ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

極右派候補者が第1回投票で首位

 ルーマニアで4日、やり直しの大統領選挙が実施され、同国の極右派政党「ルーマニア統一同盟」(AUR)のジョージ・シミオン党首(38)が得票率約40%を獲得して首位となったが、当選に必要な過半数には届かなかったため、今月18日に実施される決選投票で第2位の首都ブカレスト市長で無党派のニコソル・ダン氏と大統領ポストをかけて争うことになった。昨年11月24日の第1回投票でトップだったが、選挙不正の疑いを持たれたカリン・ジョルジェスク氏は、やり直し選挙への出馬が認められなかった。

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▲ジョージ・シミオン氏、ウィキぺキィアから

 中央選挙管理局によれば、シミオン氏に次いて無所属候補のダン氏が約20.9パーセントで第2位、それをブルジョア社会民主党政権の候補者であるクリン・アントネスク氏が20.3パーセントで僅差で続いた。2位と3位の票差は約5万6000票だったが、アントネスク氏は敗北を認めた。その結果、決選投票はシミオン氏とダン氏の間で争われることになる。大統領の任期は5年、2期まで。

 シミオン党首は「これは単なる選挙の勝利ではない。ルーマニアの尊厳の勝利だ。希望を捨てず、ルーマニアを、自由で尊敬され、主権を持つ国と信じている人々の勝利だ」と強調した。

 シミオン党首は選挙戦では既存の政治に対する国民の怒りを吸収していった。同党首は欧州連合(EU)に批判的であり、ドナルド・トランプ米大統領を尊敬している。 隣国ウクライナへの軍事援助は拒否している。

 投票は再選挙だった。昨年11月24日に実施された大統領選でジョルジェスク氏(62)は有力候補とされていたチョラク首相らを抑え、約23%の得票率でトップに躍り出た。ルーマニア当局は、TikTokでジョルジェスク氏の知名などを拡散していたインフルエンサーらを突き止め、TikTokアカウントを利用した大規模な選挙運動が展開されていたと報告。ルーマニア憲法裁判所は決選投票直前の昨年12月6日、選挙資金の不正やロシアの干渉などを理由に第1回投票の結果を無効とし、12月8日に予定されていた決選投票を中止した。そして今年5月4日に選挙の再実施を決定した経緯がある。

 ジョルジェスク氏はロシアのプーチン大統領を「国を愛する男」と称賛し、ウクライナを「敵対国家」と呼び、北大西洋条約機構(NATO)に批判的な姿勢を強調するなど、親ロシア的な立場を明確にしてきた。また同氏は反ユダヤ主義者を英雄視する発言を繰り返しており、極右的な思想の持主と受け取られてきた。同氏はAURに参加していたが、2022年に離党している。今回第一位となったシミオン氏の支持層はジョルジェスク氏と重なる。シミオン党首は自身が当選すればジョルジェスク氏を首相に任命すると約束し、同氏の票を吸収することに成功している。

 なお、ルーマニア当局は4日、政府、内務省、憲法裁判所、外務省のウェブサイトがDDoS(分散型サービス拒否)攻撃によって一時的に麻痺したという。また、同国外務省は「ソーシャルネットワーク上で大規模な偽情報キャンペーンが展開されている」と警告した。このキャンペーンは主に海外在住のルーマニア人をターゲットにしていたという。

「マンデラ効果」に操られる情報社会

 「マンデラ効果」という言葉に出会った。マンデラといえば、南アフリカのマンデラ元大統領の名前を直ぐに思い出すが、ウィキぺディアによると、「マンデラ効果」とは、「事実と異なる記憶を不特定多数の人が共有している現象を指すインターネットスラング、またはその原因を超常現象や何らかの陰謀として解釈する都市伝説または陰謀論の総称」という。とすれば、現代人の多くは「マンデラ効果」の影響下にあるといえるのではないか。

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▲フランスの画家ギュスターヴ・ドレの作品「言語の混乱」(ウィキぺディアから)

 ちなみに、「マンデラ」というネルソン・マンデラ元大統領の名前がついているのは、存命中のマンデラが1980年代に獄死していたという情報を記憶する人々が当時多くいたことからだ。

 インターネット時代の今日、無数の情報が発信されている。その情報の中には事実ではないフェイク情報が増えてきていることから、ファクト・チェックの必要性が強調されてきた。

 人は勘違いする存在だ。情報をいつも正しく判断し、咀嚼できるわけではない。ただし、単なる虚偽記憶ではなく、「勘違い」の情報を不特定多数が共有するとなれば、一種の社会現象となる。「都市伝説」や陰謀説などもそうだろう。

 「マンデラ効果」という表現を初めて聞いとき、恣意的な情報操作ではないかと思った。社会や国家で影響力のある人間が間違った情報を発信し、それに気が付かなかった場合、その情報が不特定多数に共有される危険性が出てくる。

 ところで、情報が後日、間違いだったと分かったとしても、間違った情報を持ち続けるケースが出てくる。なぜならば、情報をいったん信じたならば、その真偽は別として簡単には放棄することが難しいからだ。情報は一種に生き物のような存在だ。その間違った情報で様々な他の情報、世界が情報の受け手の脳内で構築されていく。

 新約聖書「ヨハネによる福音書」第1章、「初めに言があった。すべてのものは、これによってできた」とすれば、言葉の集合体ともいえる情報にも当てはまる。受信した情報は既に記憶されている情報とリンクしたり、全く新しい情報を生み出す。すなわち、情報は一旦受信すれば、コンピューターのように簡単にボタン一つで消極できない。だから、社会に影響力のある著名な人物が語った間違った情報は時間の経過とともに不特定多数の脳内で様々な方式で整理され、定着していく。その結果、間違った情報は新しい生命力を得て拡散されていくわけだ。

 ここでは「無意識」という世界が大きな働きをするのではないか。スイス人の心理分析学者カール・グスタフ・ユング(1875年〜1961年)は無意識を「個人的無意識」と「集団的無意識」の2つに分類している。そして後者の「集団的無意識」は「マンデラ効果」を理解するうえで大きなヒントを与えているように感じる。「不特定多数」が共有する情報(偽情報を含む)を「集団的無意識」と名付けたのではないか。

 記憶は単に個人的なものか、集団的な記憶があるように、無意識にも個人的と集団的の2分類があるとすれば、「マンデラ効果」とは偽情報から構築されていった「集団的無意識」ともいえるわけだ。

 繰り返すが、情報は生き物であり、受信された情報は左脳で処理され、右脳の世界で素晴らしい音楽や文芸作品として生まれてくる。しかし、情報への対応が間違った場合、問題が生じてくる。「マンデラ効果」に操られつづけば、真実の情報を失う危険性が排除できなくなるのだ。

独憲法擁護庁「AfDは右翼過激派だ」

 ドイツ連邦憲法擁護庁(BfV)は2日、同国野党第1党「ドイツのための選択肢」(AfD)を右翼過激派に分類した。BfVによると、同党が自由民主主義の基本秩序に反する活動を行っているとの疑惑が確認されたという。それに対し、 AfDは同日、BfVの評価は根拠のないものだとして法的措置を発表した。一方、BfVの評価を受け、AfDの禁止を求める声が高まっている。

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▲独連邦憲法擁護庁、BfV公式サイトから

 ドイツでは旧東独の3州、テューリンゲン州、ザクセン州、ザクセン=アンハルト州の州憲法擁護庁は既に州AfD州を右翼過激派組織に分類して監視対象としてきたが、連邦憲法擁護庁は今回、ドイツ全土のAfDを危険団体と認定して、監視対象とすることになる 。ちなみに、ミュンスター高等行政裁判所は、2024年5月、連邦憲法擁護庁がAfDを「右翼過激派の疑いのある事例」に分類したのは正当であるとの判決を下している。 BfVは今後、疑いのある事件として観察する場合、諜報手段の使用を認めることになる。

 AfDの思想的指導者、テューリンゲン州代表のヘッケ氏は、ホロコーストやナチス時代の罪を軽視または否定する歴史修正主義者であり、極右思想の中核にある「民族的純粋性」や「国家主義」に通じる思想の持主だ。若者の間でAfDの支持者が増えている。

 AfDは直ちに法的措置を発表した。ワイデル、クルパラ共同党首は「BfVの決定はドイツの民主主義への深刻な打撃だ。民主主義を危険にさらすこうした中傷に対して法的に訴える」と述べた。
 AfD副議長のシュテファン・ブランドナー氏はSPDによる政治的影響力を示唆し、「連邦憲法擁護庁による決定は全くのナンセンスだ、法と秩序とは関係はなく、純粋に政治的な決定だ」と主張した。

 それに対し、ファエザー内相は憲法擁護庁の独立性を強調、「新たな報告書には政治的な影響はなかった。連邦庁には過激主義と闘い、民主主義を守るという明確な法的権限がある」と強調する一方、「AfDは自由民主主義の基本秩序に反する行動を明白に展開している。AfDは、特定の民族集団を差別し、移民出身者を二級ドイツ人として扱う民族概念を主張している。これは、基本法第一条で保障されている人間の尊厳に明らかに反している。彼らの民族主義的な態度は、特に移民やイスラム教徒に対する人種差別的な発言に反映されている」と説明した。

 世論調査研究所Forsa が4月15日から17日の間、1502人に支持政党を聞いた。その結果、AfDが支持率26%で、CDU/CSU(25%)を抜いて初めてトップに躍り出ている。2月23日に実施された連邦議会選では得票率は20・8%だったから5・2%増加したことになる。

 BfVの評価を受け、AfDの政党禁止の声が高まってくることが予想される。政党の禁止は連邦議会、連邦参議院、または連邦政府が連邦憲法裁判所に要請することができる。SPDのセルピル・ミディヤトリ連邦副議長は「私にとっては明白だ。禁止措置は必ず講じなければならない」と述べている。

 ドイツでは1956年、ドイツ共産党(KPD)を禁止して以来、政党が禁止されたケースはない。ドイツでは2017年、連邦憲法裁判所は極右政党NDP(国民民主党)の禁止要請について、「NDPが違憲性のある政党である点は疑いないが、国や社会に影響を与えるほどの勢力はない」として却下した。

 ドイツの政治学者ヘルフリート・ミュンクラー氏はオーストリア国営放送のニュース番組のインタビューの中で、「NDPは勢力が小さすぎるから禁止されなかったとすれば、AfDは大きすぎるから禁止できないと言えるかもしれない」と答えていた。同時に、「民主主義は現在、世界的に守勢に立たされている。私たちは現在、台頭しつつある独裁政権と民主主義との間の世界的な競争の中にいる」と語った。

 ドイツではCDU/CSUやSPDはAfDに対してファイアウォール(防火壁)を建て警戒してきたが、ドイツの場合、独裁者ヒトラーが武力行使(革命)で政権を掌握したのではなく、民主的プロセスを経てナチス政権を発足させ、ユダヤ民族の虐殺などの戦争犯罪を犯す道を歩んでいった、という苦い体験がある。ドイツ国民には民主主義に懐疑的になる歴史的な事情がある。


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