ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

湿っぽい歓送会見

 ウィーンのホフブルク宮殿で26日、グアテマラ市で開催される国際オリンピック委員会(IOC)総会(7月4日)に参加するオーストリア代表団の歓送記者会見が挙行された。
 同総会では2014年冬季五輪開催地が決定される。最終候補地として、ロシアのソチ市、韓国の平昌市に加え、オーストリアが世界に誇るブランド、モーツアルトの生誕地ザルツブルク市が立候補している。
 記者会見には、フィッシャー大統領、グーゼンバウアー首相、スポーツ担当のロパトカ次官、同国IOC委員のヴァルナー会長のほかに、ザルツブルク州のブルグスターラー知事、シャーデン・ザルツブルク市長が参加した。
 フィッシャー大統領は「公平で客観的な決定が下されることを期待する。ザルツブルク市は冬スポーツのメッカであり、経験、インフラ全ての点からみても五輪開催地の資格を有している」と強調。一方、グーゼンバウアー首相は「ザルツブルク市は国際イベントを挙行するのに相応しい安全な都市だ」と指摘し、北朝鮮と対峙する韓国の平昌市やロシアの治安状況を間接的に言及しながら、ザルツブルク市がいかに安全な都市かを宣伝。その上で「政府はザルツブルク市を100%支援している」と表明した。同首相は団長としてグアテマラ市に乗り込む。
 ヴァルナー会長は「ロンドン市が2012年夏季五輪開催地に選出された大きな理由は現地入りしたブレア英首相の功績だ。ブレア氏の持つ親密感がIOCメンバーの心を動かした。グーゼンバウアー首相もブレア首相に負けない親密感があるだけに、グアテマラでは多くのIOCメンバーと接触していただいて、ザルツブルク開催に誘導してもらいたい」と首相にエールを送ると、首相は少し笑いながら、直ぐに考え込む表情をした。
 当方の隣りにいたオーストリアのスポーツ記者は「当たり前だろう。ザルツブルク市が敗北した場合、グーゼンバウアー首相の親密感の欠如が理由だと批判されかねないからね」と説明してくれた。
 代表団を派遣する歓送会には通常、「がんばれよ」「勝つぞ」といった威勢のいい檄が飛び出すものだが、ウィーンの歓送会見の雰囲気はもうひとつ元気がない。それにはちゃんとした理由がある。トリノ冬季五輪(06年)でオーストリアのスキー距離、バイアスロンの6選手がドーピング事件に関与したとして、IOCが4月、6選手の永久追放を決定する一方、5月24日、オーストリアのオリンピック委員会に100万ドルの罰金を科したばかりだ。IOC関係者の間では「これでザルツブルク市の勝利の目はなくなった」と受け止めている。歓送会が湿っぽくとなるのも当然かもしれない。
 当方は歓送会前にヴァルナー会長に会って聞いてみた。「会長、今回も難しいですね」と話し掛けると、会長は「厳しいのは事実だが、君、ザルツブルク市のチャンスはまだあるよ」という。しかし、会長の口からは「勝利する」という言葉は最後まで飛び出さなかった。

加盟国の支払いモラル

 ウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)の工業開発理事会(IDB、53カ国))第33会期が25日から3日間の日程で開幕した。当方が入手した2006〜07年予算報告書によると、米国の脱退後(1996年)、日本の分担金率は22%で約1660万ユーロと最大分担金拠出国だ。次いでドイツが12・6%で約950万ユーロ、第3はフランスで8・8%、660万ユーロと続く。日本が分担金率でドイツ、フランス両国を合わせたより多いわけだ。
 次に、駐ウィーンのUNIDO職員(654人)の出身国別をみると、日本人職員数は18人。ドイツ人職員数(22人)、フランス人(27人)は日本人職員数より多い。ちなみに、職員数が最も多い国はホスト国のオーストリアで212人とダントツだ。インド人職員(35人)、イタリア人(34人)、フィリピン人(28人)、英国人(27人)は職員数で日本を大きく上回っている。なお、中国人は14人。脱退した米国人は10人となっている。換言すれば、分担金率から見た場合、UNIDOの日本人職員数は極端に少ないことが歴然としている。
 ところで、分担金支払い状況をみると、加盟国(172カ国)の支払いモラルは決して高くない。分担金未払い総額は1億1400万ユーロ。その中には、脱退前の米国の未払い総額が6900万ユーロと旧ユーゴスラビア連邦の約200万ユーロが含まれているから、実質未払い総額は両国の額を差し引いた約4700万ユーロ。06〜07年両年の未払い総額は475万ユーロだ。未払い総額で最も多い国は米国を除くと、ブラジル(分担金率は約2・2%)の2304万ユーロだ。
 ちなみに、UNIDOは1986年から昨年末までに北朝鮮に対して78件の支援プロジェクトを推進し、その支援総額は約3000万ドル(約34億8000万円)にもなる。その内、15のプロジェクトが現在も進行中だ(モントリオール・プロトコール基金の拠出プロジェクトが増えている)。
 一方、北朝鮮の分担金(0・015%)の未払い総額は1万750ユーロになる。ここでも、北朝鮮は国際社会から支援を享受する一方、加盟国の義務を軽視しているわけだ。
 なお、公平を期すために付け加えれば、米国は脱退前の分担金未払い分を払うべきだ。

洗礼ヨハネの生誕日

 世界に11億人の信者を抱えるローマ・カトリック教会は24日、ローマのバチカン法王庁で洗礼ヨハネの生誕日を祝った。ローマ法王ベネディクト16世は「洗礼ヨハネは真理の為に一切の妥協を拒否した」と述べ、洗礼ヨハネの功績を高く評価する見解を表明している。
 「洗礼ヨハネって誰?」という声もあるだろうから、ここで少し紹介する。新約聖書をみると、祭司長ザカリアとエリザベトとの間に生まれた人物で、若い時からその信仰姿勢は誉れ高く、ユダヤ教徒の間では「ひょっとしたら、彼こそは来るべき方(キリスト)ではないか」と囁かれてきた。そして、ヨルダン川ではイエスと会い、「この人(イエス)こそ来るべき方(キリスト)」と証をしたが、当時の領主へロデの結婚を批判したため、獄中に囚われた。そして最終的には、首を切られて死ぬ。ちなみに、洗礼ヨハネの最後の場面をオスカー・ワイルドが「サロメ」の中で描いている。
 ベネディクト16世は「洗礼ヨハネは旧約聖書と新約聖書のクリップのような役割を果たした」と見て、「神の戒めを守る為に自身の生命をも投げ打った」として、洗礼ヨハネの獄死を殉教と受け取っている。キリスト教会では通常、洗礼ヨハネは大預言者として尊敬されている。
 洗礼ヨハネの使命について、イエスは「この人(洗礼ヨハネ)こそは、きたるべきエリアなのである」(マタイによる福音書第11章14節)と述べ、洗礼ヨハネを「エリアの再臨」と明確に語っている。問題は、洗礼ヨハネが「キリストの降臨を準備するエリアの再来の使命を果たしたか」という点だ。
 新約聖書を読む範囲では、洗礼ヨハネがイエスと共に福音を伝播していったという記述はない。洗礼ヨハネの最後の言葉は、「来るべき方はあなたなのですか。それとも、ほかに誰かを待つべきでしょうか」(同福音書第11章2〜3節)であり、イエスがキリストである事に対して、明らかに確信を失っている内容だ。ベネディクト16世は「真理の為に一切の妥協を拒否した」として、洗礼ヨハネを称賛しているが、ヘロデの結婚問題で獄死することが、エリアの再来だった彼の使命と、どのように一致するのだろうか。
 イエスの十字架の道を正しく理解するためには、洗礼ヨハネの生涯を再検討する必要があるのではないか。「洗礼ヨハネ=大預言者」といった既成の理解では、洗礼ヨハネの獄死後のイエスの言動を理解できないのではないだろうか。
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