ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

北朝鮮大使、UNODCと会談

 駐国連機関代表の金光燮・北朝鮮大使(同国最高指導者・金正日労働党総書記の義弟)が先週、ウィーンの国連薬物犯罪事務所(UNODC)本部を訪問し、アントニオ・マリア・コスタ事務局長と会談していたことが、このほど明らかになった。訪問目的は、昨年の国際麻薬統制委員会(INCB)使節団訪朝のフォローアップと見られる。
 INCB使節団は昨年6月末、北朝鮮を3日間訪問し、関係省担当官と国内の麻薬問題や国際麻薬条約への加盟問題について協議した。INCB関係者によれば、北朝鮮当局は国際麻薬関連条約への加盟の一歩として、国内の法体制の整備に乗り出したい旨を伝えたという。金大使は当方の電話取材に答え、「平壌の協議に基づいてUNODCに技術支援を要請した」と語った。
 INCBは過去、1992年と2003年の2度、北朝鮮に使節団を派遣、麻薬関連の国際条約に加盟するように北朝鮮に要求してきた。北朝鮮は,「麻薬一般に関する憲章」(1961年)、「同修正条約」(71年)、「麻薬および向精神薬の不正取引に関する国際条約」(88年)の3つの国際条約のいずれにも加盟していない。ちなみに、北朝鮮は昨年3月、麻薬関連の国内法を一部改正、不法麻薬取引などへの刑罰を強化するなど、麻薬対策で国際社会の要望に呼応する動きを示したことがある。
 国家レベルで不法な麻薬密売の関与が疑われている北朝鮮当局が果たして真摯に麻薬対策に取り組むだろうか、といった懐疑的な見方が依然強い中、金大使のUNODC訪問は、北朝鮮が国際麻薬関連条約の加盟に向け一歩踏み出したものとして、注目される。
 興味を引く点は、UNODCやINCBが過去、北朝鮮の麻薬問題でイ二シャティブを発揮する度に難色を示してきた米国が今回は沈黙を守っていることだ。核問題と共に北朝鮮の麻薬犯罪を厳しく追及してきた米国のこの変化に、国連外交筋ではさまざまな憶測が流れている。
 なお、INCBは今春、慣例の年次報告を発表するが、地域別報告の中で北朝鮮の訪朝結果を報告している。

ファティマ第3予言、暗殺でない

 ポーランドのローマ・カトリック教会クラクフ大司教のスタニスラフ・ジヴィシ枢機卿(67)は前ローマ法王ヨハネ・パウロ2世との思い出を綴った著書「カロルとの日々」(仮称)を発表する。カロルとは、クラクフ大司教時代のヨハネ・パウロ2世の本名「カロル・ボイチワ」を指す。
 同大司教は、1960年代のポーランド教会時代から亡くなるまでヨハネ・パウロ2世の個人秘書を勤めてきた聖職者だ。同大司教以上に前法王を知っている人物は聖職者の中にはいないだろう。その人物が前法王との日々を記述しているのだ。ローマ・カトリック教会信者でなくても、一度は読んでみたい本だろう。「カロルとの日々」はポーランド語の本だ。英語などに翻訳されるまで読む事はできないが、幸い、「ラジオ・バチカン」が24日、その著書の概要を紹介している。
 著書は、故ヨハネ・パウロ2世が1981年、暗殺未遂事件に遭遇して重体となった時の状況を詳細に記述する一方、法王が回復後、拘束中の犯人アリ・アジャ服役囚を訪問した時、アジャは許しを請うのではなく、「どうしてうまく射殺できなかったか」を説明するのに腐心していたという。問題は次だ。「ヨハネ・パウロ2世は最初、自分の暗殺未遂事件をファティマの第3予言と関連して受け取っていなかった」と述懐しているのだ。ファティマの予言とは、聖母マリアが1917年、ポルトガルのファティマに再臨して、羊飼いに託した内容を意味する。
 教理省長官であったヨゼフ・ラツィンガー枢機卿(現ローマ法王べネデイクト16世)は西暦2000年、「第3の予言はヨハネ・パウロ2世の暗殺を予言したものであった」と公表し、「ファティマの予言」問題に幕を閉じたことを思い出してほしい。しかし、肝心のヨハネ・パウロ2世は当時、自分への暗殺事件と第3予言との関連に何の特別の感慨も持っていなかった、ということが明らかになったのだ。
 「ファティマの第3予言」の内容を知っていた聖職者は当時、2人いた。1人はヨハネ・パウロ2世であり、もう1人はラツィンガー枢機卿だ。その教理省長官が説明するように、第3予言の内容がローマ法王暗殺を指していたとすれば、暗殺未遂事件直後、ヨハネ・パウロ2世はその意味内容を誰よりも理解できる立場にいたはずだ。しかし、ヨハネ・パウロ2世は当時、暗殺事件と第3予言の関連に何も言及していないのだ。これは何を意味するのだろうか(故ヨハネ・パウロ2世自身は著書「記憶とアイデンティティー」の中で、81年の暗殺未遂事件の黒幕を「共産主義国」と示唆している)。
 繰り返すが、ジヴィシ大司教は前法王の言動を誰よりも熟知していた聖職者だ。その大司教が「ヨハン・パウロ2世が暗殺未遂事件をファティマの第3予言との関連性から捉えていなかった」と証言する以上、「第3予言」はまったく別の内容であった可能性が出てくるわけだ。それでは何故、バチカン法王庁は「ローマ法王暗殺事件を予言していた」と発表することで「第3予言」問題に終止符を打とうとしたのだろうか。ファティマの「第3の予言」は依然、封印されていると見て、間違いないのではないか。

暴発寸前のイランの国内情勢

 イランの政情が目下、危機的な状況下にある。議会とアハマディネジャド大統領の対立だけではない。大統領を支持してきた同国最高指導者ハメネイ師がここにきて大統領の政策に距離を置きつつあるからだ。一方、国民は今年に入り、物価高騰に悩まされている。日常消費品は平均30%高騰した。大統領、政府に対する国民の不満は急速に高まっている。
 アハマディネジャド大統領は「国連の制裁は問題ない」と豪語し、国民を鼓舞するが、大多数の国民の生活は制裁後、更に悪化してきている。そのため、議会は大統領の解任すら考え出している。同国では過去、議会が大統領を解任したことがあるから、決して非現実的ではない。
 一方、ハメネイ師は国連安保理の制裁で国際社会から孤立する一方、国民の生活を窮地に落としたアハマディネジャド大統領の核政策に疑問を感じ出しているという。そのため、核交渉の責任者の入れ替えが近い将来、実施されるのではないかと憶測されているほどだ。ハメネイ師とアハマディネジャド大統領の関係にほころびが生じてきたのだ。
 アハマディネジャド大統領は依然、核開発計画で軍部の支持を得ているが、軍部の中にも大統領離れが着実に進んでいる。ただし、軍部のクーデターの可能性は現実的ではない。なぜならば、イランには陸軍、空軍、海軍、革命防衛隊など4つの軍組織が存在するが、主流の2組織が依然、大統領を支持しているからだ。ただし、非主流の軍組織からは大統領批判の声が聞かれることは事実だ。
 欧州駐在の同国外交官は匿名条件で当方の質問に応じ、「国連の制裁は国民生活を直撃している。わが国の国内事情は暴発寸前な状況下にある。国民と大統領の間の亀裂は、もはや修復不可能な段階にきている」と証言した。
 ちなみに、英紙デイリー・テレグラフが24日、「イランが北朝鮮の支援を受けて地下核実験の準備を加速している」と報じたが、その情報の真偽は別として、北朝鮮の最高指導者・金正日労働党総書記と同様、アハマディネジャド大統領が核実験を早期成功させて国内の政権掌握を強固にしたいという野望に駆られたとしても、不思議ではない。
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