ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

入学式での三角袋

 オーストリアで9月4日から新学期が始まった。ウィーンでは約1万6100人の子供が小学校に入学する。少々緊張した面持ちの子供たちが両親に連れられて入学式に臨むシーンはどこでも同じだ・・。当方は当時、少なくともそう考えて娘の入学式に臨んだ。ところが、同じではなかったのだ。
 他の新入生は何か大きな三角袋を大切そうに抱えているではないか。
 この時、子どもを現地の小学校の通わせるのは初めてだった。入学式に対する予備知識などまったくなかった。その点、妻も同様だった。
 心配になった妻が横の母親に聞いてみた。「子供たちが持っているあれは何ですの」と。
 「あれ、あれは初めて小学校に通う子供に親が送るプレゼントよ。中身には文房具やチェコレートなどが入っているのよ」
 ドイツ語でシュールテューテと呼ぶ。娘は自分だけその三角袋がないことを知って、落ち着かない。
 他の子供が持って、自分がないということは、初めて学校に通う娘にとっては地獄のような状況に違いない。
 当方は妻を学校に置いて早速、その三角袋を買いに外へ飛び出した。幸いにも、近くの文房具屋にいろいろな色と大きさの三角袋があった。
 半日遅れで紙袋を手にした娘はうれしそうであったが、半面、「自分は他の子供たちとは違う」という疎外感を持ったようだ。
 学校初日のこの経験は、娘のその後の学校生活にも少なからず影響を与えた。娘は「自分はオーストリア人の子供とは違う」という哀しい感情を乗り越えるのに、かなりの時間がかかったからだ。
 9月に入って小学校の入学式を見る度に、というより、あの三角袋を見るたびに、15年前の娘の入学式の苦い思い出が蘇ってくる。

自衛隊の貢献を高く評価するイラク保健省高官

 「イラク国民は日本の陸上自衛隊の貢献を決して忘れないだろう。医者の1人として、サマワで自衛隊が取り組んでくれた治療センター建設や医療支援はとても大きな助けだ。日本の貢献は平和的、人道的なものであり、他国の支援を凌ぐ成果を挙げた」
 欧州連合(EU)から医療支援を要請するためにオーストリア入りしたイラク保健省のS・H・アル・フセイニ次官は4日、日本人記者の当方に最高の称賛を送ってくれた。
 誉められて嫌な思いをする人間はいないものだ。気を良くした当方は「次官はイラク情勢をどうみているのか。米国防総省は『イラクで宗派間の内戦が生じてきた』と懸念している」と、やんわりと聞いてみた。
 「イラク国民は高等教育を受けた民族だ。状況は内戦ではない。シーア派国民がスン二派の地域であるバグダッドを訪問したとしても問題は生じない」と説明した。30代半ばの次官は、スン二派の拠点であるバグダッド市の最貧困街出身者だという。
 医者で保健省高官に政治的な質問をするのは適切ではないと思いながら、笑顔で当方を見つめている次官に意地悪な質問をしたくなった。
 「イラクでは7月1800人の民間人がテロで犠牲となった。次官の認識は非現実ではないか」と。
 すると、次官は「米国防総省の見解は知っている。イラク軍は再建途上であり、イラク全土を統括できる力はないことは事実だ」と述べる一方、「イラク周辺国家から過激派勢力が侵入、国内の一部勢力と連携してテロを繰り返しているだけだ。大多数の国民は関与していない。わが国の現状はけっして内戦ではない。将来もそれはあり得ない」と確信をもって強調した。
 次官のこの楽観的な見解は、現実より未来志向が強い若さの特権だろうか。次官は会見最後までその笑顔を絶やさなかった。

新しい日刊紙の登場で部数争いが激化

 オーストリアで9月1日、久しぶりに新しい日刊紙がスタートした。日刊紙の名前は「オーストライヒ」(オーストリア)だ。発行部数25万部と、同国17の日刊紙の中でも「クローネン」「クライネ・ツァイトゥング」など大衆紙に迫る部数だ。
 同紙発行人のボルフガング・フェルナー氏によれば、既に5万5000部の定期購読が決まっているという。スタートとしてはいい出足だ。
 第1号を読もうと最寄の売り場にいくと、「申し訳ない。配送が送れている。30分後には到着するから」という。仕方がないので、1時間後、国連プレスの店で購入した。
 ボリュームがある。60ページを超えている。紙はタブロイド版より大きいが、「プレッセ」よりは小さい。写真が多い一方、政治、経済、スポーツなど分野別に頁が閉じられ、読みやすい。特に、スポーツ・ニュースが充実している。サッカー・ファンにとっては嬉しい。値段は1部50セントで大衆紙「クローネン」の90セントより安い。
 「クローネン」定期購読者の友人は「印象としては英国大衆紙『サン』に似ているが、新日刊紙は情報がさらに豊富だ。かなり伸びるのではないか」と予想、近い将来、「クローネン」から「オーストライヒ」に代えることも考えているという。
 新日刊紙の発行で最も影響を受けると見られる日刊紙は「クリア」と「スタンダード」の2紙だ。前者は先月、レイアウトを大きく刷新、新鮮味を出して対抗策に腐心している。
 新日刊紙の登場でアルペンの小国オーストリアでも遅まきながら生存をかけた激しいメディア間の部数争いが展開されるわけだ。競争が新聞の質向上に繋がれば、読者としては大歓迎だ。
 ちなみに、オーストリア・メディア界は「プレッセ」など2、3紙を除いて、WAZ(ウェストドイチッヒ・アルゲマイネ・ツァイトゥンク)など独メディア大手が経営権を握っている。
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