ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2007年03月

金正男氏の訪仏予定はなし?

 北朝鮮最高指導者・金正日労働党総書記の長男、金正男氏(36)が近い将来、フランスを訪問するとの外電が流れた。正男氏が北京の北朝鮮大使館を通じて駐中国のフランス大使館に査証(ビザ)を申請したという。
 正男氏は2004年11月にもパリを訪問、高級ホテル「リッツ」に滞在した後、ホテル専属運転手を借り切ってウィーンまで足を伸ばしたことがある。その時は、「正男氏の暗殺情報」があるとして、オーストリア内務省の身辺警備員が24時間、正男氏を監視するという出来事が生じた。そのため、正男氏のウィーン訪問はメディアにも報じられた。
 ちなみに、当方がオーストリア内務省関係者から入手したところによると、「正男氏暗殺情報」は実際は誤報であり、正男氏は暗殺の恐れをまったく感じることなく、「音楽の都」ウィーンを満喫してモスクワ経由でマカオに戻っていった。
 さて、正男氏が再び、フランスを訪れるのかを確認するために、金総書記の遠縁で、正男氏の親族に当たる人物に聞いてみた。同氏曰く、「何も連絡が入っていない。正男氏が訪欧するならば、自分にも連絡が入ってくるが、何も聞いていない。誤報だろう」とかなり確信をもって言い切った。
 正男氏が5日間のウィーン滞在中、2人の北朝鮮人に会った。1人は朴商務官だ。もう1人がこの人物だ。興味を引く事実は、正男氏がウィーン滞在中、駐オーストリアの北朝鮮大使の金光燮氏(金総書記の義弟)と1度も会っていないことだ。金大使の金敬淑夫人は故金日成主席と金聖愛夫人との長女だ。一方、正男氏は金総書記と故成恵琳夫人(モスクワで療養中死去)の間の長男だ。世代と血筋が違う。
 「正男氏は自由に使えるかなりの資金を保持しているはずだが・・」と聞くと、この人物は「資金、そんなものはない」という。これで引っ込んでしまえは話にならない。当方は気力を振り起こして、「ウィーン訪問時には、正男氏は5つ星ホテルでスイートに泊まり、豪華な生活を堪能していたと聞く」と少し突っ込んでみた。するとこの人物は鋭い目を当方に向け、「オーストリア内務省関係者から入手した情報だろう。確かに、正男氏は金をもっている」と答えたが、それ以上聞くな、といった強い響きがあった。
 そこでテーマを変えて聞いた。「正男氏はお国では重要な任務を持っているのですか」。この人物は「重要な任務?」と聞き直しながら笑った。それを良い事に、当方は「ディズニーランド訪問以外の任務ですよ」と冗談を言ってしまったのだ。この人物はもはや何も答えてくれなくなった。
 当方と「正男氏に近い人物」との短い会話はこのようにして終わった。いずれにしても、正男氏の近日中の訪仏予定はないようだ。

昼食記者会見と外交裏話

 ウィーンに本部を置く包括的核実験禁止条約機構(CTBTO)から昼食記者会見の招待状が届いた。久しく慣例だったCTBTO朝食記者会見が中止されて淋しく感じていた国連記者たちを喜ばしたことは言うまでもない。招待されたのは当方を入れて約15人の国連記者たち。ホストはトット事務局長ではなく、顧子平(Gu・Ziping)法務・対外関係担当局長だった。
 ところで、CTBTOは今月17日、ジュネーブでCTBT暫定技術事務局設立10周年の記念行事を開催したばかりだ。今回の昼食記者会見も10周年記念に関連するもので、早期条約の発効を促進するために、国連記者たちを招待して交流を深める狙いから行われたものだ。
 国連総会で1996年9月、CTBT条約の署名が開始されて10年が過ぎたが、2007年3月末現在で署名国は177カ国、批准国138カ国。条約発効に批准が不可欠な44カ国では、34カ国が批准を完了したが、10カ国が依然、未批准国だ。その中には、核保有国の米国と中国両国が含まれる。そのため、CTBT条約の早期発効の見通しは立っていない。
 昼食が始まる前、顧局長に挨拶する機会があった。局長が中国外務省出身と分かったので、当方は「顧局長、中国は何故、批准しないのですか」とそれとなく聞いてみた。すると局長は「中国は1998年末にはCTBT条約の批准を完了していたが、翌年99年3月、米軍主導の北大西洋条約機構軍(NATO)のベオグラード空爆、それに伴う中国大使館の誤爆などが生じたため、批准を急遽破棄したのだ」という裏話を語ってくれた。
 中国側は過去、「議会で批准作業が進行中だ」と繰り返し主張し、批准遅れの批判をかわしてきたが、顧局長は「米国が現在、使用可能な核兵器の開発計画を推進中だから、中国側は早期に批准する考えはないだろう」と説明してくれた。
 当方は美味しい昼食と外交の裏話が聞けたことで満足感に浸りながら、デザートとコーヒーを済ますと、顧局長にお礼を言ってレストランを後にした。
 「CTBTOさん、次の昼食記者会見はいつですか」

チトンボー氏の訪朝はいつ?

 国際原子力機関(IAEA)のウィーン本部を拠点に北朝鮮の6カ国協議の共同合意の動向を追うジャーナリストたちにとって、IAEA査察局アジア部長のチトンボー氏がいつ訪朝するかが目下、最大の関心事だ。
 エルバラダイ事務局長の訪朝は6カ国協議の合意内容を再確認した以上の成果はなかった。エジプト出身の事務局長は交渉上手な北朝鮮に軽くあしらわれてしまったが、次回の訪朝では、「実質的な話し合い」が必要となる。その重責を担ってチトンボー氏が再度訪朝し、北朝鮮当局と核施設の凍結監視や検証について話し合う予定だが、問題は「いつ訪朝するか」だ。それによって、北朝鮮の核問題を協議するIAEA特別理事会の日程が明らかになってくるからだ。
 チトンボー氏は陽気だが、口が堅い。会う人には人懐こい笑いをこぼすが、問題が査察内容に関連すると途端に口を閉じてしまう。チトンボー氏の上司、ハイノーネン氏(査察局長兼事務次長)が知り合いのジャーナリストに対して案外口が滑るのとは好対照だ。絶対、喋らない。笑うだけだ。
 笑いは相手の心を和ませるが、この場合は「何度、聞いても答えられませよ」といっているのに等しい。同氏が笑い出したら、もうダメだ。当方は過去、何度、同氏の笑いに騙されたことだろうか。
 そこで、当方はじっくりと考えてみた。すると、悪魔の閃きというべきか、いい知恵が浮かんだのだ。「チトンボー氏の奥さんも国連職員だ。彼女にそれとなく聞けば、夫の訪朝日程が分かるかもしれない」と考えたのだ。チトンボー氏の奥さんはフランス女性だ。当方は国連内で何度も会い、挨拶を交してきたから、少しは顔見知りだ。主人の旅行日程ぐらいは教えてくれるかもしれない。
 さっそく、夫人の行方を探したら、昼食時にフランス語を同僚に教えている夫人を見つけた。遠慮などしている時ではない。夫人の傍にいって、小声で「奥さん、ご主人のチトンボー博士(同氏は博士号をもつ)はいつ頃訪朝されるのですか」と聞いた。すると、夫人は当方の顔をまじまじと見ながら、「聞いていませんのよ。多分、まだ何も決まっていないのでは」というだけだ。ひょっとしたら、夫人は夫のチトンボー氏から「不埒なジャーナリストが多いから、ジャーナリストには近づかないように」と釘をさされていたのかもしれない。
 このようにして、当方の浅知恵は成果をもたらさずに終わった。
 読者の中から、「訪朝の日程などは些細なことだ」と指摘されれば、それまでだが、ジヤーナリストはその小さな情報を他に先駆けて入手するために悪戦苦闘しているのが実態なのだ。

べネディクト16世の不満

 欧州連合(EU)の特別首脳会談は25日、ローマ条約調印50周年の記念行事を開催し、環境保護やエネルギー問題、EU憲法の再検討などを明記した「ベルリン宣言」を採択したが、世界に11億人の信者を有するローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王べネディクト16世は「EU公式文書にはユダヤ・キリスト教の遺産に関する記述が欠けている。欧州政治はそのルーツ(キリスト教)を無視している。その結果、EU共通の基盤は危機に瀕している」と異例の批判を表明し、欧州の政治家たちを困惑させている。
 べネディクト16世はその著書「変革の時の価値」の中でも、「欧州は地理的な概念ではなく、文化的、歴史的概念だ」と指摘し、「その意味で、欧州民族のキリスト教のアイデンティティを放棄することは出来ない。キリスト教は欧州共通のハウスの土台でなければならない」と強調している。べネディクト16世だけではない。その前任者ヨハネ・パウロ2世も生前、「家を建設するためには設計図と基準が必要だ。共通価値の土台を見失ってはいけない」と警告を発しているほどだ。
 バチカンからの批判に対し、EU本年度上半期議長国ドイツのメルケル首相は「欧州はキリスト教の伝統を有する」と述べ、ドイツ出身のローマ法王の懸念に理解を示すと共に、ベルリン宣言の中で「2009年までに憲法問題を解決する」という目標を明記させることで、EU憲法の早期導入を模索している。
 ところで、EU憲法を取り巻く状況は決して楽観的ではない。フランスとオランダ両国が05年、欧州憲法を否決しただけではなく、新規加盟国ポーランドは主権国家の権限維持を強く主張し、政治統合には反発している。27カ国に拡大した現在、EU共通の価値観を明記した憲法の作成はますます難しくなってきたという印象を拭えない。
 その上、問題はもっと深刻だ。「欧州はキリスト教の伝統を有している」といっても、キリスト教自身が過去、分裂に分裂を重ねてきた歴史を抱えているからだ。例えば、ロシア正教のアレキシー2世は依然、ローマ法王との会合を拒否し、両派の首脳会談はまだ実現していない有様だ。また、ルーマニアとブルガリア両国が今年1月、EU加盟したことで、EU内の正教徒の影響が拡大してきた、といった具合だ。
 べネディクト16世の不満は分かるが、キリスト教が欧州の多民族を繋ぐセメントのような役割を果たす為には、キリスト教の再統合が先決問題となってくるのではないか。

米財務省と金正日の“意地”

 韓国紙・中央日報は24日付で、「北朝鮮も恐れる米財務省の力」という記事を掲載し、マカオの「バンコ・デルタ・アジア(BDA)の資金凍結」(2005年9月)でそれを思い知ったと指摘したが、実は北朝鮮が初めて米財務省の恐ろしさを知ったのはBDAの事件ではない。欧州唯一の北朝鮮直営銀行金星銀行が閉鎖に追い込まれた時だ。
 「金星銀行は1982年、ウィーンに開業された。開業を支援したのはオーストリアのクライスキー社会党単独政権だった。同銀行には不法武器密輸や核関連機材取引に関与しているという疑惑が度々浮上したが、社会党政権の加護もあって、大きな政治問題とはならなかった。しかし、オーストリアで2000年2月、親米派の国民党主導連立政権が発足して以来、米国の金星銀行壊滅作戦が本格的に始まったのだ。
 西側情報機関筋は「ブッシュ米政権の対北金融制裁は05年9月以降開始されたのではなく、01年から始まっている」と証言する。同筋によれば、米国は01年以降、オーストリア政府に金星銀行の閉鎖を強く要請してきた。そこでオーストリア政府は財務省独立機関「金融市場監査」(FMA)に金星銀行の業務監視を実施させたのだ。
 米財務省はまた、金星銀行のオーストリア主要取引銀行にも対北取引の停止を要求していった。それに応じない場合、米国企業との銀行取引が停止される恐れを感じたオーストリアの銀行側が自主的に金星銀行との取引を中止していったのだ。
 だから、金星銀行関係者は当時、「オーストリアの銀行がわが銀行との取引を中断したので、銀行業務が実施できなくなった」と嘆いていたほどだ。FMAの監査とオーストリア主要銀行の取引中止に直面した金星銀行は04年6月、ついに閉鎖に追い込まれていったわけだ。
 ちなみに、米財務省だけではない。米中央情報局(CIA)は金星銀行に隣接する住居を借りて24時間、同銀行関係者を監視していた。このようにして、ブッシュ米政権は財務省とCIAの連携作戦で金星銀行“打倒”に成功したわけだ。
 金正日労働党総書記がマカオの2500万ドルの凍結資金に拘るのは、資金が大切というより、金星銀行とマカオの銀行口座という海外経済の2大拠点の壊滅を狙うブッシュ米政権に対する独裁者としての“意地”があるからだ。

UNIDO対北支援の透明性

 ウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)は1986年から昨年末までに北朝鮮に対して78件の支援プロジェクトを推進し、その総支援費用は約3000万ドル(約34億8000万円)にもなる。その内、15のプロジェクトが現在も進行中だ(モントリオール・プロトコール基金の拠出プロジェクトが増えている)。
 UNIDOは過去、羅津・先鋒経済自由地帯を推進するなど、北朝鮮の経済復興を支援してきた。2005年度には6プロジェクト、昨年度は4プロジェトが承認され、履行中だが、両年の対北総支援費用はいずれも200万ドル前後だ。対北事業の透明性が欠如するとして今年3月1日で対北支援を中断した国連開発計画(UNDP)の対北支援総額は05年度210万ドル、06年度320万ドルだったから、UNIDOの対北支援はそれに匹敵する規模だ。
 保健、福祉、環境などの分野で対北支援を実施してきたUNDPは今年1月25日の執行理事会(理事国36カ国)で、米国の批判を受けて、対北支援の透明性を高める措置を検討し、北朝鮮側に善処を要求してきたが、同国からの返答が十分でないとして支援の中断を決定したばかりだ。北朝鮮外務省は3月13日、UNDPの資金流用の容疑に対し、「明らかに政治的な不純な目的に基づき、人道的な協力を中断した」と強く反発している。
 さて、UNIDOの対北支援プロジェクトの透明性はどうであろうか。UNIDOは過去、職員の腐敗、汚職、ネポティズム(縁故主義)などが表面化し、機構の改革と縮小を余儀なくされてきた。米国は1996年末、UNIDOの非効率な運営などを理由に脱退したほどだ。
 興味を引く点は02年から06年間の5年間で30件以上のプロジェクトが新たに承認されるなど、対北支援プロジェクトが急増していることだ。換言すれば、北朝鮮のユン・ソンリム氏がUNIDOにコンサルタントとして出向して以来、対北支援プロジェクトが急増しているのだ。同氏は駐フィンランドの北朝鮮参事官を勤めた後、ローマの国連食糧農業機関(FAO)などを経てUNIDOに出向している。
 米国はUNDPの対北支援資金が北朝鮮の核計画に流出していると批判してきたが、UNIDOの対北支援計画では沈黙を守っている。それは米国がUNIDOの加盟国でないからであって、UNIDOの対北支援活動が公正に行われていることを証明するものではない。ちなみに、米国の脱退後、日本がUNIDO最大の分担金負担国だ。その意味で、対北プロジェクトの透明性問題は日本にとって大きな問題であるはずだ。なお、UNDPの対北支援240万ドルがストップされたうえ、国連安保理の対北制裁の履行もあって、UNIDOの本年度対北支援プロジェクトは目下、予定されていない。

北朝鮮、麻薬関連条約に加盟

 ウィーンに本部を置く国際麻薬統制委員会(INCB)のコウアメ事務局長は23日、当方との会見に応じ、「北朝鮮の麻薬関連国際条約の批准書が19日、ニューヨークの国連事務総長の手元に到着した。19日を期して、北朝鮮は3つの麻薬関連国際条約の加盟国となった」と明らかにした。
 北朝鮮が今回加盟した国際条約は、「麻薬一般に関する憲章」(1961年)、「同修正条約」(71年)、「麻薬および向精神薬の不正取引に関する国際条約」(88年)の3件。
 コウアメ事務局長は「北朝鮮政府が今年2月、国際麻薬関連条約に加盟することを決定し、批准したということは、国際条約の義務を履行する決意があるからだ。平壌が国際条約加盟国として真摯にその義務を履行すると確信している」と述べた。
 ちなみに、INCBは過去、1999年、2002年、06年の3度、北朝鮮に使節団を派遣し、平壌の関係省と国際条約の加盟問題、麻薬対策への技術支援などを話し合ってきた。
 北朝鮮は14日、ウィーンの国連本部の国連薬物犯罪事務所(UNODC)の麻薬委員会(CND)第50回会期にオブザーバーとして初参加し、同国が3つの麻薬関連の国際条約に加盟を決定したと表明し、世界を驚かせたばかりだ。
 なお、同国代表は「わが国の政府は不法な麻薬製造、取引、乱用は健全な社会環境を破壊していると憂慮し、麻薬対策の為に国際連携を強化しなければならないと考えている」と主張し、「わが国は2003年8月に麻薬関連法を施行するとともに、05年2月には麻薬対策国家連携委員会を設置してきた。わが国は既に麻薬関連の国際条約を完全に履行できる体制ができている」と宣言して国際条約の履行を約束している。

カトリック国ベトナムの宗教事情

 ローマ・カトリック教会総本山バチカン法王庁とベトナム間の外交関係正常化の動きは今年に入り加速する一方、ベトナム・カトリック教会のグエン・ヴァン・リー神父が反政府活動を扇動したとの理由で今月末にも裁判を受けるなど、ベトナム共産政権の宗教政策には依然、揺れが目立つ。
 ローマ法王べネディクト16世が1月25日、法王庁内でベトナムのグエン・タン・ズン首相と会談したことが契機となって、1975年以来途絶えてきたバチカン法王庁とベトナム両国間の外交交流が動き出した。バチカンは3月に入ると、法王庁外務局次長のピエトロ・パロリン司教を団長とした使節団をハノイに派遣し、両国間の外交樹立に関して政治会談を開いたばかりだ。
 バチカンはズン首相との首脳会談後、「ベトナム首相の訪問は両国関係の正常化への新しい重要な一歩である。ベトナムではカトリック教信者は信仰の自由を一層享受してきた」と評価する報道向け声明文を発表するなど、関係正常化に意欲を示してきた。その背後には、ベトナムがフィリピンについてアジアで2番目のカトリック国(推定信者約800万人)であり、バチカンのアジア宣教にとって非常に重要な国だからだ。
 ちなみに、パロリン司教は3月のベトナム訪問後、「ラジオ・バチカン」とのインタビューの中で、「ベトナム政府関係者とは外交関係樹立の方向で一致したが、明確な日程は決定されていない。ベトナム政府は専門家グループを設置して外交関係樹立問題の検討に入る意向だ」と述べている。
 ベトナムのグエン・ミン・チェット国家主席が昨年10月、ベトナム司教協議会メンバーと会談し、国内の活動状況や国交問題について意見の交換をするなど、バチカンとの関係改善に努力してきたことは事実だが、同国では今尚、キリスト教会の活動は完全には保証されていない。例えば、同国のカトリック教会のシンボル、グエン・ヴァン・リー神父が、反政府宣伝活動を行った罪で起訴され。これまで自宅軟禁状況下に置かれてきた。その神父は今月末、他の4人と共に「反政府文書をひろめ、海外の反共産主義グループと接触した」という理由で裁判を受けることになっている。
 ベトナム共産政権のバチカン接近が対外的なイメージ・アップを狙った政策に過ぎないのか、それとも「宗教の自由」を保証する抜本的な改革を意味するのか、判断にはもう少し時間がかかりそうだ。

北朝鮮大使館のスモモ

 ウィーン14区の北朝鮮大使館の庭にスモモ(李)が植えられている。いつ頃、植樹されたかは知らないが、暖冬の影響もあって、小さな薄白色の花びらが垣根を越えて路上までその可憐な姿を見せている。
 東京では20日、桜の開花宣言が発表されたが、桜は日本で最もポピュラーな花で、菊と共に日本の「国花」だが、スモモはオオヤマレンゲ(木蓮の一種)らと共に北朝鮮の代表的な花だ(それとは別に「金日成花」や「金正日花」が存在する)。花びらは桜の花びらに似ている。木蓮のように強い存在感はないが、その清爽感がとてもいい。梅が終わり、桜が咲き出す頃、桜と同じような白色の花びらを開く。
 植物に精通していない当方は初めてスモモを見た時、「あ、桜だ」と思ったりしたものだ。それほど、当方の目には桜とスモモは良く似ている。植物辞典をみると、両方とも中国原産で「バラ科」、サクラ属だ。サクラの学名「プラナス」はラテン語「Plum」(スモモ)が語源というから、当方がスモモとサクラを間違ったのも当然かもしれない。(当方も最近は弁明がうまくなったものだ)
 先日、取材目的で北朝鮮大使館に行った時、庭にスモモを見つけた。これまで何度も北朝鮮大使館を訪れたことがあるが、大使館の庭の木々をゆっくりと見たことがなかった。もちろん、北朝鮮外交官とのんびりと花話をしたこともない。
 当方が「スモモは桜に似ていますね」といえば、北朝鮮外交官たちはどう思うだろうか。「日本人は朝鮮半島の占領時代、漢民族の国花・無窮花を伐採し、桜を植林した」と批判する声を聞いたことがあるからだ。
 北朝鮮大使館の李書記官は家族が日本軍兵士によって殺されたといっていた。金書記官は会う度に、「日本人は過去の蛮行について謝罪すべきだ」と批判する。北朝鮮外交官の激しい反日批判を聞き続けていると、当方もスモモと桜の話を簡単には言い出せなくなったが、「われわれも本来、スモモと桜のように、親戚関係かもしれませんね」と言ってみたい衝動を感じたのは一度や二度ではない。

米の対北政策、核拡散を加速?

 ブッシュ米政府はマカオの銀行「バンコ・デルタ・アジア(BDA)」が凍結していた約2500万ドル(約29億円)の北朝鮮関連口座の全額解除を決定したが、その際、「北朝鮮は凍結解除された資金を国民への人道支援や教育向上目的に利用することを確約した」と説明した。
 記憶力の正常な読者ならば、ブッシュ米政権が昨年まで「金融制裁と核問題はまったく別問題だ」と主張してきたことを思いだされるだろう。それが現在、凍結資金の1部解除では無く、全額解除を要求してきた北朝鮮側の立場を全面的に受け入れた形で決着がつけられたわけだ。ブッシュ政権の対北朝鮮政策が変更した指摘される理由の1つだ。
 興味をひく点は、全額凍結資金の解除決定の際に、ブッシュ政権が「人道支援や教育向上の目的に利用」という北朝鮮側の公約事項をわざわざ明らかにしたことだ。凍結された資金が合法的と判断された結果、全額解除が決定されたのであれば、解除後、相手国がどのように利用しようと他国が干渉できる問題ではないはずだ。それを「人道支援と教育向上だけに利用」という制限条件が追加されたということは、凍結解除された資金のうち、不法な資金も含まれていたことを間接的に認めたことになる。すなわち、「人道支援や教育向上だけに利用」という平壌側の提案内容を付けることで、ワシントンの全額資金解除決定が「政治的決定」であったことを明確に証明する結果となっている。
 それでは、ブッシュ米政権の対北政策が強硬路線から対話・外交政策に変更した背景はなんだろうか。イラクの治安問題に専念せざるを得ない上、イランの核問題に直面しているブッシュ政権は、北朝鮮の核問題を6カ国協議の枠組みで解決したいという意図があるはずだ。
 しかし、問題は、ブッシュ米政権の狙いがどうであろうとも、平壌当局が「わが国が核兵器を保有したため、ブッシュ政権は対話路線に乗り出さざるを得なくなった」と受け取っていることだ。ブッシュ米政権は核拡散防止体制(NPT)の強化を重要課題として掲げているが、皮肉にも、最近の米国の対北政策は、世界の非核保有国に、「核兵器の保有」の政治的・外交的価値を再認識させる危険なシグナルを含んでいる。もちろん、イランの核問題の行方にも少なからずの影響を与えることは必至だ。

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