ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2007年06月

北朝鮮と「記者会見」

 北朝鮮が海外で記者会見を開くことは非常に稀だ。当方は過去20年間で3度、駐オーストリアの北朝鮮大使館主催の記者会見に参加したことがあるだけだ。
 その非常に稀な記者会見がなんと6月21日午前(現地時間)、開催されたのだ。残念だったが、当方が記者会見を知ったのは会見数時間後だった。4度目の参加を逸したわけだが、ロイター通信が流した記事を読んで、どうしても首を傾げざるを得なくなった。「ヒョン参事官は本当にこのように発言したのか」という疑問が湧いてきたのだ。
 国際原子力機関(IAEA)担当のヒョン参事官は「マカオの銀行で凍結が解除され、ロシアの北朝鮮の口座に送金される予定の北朝鮮関連資金2500万ドルが口座にまだ届いていない」と述べ、「われわれはIAEAが予定している訪問を公式に確認する用意はできていない」と付け加えた。ロイター通信は「IAEA実務協議団の訪朝日程を保留」といった見出しを付けて流している。日韓メディアはそのウィーン発ニュースを流している。
 記者会見に参加した記者からヒャン氏が配布したという記者用コミュニケを入手し、読んでみた限りでは、ロイター通信の報道は間違いない。問題は、記者会見が開催された同日、ヒル米国務次官補が平壌入りしている。朝鮮中央通信社はヒル訪朝を即報道し、歓迎ムードが流れていた。その時、ウィーンの北朝鮮大使館で突然記者会見が開かれ、発表された内容は平壌から伝わってくる情報内容とは明らかにズレがあるばかりか、歓迎ムードに水をさしかねないものだった。
 そこで知人の北朝鮮外交官にヒョン参事官の記者会見の背景について、それとはなく聞いてみた。知人は「記者会見の発表内容は既に賞味期限が過ぎた古い情報だ。ヒョン参事官は平壌から送られてきた古い情報を再検討することなく、言われたまま記者会見で公表したのだ」と説明してくれた。普通では考えられないミステークというわけだ。
 ヒョン参事官が記者会見で示唆した「IAEAの訪朝日程の変更」はもちろんなく、予定通りにハイノーネンIAEA事務次長らは6月26に平壌入りした。ヒョン参事官は平壌指導部の杜撰な情報管理の犠牲者に過ぎなかったのだろうか。
 参考までに、駐中国の北朝鮮大使館で26日、記者会見が開かれ、日本人が拉致した北朝鮮人女性の会見が行われた、というニュースは入ってきた。韓国メディアによると、質疑応答の時間を与えず、自称、日本人に拉致された北朝鮮女性の一方的な発言で終始したという。そのため、韓国メディアは「北朝鮮大使館の生半可会見」という見出しをつけ、少々揶揄しているほどだ。
 北朝鮮が積極的に「記者会見」を開くことは大歓迎だが、同国はその前に、「記者会見」のノウハウを学ぶ必要があるのではないだろうか。

ああ、美しき青きドナウよ

 「ワルツの王」と呼ばれるヨハン・シュトラウス2世(1825〜1899年)が世界的に有名なワルツ「美しき青きドナウ」を作曲して今年でちょうど140年目を迎えた。シュトラウスが41歳の時の作品だ。ウィーン男性合唱団用に作曲された「美しき青きドナウ」は今日、楽友協会で毎年元旦に挙行されるウィーンフィルのニュー・イヤー・コンサートのテーマ曲となっている。ウィーンっ子はこのワルツを聴くと、「ああ、新年を迎えた」といった感慨を覚えてしまう。「美しき青きドナウ」はオーストリア国民にとっては第2の国歌と呼ばれているほどだ。
 ただし、同ワルツは公演当初、あまり評価は良くなったという。国民的人気を博するのは少し後でだ。モーツアルトの音楽がプラハで評価された後、ウィーンの貴族に受け入れられたように、音楽の都ウィーンは新しい嗜好や斬新なテーマには直ぐに拒絶反応を起こすほど、余りにも保守的な社会なのかもしれない。ちなみに、同時代の作曲家ヨハネス・ブラームスは「美しき青きドナウ」に感動して、「残念ながら、この曲はブラームスの作品ではない」と嘆いたといわれている。
 ところで、ドナウ川は、スイス山岳地域、ドイツのバイエルン、オーストリア、ハンガリー、ユーゴスラビア、ルーマニア、そしてブルガリアを経て黒海に流れこむ。全長約2780キロの国際河川だ。ドナウ川流域には約8100万人が住み、貴重な水源となってきた。
 シュトラウスのワルツには詩人ゲルネルトの作詞が付けられているが、それによると、 「ドナウよ、美しく青いドナウよ、谷を越え、牧場を越え、静かに流れる」といった牧歌的な内容だ。
 現在のドナウ川は140年前の「美しき青き」といった川ではなくなった。水質汚染、化学汚染などが明らかになっているほか、最近では河水から麻薬汚染も検出されているほどだ。そのため、ドナウ川保全国際委員会(ICPDR)は6月29日を「ドナウ川の日」と指定し、川の保護を訴えている。
 シュトラウス2世が生きていたならば、現在のドナウ川をみてどのようなワルツを作曲できただろうか。

「歴史」と情報の発信量

 米下院外交委員会で日本軍の慰安婦問題に関する対日謝罪要求決議案が採択された。誤解を覚悟のうえで言えば、日本政府の努力にもかかわらず、決議案が採択された主因は、日本側の情報発信量が反日関係者のそれより少なかったからだ。
 米下院外交委員会のメンバーが日韓中の歴史書を読み、慰安婦問題に精通していたとは思わない。彼らは日本軍の戦争犯罪を訴える側の情報を聞いてきたのだ。その物語、生き証人の話を聞いてきたのだ。もちろん、日本側も反論してきたが、日本側は「反論」という形でしか情報を発信していない。自民党有志議員の米紙ワシントン・ポストへの全面広告にしても、決議案の採択阻止を目指す一時的努力に過ぎなかったから、同広告は米下院外交委員会メンバーの印象をもっと悪くしただけだった、という声を聞く。
 歴史は国の数ほどある。「歴史の共通認識」といった考えは残念ながら非現実的だ。日本政府は過去、軍主導の慰安婦は存在しなかったという主張をどれだ世界に発信してきただろうか。ウィーンに居住している当方ですら、日本側の努力の欠如を感じる。韓国政府は今年に入って「日本海の呼称問題」と「慰安婦問題」で自国の主張をアピールするためウィーンまで来て講演会、セミナー、劇の上演をした。その努力には頭が下がる。それに対し、駐オーストリアの日本大使館関係者は何をしたのか。何もしていない。
 「そんなことに一々対応できない」という、もっともらしい言い訳は聞く。その姿勢こそが今回の米下院外交委員会の決議案採択をもたらしたのだ。韓国、中国は相手側の反論など関係なく、自身の主張を倦むことなく訴え続ける。彼らは主張することに疲れない。相手側が自身の主張を受け入れるまで努力する。一方、日本側は事態の深刻さを理解していない、といわれても仕方がないだろう。
 是非は別として、現代社会は情報の発信量が決定的要因となる時代だ。嘘も何百回も発信続ければ、市民権を得るような社会だ。そのような世界で「わが国の考えこそ歴史的事実だから、いつかは理解されるだろう」といった鷹揚な態度を続けている限り、第2、第3の反日決議案が採択されていくだろう。
 繰り返すが、歴史は情報の発信量によって記述されていく。南京大虐殺事件にしても慰安婦問題にしても、日本政府は平時、自国の見解を世界に向かって発信し続けていかない限り、「日本軍の慰安婦制度は20世紀最大の人身売買だ」として世界史の中に定着していくだけだ。
 日本側は「相手が理解してくれるだろう」といった相手の善意任せの思考体系から脱皮すべきだ。これが今回の決議採択からの教訓ではないか。世界は今、情報戦の最中なのだ。

驚くべき現実

 長く生きていれば、驚く事も次第に少なくなり、全ての事に諦観が先行してしまう。そんな年齢に入ったと思い、初老の心境に浸っていた当方に驚くべき情報が流れてきたのだ。厳密にいえば、驚いたというより、「これからどうなるのだろうか」といった不安が出てきたのだ。
 オーストリア統計局が公表したところによると、オーストリアで昨年度、離婚率が48・9%となり、2組に1組の夫婦が離婚したという。音楽の都ウィーンをみると、状況はもっと深刻で、ほぼ3組に2組の夫婦(65・85%)が離婚しているのだ。離婚が多いことは知っていたが、統計で実態を聞くと、唖然としてしまう。
 昨年度の離婚件数は2万336件。前年度比で883件増、4・5%増を記録したのだ。2005年度の離婚率は46・4%で新記録を樹立したばかりだだったが、あっさりと抜いてしまったわけだ。ちなみに、1991年度の離婚率は3組に1組だったから、この15年間で離婚が急増したことが分かる。
 離婚夫婦の平均結婚年数は9年間で、05年比で0・2年短くなっている。離婚夫婦の3分の1は結婚5年以内に。10分の1は結婚25年以後に離婚し、結婚50年後に別れたカップルも11組いたという。いわゆる熟年離婚が結構多いのだ。
 大多数の離婚(88・1%)は双方が了承して成立しているが、2万787人の子供が両親の離婚の犠牲となっている。その内、72・3%の子供はまだ幼児だ。離婚した夫婦の昨年度合計特殊出生率は1・02人。離婚時の平均年齢では、女性側は38・8歳、男性はそれより2歳半、上だった。
 以上、オーストリア通信(APA)が25日に流した記事を紹介した。当方の周辺にも離婚した男性、女性は多い。離婚増加の主因として、女性の社会進出、それに伴う、女性の自立性の拡大など、さまざまな理由が考えられている。社会学者の中からは「結婚制度はもはやその魅力を失った古いシステムだ」という声も聞く。われわれの時代は「結婚」「家庭」という社会の基本的な枠組みの存続が問われている。

平壌空港での人違い

 韓国の金大中大統領(当時)が2000年6月、平壌の空港に到着した時、出迎えたのは最高人民会議の金永南常任委員長ではなく、北朝鮮最高指導者・金正日労働党総書記本人だったという話は、金総書記の巧みな人心掌握術を物語る実例として、もはや伝説になっている。
 さて、AP通信社は26日、平壌の空港で国際原子力機関(IAEA)のハイノーネン事務次長(査察局長)を出迎えるシーンを撮った写真を世界に配信した。日本でも朝日新聞が27日付けの国際面の中でその写真を掲載している。
 ところで、AP通信社の写真の絵解きを見て、ビックリした。絵解きが「ハイノーネン事務次長を出迎えた李原子力総局長」となっていたのだ。しかし、写っている人物は李原子力総局長ではなく、同原子力総局で勤務する孫文山氏なのだ。
 報道カメラマンにとって、撮影した人物の名前を間違うということは初歩的なミスといわれてもしょうがない。
 プロトコールからみた場合、ハイノーネン事務次長の会談相手は李済善総局長だ。金総書記と同じように、同総局長自身が空港に出迎えに現れても不思議ではない。そんな判断がどこかにあって、絵解きの際、人物名を間違ったのかもしれない。
 孫氏は数年前まで駐IAEA担当参事官としてオーストリアの同国大使館に勤務をしていた人物だ。本来は外交官ではなく、原子力分野の科学者だ。ハイノーネン事務次長とも面識がある。だから、AP通信カメラマンが親密に挨拶を交わす両者をみて、先述したようなミスを犯したのかもしれない。もちろん、その絵解きでAP通信社の写真を掲載した朝日新聞社などメディア機関は訂正記事が必要だろう。
 孫氏は口数の少ない人物だ。当方は当時、同氏に何度も会見を申し込んだが、いつもやんわりと断れてきた。英語は流暢ではなかったが、常に笑顔を失わない紳士だった。
 AP通信社が配信した写真をみながら、「孫さん、少し瘠せましたね。ウィーンでまた会いたいですね」と呟いていた。

湿っぽい歓送会見

 ウィーンのホフブルク宮殿で26日、グアテマラ市で開催される国際オリンピック委員会(IOC)総会(7月4日)に参加するオーストリア代表団の歓送記者会見が挙行された。
 同総会では2014年冬季五輪開催地が決定される。最終候補地として、ロシアのソチ市、韓国の平昌市に加え、オーストリアが世界に誇るブランド、モーツアルトの生誕地ザルツブルク市が立候補している。
 記者会見には、フィッシャー大統領、グーゼンバウアー首相、スポーツ担当のロパトカ次官、同国IOC委員のヴァルナー会長のほかに、ザルツブルク州のブルグスターラー知事、シャーデン・ザルツブルク市長が参加した。
 フィッシャー大統領は「公平で客観的な決定が下されることを期待する。ザルツブルク市は冬スポーツのメッカであり、経験、インフラ全ての点からみても五輪開催地の資格を有している」と強調。一方、グーゼンバウアー首相は「ザルツブルク市は国際イベントを挙行するのに相応しい安全な都市だ」と指摘し、北朝鮮と対峙する韓国の平昌市やロシアの治安状況を間接的に言及しながら、ザルツブルク市がいかに安全な都市かを宣伝。その上で「政府はザルツブルク市を100%支援している」と表明した。同首相は団長としてグアテマラ市に乗り込む。
 ヴァルナー会長は「ロンドン市が2012年夏季五輪開催地に選出された大きな理由は現地入りしたブレア英首相の功績だ。ブレア氏の持つ親密感がIOCメンバーの心を動かした。グーゼンバウアー首相もブレア首相に負けない親密感があるだけに、グアテマラでは多くのIOCメンバーと接触していただいて、ザルツブルク開催に誘導してもらいたい」と首相にエールを送ると、首相は少し笑いながら、直ぐに考え込む表情をした。
 当方の隣りにいたオーストリアのスポーツ記者は「当たり前だろう。ザルツブルク市が敗北した場合、グーゼンバウアー首相の親密感の欠如が理由だと批判されかねないからね」と説明してくれた。
 代表団を派遣する歓送会には通常、「がんばれよ」「勝つぞ」といった威勢のいい檄が飛び出すものだが、ウィーンの歓送会見の雰囲気はもうひとつ元気がない。それにはちゃんとした理由がある。トリノ冬季五輪(06年)でオーストリアのスキー距離、バイアスロンの6選手がドーピング事件に関与したとして、IOCが4月、6選手の永久追放を決定する一方、5月24日、オーストリアのオリンピック委員会に100万ドルの罰金を科したばかりだ。IOC関係者の間では「これでザルツブルク市の勝利の目はなくなった」と受け止めている。歓送会が湿っぽくとなるのも当然かもしれない。
 当方は歓送会前にヴァルナー会長に会って聞いてみた。「会長、今回も難しいですね」と話し掛けると、会長は「厳しいのは事実だが、君、ザルツブルク市のチャンスはまだあるよ」という。しかし、会長の口からは「勝利する」という言葉は最後まで飛び出さなかった。

加盟国の支払いモラル

 ウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)の工業開発理事会(IDB、53カ国))第33会期が25日から3日間の日程で開幕した。当方が入手した2006〜07年予算報告書によると、米国の脱退後(1996年)、日本の分担金率は22%で約1660万ユーロと最大分担金拠出国だ。次いでドイツが12・6%で約950万ユーロ、第3はフランスで8・8%、660万ユーロと続く。日本が分担金率でドイツ、フランス両国を合わせたより多いわけだ。
 次に、駐ウィーンのUNIDO職員(654人)の出身国別をみると、日本人職員数は18人。ドイツ人職員数(22人)、フランス人(27人)は日本人職員数より多い。ちなみに、職員数が最も多い国はホスト国のオーストリアで212人とダントツだ。インド人職員(35人)、イタリア人(34人)、フィリピン人(28人)、英国人(27人)は職員数で日本を大きく上回っている。なお、中国人は14人。脱退した米国人は10人となっている。換言すれば、分担金率から見た場合、UNIDOの日本人職員数は極端に少ないことが歴然としている。
 ところで、分担金支払い状況をみると、加盟国(172カ国)の支払いモラルは決して高くない。分担金未払い総額は1億1400万ユーロ。その中には、脱退前の米国の未払い総額が6900万ユーロと旧ユーゴスラビア連邦の約200万ユーロが含まれているから、実質未払い総額は両国の額を差し引いた約4700万ユーロ。06〜07年両年の未払い総額は475万ユーロだ。未払い総額で最も多い国は米国を除くと、ブラジル(分担金率は約2・2%)の2304万ユーロだ。
 ちなみに、UNIDOは1986年から昨年末までに北朝鮮に対して78件の支援プロジェクトを推進し、その支援総額は約3000万ドル(約34億8000万円)にもなる。その内、15のプロジェクトが現在も進行中だ(モントリオール・プロトコール基金の拠出プロジェクトが増えている)。
 一方、北朝鮮の分担金(0・015%)の未払い総額は1万750ユーロになる。ここでも、北朝鮮は国際社会から支援を享受する一方、加盟国の義務を軽視しているわけだ。
 なお、公平を期すために付け加えれば、米国は脱退前の分担金未払い分を払うべきだ。

洗礼ヨハネの生誕日

 世界に11億人の信者を抱えるローマ・カトリック教会は24日、ローマのバチカン法王庁で洗礼ヨハネの生誕日を祝った。ローマ法王ベネディクト16世は「洗礼ヨハネは真理の為に一切の妥協を拒否した」と述べ、洗礼ヨハネの功績を高く評価する見解を表明している。
 「洗礼ヨハネって誰?」という声もあるだろうから、ここで少し紹介する。新約聖書をみると、祭司長ザカリアとエリザベトとの間に生まれた人物で、若い時からその信仰姿勢は誉れ高く、ユダヤ教徒の間では「ひょっとしたら、彼こそは来るべき方(キリスト)ではないか」と囁かれてきた。そして、ヨルダン川ではイエスと会い、「この人(イエス)こそ来るべき方(キリスト)」と証をしたが、当時の領主へロデの結婚を批判したため、獄中に囚われた。そして最終的には、首を切られて死ぬ。ちなみに、洗礼ヨハネの最後の場面をオスカー・ワイルドが「サロメ」の中で描いている。
 ベネディクト16世は「洗礼ヨハネは旧約聖書と新約聖書のクリップのような役割を果たした」と見て、「神の戒めを守る為に自身の生命をも投げ打った」として、洗礼ヨハネの獄死を殉教と受け取っている。キリスト教会では通常、洗礼ヨハネは大預言者として尊敬されている。
 洗礼ヨハネの使命について、イエスは「この人(洗礼ヨハネ)こそは、きたるべきエリアなのである」(マタイによる福音書第11章14節)と述べ、洗礼ヨハネを「エリアの再臨」と明確に語っている。問題は、洗礼ヨハネが「キリストの降臨を準備するエリアの再来の使命を果たしたか」という点だ。
 新約聖書を読む範囲では、洗礼ヨハネがイエスと共に福音を伝播していったという記述はない。洗礼ヨハネの最後の言葉は、「来るべき方はあなたなのですか。それとも、ほかに誰かを待つべきでしょうか」(同福音書第11章2〜3節)であり、イエスがキリストである事に対して、明らかに確信を失っている内容だ。ベネディクト16世は「真理の為に一切の妥協を拒否した」として、洗礼ヨハネを称賛しているが、ヘロデの結婚問題で獄死することが、エリアの再来だった彼の使命と、どのように一致するのだろうか。
 イエスの十字架の道を正しく理解するためには、洗礼ヨハネの生涯を再検討する必要があるのではないか。「洗礼ヨハネ=大預言者」といった既成の理解では、洗礼ヨハネの獄死後のイエスの言動を理解できないのではないだろうか。

聖母マリアの「第2キリスト」論

 ローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王ベネディクト16世が近日中に聖母マリアをイエスに次ぐ「第2のキリスト」(救い主)に規定する新しいドグマ(教義)を公表すると報道されたことに対し、バチカン法王庁のフェデリコ・ロンバルディ報道官は21日、「まったく根拠のない報道」と一蹴した。
 「聖母マリアの第2キリスト論」は決して新しいものではない。米週刊誌ニューズ・ウィークが10年前、「(当時の)ローマ法王ヨハネ・パウロ2世が聖母マリアをイエスに次ぐ第2のキリストとするドグマを宣布する」と報じたことがある。その度に、バチカン法王庁は否定してきた。「聖母マリアの第2キリスト」説は、ピウス12世が1950年、「聖母マリアの肉身被昇天」を宣言するなど、教会内では度々囁かれてきたものなのだ。
 前ローマ法王ヨハネ・パウロ2世時代には世界のカトリック教信者たちが「聖母マリアを第2のキリストに」という署名運動を行ったほどだ。聖母マリアを崇拝する聖職者や信者たちは「聖母マリアは救い主イエスが行った救済活動に仲介者として深くかかわり、自身は、神の娘、イエスの母、聖霊の相対者といった多重の使命を帯びていた」と主張する。神学の中でも「聖母マリア学」といわれる内容だ。もちろん、その内容は聖書の記述に基づく教義というより、聖職者、信者たちの聖母マリアへの信仰告白に近いものだ。
 聖書では「神と人間との間の仲保者もただ1人であって、それはキリスト・イエスである」(テモテへの第1の手紙第2章5節)と記されているから、聖母マリアを救い主イエスと同列視する教義は明らかに聖書の内容と一致しない。ちなみに、ポーランド教会の聖母マリア信仰については、「外国勢力に過去3度、領土を分割されたポーランド民族の苦渋を慰め、癒してくれる母親として聖母マリアを多民族以上に必要としてきた」と受け取られている。
 キリスト教社会で長い間、神は父性であり、義と裁きの神であったが、慰めと癒しを求める信者たちが、母性の神を模索しだした。その意味で、聖母マリアは第2のキリストとして母性の神を代行してきたわけだ。ある神学者は「イエスが結婚して妻をめとっていたならば、イエスの家庭で神の父性と母性の両方の格位が完成していただろう。聖母マリアの第2キリスト論の背景には、イエスが結婚できなかった悲劇が隠されている」と分析している。

護衛兵とイスラム教

 ウィーン市のマリア・テレージエン兵舎勤務の護衛兵の約40%はイスラム教徒であるという。オーストリア日刊紙「クリア」のトイレツバッハー記者が21日、調査結果を報道したばかりだ。
 オーストリアはローマ・カトリック教を主要宗派とするキリスト教国だが、他の欧州諸国と同様に近年、イスラム教圏からの移住者、難民が殺到してきた。国内には約40万人のイスラム教徒が住んでいる。人口比にすれば、5%前後だが、イスラム系住民の増加率は年々、増加している。ただし、オーストリア連邦全土からみると、兵役義務者の約3・5%がイスラム教徒に過ぎない。それにしても、ウィーン市の護衛に当たる兵士の40%がイスラム教徒という事実は小さな驚きだ。
 同記者が指摘するように、ローマ法王ベネディクト16世など世界の首脳の訪問時にその護衛を担当する部隊だ。マリア・テレージエン兵舎でイスラム教徒の護衛兵が多い理由として、国防省の説明では、「イスラム教徒の兵士用の祈祷室がある唯一の兵舎だからだ」という。
 欧州連合(EU)の加盟国で女性が出産する子供の数、合計特殊出生率は年々、低下している。例えば、オーストリアでは昨年度、1・41だった。例外は、フランスなど、ほんの一部で、大多数のEU加盟国は少子化現象に直面している。東欧諸国の新規加盟国では、少子化は旧加盟国以上に深刻だ。
 その一方、欧州に移住するイスラム教徒の数は年々、急増している。欧州居住のイスラム教徒数(ユーロ・イスラム)は1400万人に及ぶと推定されている。ドイツやスイスで既に表面化しているように、殺到するイスラム教徒を迎える欧州側では、イスラム寺院、ミナレット(塔)建設問題などが大きな政治問題となっている。
 ローマ・カトリック教会の総本山バチカン法王庁のお膝元、イタリアでは、イスラム教は第2宗教となって久しい。欧州だけではない。イエス生誕の地ベツレヘム市では80%以上がイスラム教徒であり、キリスト教信者数は10%前後と少数派に過ぎない。その意味で、イスラム教徒の拡大は欧州だけではなく、世界的な現象と考えることができる。
 ウィーン兵舎でイスラム教徒の護衛兵が全体の40%を占めるという事実は、イスラム教徒の攻勢に守勢を余儀なくされているキリスト教社会の縮図を見る、という意味で注目されるわけだ。
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