ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

北朝鮮建国記念日の祝賀会

 9月9日は北朝鮮の建国記念日。 海外の同国大使館でもゲストを招いて祝賀会が開催されるが、オーストリアでは9月7日、ウィーンの同国大使館で祝賀会が開かれた。ゲストの顔ぶれは大きく変わらない。というより、祝賀会に来る顔はいつも決まってきた。
 1990年代はゲストの顔ぶれは華やかであった。外務省高官から国連高官までVIPの顔も見られた。オーストリアのフィッシャー大統領も当時は常連客の1人だった。
 しかし、金日成主席が亡くなった1994年以降、祝賀会のゲスト数は減少傾向にある。特に、核問題が先鋭化して以来、政治家たちの顔がめっきり少なくなった。
 国際原子力機関(IAEA)のハンス・ブリックス事務局長(当時)が祝賀会に顔を出したことがあるが、IAEA側は事務局長の北大使館訪問がメディアに流れることを非常に警戒していたものだ。
 北朝鮮と経済関係を有しているオーストリア企業関係者も米国が対北金融政策を実施して以来、祝賀会参加を控えるケースが増えた。
 一方、北朝鮮外交官はゲスト確保の為に総動員される。国連担当外交官は国連職員を、オーストリア担当外交官は外務省関係者を招待するために、招待状を郵送したり、電話攻勢する。盛大な祝賀会を実現することが至上命令だからだ。祝賀会が近づくと、北朝鮮外交官たちにとって、緊張の日々が続くわけだ。
 7日の祝賀会には約50人のゲストが参加した。その中には政治家、外交官の姿はなかった。

ユダの名誉回復はあり得るか

 イエスを銀貨30枚で裏切ったイスカリオテのユダの名誉回復の動きがある。イエスの12弟子の1人。「ユダは神の命令に従ってイエスを十字架に追いやった。ユダは神の摂理に大きく貢献した」というのが名誉回復論者たちの主張の核だ。その見解はエジプトで発見された「ユダの福音書」が出版されて以来、たびたび囁かれてきた内容だ。
 十字架を神の摂理と見る場合(キリスト教理の要)、ユダの名誉回復要求は当然考えられる。ユダがイエスを十字架につけなければ、キリスト教の教理の核である「十字架の救済」は実現できなかった、という見方は至極論理的だ。「ユダの福音書」以降、キリスト教神学者は手ごわい命題に挑戦されているわけだ。
 聖書を見ると、イエスは「たしかに人の子は、自分について書いてあるとおりに去って行く。しかし、人の子を裏切るその人は、わざわいである。その人は生れなかった方が、彼のためにはよかったであろう」(マタイによる福音書第26章24節)と、ユダについてはっきりと糾弾している。
 名誉回復論者が言うように、「よくやった」とは称賛していない。聖書は「ユダにサタンが入った」とまで記述している。ユダが神の摂理を施行しただけならば、マタイ福音者の聖句は少々、理解に苦しむ。
 神学者たちは「ユダの福音書はイエスの死後、グノーシス派がまとめた内容であり、イエスの弟子たちがまとめた共観福音書とは明らかに違う」と指摘、経典の信憑性を問うことで名誉回復の動きに反論しているが、「イエスの十字架は必然的であったか」という疑問をなぜか回避している。十字架の道が神の本来の願いでなかったとすれば、ユダはイエスの殺害者に過ぎないわけだ。
 「ユダの名誉回復問題」は実は、「イエスの十字架の救済がはたして神の本来の摂理であったか」を問いかけているのであり、キリスト教教理の土台を揺るがしかねない内容を含んでいるのだ。

ナターシャさんのインタビュー

 オーストリア国営放送は6日、8年間監禁された後、先月23日に解放されたナターシャ・カムプシュさん(18歳)との初インタビューを放映した。
 髪をスカーフで覆ったナターシャさんはTV記者の質問に一生懸命答えようとしていた。8年間、地下室で監禁されていたため、光が眩しいのか、会見中に目を閉じる場面が頻繁にあった。正しい言葉を探して口ごもる場面もみられた。
 特筆すべき点は、10歳の時に拉致された彼女が語るドイツ語の表現力と語彙の豊かさだ。大学生でも駆使できないようなドイツ語の表現力であり、文才すら感じさせる描写力だった。
 拉致犯人(44歳、ナターシャさん逃避後、列車飛び込み自殺)は彼女にラジオや雑誌、本を与えていたという。地下の自分の部屋で彼女は賢明に学んだのに違いない。彼女の目はその意思力の強さを示していた。
 彼女は「生きのびていく為には自分は強くならなければならない。強くなれば、いつか逃げられるチャンスがあると信じていた」という。
 インタビュー後、番組は彼女の発言や表情について、心理学者や教育学者たちに分析させていた。彼らは「8年間の監禁体験から完全に解放されるまでには数年はかかるだろう」と指摘していた。
 専門家の指摘は正しいのだろう。犯人と2人だけの8年間の生活は尋常ではなかったはずだ。一部でストックホルム症候群を指摘、彼女が犯人に対して屈折した心情を抱いていたという説も聞かれる。
 ナターシャさん曰く「息子(犯人)がいい子と信じてきたお母さんが事実を知ったうえ、息子の自殺に直面、苦しんでいるのが哀しい」と述べ、「自分は教育の面で通常より欠如しているのを感じる。将来、勉強して困窮下にある子供たちや人を助ける基金を作りたい」と語った。
 18歳の女性が他者の悲しみを身近に感じ、苦しむ他者の為に生きたいというナターシャさんの言葉を聞きながら、「8年間は異常で哀しい時間だったに違いないが、彼女の精神はそれらをも栄養分として吸収し、成長していった」と強く感じさせられた。
 なお、同インタビューはオーストリア国内で300万人以上が見、世界120カ所のTV会社が放送権を得て放映した。
訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

Recent Comments
Archives
記事検索
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ