ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2007年05月

北朝鮮取材と「溜息」

 欧州での北朝鮮の動向をフォローしだしてから十数年になるが、北朝鮮関連の取材は一言でいえば、骨が折れる仕事だ。情報の確認がほぼ不可能だからだ。1980、90年代はそれだけではなく、生命の危険も考えなければならなかった。
 北朝鮮の米ドル偽造問題や同国の欧州唯一の直営銀行「金星銀行」について記事を書いた時など、必ずといっていいほどさまざまな反応があった。1週間ほど毎朝7時に無言電話(「北のモーニング・コール」参照)がかかってきたし、チェコのプラハ取材に出かけ時は3人の北工作員につけられたこともある(「北朝鮮工作員」参照)。今となっては全てが懐かしい思い出だが、当時は緊張したものだ。
 北朝鮮外交官や同国ビジネスマンとの接触は本当に難しい。電話で会見の約束を取ることはほぼ不可能だ。だから、国連会議に出席する北朝鮮外交官を見つけたならば、突撃して話し掛ける以外に方法はない。ラッキーな場合、少しは質問できるが、多くは逃げられる。この状況は今でも大きくは変わらない。
 当方は白南淳外相(故人)とのインタビューのために駐オーストリアの北朝鮮大使館にビザを申請したことがあるが、あっさりと断られた。窓口の北朝鮮外交官曰く、「君の名前はわれわれのブラック・リストに載っている。査証発行は考えられない」と説明してくれたものだ。
 駐オーストリアの金光燮・北朝鮮大使(金正日労働党総書記の義弟)とは14年間の付き合いとなる。大使も他の外交官と同様に、当方を好ましくないジャーナリストと思っているが、欧州滞在歴が長い大使はジェントルマンだ。礼を尽くして質問すれば、答えは帰ってくる。大使の持病の心臓病について尋ねれば、大使も「ありがとう。だいぶ良くなったよ」という答えが返ってくるようになった。それまで、数年の年月がかかった。
 最近、金正日総書記の海外資金の管理人、権栄緑氏のアパートを訪問した時だ。もちろん、アポイントは取っていない。戸のブザーを押すと、権氏が出てきた。74歳の高齢の同氏は当方の顔を見ると、「何しにきたのだ」と喧嘩腰だ。当方が「できましたら、少しお話をしたいのですが」というと、権氏は顔色を変え、「馬鹿野郎」と罵声を飛ばすと、戸を“バタン”と閉めてしまった。約束もなく訪問した当方が悪いのだが、きつい反応だ。もちろん、権氏にしてみれば、ウィーンの秘密のアジトに日本人記者が前触れもなく訪れれば、堪ったものではないだろう。
 当方は深い溜息をつきながら歩き出す。北朝鮮取材は、「忍耐」とこの「溜息」の繰り返しである。

法王、ラテン語ミサを承認

 「ラジオ・バチカン」が17日伝えたところによると、ローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王ベネディクト16世は教会の近代化を決定した第2バチカン公会議前の礼拝形式(ラテン語ミサ=トリエント・ミサ)の復活を承認する。
 目的は明確だ。第2バチカン公会議で決定したラテン語ミサ廃止に反発してきた教会内根本主義勢力、聖職者の復帰を促すことにある。例えば、カトリック教会の根本主義者、フランスのマルセル・ルフェーブル枢機卿が創設した聖職者グループ「兄弟ピウス10世会」はラテン語の礼拝を主張し、第2バチカン公会議の決定事項への署名を拒否する一方、教会の改革を主張する聖職者を「裏切り者」「教会を売る者」として激しく糾弾してきた。ルフェーブル枢機卿は当時のローマ法王ヨハネ・パウロ2世の強い説得を無視して4人の聖職者をバチカン法王庁の許可なく任命したため、破門を受けている。
 同枢機卿が破門された時、同枢機卿に従った聖職者は約170人。同枢機卿と共に破門宣言を受けた聖職者は17人、神学生約20人に過ぎなかったが、今日、「兄弟ピウス10世会」に所属する聖職者数は約300人、修道僧79人、修道女300人、神学生200人、そして信者数は数10万人と推定されるほど、勢力を拡大してきている。特に、フランス、米国、ブラジル、イタリア、スカンジナビア諸国、オーストラリア、中国などでラテン語ミサへの関心が信者の間でも高まってきているという。
 当方は昨年12月6日、「バチカンとルフェーブル派の和解へ」というタイトルのコラムの中で言及したが、ベネディクト16世は法王に就任後、「兄弟ピウス10世会」の現リーダー、ベルナール・フェレイ司教と会談するなど、ラテン語ミサの復活に向け水面下で交渉を進めてきた経緯がある。
 バチカン内や教会内では、「ラテン語ミサの復活は時代錯誤で、信者離れが加速するだけだ」といった懸念の声も聞かれるが、ベネディクト16世自身は、ラテン語ミサに回帰するというより、「カトリック教会の精神的糧となってきたラテン語ミサの素晴らしさを生かしたい」という考えが強いという。すなわち、現行の礼拝ミサ形式を継続する一方、ラテン語ミサを復活させたいというわけだ。
 ただし、ルフェーブル派の復帰が実現するば、カトリック教会内の保守派勢力が一段と強化されることで、イスラム教との対話や教会内の改革派グループとの関係が更に難しくなると予想される。

北朝鮮のPOPs問題

 残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs)について、当方は最近、国連工業開発機関(UNIDO)のモントリオール・プロジェクト(MP)担当のヤン・ガヨブスキー博士から簡単なブリーフィングを受ける機会があった。ストックホルム条約は2001年5月に採択され、04年5月に発効した。昨年3月現在で151カ国が署名し、118カ国が締結している国際条約だ。
 POPsとは、毒性が強く、分解が困難で長期間、人体や環境に悪影響を与える化学物質だ。ダイオキシン類やDDTだ。例えば、DDTは有機塩素系の農薬でPOPsの規制対象物質だ。日本では1971年に使用が禁止されたが、同条約に加盟している北朝鮮はDDTをまだ使用しているという。
 博士は「POPsの怖さは、悪影響が一国だけに留まらず、地球全土に拡大することだ」という。平壌がDDTの使用を中止しなければ、土壌が汚染し、その影響は時間の経過と共に他国にも拡大する。簡単にいえば、北朝鮮のPOPsは偏西風やグラスホッパー現象などを通じて日本にも影響を与える。日本で久しく使用されていないPOPsが国内の土壌から検出されたということが度々起きる理由だ。その意味で、POPsは国際規制が不可欠となるわけだ。
 急速に経済発展する中国の環境汚染問題は最近、大きく報道され、その影響はアジア近隣諸国だけではなく、地球規模に及ぶと指摘され出した。大気汚染から水質汚染、土壌汚染まで、その汚染影響は計り知れない。
 一方、北朝鮮の環境汚染問題はメディアにはこれまで余り話題にならなかった。北朝鮮は昨年1年間だけでも4件のモントリオール・プロジェクト基金に基づく技術支援を受けている。北朝鮮国内のPOPs汚染の現地調査をしてきたガヨブスキー博士は「北朝鮮の水質汚染はひどい。POPs汚染はそれ以上に深刻だ」と警告を発している。

注:「グラスホッパー現象」…蒸発、凝結を繰り返し、徐々に極域へ移動する現象(外務省「ストックホルム条約」より)

「16歳の選挙権」を問う

 オーストリアで次期国政レベルの選挙から有権者の選挙権年齢が従来の18歳から16歳に引き下げられる見通しとなった。27カ国からなる欧州連合(EU)では最年少の選挙権となる。
 同国では社会民主党と国民党の大連立政権ばかりか、野党からも「16歳の選挙権」に異議を唱える声を余り聞かないが、当方は正直言って、「16歳が選挙権を正しく行使できるか」という素朴な疑問を抱く。
 当地の教育システムからみて、小学校を卒業して4年間の中等学校に通った後、14歳で仕事につくケースがある。そして社会では、仕事に従事すれば14歳でも一人前と見なされる。進学した場合、16歳はギムナジウムの学生だ。
 大多数の青少年が高等学校から大学に進学する日本からみた場合、16歳はまだ「青い」といわれるが、ここオーストリアでは仕事を始めれば既に大人と見なされ、飲酒が許される16歳のギムナジウム学生も同様に受け取られる。だから、「16歳の選挙権」といっても余り違和感がないのだろう。
 しかし、個人差、環境、能力によって異なることを承知の上で、当方は「16歳の選挙権」には反対だ。16歳といえば、体力だけではない。精神や心の発育期にも当たる。同時に、外部の影響を成人以上に敏感に受ける年齢だ。
 過去の選挙戦を思い出してほしい。政党のパンフレットが路上で配布され、各地で候補者が政治演説をする。政党の選挙戦は常にクリーンとはいえない。議席を獲得するために相手を中傷し、批判することは日常茶飯事であり、必要ならば嘘もつく。そのような選挙戦から正しい選択をすることは成人の有権者にとっても至難の業だ。選挙戦は次第に派手なパフォーマンスの場となり、有権者も人気スターを選ぶように候補者を選択する傾向が出てきた。
 そこで「16歳の選挙権」を支持する人に聞きたいものだ。16歳で政党の政治姿勢を判断し、候補者の人格と信条を正しく判断できるのか。大人の有権者ですらできない課題をどうして社会経験の少ない16歳の有権者に託すのか。その上、学校内で政治イデオロギー論争や政治活動が過熱化することも予想される。政治に関心を持つことは大切だが、ギムナジウム時代は基礎学習の修得に専念すべき時ではないか。
 当方は、「16歳の選挙権」は選挙の荒廃を一層進めるだけではないかと憂慮する。

「壁」のリバイバル

 “ベルリンの壁”が崩壊した時、冷戦時代を体験してきた当方もなんとも言い表せない感慨を抱いたものだ。永遠に聳え立つと信じられていた“ベルリンの壁”があっけなく倒れたからだ。あれから18年の年月が過ぎようとしているが、ここにきてさまざまな目的とはいえ、「壁」が復活してきた。
 “ベルリンの壁”のドイツの北東部ハイリゲンダムで来月6日から3日間、主要国首脳会議(サミット)が開催されるが、反サミット勢力による過激なデモを防止するために全長約12キロメーター、高さ2・4メーターの鉄条網付きのフェンス(壁)の構築が今月、完了したばかりだ。
 「サミットの会議場はその壁に包囲された刑務所のようだ」と口の悪い人は既に皮肉を飛ばしている。旧東独住民の間では、「サミットが終われば、壁はどうするのか。解体するのか」といった、サミット後の壁の行方が話題となっているという。
 一方、イランは対アフガニスタン・パキスタン国境沿いに「壁」を構築中だ。世界最大のアヘン生産国アフガニスタンから麻薬密売業者の侵入を阻止することが目的だ。イランはアフガニスタンとの間に900キロに及ぶ国境線で対峙している。
 タリバン政権の崩壊後、アフガニスタンのアヘン栽培が再び急増し、昨年度生産量は6100トンの最高記憶を達成したばかりだ。イランは過去、国境線に軍隊を派遣し、麻薬密輸グループの侵入を阻止してきたが、長い国境線を完全に警備することは不可能だ。そこで通称「イランの壁」と呼ばれる物理的障害物を構築することになったわけだ。テヘラン当局は壁の建設の為に数百万ドルを投入している。麻薬戦争の戦費だ。
 また、イスラエルがパレスチナ過激派のテロ攻撃を阻止するために久しく「分離壁」を構築している。パレスチナ人からは「アパルトヘイトの壁」と呼ばれているが、イスラエルは治安維持のため止む得ない処置と弁明している、といった具合だ。
 「壁」を構築することで過激なデモ隊の突入を阻止し、麻薬密輸組織の侵入を防ぎ、ある程度テロ襲撃を回避できるが、「ベルリンの壁」「ハイリゲンダムの壁」「イランの壁」「イスラエルの分離壁」にしても、「壁」は対立・衝突を阻止し、問題を解決するというより、それを先鋭化するだけではないだろうか。「壁」を構築したことで、問題が完全に解決されたと聞いたことがないからだ。
 コミュニケーション時代の「壁」のリバイバル(復活)は、何を意味するのだろうか。いずれにしても、「壁」の構築は対立間の通常の対話を拒否するだけに、当事者間に一種の敗北感が伴うことは避けられないだろう。

独物理学者の北偽装核実験説

 「昨年10月の北朝鮮の核実験は核実験ではなく、通常TNT爆弾を利用した偽装実験の可能性が高い」
 ドイツ出身の物理学者は自信をもってこのように主張する。
 そこで当方は「米中央情報局長官が先月、北朝鮮の核実験は失敗したと表明していましたが、日米韓3国は完全ではないが、部分的な核実験だということでほぼ一致しています」と説明した。
 学者曰く、「あの程度の規模はTNT爆弾でも可能だし、米国が後日測定したという大気中の放射性物質も意図的に放出することだって簡単だ。北朝鮮の山脈には自然ウランが豊富だからね」という。
 読者は、北朝鮮で2004年4月、龍川駅構内大爆発事件が起きたことをまだ記憶されていると思う。当方はその直後、包括的核実験禁止機関(CTBTO)の国際監視システム(IMS)の所長から「IMSは龍川駅の爆発をキャッチした。規模はTNT800トン規模でマグネチュードで3・6の地震を観測した」と直接聞いたことがある。北朝鮮は地中で核実験したのではないか、といった憶測情報が当時、流れたほどだ。ちなみに、北朝鮮側は「駅構内の貨物列車に積んでいた硝酸アンモニウムが石油輸送貨車と衝突して爆発した」と説明している。
 CTBTOが公表した北朝鮮の昨年10月の核実験の規模は、3年前の龍川駅爆発より小規模であり、マグネチュード3・6以下だ。すなわち、04年の駅爆発事故は核実験の規模より大規模であったということになる。
 そこで当方は学者に質問した。「北朝鮮の昨年10月の核実験が偽装爆発だったとすれば、米国はなぜ実験直後、放射能を観測したと公表して北朝鮮の核実験宣言を追認したのですかね」。
 当方の質問を予想していた学者は笑いながら、「北朝鮮が核実験した、ということにした方が、ワシントンの国益に合致すると判断したからではないか。核実験を宣言することで内外に国力をアピールできる北朝鮮と、朝鮮半島で核危機を演出することで地域のプレゼンスを強化できる米国の国益が一致したのではないか」という。
 北朝鮮の核実験から7カ月が過ぎ、同国を「核保有国」と見なす傾向が次第に拡大してきているが、性急な北朝鮮の「核保有国認知」は平壌の思う壺だろう。当方は独学者の北偽装核実験説について少々懐疑的だが、全ての疑問が完全に払拭されるまでは独学者の立場の方が賢明と考えている。

対米接近に慎重なイラン

 イラン外務省報道官は13日、イラクの治安回復を話し合うために米国と直接協議を行うことに同意したと発表した。米国とイラン両国は1980年、テヘランの米大使館占拠事件が契機となって国交を断交している。
 イラクの治安情勢に悩むブッシュ米政権はこれまでさまざまな機会を通じてイランに接近してきたが、テヘラン側からはもう1ついい返事が戻ってこなかった。その辺について、テヘランから帰国したばかりの駐オーストリアのイラン外交官に聞いてみた。
 イラン外交官は「わが国は過去、アフガニスタンで米国の要請を受けて支援したが、カブールの情勢が落ち着くと、米国はわが国をあっさりと見捨ててしまった。わが国が今、イラクの治安回復に支援したとしても、バグダッドの状況が改善すれば、わが国はまた捨てられてしまうだろう。米国はイスラエルの手前、わが国を絶対、地域大国として認知しない。わが国が米国の呼びかけに慎重な理由は、同じ失敗をしたくないからだ」と説明してくれた。
 イランが米国との関係正常化に強い関心があることは周知の通りだ。ニクソン政権の対中国政策に倣い、対イラン政策で第2のピンポン外交を米国側に期待しているわけだが、ブッシュ政権の腰は重い。イランに声をかけるが、あくまでもイラクの治安か回復が狙いだ。イランとの包括的な関係改善といった目標は設置されていない。その点、テヘランは不満を感じているというわけだ。
 イランは保有するカードは少なくない。世界有数の原油輸出国だ。原油価格が高騰している今日、オイル・カードは大きな力がある。それだけではない。対イラク・カード、対レバノン・カードだ。イランがレバノンの武装過激グループ・ヒズボラに武器を提供するなど、支援していることは周知のことだ。レバノンの和平実現にはヒズボラへのアクセスをもつイラン側の連携が不可欠だ。
 アフガニスタン、タジキスタンなど中央アジア地域でのイランの影響力も大きい。特に、米国の中央アジア民主化構想の成功例といわれるアフガニスタンでタリバン勢力が再台頭してきている。その背後に、冷戦時代にタリバン勢力と連携して旧ソ連邦と戦ったイランのプレゼンスが見え隠れする。 シーア派のイランはその宗教イデオロギーを武器に中央アジアでも厳然たる影響力を誇っている。その影響圏はパキスタン、カシミール、インドネシア、中国まで及ぶ。
 ウィーンの西側外交筋は「イランが持つ政治カードは米国の国益と重なる。だから、両国は世界の至る所で衝突するわけだ。イランは米国がこれまで戦ったことがない強敵だ」と警告する。
 イランが今回、米国の呼びかけに応じたのは、治安問題で窮地に立つシーア派のマリキ政権の崩壊を回避したい狙いがあるからだといわれるが、今回の直接協議が米・イラン両国の関係改善へ第1歩を踏み出す契機となる可能性は皆無ではないだろう。ただし、両国が越えなければならないハードルは核問題だけではない。イスラエルと中東全域の和平問題も含まれている。それだけに、そのハードルは限りなく高い。

神を知っているならば…

 ブラジルを訪問したローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王ベネディクト16世は13日、聖母マリアの巡礼地アパレシーダで開催された第5回南米・カリブ地域司教会議で基調演説をし、「われわれは新しい、困難な挑戦に直面している」と指摘し、信者離れが急速に進む南米教会の現状を想起させている。具体的には、「世俗主義」「快楽主義」「変節主義」などに警告を発する一方、共産主義、資本主義の限界にも言及し、南米教会が抱える貧困問題などの克服策として、「キリストの福音に帰ることが唯一の道である」と強調している。
 ドイツ出身の学者法王は繰り返していう。「イエスの教えの深みを理解できないで、どうして国民にイエスの福音を伝達できるか」と述べ、聖職者に日曜日の説教の強化を訴え、イエス・キリストへの信仰の再活性化を呼びかけている。
 ベネディクト16世が演説の中で繰り返すセンテンスは「もし神を知っているならば」というものだ。法王にとって、神を知るならば全ての問題は自動的に解決できるというものだ。その一方、法王は「価値の相対主義」に厳しく糾弾する。「これでもあり、あれでも有り得る」ということは「神を知った」者には考えられないからだ。法王は「神(の存在)は基本的な現実だ。決して考え出された仮説上の存在ではない」という。
 問題は、「誰が神を知っているか」という問いだ。法王は「神は神を知っている」と述べ、カトリック教理の重要な要、「三位一体論」を展開し、「神の子イエスは神を知っている」と説明し、イエスの教えを深く理解する手助けとして、「カテキズム教理要綱」(その中に、例えば、中絶問題に対しても教会の答えが明記されている)に言及する。その上で、「それでは神への信仰はわれわれに何を与えるか」と問い掛ける。その答えは「家庭だ。神の家庭だ。カトリック教会という家庭だ。それによって、孤立した自分は解放される」と主張する。
 当方がベネデイクト16世の演説を少し長く引用したのは、法王5日間のブラジル訪問(司牧)のハイライトが南米・カリブ地域司教会議開幕の基調演説にあるからだ。「欧州のエリート教会」出身の法王にとって、中絶問題や貧困問題も「神を知ったら」解決できるという強い信念があるのだ。それは決して間違いがないことだろう。
 しかし、当方の懸念は、理路整然としたローマ法王の演説が果たして「貧者の教会」の代表、南米教会の聖職者や信者たちの心まで届いたか、という点にある。バチカン法王庁入りするまで学究の人であったベネディクト16世にとって、「知る」ことは即「救い」であったのだろう。しかし、平信者への牧会生活を経験しなかった法王は、「知っても救われない」多くの信者たちの苦渋を理解しているのだろうか、という軽い反発を感じてしまった。

CTBTOで議決権を失った米国

 国連機関は加盟国の分担金で運営されている。その加盟国が分担金を支払わなかった場合、未払い期間が一定の期間になると、会議の参加は可能だが、議決権(投票権)を失う事になる。加盟国が議決権を失うということは、会議に出席して発言はできるが、議案を決定する段階になると沈黙しなければならないことを意味する。
 米国は包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)の議決権を失ったことがこのほど明らかになった。米国は分担金(約1050万ドル+約1080万ユーロ)を滞納しているからだ。米国は加盟国では最大分担金拠出国だ。米国が加盟している国連機関で議決権を失ったのは今回が初めてだ。
 米国は1996年9月、CTBT条約に署名したが、米上院本会議は99年、批准を否決した。検証能力への疑問と核兵器の新開発に障害となるという理由があったといわれる。しかし、批准否決後も米国はCTBTOの活動に参加する一方、CTBTOが構築している国際監視システム(IMS)に強い関心を示し、定期会期にも参加してきた。CTBTOの会期運営は基本的にはコンセンサス原則に基づくから、米国の議決権が停止していても、米国にとっては大きな問題が生じない。
 一方、同国が議決権を失うことで、CTBTOは益々運営が難しくなってくる。西側外交官は「CTBTOが今、何かを議決したとしても、米国が参加していない場合、米国が議決権を復帰した時、同じ議題をもう一度協議しなければならなくなる。外交上、大きな負担だ」と指摘する。
 CTBTO広報部は「われわれは米国が分担金を払い、議決権を復帰する事を期待している」と述べる一方、「米国の分担金滞納で機関の運営が難しくなってきた」と台所の事情を吐露した。
 なお、CTBTの署名国数は5月現在、177カ国、批准国138カ国だ。条約発効で署名と批准が不可欠の核開発能力保有国44カ国では批准国数は34カ国に留まっている。未批准国には米国と中国の核保有国が含まれている。その他、北朝鮮、インド、パキスタンの3国は未署名だ。

悲しき「ウィーン少年合唱団」

  「天使の歌声」として世界的に有名な「ウィーン少年合唱団」は現在、日本公演中だが、その「合唱団」に子供を送っている家族会のヘルベルト・フリザッヒャー会長から先日、電話が入った。
 「あなたがコラムの中で書いていたように、ウィーンでは新しい文化活動は本当に難しい」(当方の昨年12月5日のコラムがドイツ語訳され、関係者に紹介されている)。
 電話先の会長の声はいつもの穏やかさはなく、怒りと落胆を帯びていた。当方は昨年末、「ウィーン少年合唱団」が独自のコンサート・ホール(正式名「コンサート・クリスタル」)の建設を計画中と書いたが、同計画がどうやら無期延期となる気配が濃厚となってきたというのだ。
 合唱団の拠点であるウィーン市2区の区民が環境・交通機関の悪化、歴史的建造物の保護などを理由にコンサート・ホール建設に強く反対、合唱団と区民の間でホットな文化闘争が展開されてきた。今月7日も区民集会が開催され、合唱団と反対区民との間で討論会が行われたばかりだ。
 コンサート・ホールは、アウガルテン宮殿内の公園内で工費1000万ユーロを投入して地下1階、地上2回の近代的建物。最新の舞台装置を完備し、ホール座席数は430席だ。今年6月に建設を開始し、2008年11月に完成予定だった。
 合唱団側は「近くに独自のコンサート・ホールが完成すれば、合唱練習や後継者育成にとって効果的だ」とホール建設の意義を説明してきたが、騒音問題や交通事情の悪化を懸念する反対区民は「緑の党」などの政治家を動員して反対署名活動を展開する一方、メデイアを通じて建設反対の声を強めていた。
 ウィーンは「音楽の都」として世界にその名を誇る国際都市だ。ハイドン、モーツアルト、ベートーベン、シューベルトらと共に、「ウィーン少年合唱団」は「音楽の都」の顔の1つであり、「オーストリアの外交官」といわれている。その世界的な少年合唱団が民間投資家の支援を受けてコンサート・ホールの建設を計画しているわけだが、ウィーン市民の支援は驚くほど少ないことが改めて明らかなったわけだ。「ウィーン少年合唱団」のファンが多い日本では、理解できないことだろう。
 フリザッヒャー会長は「合唱団は世界の観光客を呼び寄せている。わが国の国民経済にも大きく寄与している。それにもかかわらず、一部市民のエゴや、それを支援する政治家が合唱団の未来を阻止している」と、偏狭な反対区民を批判する一方、「計画が完全に消滅したわけではない。経済省や文化省は計画を支援してくれている。これからも市民やメディア機関にコンサート・ホールの建設を訴えていく」と語った。
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