ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

法王と金総書記の呼称リスト

 北朝鮮最高指導者・金正日労働党総書記には1200余りの呼称があるという。一般の人でも知っている呼称は「偉大な指導者」「偉大な首領さま」だろうか。ここで1200余りの呼称を全部羅列すれば、コラム欄の紙面がなくなるから、代表的な呼称を挙げる。「絶世の偉人」「偉大なる領導者」「先軍思想の具現者」から「完全無欠な軍事家」「不敗の司令官」まで。また「革命の太陽」「わが民族の太陽」「人類の太陽」「21世紀の太陽」と「太陽」が伴う呼称まで幅がある。それだけではない。映画や文学に造詣の深い金総書記には、「世界的大文豪」「天から降臨した英雄」「音楽の天才」等の呼称も忘れてはならない。
 北朝鮮の独裁者・金ファミリーに対抗意識があったわけではないだろうが、世界に約11億人の信者を抱えるローマ・カトリック教会最高指導者ローマ法王にも多数の呼称がある。バチカン法王庁の公式年鑑によれば、「ローマ司教」「イエス・キリストの代理人」「使途ペテロの後継者」「普遍教会の最高位聖職者」「イタリアの首座大司教」「ローマ管区大司教かつ首都大司教」「バチカン市国元首」「神のしもべの中のしもべ」の8呼称だ。本来はそのほか、「西方の総主教」という呼称があったが、本年度年鑑から除外されている。
 どの機会にどの呼称を使用するかは、関係者以外は分からないだろう。ひょっとしたら、関係者すら呼称の詳細な使用方法を熟知していないかもしれない。明確な点は、金総書記にしても、ローマ法王にしても、必ず呼称が伴うということだ。特に、金総書記の場合、呼称を省略したり、間違って使用した場合、大変な結末が待っている。北朝鮮では、呼称はいいかげんなものではないのだ。
 ところで、呼称で呼ばれる側はどのように受け取っているのだろうか。「21世紀の太陽」と呼ばれた金総書記はどうか、「イエス・キリストの代理人」と呼ばれるべネディクト16世はどうであろうか。「呼称」と「実態」の乖離で悩むことはあるのだろうか。

韓国の運勢と金正日の爆発気質

 努力して汗を流しても、どうしょうもない時がある一方、何もしないのに人と物(金)がついて回る時がある。俗に前者を「運に見放された」といい、後者を「有卦に入る」「運勢がいい」という。人である以上、後者を願うが、運勢は人の願いなどまったくお構いなしだ。その点、厄介だ。前口上は終わりにして、ズバリ、韓国はいま「有卦」に入っているようにみえる。
 韓国の潘基文(バン・キムン)外交通商相が次期国連事務総長選でトップとなり、当選がほぼ確実となった。潘基文外相を取り巻く政治情勢(朝鮮半島)はけっして事務総長選に有利ではない。北朝鮮外交官ですら、「(南北)分断国家出身の候補者が国連事務総長に選出された場合、世界の紛争を調停しなければならない国連が不必要な障害を背負う」と指摘、韓国候補者の選出に否定的な見通しを述べていたほどだ。
 その潘外相の当選が濃厚となった背景には、根回しがうまく、選挙活動を得意とする韓国民族の気質を考量に入れたとしても、やはり、「韓国は今、運勢がある」という印象を受ける。この勢いだと、2014年の冬季五輪開催地争いでも韓国の開催候補地、江原道平昌市が選出される“サプライズ”も十分考えられる。本命は冬のスポーツのメッカ、オーストリアのザルツブルクだが、「ザルツブルクの勢いがもう1つ」という。韓国は過去、大きな国運を経験している。ソウル夏季五輪が開催された1988年だ。今回、同じような運勢を感じる。
 ただし、運勢のある人、国は注意も必要だ。例えば、ソウル夏季五輪開催前に何が起きたかを想起するだけでいいだろう。大韓航空機爆破事件(1987年)が起き、乗客乗員115人全員が死亡したのだ。
 ところで、北朝鮮外務省が3日、「核実験を実施する」と表明したが、87年の「航空機爆破」と「核実験」には、不気味な共通点がある。それは「爆発」だ。大韓航空機爆破計画は、金正日総書記が五輪開催で国際的ステータスが上がる韓国に一撃を与える目的で指令した事件だ。今回の「核実験の実施表明」も同じ金総書記から出たことは疑いない。
 「金総書記には、韓国の運勢に対抗するために『爆発』とい非常手段に走る気質がある」と診断ができる。運勢圏を迎えた韓国は注意が必要だ。

スターリンと「神の軍隊」

 ソ連邦時代、独裁者スターリンはかって「ローマ法王は軍隊を保有していないから、恐れるに値しない」と豪語したものだ。ローマ法王を守るバチカン法王庁の軍は数百人から成るスイス衛兵隊だけに過ぎない。その意味で、「ローマ法王には軍隊がない」というスターリンの指摘は正しい。
 ところで、冷戦終焉直後、「ロシア軍兵士の約25%が神を信じている」という意識調査が明らかになったことがある。同調査ではまた、スターリンのように積極的に「神は存在しない」と考える無神論者は「全体の10%以下であった」という結果が分かった。すなわち、スターリンが誇っていたロシア軍内部に既にキリスト教の福音が侵入し、兵士を着実に改宗させていたことになる。福音を伝えるキリスト者を“神の軍隊”と称することが許されるならば、ローマ法王はスイス衛兵隊より強力な軍隊を保有していたことになるわけだ。ただし、それは目に見えない軍隊だ。
 ちなみに、同調査を行った社会学者は「1917年から1991年までの間の共産政権時代には、反宗教プロパガンダが連日行われていたにもかかわらず、無神論者の数が少ないのは驚くべきことだ」と評している。
 スターリンには悪いが、もう1つ面白いことを最近、聞いた。世界で初めて宇宙飛行したユーリイ・ガガーリン氏はソ連邦の国家的英雄であり、同時に無神論者といわれてきたが、どうやら、そのガガーリン氏もスターリンが信じていたような無神論者ではなく、「敬虔なキリスト信者だった」という証が明らかになったからだ。
 ガガーリン氏の同僚、ワレンティン・ペトロフ大佐は昨年、インターファクス通信とのインタビューの中で、「ガガーリン氏は他のロシア人と同様、洗礼を受けていた。彼は信者だった」と明らかにしている。
 同大佐によると、ガガーリン氏が1961年4月12日、人類史上初めて宇宙を飛んだ時、「ここでは神が見えない」と述べたといわれているが、実際は反宗教宣伝のためにスターリンの後継者フルシチョフ共産党第1書記(当時)が共産党会議で発した言葉であり、ガガーリン氏の発言ではないという。
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