ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

内務省の知人との「縁」

 北朝鮮取材が契機でオーストリア内務省のF氏とH氏の2人と知り合いになった。交流は既に10年以上になる。F氏とは平均2カ月に1度会っている。H氏とは不定期だが、北朝鮮関連の事件が生じた時には会う。
 F氏は若い時、事件の現場で従事していたが交通事故で背中をやられて以来、もっぱら事務所でコンピューターなどを駆使して情報収集をするのが役目だ。内務省が発行する年報「憲法保護報告書」で北朝鮮の項目を担当している。その意味で、F氏から北朝鮮指導部内の動向を聞かれることもある。
 「日本や韓国とは違って、北朝鮮問題はわが国の主流のテーマではない。対北貿易も年々、減少してきている。しかし、北朝鮮の政情についてはしっかりとフォローしなければならないからね」という。欧州駐在の北朝鮮外交官の動向に結構、通じている。
 一方、H氏は組織犯罪や対テロ対策の前線にいる。約束の喫茶店で会う時も背広のどこかには拳銃が潜んでいる。小太りなF氏とは違って、H氏の肢体は贅肉はない。動きは鋭い。H氏と話す時は金正日労働党総書記の動きといった情報より、具体的な事件の話に集中する。
 米中央情報局(CIA)がウィーンで北朝鮮外交官を盗聴していたことが発覚した時、オーストリア側はその事実をメディア機関にリークして米国側に警告したことがある。H氏はその理由を「わが国は外国機関の盗聴工作を認めない。CIAも例外ではない。盗聴工作に関与したCIAエージェントは即、ワシントンに帰国していった。彼らは2度とウィーンの地を踏む事が出来ない。わが国は外国情報機関員と分かれば、入国を認めないからだ」と説明してくれた。
 H氏からはCIAの盗聴工作事件の時や金正日労働党総書記の長男金正男氏がウィーンを訪問した時(2004年11月)、いろいろとお世話になった。H氏の情報は具体的であり、詳細だ。前線を飛び回るH氏と約束を取るのは容易ではないが、北朝鮮外交官などが関与した事件が発生するといやな顔をせずに会ってくれるから、とても感謝している。
 両氏と会う場所は通常、市内の喫茶店だ。両者とも私服だから外からは身分が分からない。くつろいで話したい時や重要な用件の時は食事をしながら話すこともあるが、両氏とも私的なことは余り喋らない。
 いずれにしても、北朝鮮問題がなければ、F氏やH氏と知り合うことは絶対なかっただろうと思う。その意味で、北朝鮮問題が結んでくれたこの「縁」を貴重に感じている。

縁故主義と国連マフィア

 程度の差こそあれ、どの機関にも縁故主義(ネポティズム)が蔓延っているものだ。当方がオーストリアで取材活動を開始し出した1980年代、同国のブレヒャー内相と会見した時だ。ウィーン市ヘレンガッセにある内務省内で会見のため待機していたら、若い女性たちが役所勤めとはどうみてもマッチしない派手な服装を着て机の上に腰をかけて談笑しているではないか。一瞬、内務省ではなく、どこかの喫茶店にきたのではないかという錯覚を覚えたほどだ。
 オーストリア記者から後日聞いたところによると、戦後から社会党(現社会民主党)が牛耳ってきた内務省では縁故主義が幅をきかしているという。党幹部たちが親戚や知人の子弟たちを内務省に送るケースが多かったという。当方が目撃した若い女性たちは「党幹部の子弟」たちだったわけだ。
 冷戦終了後、当方が国連記者室に常駐するようになってから、国連内にも同じような縁故主義がはびこっていることを知った。国連高官ポストには一定の資格やキャリアが要求されるが、事務職や秘書などになると結構、コネが幅をきかしているのだ。あるアラブ国大使館の大使は関係をもった若い女性を夫人の目から隠す為に国連に事務職員として派遣している、といった話も耳に入ってくる。
 ベテランの国連記者によると、「国連職員の80%は何らかのコネを利用して入ってきている。縁故で国連に入った職員は後日、知り合いや親戚を国連に連れてくる、といった縁故のサイクルが出来上がっていく」という。このようにして、“国連マフィア”と呼ばれる縁故集団が生まれてくるのだ。
 人間が他者との関係で生きる“関係的存在”である限り、縁故主義が完全に消滅することは期待できないだろうが、その程度を越えると大きな問題になる。特に、加盟国に一定の職員数が振り分けられている国連のような機関では、行き過ぎた縁故主義はその機関の活力を阻害するばかりか、腐敗や汚職の土壌ともなりかねない。
 例えば、国際原子力機関(IAEA)ではエジプト出身のエルバラダイ事務局長周辺には同国出身の職員が他の機関より多い、といった具合だ。事務局長出身国の職員が多くなるのは一定の必要性があるからだろうが、“エジプト・マフィア”を形成することにもなる。

金正男氏の訪仏予定はなし?

 北朝鮮最高指導者・金正日労働党総書記の長男、金正男氏(36)が近い将来、フランスを訪問するとの外電が流れた。正男氏が北京の北朝鮮大使館を通じて駐中国のフランス大使館に査証(ビザ)を申請したという。
 正男氏は2004年11月にもパリを訪問、高級ホテル「リッツ」に滞在した後、ホテル専属運転手を借り切ってウィーンまで足を伸ばしたことがある。その時は、「正男氏の暗殺情報」があるとして、オーストリア内務省の身辺警備員が24時間、正男氏を監視するという出来事が生じた。そのため、正男氏のウィーン訪問はメディアにも報じられた。
 ちなみに、当方がオーストリア内務省関係者から入手したところによると、「正男氏暗殺情報」は実際は誤報であり、正男氏は暗殺の恐れをまったく感じることなく、「音楽の都」ウィーンを満喫してモスクワ経由でマカオに戻っていった。
 さて、正男氏が再び、フランスを訪れるのかを確認するために、金総書記の遠縁で、正男氏の親族に当たる人物に聞いてみた。同氏曰く、「何も連絡が入っていない。正男氏が訪欧するならば、自分にも連絡が入ってくるが、何も聞いていない。誤報だろう」とかなり確信をもって言い切った。
 正男氏が5日間のウィーン滞在中、2人の北朝鮮人に会った。1人は朴商務官だ。もう1人がこの人物だ。興味を引く事実は、正男氏がウィーン滞在中、駐オーストリアの北朝鮮大使の金光燮氏(金総書記の義弟)と1度も会っていないことだ。金大使の金敬淑夫人は故金日成主席と金聖愛夫人との長女だ。一方、正男氏は金総書記と故成恵琳夫人(モスクワで療養中死去)の間の長男だ。世代と血筋が違う。
 「正男氏は自由に使えるかなりの資金を保持しているはずだが・・」と聞くと、この人物は「資金、そんなものはない」という。これで引っ込んでしまえは話にならない。当方は気力を振り起こして、「ウィーン訪問時には、正男氏は5つ星ホテルでスイートに泊まり、豪華な生活を堪能していたと聞く」と少し突っ込んでみた。するとこの人物は鋭い目を当方に向け、「オーストリア内務省関係者から入手した情報だろう。確かに、正男氏は金をもっている」と答えたが、それ以上聞くな、といった強い響きがあった。
 そこでテーマを変えて聞いた。「正男氏はお国では重要な任務を持っているのですか」。この人物は「重要な任務?」と聞き直しながら笑った。それを良い事に、当方は「ディズニーランド訪問以外の任務ですよ」と冗談を言ってしまったのだ。この人物はもはや何も答えてくれなくなった。
 当方と「正男氏に近い人物」との短い会話はこのようにして終わった。いずれにしても、正男氏の近日中の訪仏予定はないようだ。
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