリア・韓国友好協会」の年次集会が開催される日でもあった。集会に参加した韓国外交官たちは午後9時になってもパリから連絡がないため、帰宅し出した時だ。パリから電話が鳴った。「麗水市が勝った」。集会に参加中の外交官たちから一斉に「やったー」といった歓声が沸きあがったことはいうまでもない。
 2014年度冬季五輪大会の開催地争いで、韓国の平昌市が決戦投票でロシアのソチ市に敗北を喫したばかりだ。「これで雪辱した」といった思いが韓国外交官には強かったはずだ。
 翌日の27日、知人の韓国外交官から電話が入ってきた。「食事しないか」と誘われたのでレストランに行くと、知人はニコニコ顔で「勝ったよ」と嬉しさを顔一杯に表した。国際イベントの誘致戦では韓国人は一体化する。その国民性は羨ましいほどだ。
 「よかったですね。予想通りの結果ですね」というと、「まあーね。君にもいろいろお世話になったよ」と、当方までついでに感謝されてしまった。
 韓国の金雨植副首相兼科学技術相が9月、国際原子力機関(IAEA)年次総会に参加するためウィーン入りした時、同副首相は総会初日の一般演説を終えると、オーストリアのフィッシャー大統領を表敬訪問し、グーゼンバウアー首相と会談するなど、12年度万博開催地で麗水市を売り込むために懸命の外交を展開していたことを思い出す。金副首相はウィーン市内の日本レストランで夕食をしたが、食事を素早く済ますと次の日程をこなす為に出て行った。夕食もゆっくり取れない、といった感じだった。これも12年度万博開催地の誘致外交のためだったわけだ。
 ちなみに、「アフリカ大陸で初の万博開催」をモットーに健闘してきたモロッコは誘致戦の後半、ライバルの韓国に勝つためBIEに未加盟国のアフリカ諸国を次々と加盟させて票を集めていった。そのため、韓国とモロッコ両国の差は一時、急接近した。韓国側が危機感を抱き始めていた矢先、北朝鮮が今月21日、BIEに加盟して韓国を支援した。その意味で、麗水市の万博開催は南北両国の連携が勝ち取った初の国際イベントともいえる。

アフリカが立ち上がる日

 アフリカ大陸といえば、暗黒の地、欧州大国の植民地、といった暗いイメージが依然、払拭されない。世界の最貧国50カ国中、34カ国がアフリカ大陸に所属する。アフリカ諸国は今日、疫病、エイズから内戦まで抱え、苦闘中だ。その一方、アフリカの人口(2005年度)は約8億7700万人だが、2030年には15億人に達するものと予測されている。
 国連は2000年9月に開催されたミレニアム・サミットで、「21世紀における国連の役割」について検討し、世界中の全ての人がグロバール化の恩恵を受けることができるための行動計画を提示した「国連ミレニアム宣言」を採択した。具体的には貧困、教育、環境などの8項目(ミレニアム開発目標)を掲げ、数値目標と2015年という達成期限を掲げた。
 しかし、米国テロ事件後、テロ対策が主要アジェンダとなり、ミレニアム開発目標の求心力は急速に失われていった。メディアの関心もなくなり、「国連ミレニアムの行動計画」といってもピンとこなくなってしまった。
 そのような中でアフリカ諸国は欧州連合(EU)に倣いアフリカ連合(AU)を結成し、近代化に乗り出してきている。国連は11月20日を「アフリカ工業化の日」と設定し、アフリカの近代化を支援している。「アフリカ工業化の日」が設定された背景には、アフリカの工業化に対する国際社会の意識を覚醒し、支援と連帯を強化していく、という狙いがある。今年のモットーは「工業のための技術と刷新、人間への投資、将来への投資」だった。
 当方は国連工業開発機関(UNIDO)のカンデ・ユムケラー事務局長と会見する機会があったので、「アフリカ諸国の工業化と経済発展にはあと何年の歳月がかかるのか」と聞いてみた。シエラレオネ出身の事務局長は「2、3の国は5年から10年で一定水準の工業化を実現できるだろうが、大多数のアフリカ諸国の工業化までにはまだ時間がかかる」と答える一方、「アフリカ工業化の成否は国際支援に依存するというより、80%以上はアフリカ諸国の努力次第だ」と指摘し、アフリカ諸国の自助の重要性を強調したのが印象深かった。
 アフリカでユムケラー事務局長のような指導者や人材がどんどん輩出されていけば、「アフリカが立ち上がる日」はそう遠くはないだろう、と感じた次第だ。

枢機卿の勢力図と「次期法王」

 ローマ・カトリック教会最高指導者ローマ法王ベネディクト16世は24日、新たに23人の枢機卿に任命した。これで枢機卿団(首席枢機卿アンジェロ・ソダーノ枢機卿)に所属する枢機卿の総数は11月24日現在、201人だ。ローマ法王を選出できる選挙会(コンクラーベ)に属する枢機卿は120人となった。選挙会には80歳以下の枢機卿が所属し、80歳を越えた枢機卿にはローマ法王を選出する選挙権がない。
 バチカン法王庁が公表した枢機卿の勢力図をみると、パウロ6世(在位1963年6月〜78年8月)が任命した枢機卿は7人、前法王ヨハネ・パウロ2世(1978年10月〜2005年4月)によって枢機卿となった数は156人で、枢機卿団の最大派を形成している。2005年4月に法王に就任したベネディクト16世が過去2年半で任命した枢機卿は38人となる。選挙会に所属する数でみると、ヨハネ・パウロ2世が任命した枢機卿の内、91人が選挙権を有し、ベネディクト16世の38人の枢機卿のうち、30人が選挙権のある80歳以下の枢機卿だ。
 次に、枢機卿の出身別(69カ国)をみていくと、最大の枢機卿数を誇るのは「エリート教会」と呼ばれる欧州教会出身で104人の枢機卿を抱える。そのうち、選挙権のある枢機卿数は60人だ。すなわち、今年80歳となった高齢のベネディクト16世に何かが起きた場合、次期ローマ法王を選出するコンクラーベに属する枢機卿の半数が欧州教会出身となる。欧州出身について多いのは北米出身の枢機卿だ。その数は26人で20人が選挙会に属する。一方、「貧者の教会」と呼ばれる南米出身の枢機卿は22人で、13人が選挙権を有している。
 ヨハネ・パウロ2世の死去直後、アフリカ出身のローマ法王の誕生が噂になったが、出身別をみると、アフリカ出身の枢機卿は18人。選挙会に属する枢機卿は9人に過ぎない。この数字からみると、アフリカ出身のローマ法王誕生は依然、時期尚早といえる。その点、次期法王も欧州教会から輩出される可能性が最も現実的だ。
 もちろん、ペテロの後継者選びには、枢機卿の出身者数が大きな影響を与えるが、決定的な要因ではない。ポーランド出身のヨハネ・パウロ2世が1978年10月、イタリア人以外としては455年ぶりにローマ法王に選ばれた時の事を思い出して欲しい。コンクラーベには「神のみ手」が働く、といわれるのも頷けるわけだ。

米国の対北政策の損益計算書

 全ての取引は買い手と売り手の間の駆け引きが重要だ。買い手が多い場合、売り手は少々高い値段をつけることが出来る一方、逆の場合、値段は下降していく、といった具合だ。
 この初歩的な原則に基づかない取引を最近、目撃してきた。北朝鮮の寧辺の再処理施設を視察した米国の核専門家使節団の1人が「何だこれは。廃棄物置き場に過ぎないではないか」と呟いたという。この廃棄物の停止、封印、無能力化のために、米国、韓国、中国、ロシアは重油100万トンを平壌に進呈することになったのだ(どのような理由からとは言え、日本が重油支援を拒否したのは、「さすがに経済概念がある」と評価せざるを得ない)。
 経済が少しでも理解できる人ならば、「これは損得を無視した取引だ」「北朝鮮は笑いが止まらないだろう」と考えるだろう。当然だ。世界の誰が廃棄物同然の対象物に重油100万トン相当を提供するだろうか(6カ国協議の参加国は後日、北朝鮮の要望を受けて、毎月5万トンの重油を提供、半分の50万トンは火力発電所の設備や資機材などで代替)。
 にもかかわらず、米国は1月、ベルリンの米朝会議で平壌側の要求をほぼ全て受け入れた。この取引は決して経済の原則には基づいたものではない。外交上の取引だ。
 もちろん、ブッシュ米政権は「廃棄物同様の再処理施設とはいえ、核兵器用のプルトニウムを生産できる。だから、同施設の停止、封印は北朝鮮の核施設の無能力化の一歩だ」と主張できる。
 しかし、ブッシュ政権が北の核施設の無能力化を本当に実現したいと考えるなら、金融制裁を継続しておけば良かったはずだ。金融制裁は効果を発揮していたからだ。それにもかかわらず、北朝鮮側の要求に応じ、凍結してきたマカオのバンコ・デルタ・アジア(BDA)の口座を解除し、重油100万トンのプレゼントまで付けたのだ。
 任期をあと1年余りとなったブッシュ政権にとって、北朝鮮の核問題は外交上、実績となり得る唯一の課題だ、と言われている。だから、ブッシュ政権の対北政策が損益勘定抜きの外交に変身していったのかもしれない。
 ブッシュ政権が経済的観点から「損得」を計算した上で、北朝鮮と核合意したと言い張るならば、米国は廃棄物の無能力化以外の利益を獲得しているはずだ。米国の対北取引での「損益計算書」を一度、見たいものだ。

バチカン、来年から実績給導入

 世界に約11億人の信者を抱える世界最大の宗派ローマ・カトリック教会総本山バチカン法王庁は今後、従来の10階級制の給料体制に加え、実績給を導入する計画だ。これはバチカン側が21日、公表した。
 それによると、将来の給料体系は「職務での努力、能力、効率性、慎重さ」を重視した実績給制を確立し、来年1月1日から段階的に施行する計画だ。それだけではない。指導層の新しい給料体制、超過勤務給なども刷新される予定だ。
 バチカン側の発表を職員、聖職者はどのように受け止めているのだろうか。実績給の導入に反対して、フランスの公務員のようにストを実施する計画とは聞かない。
 バチカンの給料制は昔の日本の会社のように 年功序列制に近い。上司の言われる通りに無難に職務をこなしていれば、年齢と共にその給料は上昇していく。だから、あえて他の職員より超過勤務したり、努力を払う、といった雰囲気はない。そんな温室的な環境で急に能率、実績が要求されれば、多くの高齢職員は戸惑ってしまうのではないか。他人事ながら心配になってくる。
 問題は、バチカンが何故、ここにきて実績主義、能率主義を給料体制に導入しようと考えたのかだ。温室育ちの職員を覚醒するためだろうか。バチカンの財政が厳しくなってきたのか。それとも、教会の教勢が頭打ちとなっている一方、聖職者の高齢化が進み、将来の年金体制に歪が生じてきたからだろうか、等、さまざまな考えが浮かんでは、消えていった。
 ところで、神に仕えるバチカン職員や聖職者の実績とは何を意味するのだろうか、といった素朴な疑問が出てくる。これまで2時間を祈祷に捧げてきた聖職者が1時間長く祈ることではないだろう。いずれにしても、バチカンも時代の流れとその要求を無視できなくなってきたわけだ。バチカンだけが例外という時代は既に過ぎ去った。

北朝鮮と「IAEAへの敷居」

 国際原子力機関(IAEA)の定例理事会が開催中の国連Cビルの4フロアに北朝鮮のヒョン・ヨンマン参事官(核物理学者)の姿があった。イランの核問題協議の動向に集中していた外交官やメディア機関の目には参事官の姿は入らなかったはずだ。
 声を掛けた。「北朝鮮の核問題の協議は昨日終わり、議長総括を採択しましたよ。議長総括が必要ならば、ありますよ」といった。参事官は「そんなものは関心がない。友人と会う為に来ただけだ」というと、エレベーターに乗って逃避行。一緒に一階まで降りて、話しかけてみたが、何時ものように沈黙するだけだ。
 北朝鮮がIAEAに対して余りいい印象をもっていないことは知られていることだ。同国は6カ国協議で合意した核施設の無能力化の検証作業にIAEAの関与を拒否している。エルバラダイ事務局長の訪朝でも、大歓迎というより、6カ国協議の合意を進めるための義務的な会談という印象が強かった。北朝鮮は過去、「IAEAは政治的に運営された機関であり、公平ではない」と批判してきた。
 北朝鮮はIAEA加盟国ではないが、理事会で北朝鮮問題が協議される時はオブザーバーとして参加できるものの、出席したことはない。北朝鮮外交官は「IAEA理事会でどのような協議が行われようが、どうでもいいことだ」と、強がりを言い続けてきた。その北朝鮮外交官がIAEA理事会の会議場に久しぶりに姿を見せたのだ。
 エルバラダイ事務局長は22日の冒頭声明の中で、「北朝鮮が核拡散防止条約(NPT)と保障措置協定に復帰することを期待する」と述べた。もちろん、事務局長の「期待」の背景には、6カ国協議が予想以上に順調に進展してきている、といった判断があったはずだ。
 ヒョン参事官の突然の出現は、北朝鮮にとってもIAEAへの敷居が次第に低くなってきたことを示唆するものだろうか。

バチカンのサッカー・リーグ戦

 当方はこのコラム欄で、「バチカン法王庁の新国務長官、タルチジオ・ベルトーネ枢機卿がバチカンにサッカーのナショナル・チームを創設する意向だ」と紹介したが、バチカンにクレリクス・カップ(Clericus Cup)が存在し、そのカップを目指して熱戦が始まっているとは、正直言って知らなかった。
 バチカン放送によると、リーグ戦は20日から2ラウンドが始まったという。リーグ戦には71カ国出身の19歳から57歳までの神学生、神父たちが、出身国別ではなく、機関所属別に分かれて戦っているという。
 バチカン放送は「クレリクス・カップ」の責任者の一人、法王庁信徒評議会局長のヨーゼフ・クレメンス司教にインタビューしている。特に、バチカンのお膝元、イタリアのサッカーリーグ、セリエAでスキャンダルな事件が頻繁に起きている時だけに、非常にタイミングの良い会見となっている。
 昨年ドイツで開催されたサッカー・ワールドカップ(W杯)でチャンピオンの栄光に輝いたイタリアだが、国内では醜聞が絶えない。2005〜06年のシーズンでは八百長疑惑が発覚して、ユベントスがセリエBに降格し、ライバルのACミランが得点でマイナスを課せられた。また、フーリガンの暴動が起きている。例えば、今月に入り、ユベントスとラツィオのファンが場外で衝突し、警察が発砲した弾がラツィオ・ファンに当たり、死亡したばかりだ。今年2月には、カターニア対パレルモ戦で暴動化したファンを鎮静化するために動員された1人の警察官がサポーターが投げた爆発物を受け、死亡している、といった具合だ。
 それだけに、「クレリクス・カップ」の意義について質問された司教は、「聖職者カップはキリストの教育原理を土台としている。選手が信仰者の場合、選手は人間が神によって創造された存在であることを知っている。だから戦闘精神で戦う一方、他の選手への尊敬心を失ってはならない」と説明している。
 ちなみに、バチカンはスポーツに関する初の法王文書の作成に乗り出しているという。スキー、テニス、陸上、自転車競技など、世界のスポーツ界は深刻なドーピング問題を抱えている。世界のスポーツ人は今日、悩んでいる。スポーツ記者時代、当方は「神に祈るボクサー」という小記事を書いたことがあるが、スポーツ界も「神」を再発見しなければならない時を迎えようとしている。

妻の看病の為に辞任した男たち

 ドイツのメルケル連立政権を支えてきたフランツ・ミュンテフェリング副首相兼労働社会相(社民党=SPD)が今月13日、がんと闘う夫人の看病に時間を注ぐ為に辞任を表明した。その数日後、今度はドイツのサッカー1部リーグ(ブンデスリーガ)ハンブルガーSVのフーブ・ステフェンス監督(53)が「妻の看病(オランダ・アイントホーフェンの病院で入院中)のために退団を決意した」と述べ、「来季は故郷に戻り、PSV(オランダ)を率いる」と語った。ハンブルガーSVは今季、3位と好調な出足だ。それだけに、クラブ側も必死に慰留に努めたが、監督の退団決意は固かった。
 ミュンテフェリング氏(67)は「状況が改善すれば、また政界に復帰したい」と述べ、妻の回復に期待を吐露している。一方、ステフェンス監督は「サッカーの監督とは違い、(看病は)決して楽しいものではないだろうが…」と少々無念の思いを示唆していたのが印象深かった。両者とも「病に倒れた妻」「家族の為に」というのが辞任理由だった。
 ドイツ政界の主要政治家・ミュンテフェリング氏の場合、閣僚会議や党幹部会への出席は義務だが、病院とベルリンの間を行き来する生活は大変だ。だから、「最も重要な事の為に、時間を投資したい」として辞任を決めたわけだ。ステフェンス監督も同様だろう。チームを率いて試合している中、病の妻を看病するためにオランダに飛び返っていく時間は限られている。
 米国でも政治家や実業家たちが「妻、家族ともっと多くの時間を持ちたい」という理由でポストを辞任したり、退職するケースは結構ある。ただし、男は仕事に専念し、妻は家庭を守る、といったパターンは古くなったかもしれない。妻が外で活躍し、夫が家族を世話する、といった家庭も少なくないはずだ。ただし、夫でも妻でも、その一方が病に倒れた場合、夫は、妻はどうするだろうか。仕事に生甲斐を感じてきた矢先に、その職場から撤退する、ということは、夫であれ、妻であれ、厳しい決断を強いられることになるだろう。
 ドイツ政界の重鎮の一人が「妻の看病のため」と全ての政治ポストを投げ捨て、好調なチームを率いてきた監督が妻の緊急入院を受け、「妻の傍にいたい」と考えて、退団を決める。本人には申し訳ないが、何か清清しい思いにさせられた。何故だろうか。2人の男たちの決断には、「家族が、自分の伴侶が最も大切な存在である」という熱いメッセージが含まれているからだ。妻を愛する2人の男たちの健闘を祈りたい。

中国、新教徒への弾圧強化

 米国に拠点を置く「中国援助協会」が先日明らかにしたところによると、中国共産党は「敵対的影響を阻止」するために、国内のプロテスタント(新教徒)に対し、官製の愛国会に併合するか、活動を中止するかの選択を強要していく方針を明記した秘密文書をまとめている。
 それによると、「新教徒の不法な集会などを厳しく監視していくために、宗教省と治安部署が連携を強化していく」と記述されている。同文書は今年7月に施行されており、「国内の5000万人のプロテスタントの正常化への処置」という題名がついているという。
 中国では宗教弾圧は日常茶飯事のことだ。例えば、同国湖北省で、非公認教会の指導者9人が個人宅で日曜礼拝を実施していたとして拘束され、中国内モンゴル自治区では地下カトリック教会の神父4人が7月、公認の愛国会に加盟拒否したとして逮捕されている。また、無許可で聖書を頒布したとして、中国の地下プロテスタント教会指導者が禁固3年の刑に処されている(9月10日に釈放)。
 イタリアのメディアが「北京五輪で聖書の使用が禁じられ、外国旅行者も聖書持ち込みが禁止された」と報じたが、中国外交部報道官は11月8日、「中国政府は在留外国人の信教の自由を尊重し、法に基づき保障している」と説明、メディア報道を懸命に否定するなど、欧米諸国の批判に対して、神経質になってきている。ちなみに、中国では、公認教会だけが宗教書や教会関係文書の印刷と配布が認められることになっているという。
 なお、中国政府公認の「愛国会」は9月21日、北京教区の大聖堂で、4月に死去した傅鉄山司教の後任に選ばれたジョゼフ李山司教の叙階式を行ったばかりだ(ベネディクト16世は、中国共産党官製のカトリック愛国会が任命したジョゼフ李山司教を承認することを示唆したが、正式には承認していない)。
 その一方、ベネディクト16世が6月30日、中国のカトリック信者向けに「中国人への書簡」を公表したが、官製「愛国会」関係者は信者への配布を拒否。その理由は「インターネット上で読むことができる」というものだった。しかし、中国当局はインターネット会社に圧力を行使してネット上からローマ法王の書簡の削除を命令している、といった具合だ。
 北京五輪を控え、中国共産党政権は欧米諸国の宗教弾圧という批判を回避するため表面上は柔軟の姿勢を見せてきているが、当局の管轄外の宗教団体や信者に対しては以前以上に厳しく弾圧を繰り返している、というのが現実だろう。
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