ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

ユダの名誉回復はあり得るか

 イエスを銀貨30枚で裏切ったイスカリオテのユダの名誉回復の動きがある。イエスの12弟子の1人。「ユダは神の命令に従ってイエスを十字架に追いやった。ユダは神の摂理に大きく貢献した」というのが名誉回復論者たちの主張の核だ。その見解はエジプトで発見された「ユダの福音書」が出版されて以来、たびたび囁かれてきた内容だ。
 十字架を神の摂理と見る場合(キリスト教理の要)、ユダの名誉回復要求は当然考えられる。ユダがイエスを十字架につけなければ、キリスト教の教理の核である「十字架の救済」は実現できなかった、という見方は至極論理的だ。「ユダの福音書」以降、キリスト教神学者は手ごわい命題に挑戦されているわけだ。
 聖書を見ると、イエスは「たしかに人の子は、自分について書いてあるとおりに去って行く。しかし、人の子を裏切るその人は、わざわいである。その人は生れなかった方が、彼のためにはよかったであろう」(マタイによる福音書第26章24節)と、ユダについてはっきりと糾弾している。
 名誉回復論者が言うように、「よくやった」とは称賛していない。聖書は「ユダにサタンが入った」とまで記述している。ユダが神の摂理を施行しただけならば、マタイ福音者の聖句は少々、理解に苦しむ。
 神学者たちは「ユダの福音書はイエスの死後、グノーシス派がまとめた内容であり、イエスの弟子たちがまとめた共観福音書とは明らかに違う」と指摘、経典の信憑性を問うことで名誉回復の動きに反論しているが、「イエスの十字架は必然的であったか」という疑問をなぜか回避している。十字架の道が神の本来の願いでなかったとすれば、ユダはイエスの殺害者に過ぎないわけだ。
 「ユダの名誉回復問題」は実は、「イエスの十字架の救済がはたして神の本来の摂理であったか」を問いかけているのであり、キリスト教教理の土台を揺るがしかねない内容を含んでいるのだ。

ナターシャさんのインタビュー

 オーストリア国営放送は6日、8年間監禁された後、先月23日に解放されたナターシャ・カムプシュさん(18歳)との初インタビューを放映した。
 髪をスカーフで覆ったナターシャさんはTV記者の質問に一生懸命答えようとしていた。8年間、地下室で監禁されていたため、光が眩しいのか、会見中に目を閉じる場面が頻繁にあった。正しい言葉を探して口ごもる場面もみられた。
 特筆すべき点は、10歳の時に拉致された彼女が語るドイツ語の表現力と語彙の豊かさだ。大学生でも駆使できないようなドイツ語の表現力であり、文才すら感じさせる描写力だった。
 拉致犯人(44歳、ナターシャさん逃避後、列車飛び込み自殺)は彼女にラジオや雑誌、本を与えていたという。地下の自分の部屋で彼女は賢明に学んだのに違いない。彼女の目はその意思力の強さを示していた。
 彼女は「生きのびていく為には自分は強くならなければならない。強くなれば、いつか逃げられるチャンスがあると信じていた」という。
 インタビュー後、番組は彼女の発言や表情について、心理学者や教育学者たちに分析させていた。彼らは「8年間の監禁体験から完全に解放されるまでには数年はかかるだろう」と指摘していた。
 専門家の指摘は正しいのだろう。犯人と2人だけの8年間の生活は尋常ではなかったはずだ。一部でストックホルム症候群を指摘、彼女が犯人に対して屈折した心情を抱いていたという説も聞かれる。
 ナターシャさん曰く「息子(犯人)がいい子と信じてきたお母さんが事実を知ったうえ、息子の自殺に直面、苦しんでいるのが哀しい」と述べ、「自分は教育の面で通常より欠如しているのを感じる。将来、勉強して困窮下にある子供たちや人を助ける基金を作りたい」と語った。
 18歳の女性が他者の悲しみを身近に感じ、苦しむ他者の為に生きたいというナターシャさんの言葉を聞きながら、「8年間は異常で哀しい時間だったに違いないが、彼女の精神はそれらをも栄養分として吸収し、成長していった」と強く感じさせられた。
 なお、同インタビューはオーストリア国内で300万人以上が見、世界120カ所のTV会社が放送権を得て放映した。

IAEA事務局長の「9カ国核兵器保有国」発言

 国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長は8月31日、ウィーンのホフブルク宮殿で開催された包括的核実験禁止条約(CTBT)署名開始10周年の記念シンポジウムで基調演説をしたが、そこで「世界は今日、9カ国の核兵器保有国が存在する」と述べた。
 参席していた多くの外交官たちは「9カ国」という発言を聞き、驚きの表情を示す一方、指で数え出す姿が見られた。事務局長の「9カ国」発言は今回が初めてだ。外交官の間で衝撃が走ったとしても不思議ではない。
 事務局長は国名を挙げなかったが、核兵器保有国として先ず、国連安保理常任理事国の5カ国(米英仏ロ中)が挙げられる。それにインド、パキスタン、イスラエルの3カ国だ。そして最後に、北朝鮮が入る。
 「北朝鮮は核兵器用のプルトニウムを十分に保有している。核兵器は2、3個保有している可能性が高い」というのが、IAEAのこれまでの公式見解だった。事務局長の発言内容はそれを遥かに超えたものだ。
 一方、エルバラダイ事務局長の発言は北朝鮮の金正日労働党総書記にとってはこの上もない支援だ。「核兵器保有宣言」(2005年2月10日)はしたが、核実験はしていないのに、核兵器保有国クラブの一員に認知されたからだ。
 事務局長の「9カ国発言」の背景について、「エルバラダイ事務局長の口が滑っただけだ」から「核拡散防止体制の崩壊に警告を発する意味合いがあったはずだ」まで、さまざまな意見が聞かれる。
 特別査察の法体制を確立したエルバラダイ事務局長に不愉快を抱いてきた北朝鮮も、今回は事務局長の発言に感謝しているはずだ。
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