ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

「世界のツネ」になって下さい

 待ちに待っていた日が来た。オーストリアのサッカー1部クラブ「FCレッドブル・ザルツブルク」に日本代表チーム元キャプテンで「G大阪」の宮本恒靖選手(29)が11日、ザルツブルクで初の記者会見を開いたのだ。日本のジャーナリストたちも殺到し、狭い会場は一杯になった。宮本選手はオーストリアのファンにその勇姿を見せただけではない。なんと、ドイツ語で挨拶したのだ。「こんにちは。私は宮本恒靖です。これからはツネと呼んで下さいね」といったのだ。
 傍には同クラブのジョバンニー・トラッバトー二監督(元イタリア代表監督)が笑みをこぼしながら聞いていたが、イタリア人の監督のドイツ語を何度もテレビで聞いてきた当方は、「ツネのドイツ語の方が監督のそれより数段うまいな」と感心したものだ。
 前日、即製で頭に入れたドイツ語とは思えないほど、堂々としたものだった。特に、ドイツ語独特のウムラウトの発音はパーフェクトだったのだ。長く住んでいてもウムラウトをこなすことは容易ではないのだ。記者会見の画面を見ていた息子(オーストリア生まれ)も「ツネのドイツ語は聞きやすい」と、そのドイツ語に折り紙を付けてくれたから、間違いがない。
 ツネのザルツブルクの日々が始まった。クラブは目下、ダントツでトップを走っている。マイスター・タイトルはもう手中に入っている。次の目標は欧州サッカーのエリート・リーグである「欧州チャンピョン・リーグ」(CI)に参加することだ。
 ツネは記者会見で「チームの勝利のために貢献したい」と決意を表明する一方、クラブのコーチであるドイツ人のローター・マテウス氏(元ドイツ代表)を「自分の目標としている」と述べ、コーチを喜ばす事も忘れなかったのだ。
 今月末にはもう1人の日本選手、Jリーグの王者となった「浦和」から三都主アレサンドロ選手がクラブに合流することになっている。「FCレッドブル・ザルツブルク」の未来はいよいよ2人の日本選手の活躍にかかてきたのだ。
 宮本選手、本当に「世界のツネ」になって下さいね。「背番号17」よ、羽ばたけ。

「歴史は繰り返す」

 英国の歴史学者アーノルド・J・トインビーではないが、「歴史は一定の繰り返しを重ねている」という感慨をもつ。
 オーストリアで11日、総選挙の102日後、社会民主党と国民党からなる大連立政権がようやく正式発足したが、新政権発足に抗議するデモが大統領府官邸前などで行われた。記憶力のいい読者なら覚えていると思うが、2000年2月、同国でシュッセル政権が発足した日にも同様にデモが行われた。ネオナチ的な発言で名を売ってきたハイダー党首(当時)の政党「自由党」が新政権に参画したことに対する抗議デモだった。欧米のメディアも一斉に報道合戦を展開し、発足日には大統領官邸周辺はデモ参加者とカメラマンで溢れたほどだ。シュッセル首相(当時)ら新閣僚たちは大統領府の宣言式に参加するため、首相府から地下道を通って大統領府に行かざるを得なかった。
 今回のデモは少し性格が違う。野党グループによるデモではなく、選挙で第一党の復帰し政権についた社民党党首のグーゼンバウアー新首相に対する同党支持者・学生たち、左派グループのデモなのだ。
 グーゼンバウアー党首は昨年10月の総選挙で、大学生の学費無料や欧州戦闘機購入問題の見直しなど多数の公約を掲げて闘い、7年ぶりに同党を政権に復帰させた。そこまでは良かったが、同党首は国民党との連立交渉で公約貫徹できないばかりか、主要閣僚ポストを国民党に取られてしまったのだ。メディアからは「社民党は選挙で勝ち、連立交渉で敗北した」と揶揄される始末だ。そのため、同党内や同党派学生グループが一斉に不満を爆発させたわけだ。社民党系学生団体は「学費無料が実現するまで抗議を続ける」と表明するなど、社民党党首のグーゼンバウアー首相への風当たりは強い。
 政権発足日の「デモ」の対象や目的は少々異なるが、2000年の「新政権発足日のデモ」が7年後の今月、繰り返された。このように、トインビーの歴史観は証明されたわけだ。少し付け加えるならば、今回の政権発足日の「デモ」は7年前のそれと比較すると、欧米メディアの関心が薄かったことだ。「身内(社民党や左派グループ内)の喧嘩」に口を挟まない方が利口だからだ。

EU加盟とブルガリア

 日本の読者にとって、ブルガリアはヨーグルトと大相撲の琴欧州関の出身国として良く知られていると思うが、当方にとっては、35年間、君臨してきた独裁者ジフコフ共産政権の国という記憶がいまだに強い。民主改革後、ソフィアの大統領執務室でジェリュ・ジェレフ大統領と会見した時、当方は同大統領が座っている椅子を見ながら、「ここにジフコフ書記長がいたのか」という思いが襲ってきたものだ。そのブルガリアが1月1日、欧州連合(EU)に加盟した。時代の変遷に驚きを感じている。
 ブルガリアの複数の世論調査によれば、国民の75%以上がEU加盟を大歓迎しているという。しかし、同国ではここにきて物価が高騰する気配がでてきた。パン、ミルクなどの日常消費財からガス、エネルギー代まで平均20%、高騰したという経済データもあるほどだ。
 物価対策の一環からか、物価が低い隣国マケドニアに買い物に出かける国民が増えてきている。ちなみに、ブルガリアとマケドニアは言語的、民族的にも近く、両国はちょうどオーストリアとドイツのような関係だ。例えば、多くのマケドニア国民はブルガリアのEU加盟前に同国に行き、ブルガリア国籍を取得している(同国では2重国籍が認められている)。ブルガリアの加盟後、EU国民として査証なくEU諸国を訪れることができるからだ。
 ところで、物価の高騰にも関らず、今のところ、反EUの声はほとんど聞かれない。これまで政府から経済的支援を受けてこなかった同国の農業従事者はEU加盟後、ブリュッセルから補助金が出るということで、大喜びだ。EUに批判的な政党は民族派政党「アタック」だけだ。同党は2005年6月の総選挙では約9%の得票率を獲得している。
 一方、雇用問題では、多くのブルガリア人がここ数年、ポルトガルなど海外に出稼ぎにいくケースが増加している。参考までにいえば、ポルトガル国民はルクセンブルクに出稼ぎに行くといった具合で、より豊かな雇用市場を求め、EU途上国の国民の間で労働者の移動が見られるわけだ。
 同国の深刻な問題は人口減少だ。1990年度、約867万人だった人口は15年後の2005年には772万人に減少している。約100万人の国民がいなくなったのだ。多くはよりよい職場を求めて海外に流出していった。そのため、同国では専門分野で労働者不足が目立ち始めている。同国政府は海外出稼ぎ組の早期帰国に期待を寄せているところだ。
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