ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

北朝鮮外交官の私見

 北朝鮮最高指導者の金正日労働党総書記と韓国の盧武鉉大統領の南北首脳会談が今月28日から開催されることになった(その後、北の「水害復旧」のため、10月に延期)。大多数の韓国国民は両国首脳会談の開催を歓迎しているという。一方、北朝鮮朝鮮中央通信は南北首脳会談の開催を報道したが、国民の反応は伝えていない。そこで、北朝鮮国民の代表として、欧州駐在の同国外交官に南北首脳会談について、「私見」を聞いてみた。以下、1問1答だ。

 ――南北首脳会談への期待は。
 「首脳会談の成果は前もって予想できないが、南北両国の指導者が会って、話し合うということはよい事だ。南北双方の理解を深めるよい機会であることには間違いない」
 ――どのような成果が考えられるか。
 「開城工業地帯の拡大など、両国間の経済関係の促進は十分、予想される。それ以外の分野は分からない。正直に言って、南北間では緊急の政治課題はない」
 ――今回の首脳会談開催は金総書記の願いに基づくものか。
 「首脳会談の開催は韓国側の強い要請に基づくと聞いた。サミット会談の開催はわが国より韓国側がもっと必要としているのだろう」
 ――韓国の年末の大統領選への効果を意味するのか。
 「多分、そうだ」
 ――金総書記は10月末、11月初めには済州道に答礼訪問するという情報が流れている。
 「現時点では考えられない。完全には排除できないが、数多くある憶測の一つだろう」
 ――金総書記は今回、包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名を表明するのではないか、という情報がある。CTBT条約の署名宣言は6カ国協議にも大きな影響を与えるだろうし、国際社会からも歓迎されることは間違いない。もちろん、盧武鉉大統領の政治ポイントにもなる。
 「考えられるアイデアだ。非常に面白い」

 予想されたことだが、北朝鮮外交官の「私見」は優等生の返答の域を越えるものではない。しかし、南北首脳会談の開催を「わが国より韓国側が強く要請していた」と主張し、盧武鉉大統領が年末の大統領選への影響を期待している、と冷静に受け取っている点は注目される。金総書記が「CTBT条約の署名を表明する」という情報に対しては、「非常に面白い」と述べるだけにとどめた。

慰安婦問題と拉致問題

 北朝鮮最高指導者・金正日労働党総書記は「日本軍の慰安婦問題」を追求することで、「自国の日本人拉致問題」を巧みに埋没させようとしている――そんな疑いがここにきて一層、深まってきた。
 北朝鮮外務省は7月1日、「日本の朝鮮総連弾圧は6カ国協議の障害になっている」と主張し、同月19日には「日本の拉致問題は6カ国協議を危機に陥れる」と警告を発する一方、駐北京の北朝鮮大使館で6月26日、日本に拉致された北朝鮮女性の記者会見が開催されるなど、手を変え品を変えながら、日本憎しのキャンパーンを展開してきた。
 このことは逆にいえば、北朝鮮が日本との関係正常化を「日本以上に願っている」ことを伺わせるものだ。金総書記が日本との関係を正常化し、日本から数億ドルと推定される賠償金を得ようとしていることは周知の事実だ。
 しかし、「拉致問題の解決がなくして、国交の正常化はない」と強調する安倍政権に対して、金総書記も少々、手を焼いている。そこで、日本の慰安婦問題を国際化し、安倍政権の政治基盤を弱体化することで、日本側の拉致追求トーンを弱めていく政策に乗り出してきたわけだ。この策は既に実践段階に入っている。もちろん、6カ国協議のホスト国・中国も金総書記の秘策を支援していることはいうまでもない。
  米国下院は7月30日、日本軍慰安婦に対する謝罪を要求する「慰安婦決議案」を可決。フィリピンの左翼下院議員たちも今月13日、日本政府が約200人のフィリピン女性たちを慰安婦として強制労働させたとして、謝罪要求決議案を下院外交委に再提出するなど、慰安婦問題の国際化は着実に進展してきている。朝鮮中央通信は今月16日、「 日本軍が慰安婦犯罪に直接介入した事実を立証する資料が発掘された」(韓国・中央日報)と報道し、日本に圧力を強めている。安倍首相の与党・自由党が先の参議院選で大敗北をしたことも、金総書記を勢いつかせる理由となっている。
 日本人拉致問題を埋葬するために、金総書記は暫定的に「慰安婦問題」を「拉致問題」と相殺することも辞さないはずだ。北側の戦略に対し、日本は慰安婦問題の歴史的検証を要求する一方、拉致問題を犯罪問題として国際社会に倦むことなくアピールし続けるべきだ。

カトリック教会とロシア正教会

 ローマ・カトリック教会総本山のバチカン法王庁所属のロジェ・エチガライ枢機卿は今月7日、モスクワでロシア正教会最高指導者アレクシー2世総主教と会談したことから、一部のメディアでは「ローマ法王ベネディクト16世とアレクシー2世の首脳会談の開催が近いのではないか」といった憶測が流れた。
 しかし、実際はアレクシー2世から「カトリック教会のロシア国内の宣教活動を自粛せよ」という抗議が出ただけで、ベネディクト16世との首脳会談云々は会議の話題にもならなかったという。
 バチカン放送によると、エチガライ枢機卿は「ベネディクト16世とアレクシー2世の首脳会談の早期開催を願うが、会談の日程、場所はまったく決まっていない。アレクシー2世とは対話継続で合意しただけだ」という。
 アレクシー2世は過去、「バチカンは旧ソ連連邦圏内で宣教活動を拡大し、ウクライナ西部では正教徒にカトリックの洗礼を授けるなど、正教に対して差別的な行動をしている」と激しく批判している。
 ローマ・カトリック教会総本山バチカン法王庁教理省は先月10日、「教会についての教義をめぐる質問への回答」と題された文書を発表し、そこで「カトリック教会が唯一、イエスの教えを継承したキリスト教会である」と宣言したばかりだ。それに対し、「教理省の文書はキリスト教会内の対話の大きな障害だ」と最も激しく批判したのがロシア正教だった。
 ロシア正教会は共産党政権との癒着問題もあって、冷戦終焉直後は教会の基盤も非常に脆弱だったが、ここにきて再び力を回復してきた。同時に、自信を回復してきている。ロシア正教会は今年5月16日、在外教会との80年ぶりの和解を実現したばかりだ(在外教会は世界約40カ国、約50万人の信者がいる)。それに先立ち、アレクシー2世は4月、中国共産党政権に正教会の公認を要求するなど、外交面でも攻勢に出てきている(中国正教会は1957年、ロシア正教から独立)。
 ロシアのプーチン大統領は3月、バチカンを訪問してベネディクト16世と会談し、アレクシー二世からの書簡を伝えたが、ベネディクト16世をロシアに招請はしなかった。前法王ヨハネ・パウロ二世は、ゴルバチョフ大統領やエリツィン大統領からロシア訪問の招待を受けたが、アレクシー2世の反対で訪問は実現できなかった経緯がある。プーチン大統領といえども、ロシア正教会の意向を無視してローマ法王をモスクワに招請できないのだ。
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